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第21話

 土曜日の朝。


 空は雲1つなく晴れ渡っていたが、わたしの心は限りなく暗雲に包まれていた。


 今日は鈴木さんと高飛車と一緒に出勤。


 たぶん、鈴木さんがいない隙を狙って高飛車はわたしに嫌みを言ってくるに違いない。


 最もしんどいのは鈴木さんがお昼に入る1時間。


 そこさえ耐え抜けば、後はまだ我慢できるはず。


 そう信じてわたしはエピンに向かった。


 ☆


 平日のエピンはたくさんのお客様が素材を買いに来て大忙しだ。


 猫の手も借りたいぐらいに忙しい。


 しかし、土曜日のエピンはほぼお客様が来ることはなく案外暇。


 それがわたし的に大誤算だった。


「佐藤さん。土曜日は普段平日に出来ないことをするの。わたしが教えてあげるから動いて。」


 暇なので、高飛車がめっちゃ話しかけてくる。


 ちなみに、鈴木さんは店長業務が忙しいようで今は休憩室に籠っている。


 それも大誤算だった。


「まずはお掃除ね。隅々までホコリが溜まっているからちゃんと掃くのよ。」

「はい―。」


 わたしは言われた通り、箒で床を掃いた。


 その間、高飛車は座って本を読んでいる。


 店内、結構広いんだよなぁ―。


 手伝ってくれたらうれしいけれど、どうやら高飛車にその気はないらしい。


 1歩も動く気配もなく、静かに本を読んでいる。


 わたしは諦めて1人黙々と掃除を続けた。


 隅から隅まで掃除をして、汗をぬぐった。


 時計を見ると掃除を開始してから1時間しか経っていなかった。


 正直、もっと経っているかと思っていた―。


「終わったぁ?じゃあ次は1階よろしくね。」

「えっ?」

「掃除の仕方はここと一緒でいいのよ?何も難しい事はないわ。」

「はぁ―。」


 ダメだ、手伝う気が微塵も感じられない―。


 わたしは諦めて1人で1階も掃除し始めた。


 保管室よりも待合室の方が広いなぁ―。


 まぁ高飛車と同じ空間にいないだけましかな?


 そんなことを考えながら掃除をしていると、ふと高飛車の声が聞こえてきた。


「佐藤さん、早急に上がってこれる?」


 どうしたんだろう?


 何かあったのかな?


 耳元で鼓動が響くのが分かる。


 わたしは1つ深呼吸をしてから2階へとかけ上がった。


「どうかされましたか?」


 息を少し切らせたわたしの視界に紙切れを持った高飛車の姿が映った。


「疑似魔力生成の依頼が来たの。早く作って。」

「・・・。」


 もう返す言葉が見つけられなかった。


 返事をするのも面倒くさく、わたしは無言で疑似魔力を作り始めた。


 えっと、材料は吸血コウモリの血と丸呑みイグアナのしっぽ、それとダルクアクア?


 あぁダルク地方で採れる新鮮なお水だっけな?


