第5話 脱出
武道台に立つとゴモリー嬢は値踏みするようにシンデレラを見ました。そして「ふぅん」と声を上げて言いました。
「なによ」
とシンデレラがいうと、ゴモリー嬢は
「あなたプリンス王子にちょっかいだしてるわね? この泥棒猫! 私は彼の許嫁なのよ? とっとと家に帰ってメシでも食べて、オナラでもして寝なさい!」
と言い放ちました。シンデレラは「この腐れ外道のつぶれド○ン○野郎!」と思いましたが、そこは淑女です。口に出すのははしたないと思いヤメました。
試合開始です。彼女がどんな技をつかってマゴットを場外にはじき飛ばしたのか?
シンデレラは不思議でなりませんでしたが、すぐにその答えが分かりました。
バネです。
彼女は舞台にドンと大きな箱を起きました。それは、ちょうど舞台の幅の大きさです。
スイッチを押すと前面がバネで飛び出し、敵を場外にはじき飛ばす装置だったのです。
シンデレラはこれはさすがに反則でしょ? と審判に食らいつきましたが、審判は答えます。
「いや、なにそれ? 装置? 箱? 見えない見えない」
とウソをつきました。ワイロでした。
ワイロを受け取って、ゴモリー嬢に有利なように動いていたのです。
ゴモリー嬢は「さよなら。ブス!」と言って、装置のスイッチを押すと、ビムンと音を立てて箱の前面が飛び出たのです!
ミス!
シンデレラは空高く舞い上がり、装置による押し出しを避けたのでした。そして、ゴモリー令嬢の後ろに舞い降り、その体を持って空中に飛び上がりました。
「ハイかぶり投げ!」
出ました。シンデレラの必殺技です。
「ハイ」
つまり、「高度」。高い場所から、振り「かぶって」投げる。
みたいな? みたいな? わかる?
つまり、そーゆー技です。
シンデレラ=灰かぶり
にかけた、高級なジョークだったのです。
(オマエ、いい加減にしろよ?)
ゴモリー嬢はマゴットよりも遥か遠くに投げられてしまいました。
審判が叫びました。
「シンデレラ失格!」
「え? どうして?」
審判は、彼女のポケットをさぐるフリをして、自分の手の中から栓抜きを出しました。
「凶器だな? 反則だ!」
「そ、そんな、あたしんじゃない」
会場からブーブーとブーイングでしたが、魔王も立ち上がって一喝します。
「ゴモリー嬢の勝ちとする!」
と言いました。そうなりますと鶴の一声。場内はシーンとなってしまいました。
「しかし、彼女は二位だ。10万ゴールドを持って帰りなさい」
と言いました。10万ゴールドは約500万円くらい?
(誰に聞いてんの?)
彼女が賞金を受け取った時、プリンス王子が叫びました。
「父上! ボクは彼女と結婚します!」
「ぬ? なんだと? 彼女は下賎な人間の娘だぞ?」
「人間だってかまいません!」
彼はシンデレラの手をつかんで長い長い階段を下って行きました。
その後を兵士達が追います。プリンス王子は城の門にたどり着いた時です。
王子の肩はバッと掴まれました。
二人が振り返ると、王子の父である魔王でした。
「王子よ。戻れ。ゴモリー嬢と結婚するのだ」
王子は、魔王の迫力に黙ってしまったそのときでした。
「そんなことさせないよ!」
声の方向を見ると、白面をかぶったシンデレラの師匠が門柱の上に立っていたのです。
「何ヤツ!?」
「し、師匠!」
シンデレラの師匠は白面を外しました。シンデレラは驚きました。
「お継母さま!」
そう。白面の師匠はシンデレラの継母だったのです。
しかし、それよりも驚いたのは魔王の方でした。
「フェ、フェンリル・ゴットマザー!!」
なにを隠そう、魔王とフェンリル・ゴットマザーは昔、対決した間柄でした。
彼女の強さに恐れをなし、逃げ帰ったことが魔王の脳裏によぎります。
「いまだよ! お逃げ!」
継母にそう言われ、シンデレラたちは外にでてタクシーを捕まえました。
「どこでもいいから出してくれ!」
「え? へーい。かしこまり!」
といって、タクシーは出て行きました。
それから、二人の行方はどこに行ったから分からなくなってしまいました。
しかし、きっと暖かい家庭を作ったことに相違ありません。
彼女は結婚したわけですから、ミスではなくなったわけです。
ですからこの後のストーリーはミセス(見せず)。
と言ったところで物語は堂々と終了。
(めちゃくちゃ)
【めでたし めでたし】