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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
ワールドイベント開幕
95/190

95話 初体験と想いの丈

書いていたら一万字を越えてきたので、分ける事に……。





「──全くもう。あの時屋上で解除しておけば、こんな事態にはならなかったのに。それにのびのびさせる予定だった精霊獣みんな依り代(ボク)の中で待機になっちゃうし……」


「でもこの世界では、二柱ふたりしか現世(うつしよ)に出れませんよ。優しいあの子達の事です。どっちにしろ遠慮したと思います」


 ボクと手を繋ぎ寄り添いながら歩いているティアがそう取りなしてきた。そんな彼女も、ボクと同じデザインの浴衣を着ている。


『私はこのままでいいかな~? この状態って、ポカポカして気持ちいいし落ち着くんだ。

 それになんか今この街、異邦人プレイヤーいっぱいで落ち着かなさそうだし、このまま引きこもってる方がいいよ』


「……カグヤ様?

 まさかとは思いますが、今度はお兄様の中に引きこもるつもりですか? でもそれだと、お兄様とじかに触れ合えませんよ?」


『うぐっ』


「まあ出たくても今は無理なのですが、ずっとそのままが良いと言うなら、私にも考えがあります。

 今後私がカグヤ様の代わりにずっとお兄様に甘えて、一柱(ひとり)で独占しちゃいます」


『うっ、うわぁああぁん! ティアが意地悪するぅ!』


 カグヤの思念こえがボクの頭の中に響く。


 ボクから念話を彼女達へ届けられないだけで、カグヤからの思念こえはきちんと聞こえるんだよね。それは彼女がボクに伝えようとしてくれているからだ。


 ティアに代弁を頼まなきゃいけないかもと思っていたけど、ボクとカグヤだけでも意思疎通が出来そうで助かった。


 ただ、今は横にティアがいてくれているから特におかしい感じはないけど、これ一人でいたら拙いんじゃないだろうか?

 独りでブツブツ言っている怪しい人に見られかねない状態だし。


「だからカグヤ様。引きこもりたいとか言わないで下さい。そんなの寂しいです」


「そうだね。カグヤも外で色々見たかったでしょ? 解除出来なくてごめんね」


『うん……。

 でも、今回は仕方ないもん。元の世界に戻ってからたっぷり甘えてやる』


「うっ……お手柔らかにお願い」


 頭の中にぶんぶん尻尾を振りながら飛び掛かってくるカグヤの姿を空目して、慌ててかぶりを振る。


 全く……カグヤは銀狼であって、犬じゃないんだから。


 そう思ったけど、最近のカグヤを見ていると狼に思えない。牙の抜けた室内犬の様相を呈している気がする。

 昔彼女が言ってた『銀狼の誇り』とやらは何処に行ったのだろうか?


 母屋から離れへと繋がる渡り廊下を歩きながら、深く溜め息をつく。



 現在の時刻は、まだ朝の七時前だ。

 大抵の泊まり客の行動を普通に考えると、そろそろ朝ごはんを食べ始める頃だと思う。実際にさっきやってきた仲居さんが、朝ご飯の段取りを聞きに来たからね。


 それなのにどうして移動しているかというと、もちろん温泉に入るためだ。


 髪の毛に付着して完全に拭い切れなかった血糊とか寝汗とかでちょっと気持ち悪いので、みんなに断って先にお風呂を頂くことにしたのだった。早くスッキリしたい。


 初めてこの世界に来た時は汗なんてかかなかったんだけど、あの世界改変アップデートがあってからは、普通に汗だくにホコリまみれ、はては血まみれになったりするから、その処理が大変になったのよね。


 しかも今のボクは嗅覚の鋭い銀狼族に変化してしまったせいか、やっぱり自分の臭いが気になって仕方がない。


 自分の身体から血の臭いが出ているのがよく分かるしね。レントにバレた切っ掛けは、恐らくこの血臭が原因かと思うし、ボクの周りが女の子ばっかりなので、流石にこの臭いを放置したまま寛ぐのははばかられた。


 ユイカも獣人種になって嗅覚が鋭くなっている筈なのに、こんなボクによくしがみ付いて寝れたと感心するよ。


 そうそう。

 本当は部屋に内風呂が付いていたら一番良かったのだけど、それは設置されていなかった。


 そこでやってきた仲居さんにお風呂の解放時間を訊いてみたところ、明け方の掃除時間以外は終日解放されているとの返事をいただけた。しかも今の時間ならまだ誰も入らず、空いている事が多いそうだ。


 普通逆だと思うんだけど、この世界の温泉事情はまた違うのかな?


