EP1
初めて男の人に声をかけられた。
今まで恐怖しかなかったはずなのに、その人に話しかけられた時は不思議と怖いと感じなかった。むしろ優しさのような、温もりのようなものを感じた。それから私はあの人が気になり始めた…。
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————とある休日。よく晴れた日。とある学校の昇降口。
「よっしゃ!今日の講義おわりーっと!なあ湊、この後どうする?」
「ん〜そうだな…」
——俺、河口 湊は、外見はお世辞にもイケメンとは言えない。だけど友達は多いと自負している。あくまで自負である。
「じゃあさ、いつもの店行こうぜ」
———榊原 宗馬
俺と違いなかなかのイケメン。ナンパが得意そうなチャラ男に見えるが情に厚く実はとても優しい男。しかもモテる。
「またかよ…お前本当あそこの店好きだよな。」
「いいじゃねえかよ。あそこの店員、結構カワイイ子いるんだよ」
「お前らしいな…」
「んで?行くのか?行かないのか?」
「…まあ興味ないってわけじゃないから行ってみようかな。」
「おっ、流石だな!そうこなくっちゃな!」
「その代わり、そのカワイイ店員がいなかったら奢ってもらうからな!」
「んな堅い事言うなよ。俺が言うんだから間違いねえって。」
「本当かねえ…。てか外雨降ってるし」
「雨なんか大丈夫だっての。うし!そうと決まればとっとと行くぞ!」
「…あぁ…悪ィ、先行っててくれ。」
「どうした?何か忘れモンか?…まさか…」
「御察しの通りだよ…」
「…ったく、またかよ。しゃーねぇ、先行ってるから早く来いよ。」
「おう」
そう、俺は雨の日は傘を2つ持ち歩くようにしている。1つが急に使えなくなったりした時のいわゆる予備だ。
それがないとどうにかなる、ってわけでもなく、単に 備えあれば憂いなしってやつだ。
その予備の方を教室に置いてくるという…。何とも情けないことだ。
急いで教室に戻り、自分の傘を探す。
「あったあった。」
自分の傘を見つけ、また急いで昇降口に向かう。だが昇降口に着いた時、1人で空を見上げている人がいた。
「……」
「?(どうしたんだろ。あんなとこで)」
「……」
「(空なんか見上げて……あぁまさか。)」
ふと思い付いた俺はその人が傘がなくて帰れないのだろうと思い、先ほど取りに戻った傘を取り出した。
「…もしかして、傘忘れた?」
「っ!?」
「あ、急にごめん。もしかして傘忘れて帰れないのかなって思って…」
「傘…貸してくれるの?」
「あ、うん。いいよ。」
「…でもそれじゃ、そっちが濡れる」
「俺はもう1つあるからいいよ。…とにかく、はい。傘。」
「…ありがと」
「んじゃ、俺急いでるんでまたな!気を付けて帰れよ〜!」
「…………」
Rainy&Shiny
〜傘を貸したあの日から〜
EP1 END