84話 切られた火蓋
お知らせです。
2017/11/14に27話を2,000文字程加筆してます。
2017/11/21 クマゴロウさんの容姿を黒から白熊に変更しています
──レント──
「おー、集まってきたでござるなぁ」
絶景絶景と言わんばかりに、額に手をかざして呟くダンゾー。
今日のこいつは昨夜のようなブッ飛んだ忍者服ではなく、ごく普通の冒険者に近い装いの服を着ている。
ミスリル合金製の鎖帷子の上に、あちこち金具の付いたどこかジャケットに似た上着を羽織っているその姿は、妙に格好良い。
口を開かなければ、だが。
基本これが街にいる時の普段着らしい。
こいつには早着替えスキルがある。
戦闘用と斥候用、夜間潜入用といった具合に、状況に合わせて複数種類使い分けているそうだ。
昨日のアレは、最初の出会いが肝心ということで、彼なりにおめかしした結果らしい。そんな変態じみた気遣いは止めて欲しかったんだがな。
「見よ、人がごった煮のようでござる」
「あのな……それを言うなら『ゴミ』もしくは『ごった返す』じゃないのか」
ごった煮ってなんだよ、ごった煮って。
煮込むんかい。
そういう俺も彼の横へと行き、眼下の光景を眺める。
俺達がいる場所は、冒険者ギルド前広場の一角。大小様々な陸橋に囲まれている、入り組んだ階段だらけのこの広場。
最下段まで階段を降りたこの広場の底の部分に集まっている同郷者の様子を、俺達は最上段から眺めていた。
この街の住人達が行き交い、ポータル前の噴水近くで屋台等が大声を張り上げている中、物々しい武装をして集まっている俺達は当然その場にそぐわず、周囲から浮きまくっているように見える。
今回の件について、冒険者ギルドの方へと事態の一報は入れてはいるが、彼らはどこか真剣に捉えていない様だ。やはり俺達をよそ者扱いして、あまり信用していないんだろう。
ゴザル忍者からの情報が正しければ、このエリアはプレシニア王国の近くにあるらしく、過去の独裁政治時代の帝国が何度も王国にちょっかいを掛けたせいで、小競り合いが多発していた場所の一つでもあるらしい。
つまり帝国ではなく王国から来た冒険者と知っているギルドとしては、いくら帝国と王国の冷戦時代が終わった今であっても心情的には仮想敵国、そして俺達に塩対応、という訳だ。
例えそうでも、事態は待ってくれない。こちらで勝手に動くだけだ。
クラン『ヘイヘイホー』の全面協力及び大号令のもと、集まった希望参加パーティーは十数規模になった。それ以外でも、クリア済みパーティーから離れて、未クリアのまま個人参加してくれたフリーの人間も含めればもっと多い。
そこで新たな問題が浮上した。それはレイドの参加人数だ。
最大三十人五パーティー参加できるという集団戦闘。ここでミソなのが五パーティー制限だ。
強制参加の俺達は四人パーティーだから、この時点で最大二十八人しか参加できない事になってしまう。
更にいえば、レイドの参加許可権利を持っているのがパーティーリーダーの俺ではなく、引き付けているセイに移行してしまっているから、あいつが来ないと話にならない。
しかもこのイベント中、パーティーの再編成が出来ない。
やはり仲間うちで六人で組んでいない人達も大勢いた為、いくら強い人達でもバックアップに回っていただく事になってしまっていた。
流石にあの大熊相手だと、全力を尽くさないと勝てる気がしないからな。
システム的にグレーゾーンである辻ヒールは何とか可能ではあるが、流石にそれも限度はあるからな。
まあ幸いながら、クマゴロウさん達はフルメンバーで組んでいた。
堅牢な防御系近接職であるクマゴロウさんと、火力兼支援魔法担当のヒンメルさんは外したくなかったから、その事実にホッとしていた。
他のメンバーも回復系職が新人だったものの、役割別にバランスよく編成されていた。
流石トップクランの主力、そして層の厚さだ。
結局対レイド編成は、俺達を除き、防御系近接職四人、斥候系職四人、回復系職四人、火力系近接職五人、残り魔法系職七人になっている。
見ての通り、かなりバランスよく組めたと思う。俺達が一番弱く足を引っ張る形だが、これはまあ仕方ない。
そしてこのレイド編成の総リーダーは、当然クマゴロウさんにお願いしてある。
一応俺が最初の呼び掛けをしたわけだが、俺みたいなヒヨッコがリーダーだと、不安に思うやつも出てきそうだし、そのせいで組織立った動きが出来なくなってしまっても困る。
それに大半のメンバーがクマゴロウさんのクランメンバーなのだから、俺が口出しするよりもすんなり回るはずだ。
ここまでお膳立てしたのだから、少しくらい始まるまで気を抜いてもいいよな?