 この宿って格式が高いせいか、昨夜からの泊まり客は意外と少ないらしいし、一人っきりで一番風呂が取れるとあって、風呂好きのボクはルンルン気分で勝手に鼻歌まで出てくる始末だ。


 今仲居さんが布団の片付けや朝食の準備をしているため、全員で行って部屋をもぬけの殻に出来ないし、どうするかなと思っていたら、二人が自らすすんで部屋番をしてくれた。


 まあ食後に、もう一度みんなで入る約束をユイカにさせられたけど。


 どうせ彼女達はインナーを脱げない。コードが破損してしまっているらしいボクも脱ぐつもりはない。


 水場で特殊操作するとインナーが水着とかに変わるみたいだから、ジャグジーだと思えば何ともない。幼馴染だけで入る場合はどこであれ、大した問題ではないと思う。

 

 そう、問題は他の人がいた場合だ。特に女湯で。


 ボクなんかが、見ず知らずの女性(ひと)と浴場でばったり、という事態だけは避けなきゃいけない。

 しかもその女性(ひと)がコードを外していたりしたら、なお最悪である。なにも事情を知らないその女性(ひと)が可哀想だ。


「誰もいて欲しくないなぁ。こんな姿だけど、男風呂入っちゃおうか?」


「お兄様、それは流石にどうかと思います。やっぱり女湯に入るのは嫌ですか?」


「当たり前。誰が好き好んで女湯に入りたいと思うのさ?

 誰もいないのが確認出来たら、男湯に入るよ」


 そう断言する。


 でも、出来たらこの宿に混浴があって欲しい。それなら素っ裸で入る人はいないだろうし、ボクがいてもおかしくない。



 ──温泉と言えば。


 もともと現実(リアル)でも高辻家と合同で家族旅行によく行っていたんだけど、正直苦い思い出が多い。

 それは、ほとんどあの奔放な姉と過保護の兄のせいだ。


 ボクだけが入っているのを確認した上で掃除中の立て札をだして男湯に乱入してきたり、必ずといって寝床に潜り込んでくる甘えん坊な姉。


 異常なくらい世話を焼こうとへばりついてきて、ボクだけで単独行動しようものなら、行く先々の物陰に出没する鬱陶しい兄。


 観光や休息そっちのけで、対処に追われた記憶しかない。


 それに緊張感が凄かったな。結衣や樹が傍にいないと見るや、ボクを挟んで必ず二人が取り合いするし。血の繋がった家族なのに、どうしてそんな行動するのか全く意味が分からない。


 まあ風呂場や寝床の乱入常習犯なのは結衣も同じだったりするんだけど、誰もいないのを確認した上で水着を着て来たり、勝手に下着姿や全裸にならないだけの良識はきちんとあるし、その辺りは姉さんと違ってまだマシかな?


