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真夏生まれの召使い少年  作者: 雛まじん
3/22

登校日③


「よっす、ミリ。久し振り・・・でもねぇか。おはー」

「お、ソウ。おはー」


 学校周辺にまで近付けば、知り合いの一人や二人には遭遇するものだろう。こんな田舎の中学校であっても、それは例外じゃない。その証拠に僕は、友人のソウに出会った。

 (いの)()(そう)

 僕と同じクラスの中学二年生で、保育園児の頃からの友達だ。趣味や話の合う一番仲の良い友人で、この前泊まった男友達の家というのも、こいつの家である。

 ・・・・・このくらいかな。

 こいつのプロフィール。

 あと、頭いいんだっけ。

 一番仲の良い友達のプロフィールがそれだけかよ、と思われてしまうかもしれないが、残念ながらそれだけである。

 まあ、友達なんてそれくらいだろう。

 それくらいの距離感が、友達としては正しい気がする。あくまで、僕の感覚だけれど。


「なあ、ソウ。お前が僕のプロフィールを語るとしたら、どんな感じ?」

「・・・・・は?なんだよ、(やぶ)から棒に。夏の暑さで、頭がおかしくなったか?ほら、プールならあそこだぜ」

「いや、おかしくなったわけじゃないって。プールへの飛び込みを勧めるなよ」

「じゃあなんだよ。お前のプロフィールなんて、名前を除けば、一言で終わりだよ」

「一言?」


 この僕を、たった一言で表現できるって言うのか?お前のプロフィールでさえ、紹介に七十六字を要したというのに、僕は一言でまとまるっていうのか?

 いいだろう。

 言ってみろよ、ソウ。

 その表現力に、直々に点数をつけてやろうじゃないか。どんな表現をしてくれるのか、期待は高まるばかりだぜ。


「『袖内(そでうち)(みり)。その辺にいる奴である。』以上」

「・・・・・・・百点満点だな」

「だろ?」

「だな」


 僕らはそんなどうでもいい雑談を繰り広げながら、校門を通り抜けた。どう控えめに聞いても、今後には百パーセント役に立ちそうにない、無駄な会話である。

 私立火売(ほのめ)中学校。

 僕とソウの紹介ついでに、僕らの通う中学校のことも、ほんの少しだけ紹介してみよう。全校生徒約二百人で男女比が6対4の、それこそ、どこにでもある中学校だ。「火売」という読みづらい学校名であること以外は、何も目立った点はない。七不思議も謎の噂も、何もない。その学校に通っている僕らもまた、どこにでもいる中学生なのだろう。

 うんうん。

 普通、最高。

 変に荒れているということもなく、極度に真面目ということもない。それはそれで、ある意味長所なのかもしれないと、僕は思っている。波風立たない空間というのは、それだけで、かなりの価値があるような気がするのだ。


「今日はホームルームが終わったら、すぐに校内清掃だっけか?めんどくせぇよな。掃除なんかしなくたって、学校生活は成り立ちそうなもんだろ?俺、ゴミだらけの部屋の中でも、勉強できる自信はあるぜ」

「そんなの、お前だけだろ。お前の部屋が散らかりすぎなんだよ。片付けをしろ、片付けを。僕の部屋より大きいくせに、なんで活動スペースが半分くらいしかないんだよ」

「いや、でもよ。片付けなんかしたら、何がどこにあるのか、分からなくなるだろ?」

「あー・・・・・いるよな、そういう奴」


 こいつは、勉強が得意なくせに掃除が大嫌いという、よく分からない性格をしているのだ。勉強机どころか小机もないあの部屋で、こいつはどうやって勉強しているのだろう?・・・ちょっとした謎である。

 ちなみに僕は、掃除は出来るけど、勉強は苦手というタイプだ。

 ・・・・・どっちの方がマシだろうか?


「あーあ・・・掃除を勝手にやってくれるロボットとか、学校に導入してくれねぇかなー」

「お掃除ロボットって・・・・・ルンバとかか?」

「いや、ルンバじゃ、学校中の掃除は無理だろ。階段とかトイレとか、地上を這ってるあいつらには掃除できない場所が、学校にはいっぱいある」

「じゃあ、どんなロボットが欲しいんだよ?」

「だから、そういうところもちゃんと掃除してくれるロボットが欲しいんだよ。俺たちが掃除をしなくても学校をピカピカにしてくれるような、そういうロボット」

「・・・・・それ、清掃員を雇えばいい話なんじゃないのか?」

「・・・・・だな」

「だろ?」

「あーあ・・・先生たち、清掃員を雇ってくれねぇかなー」

「悩みが、少しだけ現実的になったな・・・。僕はどちらかといえば、宿題を勝手に終わらせてくれるロボットが欲しいよ」


 ふう・・・と、ため息をつく。

 家で僕を待ち受けている夏休みの宿題の数々を考えると、本当にため息が止まらなくなりそうだ。

 誰だよ、夏休みの宿題なんて考えた奴。

 そんなのを考えるなら、ついでに、それを手っ取り早く終わらせる方法も考えておけよ。それくらいの責任は、とってほしいものだ。


「宿題・・・?お前、まだ終わってねぇのかよ?」

「終わってないよ。終わるわけないだろ、あんなの。まだ、夏休みは始まったばかりだぞ?そういうお前は、あの憎たらしい課題を終わらせたっていうのか?」

「終わらせた」

「・・・・・は?」

「終わらせたって」

「いや、聞こえなかったわけじゃない・・・・・なんで終わってるんだよ」


 こいつの家に泊まったときは、そんな素振り、微塵も感じなかったぞ。一体、いつの間に終わらせたっていうんだ?


「お前が家に来たのは、ほんの三日間だけだったろ?その前後の七日間があれば、宿題なんか終わらせられるじゃねぇか。お前はその期間、何をやってたんだよ」

「遊んでた。夏休みなんだから、遊ぶに決まってるだろ。計画的に宿題なんか、やってる場合じゃない」

「・・・・・むしろ、遊んでる場合じゃねぇだろ。何パーセントくらい終わってんだ?」

「・・・・全然」

「全然、ってのは?」

「ゼロパーセント」

「・・・・・アホか」

「・・・・・だな」


 あーあ。

 誰か、ドラえもん作ってくれないかなー。

 どうでもいい会話。

 どうでもいい雑談。

 くだらないやり取りを繰り返しながら。

 僕の残り少ない日常は、通り過ぎていった。

 


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