 確か最近、入荷したって田中さんから聞いたな。


 わたしはその3種類を用意して、疑似魔力生成に集中する。


 1つずつゆっくりと時間をかけて生成する。


 魔力的にまだ一気に作れないからね。


 周りの音も聞こえないぐらいに集中していたのだが、また邪魔される。


「佐藤さん、お客様が来たわ。素材は集めたから早く販売に行ってきて。」


 素材を押し付けられ、無理やり保管室から追い出された。


 上に来いや下に行けやと忙しい人だな。


 非常に心は疲れ果てていたが、販売時にそのような表情はご法度。


 わたしはにこやかな笑顔でお客様に話しかけた。


「井上様ですね。今日はどうされたのですか?」


 ☆


 販売を終え、2階へ上がると怒号がわたしの耳を襲った。


「ちょっとあんた!何でダルクアクアなんて混ぜてるのよ!」


 高飛車だった―。


「いえ、わたしはここに書かれているものを混ぜただけですが―。」

「はぁ?どこにダルクアクアって書いてるのよ?しっかりとダルクマグマって書いてるでしょ!」


 高飛車は注文表をわたしの顔に押し付けた。


 しかし、どう見てもわたしにはダルクアクアと書いているようにしか見えない―。


「ったく、あんたは文字も読めないの?もう一度、カタカナの勉強からしたら?」


 わざとらしく大きく長いため息をついて、保管室を出ていく高飛車。


 わたしは流れ出そうになる涙を必死に堪えた。


 涙を流しているところを高飛車に見つかったら、また何を言われるのか分からない。


「あーちょっと休憩―。」


 背伸びをしながらマイペースに鈴木さんが保管室へと入ってくる。


 そうだ、鈴木さんの意見を聞いてみよう。


「鈴木さん。この素材なんですけど、なんて読めそうですか?」


 鈴木さんは注文表に目を通す。


 しかし、次第に表情は怪しくなっていく。


 眉間にまでシワがよっていますよ。


「わたしはダルクアクアと読んだのでダルクアクアを用いたのですが―。」

「あら、鈴木さん。店長業務はもういいの?」


 高飛車が会話に割り込んできた。


 気のせいだろうか―。


 その先は言わせないみたいなタイミングで入ってきた気がする。


「ちょっと休憩です。それより、中村さんはこれをどう読みますか?わたしはダルクアクアに読めるのですが―。」


 よしきた!


 店長である鈴木さんが言うんだ。


 これはダルクアクアということになる。


 ざまぁみろ高飛車!


「そうね。これは文字が潰れてしまっているせいでダルクアクアかダルクマグマか際どいところね。注文してきたところに確認とってみましょうか?」


 ―えっ?


 わたしは耳を疑った。


「すみません―。わたし、ダルクアクアだと思って―。」

「そうなの?でも、この書き方ではダルクアクアかダルクマグマか分からないわよね。佐藤さんのせいではないわ。」


 高飛車が優しい言葉をかけてくれる。


「まぁこの場合は書き方が問題ね。佐藤さん、気にするな!」


 鈴木さんも優しい言葉をかけてくれる。


 が、そんな言葉は今のわたしには届いていない。


 そして、何事もなかったかのように鈴木さんはその場を離れ、高飛車は勝ち誇ったような表情をわたしに見せつけてきた。


 わたしはその表情を見てようやく気付いた。


 これが高飛車の本来の姿なのだと。


 他の魔法使いに見せている姿は偽りの姿なのだと―。


 真実を知ってしまったわたしの身体は一気に震え始めるのだった。


 ☆


 その日の仕事終わり。


 わたしは仲間に高飛車の真の姿についてメールした。


 仲間は同情してくれて、かつ早くそこから離れるべきと助言してくれた。


 でも、やりたいことが出来るのはここだけなんだよなぁ―。


 いろいろと迷いながら携帯を触っていると、仲間とは別の宛先からメールが届いていることに気が付いた。


 そのメールを開くと『お申し込みいただいた以下のチケットのご用意ができました』とのこと。


 なんのこっちゃと思いながら画面を下にスクロールすると、衝撃的な文字が目に入ってきた。


『抽選結果:斎藤、清水、加藤、山崎合同ライブ』


 嘘でしょ―。


 えっ当たったのこれ?


 しかも、2日間あるライブのどちらも当たったのこれ?!


 何回も画面をスクロールし、嘘では無いことを確認する。


 絶対に当たらないと思ってた―。


 実は12月に行きたかったライブがあるんだ!


 あっちなみに、斎藤様、清水様、山崎様も声優さんなんだよ。


 加藤様と同じくアーティスト活動もしている。


 わたしはもちろん、加藤様に会いたいから応募したんだけどね。


 合同ライブはそれぞれのファンが応募するからまず当たらないと言われてるんだよね―。


 そんなライブが2日間とも当たった―。


 本当に嬉しい―。


 もしかして、加藤様はわたしが高飛車からひどい仕打ちを受けたことを知ってチケットを授けてくれたのかな?


 加藤様だけはちゃんと見てくれているんだ―。


 加藤様だけは応援してくれているんだ―。


 ありがとう、加藤様―。


 もうちょっとだけ頑張ってみようかな?

とうとう高飛車が真の姿を佐藤の前に示しましたね。

さて、これで佐藤の高飛車への印象はこれまで以上に最悪なものとなりました。

なので、今まで以上に悪口のような表現が多くなるかもしれません。

しかし、それも多めに見て作品を楽しんでもらえたらよいなと思っています。

今後ともよろしくお願いいたします。

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