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意味の無い人達

脳内の

あの子とあの子

皆のもの

少女は太陽に向けて繋げた両手を掲げる。

傍らに佇むもう一人の少女に見守られて。


直後、


片手は指が閉じていた。

片手は指が開いていた。


毎朝恒例ジャンケン大会が終了する


「やっぱりそのおまじない意味ないって」


ユナに呆れた声でそう言われてしまう。ユカは黒髪とともに涙を風に預けた。連敗記録は悲しいかなまた更新されてしまった。。


「馬鹿言え、昔はみんなこれやりまくってたんだぞ」


「みんな使ってたら必勝法ってならないよね?」


「...」


ユカはそれ以上は何も言わず、黙々と夜営の片付けを始めた。実際のところ、ユナもこう何日も日中座りっぱなしだとなると腰に疲れが溜まってしまう気がする。


「だから変わってくれ」


「ルールは守らなきゃね、ちゃんと働きなさい」


そう、軽く流されてしまった。


サイドカー付きバイクを転がすこと4時間、太陽がその日の最高点に到達しようとした時に、


「ユナ! 起きて! 見えた!」


「...ぉお?」


興奮気味の声にユナは起こされた。ヘルメットをとりクシャクシャになった金髪をさらしながら目を凝らす。


「聞いてた通り真っ青な城壁だから間違いない」


前の国で教えて貰った通り、城壁は空と同じ色をしていて風景に溶け込むようだった。


「おぉー、予定よりは早くついたね」


「それな、夕方くらいかと思ってたけど」


「ユカちゃんの運転がうまかったんだよ! 次も頼むね」


「次は勝つし!!! 補給できるらしいから、スピードガン上げで行くよ」


「ひゃっほーーーー!!!」



更に1時間走らせた辺りで国に到着した。近くで見るとその城壁は上から下にかけてグラデーションがかかっていた。


簡単な手続きを済ませると、直ぐに入ることができた。この国は勤勉なことで有名で行商人もよく訪れているらしく、外客用のホテルはたくさんあるそうだ。


オススメされたホテルでチェックインを済ませ、荷物を部屋に置いた2人はホテルの入口に来ていた。


「んじゃ、いつも通り」


「5時くらいでいい?」


「りょ、バイクは私が使わせてもらうよ」


サイドカーを外したマイクに跨り、ヘルメットを被ったユカはそう提案してきた。


「分かった、なら僕は近場をあたるね」


「検討を祈る」


「祈る」


お互い右手で手話のにの字を作り合図を送り合い、その場をあとにした。



整った髭のおじさんとユナは大通りに面したカフェで午後のティータイムを楽しんでいた。今回も目的を果たせずフラフラ歩いていた所を、おじさんが宗教介入の如くお茶に誘ってくれたのだ。


「この国には素晴らしい法律があるのを君は既に聞いているかい?」


「いいえ」


「なら教えて上げよう」


待ってましたと言わんばかりに、おじさんは体の向きを変えて話を始めた。


「ここの国民は皆しっかりと働くことで有名だけれど、社会のためにならなかった人も毎年少なからず出てくる。そういう人達を国の施設に連行するという法律がある」


「強制労働とかさせられるんですか?」


「その逆なんだ、そこに連れていかれた人達は何もしなくていい人生を送るんだ」


ユナは言っている意味がよく分からず黙ってしまった。おじさんもそれを察したのか直ぐに説明を続けた。


「そのままの意味だよ、毎日勝手にご飯が用意されるし、身の回りのことも全て他人がやってくれるようになる。もちろんタダで」


話の内容は分かったが、やはり理解までには及ばなかった。それではまるでニートの楽園のような国ではないか。


「サボっていた方か得ですね」


「君は本当にそう思うかい?」


「え?」


疑問符が止まることを知らないような表情をユナはしてしまった。


「私はね、そうは思わないんだ。私はここの通りで不動産を営んでいる。収入も今やかなりの物だが何も最初から上手くいっていた訳では無い」


そしておじさんは今までの苦労話を長々としてくれた。ただ、その顔は常に自信に満ち溢れていた。


「大変だったけど、でもその積み重ねで今があるんだよ。自分の力で、努力で手にしてきたものだ」


少し興奮気味にまるで演説のような話を終え、一呼吸を挟みおじさんは息を整えた。そしてトーンを下げた暗い声で


「施設に行くということ、その可能性を失うという事だ」


と言った。


「ただ生かされるだけの人生なんて家畜みたいなものだろ?だからこの国の人達は必死に働いて人生を楽しもうとしているんだ」



無精髭のおじさんとユカは町外れの柵にもたりながらタバコをふかしていた。ライターが無くて困っていたおじさんに火を分けたことと引き換えに聞き込みを行ったが、こちらも失敗に終わったところだった。


