87話 二人と……
説明回でもあります。
あと後書きにちょっとした解説の小芝居が……。
なんか勢いで作ってしまいました。
完全に日が沈み、天より降り注ぐ満月の光を遮る深き森の中、道とは言えないような悪路を駆けるミアさんの後ろを、ボクを背負ったレトさんがついていく。
二人のその足取りには全く迷いがない。暗く見通しの悪い夜道を難なく駆け、時には岩場へと迂回して跳ぶように抜け。
人ひとり背負っているとは思えないスピードが出ている。しかも、息すら切れていない。
これが斥候職と言われる人達の実力。獣人種の種族特性もプラスに働いているんだろう。
もう凄いとしか言いようがない。
ただ、ね。
彼女達、もうかれこれ三十分以上全力で走り続けているんだけど、本当に大丈夫なんだろうか?
「ねぇ、レトさん。全く休まなくて大丈夫なの? それにその……ボクって重くない?」
「大丈夫。もうじき街に着くし、まだまだ余裕よ。それに重いどころか、羽のように軽いわ。むしろ軽すぎじゃないかしら。
──ねぇ、セイちゃん。ちょっと聞くけど、ちゃんとご飯食べてるの? 無理なダイエットとかしちゃったりしてない? 成長期にそんな事しちゃうと色々育たないわよ」
「……ダイエットなんて一度もした事ないです」
女の子にボクを背負わせて力仕事をさせているという罪悪感から、そんな気遣いの言葉を発したボク。すると、逆にレトさんからこんな気遣いがカウンターで飛んできて、ボクの心にぐさりと突き刺さった。
あ、なんか涙出そう。
いや……レトさんは何も悪気があるわけじゃないんだからね。
うん、ボクを逆に気遣ってくれるいい人だし。
それにこの軽いって言葉は、女の子が言われたら多分嬉しい言葉なんだろうと思うけど、男のボクにとっては嬉しくなかったりする。
ただでさえ彼女より頭一つ分背が小さい上、その彼女に軽々と運ばれているこの現状。
ちゃんとご飯食べてるのに、何で育ってくれないんだろうか。
ボクの男としての尊厳を始め、最近色んなモノがガリガリと削られすぎてるような気がする。
このまま削られていって、無くなっちゃったらどうしよう。
そうそう、今のレトさん達は覆面と頭巾を着けていない。
彼女の話によると、隠形の効きを良くするために仕方なく被っていただけで、ああいう被り物は可愛くないので、出来る限り被りたくないらしい。
やっぱりそういう所は年頃の女の子なんだなと思う。ボクみたいな見た目詐欺とは違ってね。
そんな彼女達は出発前、ボクの髪の毛を散々弄くり回した。
このままだとボクの太腿付近まであるサラサラの髪がバラバラに靡いちゃって、森の木々の枝などに引っ掛かりそうだと熱く説得され、二人はあーだこーだと言い合いしながら色んな髪型を試してきた挙げ句、結果ポニーテール風に髪を纏める事に落ち着いた。
首筋辺りでふんわりと黒のレースのリボンで軽く結わえられ、ゆったりと編み込まれて身体の前へと流しているこの姿。
レトさんは壊れたスピーカーのように散々可愛い可愛いと連呼して抱き付いてきていたんだけど、鏡とか見れないし、ヘアスタイルとか全く詳しくないから、今どんな感じにどんな見た目になっているのか全く想像がつかない。
うぅ、絶対今の状態のボクを見たら、レントの奴大笑いするだろうなぁ。
内心ボヤキながらも素直に彼女におぶさり、東側の山の中を進んでいく事になったのだった。
あの後、本人に許可を取ってから、二人にカグヤが精霊だと改めて説明を行った。
その説明と人型精霊を仲間にしている事にかなり驚いてはいたものの、思ったよりもあっさりと納得してもらえた。
一応みだりに他言しないよう、釘を刺しておく。
まあでも、恐らく今回の防衛戦でバレるだろう。隠しながら戦える相手じゃ無さそうだし、人の口には戸を立てられない。
ついでにボクの方が年下だから敬語を止めて欲しいと伝えたところ、二人に物凄く驚かれてしまった。ボクの事を十八歳以上だと思っていたらしい。
逆にこっちの方は、いくら年下だと言っても、なかなか信じようとしてくれない。
こないだ十五歳の誕生日を迎えたばかりということを説明した上、ステータスメニューを可視化し、十八禁コード設定タブが開けられない状態である事まで見せて、やっとのことで納得して貰えた。
普通ボクみたいなちんちくりんは、大抵実年齢より下に見られてしまうのに、こんな事は初めてだ。
一体どういう事なのか、二人に訊いてみた。
それによると、どうやら掲示板の方でボクの年齢が十八歳以上だというデマが広がっているらしい。
十八歳未満禁止コード、いわゆる十八禁コードを解除しなければ、絶対に脱ぐことが出来ないインナーウェアを脱ぎ、お洒落な下着を穿いているからというのがその根拠らしかった。
いや、確かにインナー脱げちゃってるけど。
この加護衣のせいで強制解除されちゃっているけど、それボクの意思じゃないからね。
というか、何でそんな事が……し、下着の事まで周りに知れ渡っちゃっているのよ!?