 こうしてみると、あの姉さんの駄目な部分を結衣──ユイカが受け継いでしまったかのように思えて仕方ない。


 凄く仲が良いからなぁ、あの二人。行動パターンも似てきたし、困ったもんだ。


 ティリルやティア、そしてカグヤにまで、姉さんの変な癖が伝染しなきゃ良いけどね。



 そんな何気に酷いことを考えながら、露天風呂へと繋がる離れの引き戸を開けて中に入る。 

 引き戸の中は、ちょっとした憩いの社交場として使えるような大広間になっていた。


 キョロキョロと周囲を見回して誰もいない事を確認すると、その奥にある男湯と女湯と書かれた暖簾が掛けられている引き戸に近付いていく。


 やっぱり混浴はないのかと諦めつつ、その入口の引き戸に耳を当てる。

 もちろん男湯の。


「お兄様……往生際が悪すぎます」


 ティアに呆れられてしまうが、ボクだって本当はこんなことしたくないんだよ、うん。


 何度も言うけど、今のボクは獣人種(ビースト)の銀狼族であり、音と匂いに敏感だ。スキルが使えなくとも、扉の向こうの人の気配くらい探れるはず。


 ただ、ね。

 女の子と化しているボクが男湯の入口の前で、中の様子を窺っているこの構図。端から見ると、怪しい事この上ない。

 人に見せられない姿なのは分かっている。


「──よし、誰もいないから入ろう。ティアは女湯(あっち)ね」


「ヤです♪」


 にこやかに言われ、一瞬何を言われたのか理解出来なかった。


「お兄様と男湯(こっち)に入ります」


「えぇー。だってこっちは男湯……」


「それを今のお兄様が言うのですか?」


「うぐっ」


「それに……入浴にあたって、その長い御髪のお手入れを自分できちんと出来るのですか?」


 ティアの指摘を受けて初めて気付く。そういやお風呂がどうのこうの以前に、この世界のに来てから今まで全く手入れしたことない。


 やっぱり何かしなきゃならないんだろうか?

 でも今まで全く問題なかったし、今後も大丈夫なんじゃないかな。


「洗った後タオルで拭いておけば、そのうち乾くだろうから問題な……」


「問題だらけですよっ!

 ああ、やっぱり駄目です。私がお世話しますから、一緒に入ります!」


 いつになく強い口調で押し切られてしまう。

 そのまま腕を強引に組まれ、引きずられる形で入っていく事となった。





「──こんなに面倒だなんて……毎回これキツくない?」


 さっきまで行われていた作業工程の多さと食らった精神ダメージにウンザリしながらそう愚痴を零す。

 そのダメージを癒そうとするかのように、ボクは肩までお湯に浸かっていく。


「今回は血糊が絡んでいたので、ちょっと入念に行ったから少し手間取りましたが、本来はもっと手早く出来ると思います」


「そ、そう? なら……」


「しかし迂闊でした。今までこんな大切な事をし忘れて放置していたなんて……。

 大丈夫ですお兄様。これからは私が朝晩毎日お手入れやりますので安心して下さい」


「……毎日やらなきゃ駄目なの?」


「これくらい普通に当たり前で常識です」


「うげ」


 更に追い打ちをかけてきたティアに、思わず湯船の縁にぐったりと身体を投げ出した。


「髪の長い人って大変だったんだなぁ」


 思い返して、げんなりしてしまう。


『たまに思うんだけど、ティアって意外と容赦ないね』


「全てはお兄様の為です。カグヤ様にとってのサレス様のようなものですよ」


『さっきのやり取りもサレスと同じ事言ってるし。面倒だから適当でお願いと言った時と』


「当たり前じゃないですか。と言いますか、やはりカグヤ様もズボラ勢でしたか。ではサレス様が合流されるまで、僭越ながら私が」


『えー。多少は出来るよ……多分』


「適当は駄目です」


 カグヤの念話に答えたティアが自分の髪をまとめながら誇らしげに胸を張り、カグヤとそんなやり取りをしているのを尻目にして、こっそりとため息をつく。


 そんなティアは、ピンク色のキャミソールのような形状の湯浴み着を着ている。ボクも同じ格好である。


 説明書きと共に脱衣所の棚に設置されていた水晶に触れた瞬間、加護衣の付随下着が湯浴み着に変化したのだ。


 確かに水着じゃ風情が無さすぎる。だからこそこの対応なんだろう。


「……うぅ。それに女の子に全身洗われるなんて。

 それに何か大切なモノを無くしちゃった気がする……」


「お兄様ったら大袈裟ですよ。普通です、普通。

 ──あ、もう少し待ってて下さいね」


 そんなボクの様子に一声かけると、ティアも湯浴み着を脱いで、今度は身体を洗い出したようだ。当然見ないように顔を背けているけど、それくらい気配で分かる。


 手慣れた動作でさっさと終わらせると、再び湯浴み着を着てボクの傍にやって来た。




 ボクの髪は洗う前にまず丁寧にブラッシングされた。

 ただ僅かな血糊が所々絡んでいて櫛が入らない状態になっていた為に、そこをお湯で濡らしたタオルで温めながらほぐしていくという地道な作業を延々とティアは繰り返していた。


