1-7 深夜の孤独な発明大会
僕のアイデアを買ってくれる商人、ベレンガリアの期待を受けて深夜の地獄のような作業が始まった。
地獄の内容は賽の河原。町外れの倉庫の中、蝋燭を一本だけ灯して黙々と作業を続けるという、忍耐力を要する地獄だ。
幸いにもカンファ―制作時に出た廃油は悪臭ではなくむしろ清々しい香りがした。揚げ物食べたいなぁ、と深夜に思う、餓鬼地獄にはならなかった。
いわゆる麻薬を作った後の油なので色々と妙な作用があるかとも思ったけど、むしろそう言う作用があるなら価値がある訳で、そこも無視できた。
用意された木材も柔らかい燃えやすい木と難燃の硬い木の二つある。
……何かもう、僕の手を借りなくてもベレンガリアの方で自作できそうな感じだなぁ。
「柔らかい木に油を浸み込ませる方法を確立すれば何とかなるかな。一回粉末にしてそれを圧縮して固形化するって手もありかも」
そんなことをしたらこっちの商売上ったりだが、しかしいつまでもチマチマ作る訳にも行かないし、考えておくのはありか。
で、一応用意された柔らかい木と精油を捏ね上げた訳だが……結構量があるな。五百本は作れるぞ。どれくらい作らせる気なんだ。あの女。
いやまあ……やるけどさ。
取りあえず三つの部品を作る。芯材と、二つの外枠だ。こまごまと作ってそれぞれ積み重ねる。そうした後に外枠で芯材を挟んで接着して、どんどん作り上げていく。
燃やして試してみたらこの作り方でも上手く行ったため、この一人流れ作業でやっていくことにした。
どんどん積み重なる特製松明。この一本一本が、純利益銅貨六枚ほどを生み出してくれる。
価値にして、多分三百円くらいだ。自分で売りさばけば六百円はかたいだろう。
それが五百あるから、十五万。うん。生活するには十分だな。と言うか独立すれば贅沢も出来るかもしれない。
「ただ、供給過多になれば駄目だけどな」
そもそも松明なんて一日五百本も売れるものじゃない。やっぱり店を開くなら他の商品も並べないとな。
松明を作りつつ他のアイテムを売って、日銭を稼いであわよくば老後の資金集め。これが一番現実的かも知れないな。
そういうわけで契約者という最低最悪のルートを回避すべく、商人になる為のアイディアをひねりつつ、コツコツと作っていく。
「やっぱり店を持つなら、変怪を退治する武器とかを作らないとなぁ」
需要が尽きないものと言えばやっぱりそんなおどろおどろしい方面だろう。
で、たった今用意された素材でパッと思いつくのは……ナパーム弾だ。
「悪魔の兵器を再現できるんだよな。今なら」
油をゲル状に固めて爆発の威力で火を付けつつばら撒くという恐怖の兵器。
森は焼けるし骨の髄まで焼いて来る。それだけで精神疾患が発生するくらいの強烈さを思えば、作りたくはない。
ただそれだけの威力があると言う事は変怪共を倒すのにも有効なはずだ。
大火傷を負うリスクを背負ってでも作る価値はある。
「よし、ちょっと手を止めて、早速」
出来た松明を置いて、傍の樽へ。
中にある液体をドロドロにするという粉を掴むと、粉は粘土のように変化する。違う樽に入っている油を掴んでも同じように変わる。
そしてその二つを用意していた桶の上に置いて捏ねて離すと、元の粉と液体に戻って混ざり合った。
出来上がったものは確かにゲル状だ。説明通りドロドロして粘り気がある。
試しに匙で掬って蝋燭の方に近づけてみる。
「おお、燃えた」
しかも中々の勢いだ。これに更に高温で燃焼するものを合わせれば、強烈な兵器になるだろう。
「くくくっ。あの化け物だって丸焼きだ」
そもそもあんな全身狂気の化け物相手に剣なんてナンセンスだ。例え一撃で殺せる手段を持っていたとしても接近戦なんて御免だ。
そう、人間は鉄器を振り回す時代からどんどん進化する。そして今は遠距離から大火力だ。
よし、興が乗った。このまま制作意欲のままに平気を作りに作ってやる。
「後はこの塗料と、錆鉄も合わせて置いて……確かあっちに古くなったリボンがあったな」
よしよしいいぞ。こっちの秘密兵器も良い感じだ。これは売れる気がする。気分は死の商人、と言ったところだ。
対市街戦とは言い難い効果だろうけど、まあ石の町だ。被害は少ないだろう。後は実戦を重ねて改良をすればいい。
「外装とかはどうしようかなぁ。炸薬との兼ね合いだよなぁ。面倒だ。データを検索したい。ネット使いたい」
等々ぼやきつつ、また松明を作る作業に戻る。まだまだ夜は始まったばかりだ。考える時間もやることもたっぷり残っている。
さあ、松明を作りつつ新たな爆弾を作っていこう。
目指すは火薬のスペシャリストだ。