第23話
エピンは今日も大忙しである。
まぁそれはエピンが大繁盛しているということを表しているので嬉しいのだが―。
問題はそのエピンで働く者の話だ。
お昼を過ぎた頃。
忙しく動く中でもわたしは魔法使いたちを観察した。
高橋さんは夕方から5(ファイブ)の集まりがあるため後1~2時間ぐらいでエピンを出でいかなくてはならない。
5(ファイブ)の集まりがどういったものなのかは分からないが、資料を作成しているのは見かけたことがある。
まだその資料は作り終わっていないだろうに、エピンのために動いてくれている。
鈴木さんも店長業務が溜まっているだろうに同じくエピンのために動いてくれている。
店長業務とは何かと?
わたしが知っている限りではシフト作ったり、出勤簿作成したりかな?
それ以外は分からないが引きこもるほどなのだから結構仕事があるのだろう。
伊藤さん、田中さん、山本さんも一言も話さずにエピンのために動いている。
何も話していないけど、高橋さん、鈴木さん、伊藤さん、田中さん、山本さんの見えない団結力を感じる。
わたしはどうしてもそこに入れない。
もう少し、わたしがてきぱき動けるようになればと思うと悔しい。
だけど、必死で遅れをとらないように動いてはいるつもりだ。
その必死で動く最中にチラッと後ろにいる者の姿を捉える。
さて、わたしの視界に入ってきた人物は誰でしょうか?
はい、正解は高飛車です。
では、高飛車はいったい何をしているでしょうか?
素材集め?ブブー。
疑似魔力生成?ブブー。
お客様対応の途中?ブブー。
正解は素材の片付け。
わたしがやらされていたあの素材の片付けだよ。
わたしは当初に比べたら出来る仕事の数が増えたので素材の片付けは後回しになっていた。
田中さんからも素材の片付けより販売の方に集中しなさいと言われている。
お客様の波が退いた後にでも片付けは出来るから、と。
わたしもその事に異論はない。
高飛車のために素材を片付けるよりはエピンのために働ける方が嬉しい。
しかし、高飛車はわたしが片付けをしなくなったことに少し腹を立てているらしい。
言っとくけど、ちゃんと片付けはしてるんだよ?
でも、残業してまで片付ける必要はないので時間になったら素材を片付けずに帰る。
それが高飛車的には気に入らないみたいだね。
それで、この忙しい最中、わたしが素材を片付けないからという理由で高飛車が素材を片付けているのだろう。
でもさ、今じゃなくてもよくない?
こんだけ忙しいなら販売に力を入れてくれないかな?
しかし、残念ながら高飛車に対して不満を抱いているのはわたしだけのようだ。
販売を後回しにして素材の片付けをしている高飛車に対して誰も注意をしようとしない。
たぶん、暗にほのめかしてこう言っているのだろう。
片付けをしないあなたが悪い、と。
結局はわたしのせいなのかな?
高飛車にあのような態度をとらせるわたしは本当にエピンの人たちから必要とされているのだろうか?
「すまん。至急で疑似魔力作ってくれないか?」
高橋さんがわたしに注文表を手渡してくる。
「今ですか?」
「今すぐ必要らしい。頼むわ。」
こういうことこそ、そこで暇そうにしている高飛車にさせたらいいじゃんか。
高飛車よりわたしの方がよっぽど暇そうですか?
まぁろくに魔力もないわたしはベテランウィザードからしたら暇人ですよね~。
そういうことを考えながら素材を集める。
素材の確認もして間違いがないことを確認する。
そして、いざ魔力注入!
「アン プリュス アン エガール ドゥー。」
しかし、何も起こらなかった。
ん?何で?
魔力切れは起こしていないはずだけど―。
わたしはもう一度、素材の確認をする。
そして、今度は手先に魔力を集中させる感じで―。
「アン プリュス アン エガール ドゥー。」
綺麗な疑似魔力が出来上がった。
やっぱり高飛車の事を考えるとろくな事がないな。
あのアホの事は忘れて仕事に集中しよう。
出来た疑似魔力を高橋さんに持っていき、少し褒められてちょっと嬉しくなったわたしなのであった。
しかし、そんなわたしにある危険が近づいている事を今はまだ気付いていなかった―。