「──なるほど、その加護衣の副作用のせいだったのね。
もしかすると、コードの力ってインナーの方にくっついていたんじゃないかしら? それを脱いじゃったせいで、接触と視認系のコードが強制解除されちゃったと考えたら、辻褄が合うわね」
「そうですか……」
「うん。元々コードを解除してインナー脱いじゃった人は、それを二度と着れなくなるらしいから、この仮説は間違いないと思うわ。もちろん十八禁コードも一旦解除しちゃうと戻せないらしいから、これからは気を付けないと駄目よ。
あ、ちゃんと全てに『フレンド限定』かけてる?
それと下手に男なんかとフレンド登録しちゃ駄目よ。セイちゃんみたいな可愛い子がそんな隙なんか見せちゃったら、調子に乗って迫ってくる男どもが多いんだから」
小さな子に言い聞かすような感じで、ボクにとくとくと話しかけ続けるレトさん。
ボクが年下だと分かってからは、こんな風にかなり砕けた感じになり、おしゃべりと世話焼きが止まらない。
それに何が彼女の琴線に触れたのか知らないけど、完全に気に入られたようで、彼女からの好意がうなぎ登りで天井知らず状態だ。
そんな彼女からの可愛がりに、もうたじたじである。
こういうのって、美空姉さんや学校の先輩達からで慣れていたつもりだったんだけど、ここまで激しいとさすがに対処に余る。
このお節介焼きが彼女の生来の性格なんだろうか?
ボクの現状を聞いた時に少し思うところがあったのか、多分放っておけなくなったんだろうとは思うんだけど。
でもレトさん、あまりにボクの事を低年齢に設定してない? こんなナリだけど、これでも十五歳なんだよ。
こうしてお喋りしていても彼女の足取りは確かだし、この移動中ボク自体も暇だったので、レトさんの好意に甘える形で色々と話してみた結果、分かったことがある。
まず、レトさんがさっき言った『フレンド限定』には、『十八歳未満禁止コード』と『十五歳制限コード』での二種類がある。
この二種類のコード、同じ『フレンド限定』でも少し意味合いが異なるんだ。
まず『十八歳未満禁止コード』の方。
こちらは、同性異性相手を問わずフレンド全員に対して完全許可を出すモノであり、対象者に対して、外している項目全てがオープンになる。そう、相手がフレンドであれば、異性同性問わず拒否が全く出来なくなる。嫌ならフレンドを解除するしかないのだ。
それに聞いた所によると、こっちのコードは全ての生理現象にも対応していて、その、えと……体液の表示設定まであるからね。
しかも十八禁コードは全て一回でも外したら戻せないらしいし、本当の意味で現実志向のコードだ。
そして『十五歳制限コード』の『フレンド限定』はというと、コードの許可行動の範囲内という制限は付くものの、同性フレンドのみ完全許可で、異性フレンドに対しては、『謎の光』みたいなので一部制限されるんだよね。
特に肉体的接触の場合は、どちらかに本気の嫌悪感や拒絶の意志が生じたら接触すら出来ず、ハラスメントの警告と共に弾かれる事になる。
ボクは当然『十五歳制限コード』の方だし、今年の四月で高三になると語ったレトさん達もまだこちらだろう。
それを踏まえて考えると、精霊化中のこのコード上のボクの扱いが男性なのか、それとも女性扱いなのか、今もまだよく分からないんだよ。
ボクの視覚情報は、カグヤで証明されたように男性の扱いで異性制限がかかっているようだけど、ユイカの視覚でボクの下着が丸見えになっている件を考えると、ユイカの方では女性同士の扱いになっているようだ。
接触に関しては、坑道でレントのお姫様抱っこから逃げる為に一応拒否したはずなのに弾けなかった事から、あの時は精霊に変化していても、システム的には男性同士で同性許可が出ているようにみえる。
こっちは加護衣を手に入れる前だから、コードは生きているはず。
もしシステム的にも女性になっていたら、あの時レントとの接触を弾いていたはず……だよね?
