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真夏生まれの召使い少年  作者: 雛まじん
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初めてのおつかい①


「それで?どこまで買い物に行くのですか?お兄さん」

「・・・・・・」

「『お店』というところで、世間の皆様は買い物をしているそうで・・・・・私たちも、そこへ向かうのですか?お兄さん」

「・・・・・・」

「黙っていては分かりませんよ。お兄さ・・・」

「あの、ちょっと待ってください」


 サンサンと照りつける太陽の下を歩きながら、スーパーマーケットへの道を歩いていた僕たちだったが、そんな暑さも気にならなくなってしまうくらいに、彼女の話し方には違和感があった。いや・・・この子との会話は、最初っから違和感だらけだったけど、さすがにこれは、話を遮ってでもスッキリさせておきたい違和感だった。

 ・・・・・この子、さっきまで僕のことを、召使い呼ばわりしていたよな?

 それなのに何故、家を出てからここまでの道中、僕のことをずっと「お兄さん」と呼んでいるんだ?

 謎だ。謎すぎる。

 どういう心境の変化なんだ、これは。


「?・・・どうしたのですか?お兄さん」

「えっと・・・なんで僕のことを、お兄さんと呼んでいるのかな?・・・ですか?」


 「さっきまでは、召使い扱いしていたのに」とは、さすがに言わなかった。そんなことを言ってしまうと、まるで自ら召使い扱いを望んでいるかのように捉えられてしまうかもしれないし、再び召使い呼ばわりされてしまうかもしれない・・・・・そんなのは御免だ。

 僕は召使いでもなければ、マゾヒストでもないのだ。

 召使いよりは、兄という立場の方がいい。


「なんでと言われても・・・説明しませんでしたか?私は、あなたの主人となる代わりに、あなたの妹になると、そう言ったはずですよ」

「・・・・・いや、言ってな」

「言ったのです」


 今度は、僕が言葉を遮られる番だった。無表情で、そんな風に威圧的に言われると、反論するのも(はばか)られてしまうけど・・・。


(言われたような・・・気もする、かな?)


 玄関で気を失う直前、彼女がそんなことを言っていた気がする。本当に記憶が曖昧すぎて、全然確信は持てないけど・・・まあ、彼女がそう思い込んでいるのなら、そう思わせておけばいい。何故わざわざ、僕を召使いにする交換条件を提示しているのかは、よく分からないけれど・・・。「妹が出来る」という交換条件であれば、召使いになってもいいと、僕が納得するとでも思ったのだろうか?


(だとすれば、とんでもない勘違いだけど・・・)


 僕は妹が欲しいなんて思ったことは一度もないし、そもそも、「妹になってあげる代わりに、召使いをやれ」なんて、召使いをやる側のリスクが高すぎるだろう。牧華さんの言葉を借りるなら、「バランスが悪い」というやつだ。

 妹は家族だけど。

 召使いは、ただの他人じゃないか。


「だからあなたも、私を妹だと思って接してもらって構わないのですよ?」

「いや、構わないのですよと言われましても・・・・・」

「その敬語」


 と、彼女は僕の口元あたりを指差す。


「その敬語もやめてください、お兄さん。あなたは妹に対して、敬語を使って話すように教えられているのですか?」

「妹との話し方を教わる機会なんてなかったよ・・・・・」


 しかし、敬語を使わなくてもいいと言うならば、こちらも気が楽になるというものだ。世間知らずな中学生の僕から言わせれば、敬語なんて、話しづらいことこの上ない言語なのだ。

 ホント・・・どういう手の平返しなのか、分からなさすぎて、少し不気味でさえあるけど・・・・。


「じゃあ、その・・・・・・妹ちゃん」

「シイ、とお呼びください」

「・・・・・・シイちゃん」


 注文の多い妹である。

 こんな妹がいてたまるか。(世の中の妹の皆さん、ごめんなさい)


「シイちゃんは、買い物をしたことがないんだよね?」

「ええ。ありません」

「お店がどういうところなのかも、知らないっていうことだよね?」

「知りません」

「・・・そっか」


 なら、この子を上手く誘導して、誰かに助けを求めることは可能だろうか?スーパーに行く振りをして、交番や学校に行くとか・・・。


(いやいや・・・問題は助けを求める手段じゃなくて、この子が危険だってことをどう伝えるかってことなんだよな・・・)


 こうして並んで歩いているだけならば、この子が非常に危険な子どもであるとは、誰も思わないだろう。兄妹揃って、仲良く買い物に行こうとしているようにしか見えないはずだ。


(友達の家に行って、それとなく事情を伝えてみるか?こんな非常事態に友達を巻き込むのも、悪いとは思うけれど・・・)


 あとは、友達が今の状況を理解し、信じてくれるかどうかだ。見ず知らずの大人に頼るよりは、信用してもらえる余地はあるとしても・・・だとすればやはり、ソウを頼るべきか?あいつなら、信用してもらえるかはともかく、話くらいは聞いてくれるはずだ。


「お兄さん」

「・・・ん?あ、はい?」


 思考を巡らせていると、彼女から声がかかる。ちょうど、スーパーへと続く上り坂のてっぺんに着いた辺りだ。

 なんだ?

 良からぬことを考えていると、勘付かれてしまっただろうか?


「私たちが目指す『お店』は、あそこでしょうか?」

「あ・・・」


 見れば彼女は、坂の下に建つスーパーマーケットを指差していた。

 うん。

 確かに、あれはスーパーだ。

 買い物をするなら、まっすぐにあそこを目指すのが、正しい行動である。


(本当は、あのスーパーを素通りして、ソウの家を目指そうかと思っていたんだけどな・・・)


 これじゃ、普通に買い物をする羽目になってしまう。折角、家の外に出ることが出来て、助けを呼べるチャンスだっていうのに!


「いや、その・・・違うよ?あそこは別に、僕たちの目指しているところじゃ・・・」

「しかし、あの建物の看板に、『肉・魚・野菜』と書いてあります。あそこでも、食料は調達できるのではありませんか?わざわざ遠くへ行かなくとも」

「・・・・・ええと」

「『毎日、食料品が安い!』とも書いてあります」

「・・・・・」

「調達、できるのですよね?」

「・・・・・はい」


 こうして、彼女にとっての初めてのお遣いは。

 順調なスタートを切った。

 


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