「しかしあんた暇そうだな」
敬語も敬称もいらないと最初に言われているので、こっちも遠慮なく接することが出来る。
「まあ今回の拙者のパーティーは全員忍者であるからして、火力職がいないでござるからな。事が起こるまでは暇でござる」
普段は王都でフリーの請負人をやっているらしい。
今回のパーティーの忍者仲間は、普段は全員別々のパーティーやクランに散っているそうで、今回のイベントの為に集結したとの事だ。
パーティーの仲間が忍者だから、忍者系クランに所属しているのかと思いきや、そんなモノはないでござると否定していたからな。面倒だから自分から作るつもりもないそうだ。
一瞬ボッチかと思ったが、むしろこいつは逆だよな。面倒だからというのも、対外的な言い訳だろう。
色んなパーティーに潜り込む事で、知り合いや情報を多く把握していく……逆にいえば、良くも悪くも情報を噂として意のままに操れる位置にいる。
ふと気付けば、奴の手の平の上で踊っていたということにもなりかねない。見た目と言動に騙されないようにしないとな。
まあそれはともかくとして、だ。
戦闘メンバーに選ばれなかったこいつのパーティーは、その職特性を生かし、斥候部隊として各方面に散り情報収集に当たっている。
俺達は『メール』という、この世界の精霊以外では限られた住人が魔導具としてしか持っていない機能があるから、そういう点では、こういう時楽だよなぁ。
「レントさん、セイさんが少し前ぐらいに平野部まで進んだみたいです。そろそろ大橋のセーフティエリアに辿り着くんじゃないかと」
俺の横にいたティリルが、セイと交わした『魂の契約』のスキルに付随している『居場所把握』を使い、ステータスメニューに落とし込んだ地図と照らし合わせて報告してくる。
セイにこれでもかとマッチしているよな、ティリルのこの特化スキル。ホントあいつの為にあるかのようなスキルだ。
精霊化の維持MPもティリルのおかげで補給出来るから、ペナルティーさえ気にしなければ、ティリルがいる限り、実質無限に使える状態になっている。
まあログアウトしたら、精霊化は解除されてしまうが。
あいつ自身、最近ポーションが効かなくなってきたって愚痴をこぼしていたから、その点はちょうどよかったとは思う。
「多分エリアに着いたら、セイからメールが来るんじゃないかな。状況報告を待とう」
「しかしレント殿。今その場所で今までと同じペースで進んだとしたら、この街に着いたら日が暮れているでござるよ。
山の日の入りは早い……このままでは夜戦になるゆえ、止めておいた方が良いかもしれぬでござるな。クマゴロウ殿と話し合った方がいいでござる」
天駆る太陽の位置を確認しながら、ダンゾーがそう忠告してくる。
こいつのパーティーは『修行』と称して馬にも乗らず、最初の寂れた村からひたすら街道を自らの足だけで走り抜けてきたから、街道の距離感や場所の位置関係をきちんと把握している。
その経験に基づいて、セイの移動スピードからそう割り出して提案してきたダンゾーに、俺は頷き一つ返す。
「まさかお兄、急いで来いとか言う気?」
不機嫌さ全開で俺を問い質してくるユイカ。
ストレスのかかっている状態で長時間セイに会えていない影響か、今日は朝から機嫌がたいへんよろしくない。早く会わせてやりたいが、こればっかりはなぁ。
「あのな、ユイカ。それはない。あいつもエリアで休憩を取りたいだろうからな」
ティリルやユイカには内緒にしているが、今朝あいつからメールがあった。
てっきり昨夜はセーフティエリアに辿り着いて休んでいるものとばかり思っていたのに、あの馬鹿は通常エリアで夜を過ごしていたらしい。
動くに動けない状況だったのかもしれないが、恐らくほとんど寝ていないはずだ。そんな状態で朝から一戦やらかしている。
そんなあいつを休ませず戦わせるようなことは、出来れば避けたかった。
「レント君、どうした?」
「やっほー♪」
のっしのっしという擬音が似合いそうな歩き方をして、一頭の白熊が……いや、クマゴロウさんがやってくる。
その彼の曲げた右前腕に腰かけ、その首に腕を回してしなだれかかった状態で右手を振っているのは、金髪碧眼の保護欲を誘いそうな可愛らしい容姿をもち、ドレスのようなローブを着ているヒンメルさん。
長時間そんな事出来るのは、近接重騎士系職の巨漢で筋肉質なクマゴロウさんと、小柄なヒンメルさんだからこそ出来る芸当だな。