そこでさっきレトさん達とフレンドになった後、おんぶをする時に敢えて拒絶の意志を乗せてみた。
そんな内緒の実験をした結果、レトさんをどうやっても弾けない事が分かってしまい、コードが機能していない、もしくは女性設定で同性許可という不思議な現象が起こっている。
まあ〔精霊化〕のレベルが上昇するに至って、精霊としての属性が強くなり、ある境から変化中はシステム的にも女性扱いになったという可能性もあるかもしれないけど、今はそれを置いといて、だ。
この事から導き出される結論はこれしかない。
自分の視覚だけは男性の『十五歳制限コード』のまま。
ただし他人から見られる事とその肉体的接触に関しては『十八歳未満禁止コード』を完全解除している扱いになっているんじゃなかろうか?
それに実はまだ試してないけど、男の時のインナーもこれに巻き込まれて、コードの力が駄目になってしまっている可能性もある。
確か見た目は変わっていないんだけど、もし自分の意思で脱げたり、破損するような事があれば、それはもう確定。
このイベントが終わったら、ちゃんと調べてマツリさんに下服も作って貰った方がいいな、これ。
思い起こせば、昨夜のカグヤとの接触もそうだよね。
こちらの世界の住人で寵愛を受けた精霊だとはいえ、裸で抱き合うなんて真似、コードが掛かっていたら普通は出来ないと思うし、あれもそうだったと考えるのが自然だ。
あとは……男性フレンドの視覚、つまりレントやアーサーさん達から見られた場合だけなんだけど、こちらの実験はまだ出来ていない。
まあ当然ながら、こっちも解除扱いになっている可能性が非常に高い。
まさかきちんと判別したいからといって、レントに抱き着くようお願いしたり、スカートを覗いてくれとお願いしたりする訳にはいかないからなぁ。
そ、そんなの変態じゃないか。流石に恥ずかしいし無理だ。
で、どうしたら良いんだろうと、思わずレトさんに考えを洩らしてしまった結果、今度は言い聞かせという名のお説教が始まったわけで。
「な、なんて馬鹿な事考えてるの!? 絶対試しちゃダメ!
その男が野獣になって襲ってきたらどうするのよ! セイちゃんにはまだ早いわ!」
いやいやいやいやいや!
早い遅いも関係なく、それ絶対にあり得ないから!
男同士だから何もないし、もちろんそんな実験したくもないんだからね。
それにレトさんに「今はこんなナリだけど、本当は男なんです」って本当の事を言っても、絶対信じてもらえないだろうし。
こりゃ誤解が解けそうにもない。
一人でヒートアップし出したレトさんを、どうやったら落ち着かせられるかな。
あいつが幼馴染で無害な事を強調したら、何とかなるか?
「あいつとは物心ついた頃からの幼馴染だし、彼の双子の妹とずっと三人一緒で過ごしてきたんですよ」
「え? 幼馴染……なの?」
「うん、隣同士で今でもほぼ毎日お互いの家を行き来してますから。朝部屋まで起こしに行ったり、親がいない時はご飯作って上げたりする仲だから、全く何の問題も……」
「セイにゃん、セイにゃん。庇ってるんにゃろうけど、それ逆にマズいにゃよ?
レトってそういう立場を利用したヒモ野郎、大嫌いにゃし」
前を走っていたミアさんがいつの間にか隣を並走していて、そうこっちに進言してきたんだけど。
……えっと、その……。
ちょっと言っている意味が分からない。
「あの……ヒモって何です?」
「──へぇ。成る程。さすがよく出来た幼馴染ね。まるでギャルゲーの主人公みたいだわ」
小首を傾げながら聞いたボクの言葉を受けて、急に声のトーンが低くなって、それっきり押し黙ってしまったレトさん。
あれ? もしかして、なんか地雷踏んだ?
何が悪かったんだろう?