 その後、頭皮をマッサージしながら綺麗に洗われ、しっかりと乾いたタオルを再度押し付けて水を拭き取り、アップにまとめられたのである。

 お湯の中に髪が浸からないように、との事らしい。


 もちろん獣人の尻尾も念入りにやられた。


 お湯の中で毛が抜けないようにと念入りにブラシを入れられ、泡立てられてしっかりと洗われた。慣れる事のないような未知の感覚に腰砕けになりそうになり、必死で耐えた。


 正直なところ、まだ髪や尻尾の毛を洗うところまではまだ良かったんだ。その後で、更なる試練がボクに襲いかかってきた。


 それはつまり、「次は身体を洗いますので、今度は湯浴み着を脱いで下さい」と、ティアに言われた事だった。


 その言葉に絶句し固まってしまったボク。

 思わず身体くらい自分で洗えると言いそうになって、慌てて口をつぐんだ。


 いくら自分の身体とはいえ、男のボクが見ていいものでも気軽に触れていいものでもないと、そう思い直したからだった。

 

 葛藤を繰り返しているボクを見て、素早く泡立てたスポンジを手にして早く脱いで下さいと急かしてきたティア。渋るボクに、洗わずに湯船に入ることも駄目ですと、逃げ場所を防ぐ事も忘れない。


 あの夜のレトさんの考察を、ボクの内からしっかりと聞いていたティアにコード関連の誤魔化しも出来ず、仕方なく湯浴み着に手をかける羽目になった。


 やっぱり恐れていた通り、本来脱げないはずの湯浴み着はあっさりと脱げてしまった。


 インナーを、そして下着は絶対に脱がない。裸にならない。

 絶対に守ろうと思っていたボクの最後の砦であり、それが崩壊した瞬間だった。



 ずっと目を閉じたまま、身体中を這い動くスポンジとティアの手のくすぐったさに必死に耐えながら、早く終われと念じ続けること、十数分。


 ティアの「終わりました」の声を聞くなり、急いで湯浴み着を頭から被って着ると、真っ赤になっていた顔を隠すように湯船に飛び込む事になったんだよね。


 それがついさっきの事。


「本来わざわざ洗わなくても、私達の場合、一旦実体化を解除すれば汚れは全部落ちるのですが、やはりこうしてお風呂に入るのは気持ちがいいものです」


「ティアって、ずいぶん手慣れているよね?」


「はい、それはもう()()()ですから♪」


 こちらを見ながらにこにこと笑い、すすっとボクの方に寄ってくる。


「お兄様のインナーは壊れていて『清浄』の効果が無くなっていましたが、こまめに精霊化と解除を繰り返していたおかげで、肉体の清浄さを維持出来ていたんですよ」


 えいっ、と小さな掛け声を上げて、ボクの腕に抱き着くティア。


「え、『清浄』の効果が壊れていた?」


「気付かれてなかったのですか?」


 朝の臭いは昨夜の激闘が日付を跨いだせいかと思っていたんだけど、そういえば渓流のほとりで野宿していた時の川辺の独特な臭いも残っていた気がする。


「それにユイカさんだって『清浄』だけに頼らず、お兄様が見ていない時とか、陰で何度も通常のお手入れしていたの気付いていました?」


「……今初めて知ったよ」


 ボクの肩にこてんと頭を寄りかかってきながらそう暴露したティアに、見ているようで全く見ていなかったことに気付く。


 ティアの言葉にあった『清浄』とは、インナーウェアに掛けられている自動洗浄魔法の事だ。


 これはインナーを脱ぐ事が出来ないコード制限が掛かっている人達の為の機能で、日付が変わる時に勝手に発動し、全身の汚れを落として清潔にしてくれる魔法である。


 当然の事ながら、MP(マナ)を払えば、一日一度だけ即時発動させる事も出来る。


 というか、インナーの機能が壊れていた……コードの機能が男女共にどちらも無くなったのが確定したという事は、今後は身体をきちんと洗うか、精霊化を繰り返して汚れと臭いを落とす必要があるわけで。


