9話 魔法考察とソロ活動へ
4/15 クランへ誘われた部分を少し加筆修正しました。
5/29 加筆しました。
そのまましばらくみんなで角兎を狩り続ける。
今度はボクも戦闘に参加しつつ、精霊魔法の使い勝手を確かめていた。
魔法を使用するには、この魔法を使おうという強い意志が発動の引き金になっている。
元素魔法の場合だと、使用の意志で魔法陣が展開、そこに魔力が込められていく。魔力のチャージが完了したら、魔法名を宣言して発動、といった流れになる。
チャージの完了は感覚で察する事が出来るらしく、また魔法陣の発光でも報せてくれるらしい。
パソコンのソフトを立ち上げる時に『NOW LOADING』って出てるような魔法だと説明を受けた。この場合『ソフト』が魔法陣、『読み込んでいるモノ』が魔力というわけ。
また、魔法スキルの一つ〔無詠唱〕スキルは、発動させるために必要な魔法名を声に出さなくてもよくなり、思考発動できるようになるらしい。
どんな状況で使うんだろうと思ったこのスキルは、音に敏感なモンスター相手に不意打ちしたり、決闘戦というPvsP戦での駆け引きに使ったりするそうだ。
その点、精霊魔法は少し違う。
使おうという意思で発動開始なのは変わらないけど、周囲に存在する精霊にお願いする、つまり力を貸してくださいと呼び掛けるといったスタンスを取る。
この際呼びかける精霊がいないと、発動すらしないそうだ。
音声や思考に魔力を乗せて自由自在に描写出来る魔法、そんな認識でいいのかな?
また声に出した方が楽らしいんだけど、どっちのやり方でも、どういった状態を起こすのか、魔法の効果範囲はどうとか、具体的に指示しなくてはならなかった。
慣れていない間は声に出して練習した方がいいと聞いたんだけど……。
教えて貰った通りにしたんだけど、このやり方はボクには合わないなぁ。
このやり方だと、発動時間が異常にかかった。
それでも慣れてきたら、要点をかいつまんで精霊に素早く伝えることができるそうだけど、この先も上手く出来る自信がない。
もっとボクに合うような、独自のやり方を見つけた方が良さそう。
これはレベルとか関係がなく、あくまでプレイヤースキルだからなぁ。
やはり精霊魔法はお手軽さが全くない。まさに玄人向けの魔法と言える。
わざわざ言葉や文章にしないといけないから面倒なんだよね。
心無い人に『朗読魔法』と言って揶揄されて馬鹿にされているらしい。
そうだなぁ、例えば精霊さんに動画を見せるようなお手軽さがあれば……。
──あ。
もしかしたら?
何だか光明が見えた気がする。
でも失敗したら恥ずかしいから、後で一人になったときに試してみようっと。
それよりもさっきから気になっていた事を、兄さんに訊く。
「元素魔法の魔法陣って、周囲に展開していくのが最初から視えるんだけど、無詠唱スキルの意味ってあるの?」
そう。
ユイカが手を角兎に向けるたびに、その手の先に魔法陣が展開しているんだよね。これじゃその人に注目してるだけで、魔法使おうとしてる事がすぐわかるんだけど。
「何を言ってるんだお前は。自分しか見えないんだが?」
動画やスクショを取るといった処理を行うと、映像の中では魔法陣が展開していくのを他人も確認できる。
兄さん曰く、攻略サイトには魔法の種類を動画付きでアップしている人がいるそうだ。エンターテインメントな処理な為にそうしているだろうと言われているんだけど、普通は肉眼では見えないらしい。
ボクには思いっきり見えてるんですけど?
「恐らくだが、森羅万象の効果じゃないか?
精霊眼なら通常の森精種も持ってる。また、『鑑定』の上位スキル『看破』の効果で、魔法陣の展開の気配を察することはできるが、他人の魔法陣の詳細が見えるなんて話は聞いたことがないな」
「他にも古代森精種のプレイヤーはいるんじゃないの?」
「βからやってるが、そもそもそんな種族名は初めて聞いた」
「……えっ?」
どうやらただのハイレア種族じゃなくて、激レアクラスだったのかな?