「あー……なんか察してしまったにゃ……。無意識って酷いにゃ。多分苦労してるんにゃね」
首を捻ってると、しみじみとミアさんがそう言ったのが聞こえた。
レトさんは「私が守るんだから」とかぶつぶつと呟いているし、ミアさんはそのままそっと離れていって、何も語ろうとしないし。
ちょっと~?
二人とも中途半端にしないで、ちゃんと教えて下さいよ。
険しい山間部を抜け、ボク達は眼下にルーンヘイズの街を見下ろせる崖まで辿り着いていた。この位置からは、街の様子が一望出来る。
夜だというのに街の至るところで篝火や魔法の灯火が設置され、周囲を明るく照らしていた。
非常事態だからだろうね。
実際街の大通りを物々しい格好をした兵士や冒険者らしき人達が走り回っているのが見える。
「あとはこの崖から降りたら、もう街の中に入れるわ」
「あの……なんでここからなんですか?
それに入門の手続きは?」
この崖切り立っていて、思いっきり高いんだけど?
降り口って何処に……?
「城壁を越えて街の中まで入るわけじゃないから大丈夫よ」
「セイにゃんは真面目だにゃ~。こんな非常時、そんなの誰も気にしてにゃいよ」
にゃははと笑うミアさんが先に崖の方へと足を踏み出し、そのまま垂直に近い崖を平坦な道のように普通に走っていく。
「ええっ!」
なにそれ!?
「私達のジョブは忍者よ。これくらい出来るわ。私達も行くわよ」
背中にいるボクの方へとにこりと笑いかけると、そのままひょいと崖から飛び降りた。
な、何でこっちは飛び降りっ!?
ふわりと宙に浮いた気持ち悪い感覚を最後に、一気に重力に引かれて落ちていく。
「ひゃぁあああー!?」
耳元でごうごうと風の音が鳴る。
自分も飛べる事をすっかり忘れてしまい、ぎゅっと目を閉じて彼女に思いっきりしがみついた瞬間、トンッと軽い着地音と共に、レトさんのからかうような声が聞こえた。
「あーもう、ホント可愛いわね」
「……え?」
その声と頭をそっと撫でられる感触に恐る恐る目を開けると、既に街の城壁上に作られた通路の上にいた。
改めて近くで見ると、この城壁はかなり巨大だった。
ボク達がいるこの頂面の通路は馬車すらすれ違えるほどの幅があり、その縁には外敵に対する防護壁の役割を担った凸凹の外壁が作られているのが目に入る。
周囲の様子を確認したボクは、狐につままれたような表情でよろよろとレトさんの背から降り、飛び降りてきたはずの崖を見上げる。
うん、パッと見て、ビルでいうと十階建て以上の高さはある。
そんな高さから飛び降りたのに、どう考えても落ちてくる時間の感覚がなんだかおかしかった。
しかも殆ど衝撃も殆どなく、軽く着地って……。
「一体何がどうなってるの?」
「企業秘密♪」
「むぅ」
にこやかに微笑むレトさんに、誤魔化されたことに唸るボク。そんなボクの頭を慰めるように再び撫でてくる。
「ほらほら、そんな顔しない。可愛い顔が更に可愛くなっちゃうわよ」
「ちょっとレトさん、あんまり子供扱いしないで下さいよ」
「そうは言ってもね……。
──あーもぅ、やっぱり駄目。耐えられない! このままお持ち帰りしちゃいたい♪」
「ふぎゅぅ!?」
辛抱堪らないといった風情で、いきなりガバッとのし掛かるように力一杯抱きしめられて、ボクの口から変な音が漏れる。
「ねぇねぇ、セイちゃんセイちゃん。うちに来て私の妹にならない?」
「ちょっとレト待つにゃ。時間があまりにゃいから、そういうのは後にするにゃ」
崖の壁からこちらの方へと跳び移ってきていたミアさんの苦情に、ボクを抱き締めたまま振り回していたレトさんは「……それもそうね」と同意して、今度はそのままボクを両手で抱き上げた。
「ひゃっ!? 待って待って!
