第16話
あれは6月の下旬だったかな?
「もう素材の位置も覚えただろうし、魔力も問題は無さそうだから7月から販売を始めようか?」
田中さんからそう告げられてわくわくしていたのを覚えている。
☆
そして、7月に入った。
箒でとんでいる間に焼け焦げてしまうのではないかというぐらい陽射しが強い。
そろそろ日焼け止め買わないとなぁ―。
もう少ししたら安くなるかな?
セミも子孫を残すために必死で鳴いている。
耳障りだけど夏が本格的に来たって感じよね。
で、わたしは何をしているかというと素材を集めたり、技術魔力作ったりと6月と何も変わらぬことをしていた。
販売を始めるのではなかったのかだって?
うん、わたしもそのつもりだったよ―。
でも、田中さんがね―。
言い出しっぺの田中さんが7月に入った途端に夏のバカンス行き出したんだよ!!!
南国行ってくるわぁとか言って!
ちょっと酷くない!?
勝手に販売とか始めたらいいんだろうけど、過去に勝手に田中さんの指示なしに動いて怒鳴られたトラウマがあるから下手に動くのが怖かった。
それを知ってか周りの魔法使いも特に何も強要はしてこなかった。
―ただ1人を除いては。
☆
田中さんがバカンスに行って3日ぐらい経った頃だったかな?
技術魔力を作っていたときのことだった。
「ねぇ、いい加減いつから販売始めるの?」
誰にも聞こえないような小さな声でこそっとささやかれた。
もう誰と言わなくても分かるよね。
「7月からと聞いてはいたんですけどね―。」
「今7月じゃん?」
「でも、田中さんの指示なしには動けないので―。」
「あっそ。」
ってか、なんかわたしが悪いみたいな言い方されたよね?
わたしは7月からやる気満々だったよ?
でも、出鼻くじかれただけだから!
どちらかというと被害者じゃない?
会話の内容を聞いていてくれていないかなと周りを見渡すが、お互いにこそこそと話していたこともあり誰も気付いていない様子。
思ったんだけど、大きな声で嫌みを言うときと小さな声で嫌みを言うときと何か違いがあるのかな?
普通にいつも通り大きな声で嫌みを言えばいいのに―。
田中さんのバカンスは1週間とか言ってたかな?
後4日か―。
早く帰ってこないかなぁ?
やる気がないなら教育係を引き受けるな!と思った瞬間でしたね。