説明にはハイレアって書かれていただけだったんだけど、なんでだろうか?
「プレイヤー同士の鑑定や看破では、相手の種族名までは出ない。ギルドから犯罪者認定されない限りな。自分から言いふらすなよ」
もちろん、言いふらす気なんかないよ。
のんびりしたいんだし。
その後も「もし何かでバレたら、いらん虫がいっぱいつきそうだし、どう対処しようか」とかぶつくさ呟いていたけど、何も聞こえなかった事にする。
うん、何も聞こえてない。
そろそろゲーム内時間で夕方になるため狩りを中断し、冒険者ギルドで素材を提出してクエストの完了報告を行った。
手に入れたお金を4等分する。兄さんは「いらん」と言ったが、時間を割いてもらった事だし、無理やり押し付けることにする。
兄さんはこれから自分が所属している『クラン』で用事があるそうで、ポータルから別の街へ慌ただしく転移していった。
別れ際にクランメンバーにと誘われたが、ボクはレントが作ろうとしているクラン以外に所属する気は全くない。
もちろん全員断った。
そもそも、兄さんが所属しているクランがホームを置いている街に、初心者が行けるわけないでしょ。
兄さんのクランも攻略組の一つだとは言っていたが、これからも発展するために一人でも多くの手を貸して欲しい、とか。
気持ちはわかるんだけど、今日始めたばかりの右も左も分からない初心者に何させようとしてるのかな?
ボクはのんびりしたいって言ってるでしょうに。
石畳を歩くみんなの影法師が長く伸びる中、露店から流れてきた香ばしい匂いに耐え切れず、兎の串焼きを大量に買って広場のベンチに移動する。
3人とも夢中になって齧りつく。
単純に塩と胡椒、そして何かの香草で味付けられたシンプルな串焼きだけど、それ故に絶妙な焼き加減で香ばしく、肉本来の脂が口の中で溢れ出して美味しかった。
……後でもう少し買っておこう。この焼き加減は真似したい。
食べきれない量を買っているけども、残りはインベントリーに放り込んでおいた。
このインベントリーは時間停止空間となっているので、仕舞っているモノが腐ることもないし、こうした料理を放り込んでおけば常に出来立てが食べられる。
「これからどうしようか?
これからも三人で固まって動くか?」
レントがそういうが、ボクには色々試したいことがあった。
終了間際に思い付いた精霊魔法の実験も行いたいし、調合も料理もまだしていない。またこの姿での身体能力はどのくらいか、どの程度動けるのか、自分の限界を知っておく必要があると思う。
いざという時、動けなかったら困るしね。
「いや、一応調合とか試してみたいから、しばらく別行動をとるよ」
「えー、全員バラバラで動くの?」
「いやレントとユイカは完全な戦闘職だし、しばらく二人で動いてみたら?
ちょうど前衛と後衛だし、バランスいいと思うよ」
いくらゲーム慣れしているといっても、ユイカは女の子。
性別の偽れないこの世界では、現実と同じような問題に巻き込まれそうだし、せめて慣れるまでは兄妹で一緒にいたほうがいいと思うんだよね。
レントに軽く目配せすると、彼も「わかってる」と言わんばかりに軽く頷く。
「何かあったら連絡を頂戴。料理やポーションを作ってると思うし、次に合う時までに色々作っておくよ」
「セイ君のご飯期待してるね」
「了解だ。ま、無理するなよな。お前も絡まれやすいんだから」
レントは一言余計だよ。
「慣れてるから大丈夫だよ。じゃ、また」
さて、色々実験しよう。
まずは必要な物の買い物だよ。
お約束を知らないゲーム初心者が一人になりました。
さてどうなるのでしょうか?(フラグ