ここで精霊獣を喚ぶから!」
「駄目よ。この通路上でも戦ってる人いるのよ。そこにあの馬みたいなのが突っ込んで行ったらパニックになるわよ」
「うぐっ。せ、せめておんぶに……」
「──近付いたら、ミア達が先行してみんなに教えるにゃ。それで問題ないにゃよ」
嬉しそうにボクを離したがらないレトさんを呆れた目で見ながら、ミアさんが横から助け船を出してくれた。
そのミアさんからの口出しにレトさんの目が瞬時につり上がったのを見てしまい、ボクは思わず目を反らす。
「そ、そうそう。ミアさんもこう言ってくれてますし」
「……残念」
心底残念な、そして悲しそうな表情を浮かべて、レトさんはしぶしぶボクを下ろす。何だか居たたまれない気分になりながらも、ひとまずホッとするボク。
何度も言うように、お姫様抱っこは恥ずかしいってば。何でみんなしてボクを抱き上げようとするんだろう?
「『リン』おいで」
ため息混じりに依り代の中からリンを再び喚び出した。レンガで舗装された城壁の頂面の通路に、召喚陣が開きリンが現出する。
「あれ、カグヤさんは喚ばないの? 彼女の有無で魔法の威力が変わるんでしょ?」
「ちょっと訊いてみます」
レトさんの言葉に従って、呼び掛けてみる。
『カグヤ、どうする?』
『……人多いところに行くんだよね?』
『そうだね。出来たら……大変だろうけど助けて欲しいな』
『セイのためだもの。頑張る』
『ありがとう。必ず守るから。それに何かあったらすぐボクの中に避難してね』
『うん』
地面を蹴ってふわりと浮き上がったボクは、そのまま重力を無視してリンの背の上まで飛び上がり、ゆっくりと跨がるように着地する。その際、捲れないようにスカートをお尻に巻き込むように整えて、ボクの背後にカグヤを喚び出した。
「お待たせしました」
「……セイちゃん。馬にスカートで跨がるのは、やっぱり危険じゃないかしら」
「と言われましても……」
この精霊形態じゃスカートしか無理なんだけど、どうしろと?
のんびり常歩程度なら横座りするんだけど、そんなのんびり歩かせてる場合じゃないし。
ああ、もうっ!
そんな事言われたら、余計気になって落ち着かなくなっちゃったじゃないか。
あ、そうだ。この下にスパッツでも穿けば……って、あぁっ!?
イベント前にマツリさんにしつこく依頼して一着だけ作ってくれた唯一のスパッツは、あの日川に落ちて加護衣が水着に変わった際、すぐ破れて脱げてしまい、どこかに紛失したんだった!
慌てて他の服で使えるモノがないか、記憶と虚空の穴を探る。
その他の服というと、マツリさんが作ってくれたカグヤとティアの服だ。本人達の希望で、ボクが虚空の穴に全部預かっている。
二柱からは、自分の服も着ていいよと言われているけど、それは全部一式で何の力もないただの布の服だから、これから戦いに向かうボクには着れないし、全部スカートだから着る意味がない。
ちなみにティアがワンピースやフリルスカート系の可愛いタイプで、カグヤがミニスカート等の活動的なタイプとおしとやかロングスカートタイプだ。
それ以外のボク専用の服は、加護衣の上から羽織れるタイプの外着か、袴が数着、あと着ぐるみみたいなパジャマだけなんだよ。さすがにこの下には穿けないでしょ。
カグヤは今、本来の精霊服を力へと分解して、マツリさんの服に浸透させて纏わせている。これで、服装が変わっても本来の力を発揮出来るというから、なんかズルい。
んで、そんな彼女の今の服装は、チュニックにスパッツだ。当然カグヤ用の予備スパッツはあるけど、お尻に尻尾用の大きな穴が空いているから、こっちはボクは使えない……と思う。
いや、それを無理やり穿くか?
