表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夏生まれの召使い少年  作者: 雛まじん
12/22

優しいあの子も、アイスを買いに②


「で?アイスは決まった?ちなみに僕のおススメは、レモン味だよ。ダントツで。ダントツ・・・・・ううん、このオレンジ味とか、柚子味もいいかもね」

「どれだけ柑橘系が好きなの、袖内(そでうち)くん・・・。うん、でも、そうだね。暑いときはやっぱり、サッパリ系がいいよね」

「うんうん。濃厚バニラとか、リッチチョコとか、そういうのは言語道断だよ」


 なんなら冬季であっても、僕はサッパリ系を選びたいところだ。いや、冬の間はそもそも、アイスを買う頻度はそんなに多くないか。

 でもなー。

 冬にコタツで食べるアイスって、驚くくらい美味いんだよなー。

 なんだかいろいろ矛盾してしまっている食べ方ではあるけど、美味しいんだから仕方ない。


「だけど、袖内くんにも、そういうこだわりみたいなものがあるんだね。ちょっと、びっくりしちゃったよ」


 お互い、目当てのアイスを手に取り、レジカウンターへと向かう途中、牧華さんはそんな話を振ってきた。

 相変わらずのアイストーク・・・でも、ないのか。

 アイス選びに、こだわりも何もないと思うけど。


「別に、こだわりってほどでもないよ。たまには、濃厚なアイスも食べたくなるし」


 ただ今回は、どうしてもサッパリ系を買っていきたかった。

 それは、僕の()(こう)というよりは・・・。


「さっき僕、ゲームに負けて、パシリにされたって言ったよね?」

「言ってたね。悔しそうに」

「悔しそう・・・まあ実際、そうなんだけど・・・・・。ともかくさ、どういう種類のアイスを買ってくるのか、指定はされてないんだよ」

「ふむふむ」

「だから、アイスの種類くらいは、僕が決めさせてもらおうってこと。兄さんは濃厚アイスが好きだから、その逆のサッパリ系を買っていって、僕をパシリにしたことを後悔させてやろう・・・みたいな?」

「なんか・・・地味な復讐だね。そして、小さい」

「ハッキリ言うね。小さいって・・・・・うん。分かってるよ。僕って小さい奴だよなーって自覚は、ありありだよ」


 まあ、小さい奴は小さい奴なりに、行動させていただこう。

 塵も積もれば山となる、だ。

 この諺を考えた人は、さぞ大きな器の持ち主なのだろうけれど、それを使うのは、こんなにも器の小さな僕であっても、不都合はないはずなのだ。

 自由に使わせてもらおう。


牧華(まきはな)さんだって、妹に意地悪しちゃおうって思うことくらい、あるでしょ?」

「うーん・・・・・それは、あんまりないかな。意地悪なんてしちゃったらあの子、泣いちゃうかも」


 苦笑を浮かべながら、牧華さんは答える。


「泣いちゃうって・・・小学三年生だったよね?牧華さんの妹。さすがに、泣いたりはしないんじゃない?」


 (うみ)()ちゃん、だったっけ?確か。

 この前のお祭りで会ったときに初めて、名前と年を聞いたのだ。随分と小さい子に見えたから、小学三年生だと聞いたときは、少し意外だった。


「泣いちゃうんだよねー、これが。あの子、極端に弱気でさ。ちょっとしたイタズラでも、本気で捉えちゃったりするんだよ」


 「やれやれ」とでも言いたげに、牧華さんは首を振った。


「さっき、袖内くんたちの兄弟関係が羨ましいって言ったけどさ。私たちの姉妹関係って、ほんっとバランス悪いんだよねー」

「バランスが悪い・・・って?」

「袖内くんたちみたいに、関係性がつり合ってるわけじゃないってこと。海根はさ、何かある度に、『ごめん』って謝ろうするんだよね。今日もさ」


『あの、お姉ちゃん・・・私、アイスが食べたくて・・・もし、買い物に行くなら、ついでに買ってきてほしいんだけど。あ、いや、面倒だったらいいの、ごめん。え?買ってきてくれるの?あ、ありがと・・・ごめんね。種類はなんでもいいの。うん、ホントに。ごめんね、都合悪くなったら、忘れてくれて構わないから・・・。本当に大変だったら、買わなくていいからね、ごめん・・・・・』


「って」

「それは、なんというか・・・ちょっと、鬱陶(うっとう)しいって思っちゃうかもね」


 僕だったら、話が面倒になっちゃって、まともに会話しないかも。

 この前話したときは、そこまで弱気な話し方はしていなかったと思うんだけど・・・。


「もっとはきはき話さないと、押しに弱い女になっちゃうぞーって、いつも言ってるんだけどね。私も、あんまり強くは言えないから・・・・・たまには強く怒って、矯正した方がいいのかな?あの性格」

「難しいところだね・・・」


 弱気な性格の海根ちゃんに強気な説教をしたところで、それでバランスがとれるとは限らないし・・・。その辺の(さじ)加減は、本当に難儀なところだ。


 兄と弟。


 姉と妹。


 実際のところ、ゆったりとした会話だったと思う。

 僕は兄に不満があるし、牧華さんは妹を心配しているようだけれど、本気でなんとかしようと考えているレベルの話題ではなかった。「気分が乗ったらやってみよう」、「機会があれば頑張ってみよう」、それくらいの話題だ。

 日常の一幕。

 「学校の外で、クラスの女子とまともに話せてよかった」。その程度の感想しか思い浮かばない、日常会話。

 こんな他愛もない会話の内容なんて、近いうちに忘れてしまうだろう。僕たちの兄弟関係も、牧華さんたちの姉妹関係も、特に進展しないまま、この話題は風化していってしまうことだろう。

 変化があったらいいなー、と思うレベル。

 変化がなくてもまぁいっか、と思うレベル。

 ひとまずこの会話は、この辺で一区切りだろう。楽しかったし、充実した雑談だったように思う。

 僕は笑っていたし。

 牧華さんも、笑っていた。

 

 もちろん彼女も。

 

 わらっていたのだろう。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