 今後も何かしらが原因で男に戻れない状況があった時の為に、自分でも覚えていかないと駄目っぽい。


「やっぱり好きな人の前では、ずっと綺麗でありたいものなんですよ、女の子って。

 ──その、もちろん……」


 最後が小声過ぎて全く聞こえなかった。いや、音として発音していないかもしれない。

 だけどその先は、いくらなんでも想像がついた。



 これだけ日々一緒にいたら分かる。心を繋げてきたから分かる。


 最初こそ突然出来た義兄(あに)を慕う義妹(いもうと)のように、ボクに接してきていたティア。いつしかひとりの恋する女の子としての接し方に切り替えてきていた。


 ただティアの立場が、彼女の上級精霊としての立場が、それとも別の理由があるのか……その先をはっきり言うのを躊躇っているように思える。

 本気の想いである故に。


 そんなティアの想いを大切に受け止めたいけど、ボクは明確な答えを返していない。酷いことを、残酷なことをしている自覚は強くあった。


 それはティアに対してだけじゃない。ユイカにも、カグヤにも、そしてティリルにも。


 誰が一番とか、二番とか。

 その想いに順位を着けるのは間違っている。守りたいモノに順番を着けるのは間違っている。


 ボクはそう思っていた。


 そのせいで全員が全員とも、ボクの中で大切な存在になってしまっているからこそ、逆にどうしたらいいのか分からなくなっている。

 

 いや、違う。


 ボクにとって大切なモノが傷付くのが、そのせいで自分が傷付くのが怖いんだろうな。ボクは。


 こんな時、親友(レント)ならどうするんだろうな?


 親友(あいつ)ならこんな時どうするか考える。考えて、すぐ答えは出る。


 決して賛同出来ないけど、妙に納得のいく答えが。


 例えば過去(むかし)に、あいつが女の子に告白されている場面を、一度だけ覗き見したことがある。あいつがその子に言った返答が、あいつの考え方の全てを物語っている。


 あの時。

 面白がる結衣に連れられて、一緒に覗き見したその告白シーンを思い出す。(おも)いの丈を吐き出した少女に、あいつが言ったその台詞。



 ──今の俺はそんな事を考えている余裕も、それを受け入れる資格も無いんだ。



 だから諦めて欲しいと言ったその姿に、告白した少女が泣きながら立ち去った後で、ボク達は大喧嘩したんだっけ。


 資格って何だよ!

 どうしてそんなモノが必要なんだ!?


 ってね。


 振られたその少女の為じゃない。

 そんな寂しい事を考えてしまっている親友(あいつ)に腹が立ったから。


 結局その時はあいつの真意が分からなかったけども。


 樹の傍に特定の彼女がいるのを未だに見たことがないから、まだ今も同じ事を繰り返しているんだなと思う。 


 世間ズレしている自覚は少しあるけど、あいつも相当なモノだ。


 樹もボクも。

 どうしてそんな考え方に至ったのか分からない。


 納得は出来ないけど、理解は出来る。

 あいつとボクは手段と方法は違えど、その根っこは同じだからだ。



 誰も傷付いて欲しくないから、出来るだけ全てを受け入れて、深く受け止めて他人ひとを庇おうとするボクに。



 誰も傷付いて欲しくないから、出来るだけ全てを遠さげて、うわべだけの付き合いで他人ひとが自分が原因で傷付かないように、付き合いを減らそうとする親友(あいつ)

 


 うわべだけといってもあいつの場合、ボクから見れば、周囲に向けた只のスタンスだ。

 それでも深く踏み込んで関わってこようとする相手や困っている人に対しては、親身になって支えようとするからね。


 ほら、一緒でしょ?


 本当に。

 どうしてこうなったのだろうか?


 (まま)ならないモノだよね、人生って。






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