でもそれだと、もし後ろから見られたら、尻尾のないボクだとぱっくりお尻の部分が丸見えに……。
「カグヤさん、あなたのご主人様のスカートの面倒を見てあげてね」
「……うん。ちゃんと前後しっかり手で押さえ続けるから大丈夫」
「押さえっ!? いやいや、前くらい自分で面倒見れるから絶対止めて!?」
懊悩していたら、レトさんの訳の分からない提案にカグヤまでがとんでもない事を言い出して、慌てて否定する。
「は、早く行きましょう!」
色々と釈然としない思いはあったけど、それ以上は言わずに無理やり飲み込み、みんなに声をかけた。
「正門の方はこっちにゃ。急ぐにゃよ」
走り出したミアさんを追い掛ける形で、ボク達は急ぎ正門の方へと駆け出したのだった。
ティア「あの……これがそこの机の上に置いてあったのですが」
エフィ「ん? なになに……。あー今回のセイの考察まとめね。概ね合ってるんじゃないかしら。一部間違ってるけど」
カグヤ「どこが?」
エフィ「そもそも私の力を受け入れた時に身体を作り変えられて、システム的にも身体が女性化してる事すっかり忘れてるじゃない」
ティア「あ!」
カグヤ「じゃ、なんでレントを拒絶できなかったの?」
エフィ「あの時恥ずかしいから早く離れて欲しいと思ってただけよ。それを拒絶と勘違いしてるみたいね。そもそもセイはレント君の事を生涯の親友だと思っているのに、そんな彼に嫌悪感を抱いたり、人間的に拒絶してるわけじゃないでしょ」
ティア「あの……羞恥心じゃ無理なのですか?」
エフィ「無理ね。対象外よ」
カグヤ「あのね。セイって精霊になってる方のコード壊れちゃったんだよね? じゃ、どうなるの?」
エフィ「男女どっちも壊れてちゃってるわよ。同じ身体、同じインナーなんだから。つまり男の固定インナーの方は水着変換機能も壊れちゃってるから、水に入っても水着にならないわよ。つまり水着を作って貰うか脱げってことね」
ティア「……ぬ、脱ぐ……? お、お兄様のはだか……あぅ」
カグヤ「あれ、あの時セイの下着取ろうとしたんだけど取れなかったよ?」
ティア「……ぇ?」←寝てて知らない。
エフィ「あなた一体何してるのよ……。うん、お母様が作ったインナー下着はその役目をきちんと果たしていたようね」
カグヤ「どういう事?」
エフィ「それを脱ごうという本人の意思がない限り、誰にも脱がせられない様に作ったみたいよ」
カグヤ「えー、ご主人様を勝手に脱がして見れないの?」
ティア「うぅ……カグヤ様が大胆過ぎます……あぅあぅ」
エフィ「こらっ、カグヤ。なんて事言ってるのよ。駄目よ、まだそんな事しちゃ(男の方は誰でも脱がせられるようになっちゃってる事は言わない方が良いわね……お母様に頼もうかしら?)」
カグヤ「だって、既成事実を作れって言われたのに……」
エフィ「……はぁ、頭痛いわね(純粋故にヤバいわねこの子)」
ティア「あ、あのあの。結局どうなっちゃったんですか。お兄様のコード」
エフィ「セイの視線コードは十五のまま生きてるわね。ただ他人からの視線、及び接触系は全滅よ。十八禁コード外した状態だわね。だから『フレンド限定』を付けないと危険よ。そうね……フレンドのレント君で言うと、セイがどっちの姿でも抱き着き放題。視線だと、セイ(男の子)なら全身全裸くっきり丸見え。セイ(女の子)の場合でも下着以外なら、きちんとくっきり見えるわよ。おへそとかね。もちろんすっぽんぽんなら、レント君の十五コードが仕事をするから『謎の光』が一部ガードするけど。そうね、例えば『フレンド制限』をセイがしてなかったと仮定した場合、成人してるあの変態忍者ならどっちのセイの産まれたままの姿全て見れちゃうわ」
ティア「だ、駄目です。あんなのにお兄様は渡せません!」
カグヤ「何とか出来ないの?」
ティア「あ! それって看守精霊様の指示でシャイン様が直されたはずじゃ?」
エフィ「あれは動画になった時点で、不特定多数に見られてしまうから、動画の中は全て『謎の光』でガードされるようにしただけよ。根本的に解決してないわね」
ティア「そ、そうですか……」
カグヤ「んじゃ、しつもーん。私達相手だとどうなるの?」
ティア「……ごくっ」
エフィ「私達にコードなんてモノないから、実質何でも出来るわよ。ただ乙女としての節度はしっかり持ってね」
カグヤ「やったぁ。ご主人様とハグハグ出来る!」
ティア「お、お兄様と……い、一緒に……何でも? その……私と……はぅ……ぁ?(パタン)」
カグヤ「あぁっ! ティアが〇血だして倒れたぁ!? なんでぇ!?」
エフィ「……あー(この子昔から思い込みが激しかったけど、初恋相手にここまでムッツリになっちゃうなんて)」