「この国に恐ろしい法律があるって知ってるかい?」


「知らないな」


「タバコのお礼だ、教えておこう」


ギリギリまで吸い終えたタバコを足で揉み消して、話を始めた。


「ここの国民は皆まじめに働くって噂があるが、どうしてもそうはいかない奴が毎年出てくる。そいつらは国の施設に連行されることになってんだ」


「強制労働?」


「逆だ、そいつらは何もしなくていいんだとよ」


ユカは言っている意味がよく分からず黙ってしまった。おじさんもそれを察したのか直ぐに説明を続けた。


「そのままの意味だ、毎日勝手に飯が出てくるし、身の回りのこともやってくれるだと。それもタダでだ」


話の内容は分かったが、やはり理解までには及ばなかった。それではまるでサボった方が得するような国ではないか。


「ニートの楽園みたいだな」


「マジでそう思うか?」


「ありえないね、普通に考えて」


「だろうな。そんな国民に甘々な法律を国が作るわけない。俺のダチは何人か施設に連れてかれたが、帰ってきたやつは見たことがねぇ」


その友人のことを思い出していたのか、おじさんはどこか遠いところを見つめていた。


「みんな分かってんだ、そんな法律は見かけだけだってな。俺は小さな時から怯えてんだ」


そして声のトーンを上げて力強く


「施設に行くってことは、殺されるってことだ」


と言い切った。


「誰だって死にたくないに決まってるだろ?だからこの国のやつらは必死こいて働いて人生をつなぎ止めているんだ」



5時過ぎ。街中のレストランで2人は食事を取っていた。外から来た客のためのレストランであり、国を代表する食べ物が並んでいる。


「この国は青色を大事にしてるのかもね」


「好きとかそういう問題じゃねーだろ...」


そしてパン、お肉、スープ、野菜に至るまで全ての食べ物が青色だった。この国の地質には浸透して青く染まる成分が多く含まれており、ここで育つ植物やそれを食べる動物の肉は青く染まっていた。


「聞いた話なんだけど、この国の人って血は赤いけど怪我したら青い肉が見えるらしいよ」


「食事中にする話じゃねーだろ」


「ちょっと見てみたいよね」


「今はまじやめて」


周りの客はよくこの国に来ているのか抵抗なく食べていたが、ユカはあまり食欲が出なかった。食事もそこそこに、青色のソーダを飲みながら2人は今日の調査報告を行った。


「それじゃやっぱユナもダメだったんだ」


「小さくない国だし少し期待したんだけどね」


「なら明日は思いっきり観光だな」


「ふふっ、実は今日のうちに目星は付けているのだよ」


ユナは自慢げにひとつの書類をユカに差し出した。そこには「ギホウ入出許可証」と書かれていた。


「どーしたんだよこれ?」


「市役所っぽい所で聞き込み行った時に受付のお姉さんにね。おすすめ聞いて明日の予約まで済ませてきたの」


「ユナいい子! んで、ここはどこなの?」


「国民が強制連行させれられて一生遊んで暮らす施設」



翌日、ユナは遠慮した。

けれど、ユカは遠慮を断った。


再びユカは太陽に向けて繋いだ両手を掲げる

ユカはもう見飽きている。


直後、


ユカの手は指が開いていた。

ユナの手は指が2本だけ開いていた。


また黒星をひとつ伸ばすことになった。


「だから国内だし短いからいいよって言ったのに」


「ここで曲げたらなんか違う気がするから」


ここまで来たらバイクの運転なんて関係ないのだろう。ただ自分の行いが間違っていないと証明したいのだ。



ギホウという施設は泊まったホテルからバイクで25分ほどの、ほぼ街の中心部に存在していた。市民病院のような、青を基調とした大きめの建物だった。塀に囲まれており角には監視塔がそびえていた。


