第18話
夏のバカンスから無事に田中さんが帰ってきた。
南の島に行ってきたらしく、お土産も買ってきてくれた。
白かった肌が黒くこんがりと焼けている事からとても楽しかったのだろうと読み取れる。
では、約束通り販売を始めよう、とはならなかった。
「きりが悪いから8月から開始にしようか?」
「きりを悪くしたのはどっちですか!早くしてくれないと、わたしがさらに高飛車に文句言われるんですよ!」
なんて言えるはずもなかった。
「わかりました。」
わたしはおとなしくうなずいて仕事へと戻る。
あーあ、また高飛車からの文句に耐える日々が始まるのね。
8月までは後2週間程度。
それまで必死に耐えよう。
「伊藤さん。このお客様は斑イモリの目玉ではなくて斑ヤモリの目玉がほしいみたいよ?」
「あぁすみません。」
「もう、伊藤さんったらおっちょこちょいなんだからぁ。」
中村さんはわたし以外の魔法使いと話すときは本当に楽しそうなんだよね。
わたしと話すときももう少し楽しそうに話してくれないだろうか?
わたしは自分の持ち分の棚の片付けを始める。
斑ヤモリの目玉の引き出しを開いたら、そこには斑イモリの目玉がしまってあった。
誰ですか、こんないたずらをする人は!と思ったが、心当たりはある。
たぶんだけど、先ほど伊藤さんがしまい間違えたのではないかな?
わたしは斑イモリの目玉をきちんと斑イモリの引き出しにしまった。
そういえば、ここって目玉は目玉で固めてあったり、しっぽはしっぽで固めてあったりしている。
例えば、丸呑みイグアナのしっぽをしまいたい場合はしっぽが固められている場所を探せば自ずと見つかる。
集める側としても非常に楽であろう。
しかし、1つ気になることが出てきてしまった。
それは斑イモリの引き出しのすぐ下に斑ヤモリの引き出しがあることだ。
目玉やしっぽ、すべての素材に対してそうであった。
なるほど、確かにイモリとヤモリって字が似てるから取り間違えたも発生するかな?
そういえば、わたしも取り間違えてよく高飛車から怒鳴られるし、他の魔法使いたちもたまに間違えてる事があるかな?
―絶対にこの配置が問題だよね?
よし、この配置を見ても何も感じなかった高飛車の代わりにわたしが棚整理をしてあげようではないか!
でも、皆どうやって棚整理をしてるんだろう?
「中村さん。」
呼び掛けてみるが返事はない。
「中村さんなら今さっき販売に行ったで?」
田中さんがひょこっと姿を現して答えてくれた。
「どうしたん?」
「棚整理をしようと思ったんですけど、皆さんはどのように整理をしてるのかなって思いまして―。後、勝手にしていいのかなって―。」
「あぁ普通に引き出し入れ替えたりしてるだけだよ。ここはもう佐藤さんの棚だから、わたしたちが分かりやすいように棚整理をお願いするわ。」
「わかりました!」
わたしはルンルンで棚整理をし始めた。
やっぱり斑イモリと斑ヤモリは離すべきだよね?
ついでに、アイウオエ順に並べようか?
そうしたら、わたしも皆も分かりやすいのではないかな?
わたしは1日かけて、もちろん販売や疑似魔力生成の合間を縫って棚整理を行った。
☆
その日の夕方。
棚整理は無事に終わった。
最初の方は皆、場所が変わって混乱していたけどとても見やすくなったと言ってくれた。
「佐藤さん。」
声に振り向くと中村さんが立っていた。
「これはあなたが勝手にしたのかしら?」
「あぁ取り間違えが多発してたので見やすいように棚整理をしてみました―。」
「勝手に人の棚を荒らさないで!」
高飛車の怒鳴り声が響き渡る。
―ん?
何で今怒鳴られた?
何で自分が担当する棚を整理して怒られた?
訳がわからない―。
たぶん、今のわたしの顔は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしているだろう。
そんなわたしを差し置いて、高飛車はわたしがせっかく整理した棚をいじり始めた。
たぶん、元の配置に戻していると思われる。
わたしはそっとその場から離れた。
保管室内を見渡すと誰もいない。
なので、休憩室へと足を運ぶ。
そこには田中さんが座って書類整理をしていた。
「田中さん。質問なんですけど、爬虫類の棚ってわたしの担当範囲になったんですよね?」
「そうやで?」
「では、なぜわたしが担当範囲の棚を整理して中村さんに怒鳴られなければならないのですか?」
「・・・。」
数分待っても返事が返ってくることはなかった。




