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ちょいちょい文章を直すかも知れません。

 おじいさんと話したところ、やはりおじいさんは鍛冶職人で、私はおじいさんが作った剣であるらしかった。

 そしておじいさんは私のことを精霊と呼び、とてもとても高貴な存在のように扱った。

 祖父よりも歳上に見えるご老人から敬語で話されただけでもなんだかアワアワしちゃうのに、壊れ物を持つかのようにふんわりと下から掲られげて、今まで私がいた剣を鍛えるための石段から少し遠くにあった木のテーブルへ移動してくれた。

 テーブルの上に置かれた私にそっと触れているおじいさんは、いまだに顔色が青く明らかに体調が悪そうなのに「ご調子の悪いところはありませんか?」と私の状態を確認してくれて恐縮してしてしまう。


 でも、周りがどんな状況なのか分からない私は、恐縮しつつもおじいさんに質問をぶつけてみた。

 とりあえず現代の地球において、剣が喋ったことにあまり動じない、かつ、精霊だと判断することはないと思うので、多分ここは異世界?だと思う。なので、おじいさんに『ここは何という国ですか?』と確認してみる。


 すると、ここはベルマグナ国 ‐少なくとも私は聞いたことのない地名‐ であり、いまいる場所はその首都にある鍛冶屋とのことだった。

『私は誰?ここはどこ?』的な質問から私が右も左も分からないような存在だと察してくれたのか、おじいさんはこの世界のことを色々と話してくれた。


 ここはベルマグナ。この世界に数多ある国の1つ。

 この世界は動物、人間、魔獣、魔族、そして私のような精霊が存在する(本当に私が精霊なのかは謎だけど…)。

 上記の左に行くほど生体数が多く [動物›人間›魔獣…] 、魔族や精霊はおとぎ話の中の存在に近く、その姿を見たという人はおじいさんの人生の中ではいなかったとか。

(「ですので、生まれたばかりの精霊様。その希少さゆえに貴方を狙う者もいるかも知れません。お気をつけ下さい」と、すんごく心配そうな目で見つめられてしまった)


 そしてこの世界は基本的には平和だけど、たまに魔獣が活発化したり、国と国との間で領土争いがおきたり、はたまた内紛が起きたりしているらしい。(争いのない日本で暮らしてきた私からするとかなり平和とは程遠い気がするけれど、おじいさんと私の感覚は違うと思うのでそこはスルーしました。)


 ()()()()物騒なため、治安を守る国有の騎士団が存在していたり、騎士団や冒険者に装備を提供するための鍛冶屋や道具屋、魔法屋などがあるらしい。そして、この鍛冶屋もそのうちの一つです、とおじいさんは教えてくれた。


 そんな感じでおじいさんからこの世界のことを教えてもらっていると、ふいにかすかな足音が聞こえた。一人分のゆったりとしたそれは、音が少しづつ大きくなっていることから私たちの方に向かってきているようだった。


(あれ?まだ来ないの…?)


 音が聞こえたことから近くにいると思ったその足音の主は意外に遠くにいたようで、おじいさんと結構話していてもまだ姿を現さない。

 足音が途切れることがないのに、いっこうにやってこないことに疑問を抱きつつ、体感的には20分くらいしてだろうか、外見からすると20代とおぼしき青年が部屋を窺うようにしてやって来た。


「出来上がったんですね、お師匠様!」


 ____


 ホカホカと湯気のたつパンを小脇に抱えやってきた青年は、おじいさん ‐おじいさんはスミスというお名前らしい‐ のお弟子さんだった。彼はサムソンという名前で、住み込みでおじいさんから鍛冶職人としての技術を学ぶ(かたわ)ら、ついつい作業にのめり込みがちな師匠の身の回りの世話をしているらしかった。

『自身の鍛冶職人としての全てを注ぎ込んだ剣を作る』とおじいさんが言ってから、焼き入れの音や金属に打ち付ける鎚の音などが響き続けたこの数週間。

『弟子と言えど邪魔されたくない』と言われ、食事など最低限のお世話しかさせてもらえなかったらしい。そして、さきほどになって作業場から聞こえてきていた音が途絶えたため、剣の完成を確信して朝食とともにサムソンさんは作業場へ来たのだそうだ。


 そして、サムソンさんが来て、分かったことが一つ。


 どうやら、私に身体が触れていないと、私の声は人には聞こえないらしい…。


 ____


 先程までそっと私に触れていたおじいさんは、サムソンさんが来たことにより、手を離してサムソンさんに近寄って言った。


「ああ、そうだサムソン。剣は完成した!

 そして!なんと、この剣に精霊様が宿られたのだ!」


 疲れた顔ながらも瞳を輝かせて語るおじいさんは、部屋にやってきた青年サムソンさんの肩に手を置いてサムソンさんの身体を前後にブンブンと揺すった。

 そして私を振り向き、まるで紹介でもするかのように手をこちらに向けた。

 足音で誰かが近付いていることは理解していたものの、新しい人物の登場に緊張した私は、ひと呼吸おいた後『多分、おじいさんは私をサムソンさんに紹介したいのだな』と理解して、私なりに精一杯の挨拶をしてみた。


「よ、よろしくお願いします…。多分、精霊です…?」


 サムソンさんの顔を直視できず、無意識に周りの景色を見てしまう。サムソンさんの身体ガッチリしてるな、はわわ緊張しちゃう、あサムソンさんの持つパン美味しそう、なんて挨拶の場で考えるには失礼な思考が頭をよぎる。

 それに緊張のせいでどもってしまうし、挨拶の内容は疑問系だし、初対面の人に対して散々な応対だ。


「…」

「…」


 暫しの沈黙。

 この挨拶はマズかったかな?と思いつつ、どう答えるのが正解だったかなでも緊張しちゃってて無理だ、なんて頭のなかをグルグルさせていると、とても心配そうな顔でおじいさんが私を覗きこんできた。その際に片手がそっと私の柄の端に触れる。


「精霊様、いらっしゃいますか?