門で警備員に見学の件を伝えると、武器の持ち込みが禁止されていたので、拳銃、日本刀をそれぞれ預けた。バイクを停めて2人は施設に入り受付にむかった。


「すいません、昨日見学の予約をしたものです」


「ユナ様とユカ様ですね、お待ちしておりました」


受付の女性は物腰の柔らかそうな30歳くらいのお姉さんだった。今日の見学者は2人だけだったらしく、すぐに名前が分かったそうだ。


「それでは、このまま私が施設の案内に入りますね」


手馴れた動きで手続きを済ませると、女性はそう言いながら立ち上がった。そのまま2人は女性と共に施設のさらに中に入るための大きな扉をくぐった。


2人は監視塔も後押しし、施設内部には処刑場や死体安置所があると踏んでいた。この国には死刑制度が無いそうだが、ここで秘密裏にやっている、そう考えていた。


そして、


そこは楽園だった。



構造としてはほぼ旅館のようだった。大浴場や食堂、軽めの遊戯施設なども備わっていた。現在は200人ほどが施設内で暮らしていると説明を受けた。


そして家畜のような人生を送っている人はどこにもいなかった。


女性に連れられて2人は中庭に来ていた。そこではゲートボールを興じるご老人達やサッカーを楽しむおじさん達が賑やかに時を過ごしていた。


ユカは1人のおじさんに近づいた。彼はサッカーで交代してピッチからでて腰を休めているところだった。ユカの質問に軽く答えてくれた。


「ここに始めてきた時はやっぱ驚いたね、法律通りの施設だなんてうちらの周りは誰も信じてなかったからな」


「この生活が気に食わないやつとかは出たりしないのか?」


「ここに連れてこられたやつだぜ。文句なんて出るわけねーだろ」


ユナは1人のご老人に近づいた。ゲートボールで腰をいわしたらしく木陰で休んでいるところだった。ユナの質問に軽く答えてくれた。


「この施設、そしてこの法律は何時からあるかはもう聞きいたかい?」


「いいえ、そこまでは」


「約500年くらい前になる。その時から我らの一族は楽に余生を生きるシステムを勝ち取ってきたんだ」


ギホウはもともとは王様が隠居した後に過ごす施設であった。


ある時、王様に仕えた家臣が謀反を起こし革命を成功させた。彼らは新たな法律を定めていく中で、政治に関わる者は少数の一族で受け継いでいくと決定した。そして、昔の王様と同じように引退したものから施設で暮らすようになったそうだ。


「最初はすごい発明をした者、外国との交易ルートを確立するなどの国に大きな利益をもたらしてくれた人達も、褒美として施設に連れてきていたらしいんだがね」


「えっ? 今と逆ですね」


「そう、でもそういう人達は決まってこの施設を出たがる。彼らには変化のない日々が痛く気に入らないらしい」


ご老人はさも意味が分からないというような口ぶりだった。最初からニート生活をすることが分かっている人たちと、何も知らないで急に連れてこられた人たちでは感じ方が違うのが彼には理解できないのかもしれない


「せっかく招いてやったのに嫌な顔をされるのはこっちも癪に障る。だから、逆に何もしていなかった人たちを招待することにしたんだ」


「話が繋がってきましたね」


「それ以来、ここはみなが楽しく過ごせる場所になった。これが大まかなこの施設、法律の成り立ちということになる」


昨日の謎の答え合わせをすることが出来てユナは満足だった。しかし、ユナにはまた1つの謎が生まれた。できたての謎をご老人にまたぶつけてみることにした。


「あのー、施設で働いてる人たちってどんな人達なんですか?」


「将来政治家になり、やがてこの施設でのんびり暮らすことになるもの達だよ。まぁ、私たちの孫あたりになるかな」


「なら、秘密の漏洩はありませんね」


話してみると、施設を案内してくれた女性はご老人の孫だと分かった。そのうち政治家になるか、少し遠目の親戚と結婚するらしい。


ユカとユナは合流し、施設の見学を終えることにした。受付に戻り、国民に情報を流さないという契約者を書かされた。


「なんで部外者の私たちがこの施設を見学出来るんですか?」


昨日ユナから見せてもらった書類には、施設の見学を許されているのは国外の人間に限ると記されていた。あの無精髭のおじさんが知りえない事実をユカは書類1枚で知ることが出来る。


