第12話
ある平日の朝のこと。
「ねぇねぇ、佐藤さんに素材をたくさん使った疑似魔力作ってもらってもいいかな?」
中村さんはにこにこしながら渡辺さんの顔色を伺う。
「いや、まだ難しいとは思いますが―。」
「田中さんに許可とったらいけるかな?そうよね、田中さんがいいって言ったのならばいいのよね!」
中村さんは渡辺さんの話を最後まで聞かずに保管室を出ていった。
いや、最初から聞く気なかったよね?
「ダメだって~。ショック~。」
でしょうね。
わたしは話を聞いていないふりをして黙々と素材を片付けた。
中村さんに何か言われる前に行動を起こせばそこまで嫌みを言われることがないと理解したからだ。
すべての素材を片付け終えて一段落していると、
「佐藤さん、どうせ暇でしょ?これ、わたしの代わりに作っておいてよ。」
少しイラッとする言葉と共に手渡されたのは疑似魔力の注文表。
しかも、数枚ある。
まぁそろそろ素材のお片付けにも飽きてきたし、鍛練しますか!
わたしはとある1枚の注文表を手に取った。
そこに書かれていたのは吸血コウモリの血液とマンドラゴラの舌。
昨日、田中さんと一緒に作ったものだ。
これぐらいならもうすぐに出来る。
「アン プリュス アン エガール ドゥー。」
尊い命を救いたい―。
目を瞑り、その気持ちを忘れずに呪文を唱える。
目を開けると、そこにはちょっと赤みがかかっているけど透き通った液体、昨日の田中さんが作り上げた疑似魔力には衰えるが、クオリティでは問題ないのではないかというぐらいの疑似魔力が出来上がっていた。
やった!
成功した!
「出来たぁ?」
中村さんが顔を覗かせてくる。
どうせバカにするつもりであっただろうが、そうはさせない。
「見てください!めっちゃ綺麗に作れましたよ!」
中村さんはわたしの作った疑似魔力をマジマジと見ると、指をパチンと鳴らした。
すると、赤みがかかった透き通った液体は無色の綺麗な液体へと変わった。
「あなたの作った疑似魔力だと何かと心配だから念のため、作り直しといたわ。」
えっ?
一瞬、何をされたのか分からなかった。
たぶんだけど、バカにするつもりできたのに特に指摘する要素がないからわたしの作った疑似魔力をわざわざ作り替えるという態度をとったのだろう。
―正直、こんな中村さんにでも誉めてもらえると思っていた。
何でいつも中村さんはわたしへのあたりがキツいんだろう―。
出来れば、もう中村さんの前から姿を消したい。
でも、悪いことばかりでもない。
中村さんがいることによって、まぁ怒られたくないからなんだけど絶対に失敗しないように物事を成し遂げようという気持ちが出てくる。
これが実際にミスが少なくなってるんだなぁ。
中村さんは言い方がキツいだけできっと面倒見のいい優しい人なんだよ。
田中さんもぶっきらぼうに見えて実は優しい人かもしれないって気付けたじゃん?
もしかして、距離が縮まれば言葉のトゲもとれるのかな?
よし、そうと決まれば明日から中村さんにいっぱい話しかけよう!
そして、もっともっと仲良くなろう!