 いらっしゃるなら、いかがなされましたか?」


 当惑に揺れる瞳に、申し訳なさを感じてしまう。

 さすがに今の挨拶は我ながら、ないなぁと感じる。

 でも、今の私は人間でもないし、自分が何なのかすら分からないから、自分のことなのにあやふやな紹介になってしまう。

 それに…女子校育ちが祟って、実は男性を見ると緊張してしまうのだ…。ご老人と赤ちゃんや幼児は、大丈夫だけど、サムソンさんのような大人の男性は特に苦手。

 しかし、失礼な対応だった自覚はあるので素直に謝ることにした。


「いまの挨拶では、ダメですよね。すみませんでした…」


「ん? 挨拶?」

「??」


 どうやら、私の精一杯の挨拶は二人には聞こえていなかったらしい。


 ダメダメな挨拶が聞こえていなかったことにちょっぴり安心したものの、しかし今あるのは声が聞こえなかったという重大な事実。

 でも、今はおじいさんに私の声が聞こえているよね?と思っていると、サムソンさんは不思議そうにおじいさんを見つめている。


「お師匠様、どうされたのですか? 今おっしゃった挨拶とは何ですか?」


 サムソンさんには、私の声は聞こえていないように思えた。だって私には目もくれずおじいさんの顔だけを見つめているから。

 サムソンさんは訝しげにしていたものの、それ以上の追求はしなかった。そして、初めて私を視界にいれた彼は彼の師匠がしていたのと同じように輝いた目を私に向けてきた。


「とても美しい剣ですね、お師匠様!紅い刀身の剣というのは俺は初めて見ました!材料には何を使われたんですか?何一つ教えてくれないなんてヒドいですよ!」


「それに、美しいけれど、それだけじゃなさそうだ。お師匠様、触ってみても?」


 そう言うと、サムソンさんは私の柄をギュッと強く握ってきた。まさか、掴まれるとは思っていなかった私は突然の出来事に驚いた。


「ヤダっ!!」


 私の叫び声と共に、青白い光とバチッと爆ぜるような音が部屋に響く。

 するとそこには私を握ろうとした右手を左手で痛そうに擦るサムソンさんがいた。


「痛たた!なんですか今の光?それに『ヤダっ』って女性の声がしませんでしたか?」


 …ごめんなさい。多分私が何かしちゃったんだと思います。


 ____


 こんなひと悶着があってから、サムソンさんは私が喋れることを知り、そして私は自分の声が触れている人にしか伝わらないことを知った。


 故意ではないにせよ手を怪我させてしまった私を、サムソンさんは怒らず受け入れてくれた。(「急に触った俺が悪いんですよ」なんてフォローまでしてくれた!うう、優しい!)


 私がこの世界に来て約2週間がたったその日。スミスおじいさんとサムソンさんの優しい二人に囲まれながら、少しずつこの世界に慣れてきたな〜と感じていた、その頃。

 とても、とても、悲しい出来事が起きた。


 おじいさんが、亡くなってしまったのだ。


 そして、おじいさんの死により、私を取り巻く状況は、一変した。


 ____


 おじいさんの死因は、老衰だった。

 おじいさんの部屋のテーブルの上が、私の定位置だった。

 そこから2メートルくらい離れた位置におじいさんのベッドはあった。

 その夜、剣になってやけに良くなった私の聴力は、おじいさんの呼吸が止まり、心音が聞こえなくなったのを、私に教えた。

 でも、私は、何をすることもできなかった。

 おじいさんの傍に行って、おじいさんを抱きしめることも、触ることすら、できなかった。声を上げてサムソンさんにおじいさんの異変を伝えることもできなかった。


 "剣"である私には、何もできなかった。



 サムソンさんは、いつも朝早く起きているおじいさんが起きてこないことを不審に思って、部屋にやってきた。


 そこからのことは、ぼんやりとしか覚えていない。


 サムソンさんが慌ただしく駆け回り、おじいさんの葬儀を終えた後、"王宮からの使者"を名乗る人物がやってきた。


 私はまるで知らなかったが、どうやらおじいさんはかなり高名な刀匠だったようだ。

 おじいさんを褒め称える言葉を使者が紡いでいたが、おじいさんはもうここにはいない。私は自分が抜け殻になったよう気持ちで、使者とサムソンさんの会話をぼんやりと聞き続けた。

 『近頃魔獣が活発化しており強い武器が国として入用である。』『鍛冶職人としては国を守る騎士団に協力の義務がある。』『ゆえに、おじいさんの鍛えた剣を買い取る』

こんなことを言っていたような気がする。

 サムソンさんは、これを固辞したけれど、王からの勅旨だと言われてしまえば抗うすべはなく、おじいさんが作り出した全ての剣は王宮に買い取られることになった。


 剣である私も、もちろんその中に含まれていた。

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