「はい、それは外からのお客様との信頼関係を保つためです」


この解答にはユナも少しに気になった。


「私たちが国民に施設内部のことを話すって考えないの?」


「情報が漏洩して国内が混乱に落ちいた場合、お困りになるのは国外からの商人の方々も同じですからね」


「なるほど、商人がわざわざ不利益になるような真似はしないってことか」


「はい、お二人のように商業以外でこの国を訪れる方はまれなので特に法律に記されていないんです。ですのであまり関係ないかもしれないのですが、この施設のことはお話にならないようご協力お願いします」



2日後、2人は城門に向けてバイクを走らせていた。初日に訪れた城門と反対側に位置する、都心部から離れた森の中の一本道を。周りには葉がコバルトブルーの樹木しかない。


昨日は牧場の見学に行っていた。牧草は本当に深海のような濃い青色だった。採れたての白い牛乳から作られた見慣れたチーズと近くで取れた小麦から作られた青いパンとのコントラストは想像を絶するものだった。ユナはアメリカンと笑いながら食べれたが

ユカは目を瞑りながら食べるしかなかった。



キギキィィィィーーーーーーー



そんな思い出を語りあった直後、ユカは急ブレーキを踏んだ。


ユナは驚いて前方を見ると、黒のワンピースを着た女性が1人、道に飛び出していた。その手には包丁が握られていた。その顔立ちは至って美人でもなく、不細工でもなく、ただ何かを決心したような目をこちらに向けていた。


「危ないのでどいてくれませんか?」


ユカは刺激を与えないように軽いノリで話しかけた。


「死んで」


「殺されて」


「私に」


「お願い」


女性はサイドカーに腰掛けるユナに刃先を向けて突っ込んできた。その距離5メートル。女性はユナの左胸に向けて握った包丁をのばした。その距離1メートル。



グサっ



女性は何が起きたか分からなかった。当たり前だ。見ていなかったのだから。


ユカはバイクに跨ったまま、ユナに近づいてきた女性の両手を日本刀で貫いた。


通称、皮剥き器。2つの刃をずらして重ねて隙間を作り、刃先のみ1つに合わせる。その刃で切られ断面は薄く切り出され、接合に支障が生じ、治りを悪くする武器である。


また、刺した場合も肉を抉りとることをこの日本刀は可能とするため、彼女はその鮮血を撒き散らすことになった。


「今のは真剣白刃取りで防げたよー、わざわざ刺さなくてもいいのに」


「なんか丁度刺しやすい位置まで来てたからつい」


「ついか、なら仕方ないね」


サイドカーから降りたユナは落ちていた包丁を拾い上げて女性に返してあげた。どうも上手く持てそうにないので落とさないように右肩に指しておいた。


「一応聞くよ? どうしたかったの?」


「......死にたくなかった」


女性はまだことがうまくいかなかった現実を受け止めれていないのか、少し上の空な返事を返した。


「あー、なるほどね」


「どゆこと?ユカちゃん?」


「ほら、この国死刑ってないじゃん」


「そういうことね」


「ルールは守っておけばね、働くこともなかったのに」


「そのことは言わないって受付のお姉さんと約束したじゃん」


「大丈夫、大丈夫、この人が喋れなけらばバレないから」


「それもそーだね」


「それに私、ずっと気になってたんだよね」


「何を?」


「あの噂、今から確かめてみよっか」



次の日、あるニュースが国をさわがせた。東の森で女性の遺体が発見された。


人が死ぬ、これは別に珍しいことではない。


この国では激しい商売競争から恨み、妬みの末の殺人事件が多いからだ。


問題はそこではない。


女性は身元が確認できないほど


その原形を留めていなかった。




「まさか、脳まで真っ青なんて思わなかったね」


「さすがにあれは僕も気持ち悪かったな」

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