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真夏生まれの召使い少年  作者: 雛まじん
22/22

初めてのおつかい②


(食材を買う、とは言ったものの・・・どうしたらいいんだ?)


 無事に(不本意ながら)スーパーに到着した僕たちは、しかし、まだ一つの食材さえ買い物カゴに入れていなかった。ウンウンと悩みながら、青果コーナーの辺りをウロウロしていただけだった。

 買うものに悩んでいるわけでないし、食材を吟味しているわけでもない・・・・・何を買ったら良いのか、まったく分からないのだ。料理をしたことのない僕にとって、「食べ物」というのは、すでに出来上がっているもののことだ。つまり、オムライスやらハンバーグやら唐揚げやらのことを指すわけで・・・・・玉ねぎやら人参やら肉やら魚やらを見たところで、それらをどういう組み合わせで買ったらいいのか、どれくらいの量を買ったらいいのか、さっぱり見当もつかないのだ。


「あの・・・シイちゃん?」

「何でしょうか、お兄さん。先ほどから、この青果コーナーの間を行き来していますが・・・・・何を買うのか、迷っているのですか?」

「いや、迷ってるっていうか・・・何を買えばいいのか、分からないんだよね」

「分からない?お兄さんも本当は、買い物をしたことがないのですか?」


 怪訝そうな表情を浮かべる彼女。その表情は、「買い物はあなたに任せると言いましたよね?」と、僕を責めたてているかのようにも受け取れた。


「か、買い物をしたことはあるんだよ。うん。それは嘘じゃない」


 嘘をついていると思われてしまっては後が怖いので、僕は即座に否定する。


「僕は料理をしたことがないからさ。親がいない間は、出来合いのお惣菜ばかりを食べてたんだよ。だから、生野菜とか肉とかは、あんまり買ったことがなくって・・・」

「オソーザイ?」


 と、怪訝そうな表情のまま、彼女は首を傾げる。


「何ですか、それは。世の中には、私の知らない食べ物がたくさんあるのですね」

「・・・・うん、そう。そうなんだよ」


 やはりこの子は常識とは無縁な子どものようだと、僕は改めて思った。買い物をしたことがないどころか、「お惣菜」という単語さえ理解できないとなると・・・・・もはや、常識知らずという言葉では足りなくなってくる。それにいちいち反応してツッコミを入れていてはキリがないので、ここは適当に説明をしておこう。


「ほら、カップラーメンは、お湯を注ぐだけで食べられる食品だって言ったよね?」

「ふむ。そうでしたね」

「あれみたいに、簡単な調理だけで食べられる食品とか、そのまま食べられる食品とか、いろいろあるんだよ」

「・・・簡易的な栄養補給食のようなものでしょうか?」

「あー・・・うん。そう。そんな感じ」


 全然違うけど。

 多分彼女が言っているのは、簡単に栄養補給できるゼリーとかサプリメントのようなものなのだろう。それだと、「お惣菜」のイメージとは大きくかけ離れてしまう。


(まあ・・・彼女にそこまで細かく教える必要もないはずだ)


 ひとまず、この買い物を上手く乗り切れればいい。辻褄を合わせて、さっさと買い物を終わらせて、なんとかソウと連絡をとろう。


「だからさ、今日もお惣菜を買って、それで食事は済ませてしまおうと思うんだけど・・・どうかな?」

「・・・・・」


 しかし彼女は、すぐに僕の意見に賛同しようとはしなかった。さっきまで一応は成り立っていた会話が、パタリと止まってしまう。


(あれ?怒らせちゃったか・・・?)


 無表情のまま、俯くようにして足元を見つめる彼女は、特に怒っているようには見えなかった。だが、出会って間もない僕にとっては、どういう発言が彼女の逆鱗に触れるのか、いまいち理解できていないのだ。

 それに。

 この子のことを百パーセント理解するのは、僕には到底不可能なことなのだ。いや、可能不可能ということを検討する以前に、理解する意味がない。この子が僕のことをどういう風に捉えていようと、どういう扱いをしていようと・・・・・僕はこの子のことを、意味不明な少女としか捉えていない。怒らせてはマズいということを、直感的に感じているだけだ。

 こうやって黙って一緒にいると、段々怖くなってくる。

 この子が何を考えているのか・・・・・まったく、分からないから。


「・・・・・行きましょう」

「い、行きましょうって?」

「そのオソーザイとやらを買いに行きましょうと、そう言ったのです」

「は、はあ・・・」


 どうやら、ようやく彼女の中で考えがまとまったらしく、途切れていた会話が再開された。


「先に聞いておきますが・・・お兄さん。そのオソーザイという栄養補給食は、美味しくて、栄養のある食べ物なのですよね?」

「・・・・・うん。美味しいし、栄養、あるよ」


 彼女は、それを心配していたのだろうか?自分は知らない未知の食べ物が、美味しいのかどうか。そして、栄養があるのかどうか・・・それを心配していたのか?


(そういえば朝食を要求してきたときも、『栄養のあるものを』とか言っていたし・・・)


 それは・・・子どもが心配してしまうようなことではないはずだ。

 僕は基本的に、母親の料理や学校の給食、ときには外食やお惣菜を食べて生きているわけだけど・・・「これ、美味しいのか?」とか、「これ、栄養があるのか?」と、真剣に疑いながら食事をとったことはなかった。もちろん、食べ物の好き嫌いはあるし、食事の栄養バランスについて深く知っているというわけでもないから、食事に一度もケチをつけたことがないと言っては、嘘になってしまうだろう。

 ただ・・・・・美味しいものを食べてきたから、この十数年間を生きてきたわけだし、栄養があるものを食べてきたから、今まで健康に過ごせていたのだ。あんまり意識をしたことはなかったけど、食事に対してあまり不満がないということは、そういうことなのだろう。人間として最低限の食生活は、送ってきたということだ。

 けれど彼女は、疑った。

 僕よりも年下であり、六、七年しか生きていないはずの彼女が、「衣食住」の一つである「食」を、真剣に疑ったのだ・・・・・これは少し、というか、かなり異常なことなんじゃないのか?


(心配してる・・・ってわけじゃないけど)


 彼女はどんな環境で過ごし、何を食べて生きてきたのだろうか?

 出前も、カップラーメンも、お惣菜も知らない。

 そして、食べ物の「美味しさ」と「栄養」を過度に心配する。

 どんな環境で育てば、そんな小学生が出来上がるっていうんだ?

 そんな、答えの出るはずのない疑問で悶々としながらも、僕たちはお惣菜コーナーへと足を向けた。



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