そうそう、空を飛べる有翼種の種族特性の一つ、体重半減の効果もあったか。
傍から見たら、二足歩行の熊が西洋人形を抱き上げているという滑稽な姿になっているが、実はこの二人、現実の結婚写真の中でも似た事をしている。
更にいうと、正月等の集まりでお酒に酔った美空さんがよく彼にしがみ付いているのを目撃する事が多かったせいで、気に入ったものにすぐ抱き着こうとする彼女の癖を見るのは、もう慣れっこになっている。
その二人の後ろには昨日の会合で見なかった聖職者の装いをした少年──クマゴロウさんのパーティーメンバーの一人でルシエルと名乗った回復系職の少年が、夫婦の後ろに付き添っていた。
その彼らに今の状況を説明する。
「そのセイさんという方に、スピードアップするように言えないのですか? 徒歩じゃないんでしょう?」
「……むぅ」
戦闘が夜か明日以降にずれ込みそうだと聞き、俺にそう返してくるルシエル少年に対し、横にいたユイカが不機嫌さを隠そうともせず、しかし黙したまま眉をひそめるに留める。
それが見えているだろうクマゴロウさんも小さく唸り、そばのルシエルの方へと向き直った。
多分難しい顔をしているのだろう。熊の顔のせいで表情が分かりにくいのは、獣人種の獣度四段階設定の弱点だな。はたから見て全く分からん。
「確かにあいつは召喚した精霊獣に乗っているから、加速は可能なんだがな」
「だったら!」
「ルシエル。お前はあの子に休憩をさせず、かつ早く来るように急かせろと? 昨日の朝からたった一人でボス熊と相対し、引き付け続けているあの子に」
「うっ……それは」
「今朝もレイドボスが生み出した眷属との戦闘を、無事くぐり抜けたばかりと聞いた。本当はすぐにでも休ませてあげたい」
「……そうですね。すいません」
「お前のその気持ちも分かるんだが、ここは俺に免じて抑えてくれないか?
セイが伝えてくる情報と要望には、出来る限り沿って動くつもりだ。状況に合わせて、どんな形でも対応出来るようにこちらで援護を……」
その時、クマゴロウさんのそんな気遣いを嘲笑うかのように。
俺達の耳に、戦の鐘が鳴り響く。
それがこのルーンヘイズの街を巻き込んだ戦いの合図となり、俺達の戦いの幕が切って落とされた。
「な……に?」
鳴り響いたワールドアナウンスに固まる俺。
追加試練クエストとワールド級ボスの言葉の意味に、想定していた計画が崩壊していくのを感じていた。
それは余りにも不意打ちで、俺達全員浮き足だって……。
「ワールド級……街防衛戦……自由参加編成……ならばっ!」
いや、いち早く衝撃から立ち直ったダンゾーがすぐに行動を開始する。直ちにメールを立ち上げ、街の外へ出ている仲間へと送信していく。
凄まじく対応と順応が早い。恐らく考えうるパターン全て予め想定して、下準備をしていたのだろう。
やはりこいつは切れ者だ。
「別のパーティー仲間にも、目視したらすぐ拙者に連絡して手は出すなと送信したでござるよ。各地に監視結界を張っていた仲間を集結させているでごさる」
「ちょっ、ちょっと待って下さい。ボスはそのセイさんに張り付いているんでしょう?
どうして急ぐ必要が……」
「アナウンスに『街へと襲い掛かる』とある。セイを無視してこっちに移動を始めたと見るべきだ」
「その通りでござる。備えておくことは肝要でござるよ。
……やはりレント殿の言う通り、正門で叩くのがよいでござるな。大熊の移動速度が不明でござるが、下手な馬より速いと想定すれば、少なくとも数時間後には街に来るゆえ、急ぎ準備するでござるよ」
「……あ、ああ」
「クマゴロウさん、これはまずいですよ。普通他のゲームでワールド級といわれるボスは、レイド級と比べて比較にならない程の耐久力があるはずです。僕達のクランだけでは足りない可能性が」
ダンゾーの言葉を受け、焦った表情でルシエルが続ける。
「このサバの未クリア者全員を集結させて連携を取らないと、下手をすると街が滅んでしまいます。本当はクリア者にも参加して欲しいんですが」
「……そういえば、セイの全力ブースト魔法でもほとんど体力ゲージが減ってなかったな。体力も防御力もレイド級としてはおかしいと思っていたが、こういうカラクリか」
レイド級が三十人との戦闘を想定したボスなら、ワールド級はサーバー全員を想定したボスだ。参加者の平均レベルをどのランクに設定しているかで変わるんだが、このままでは非常にまずい。
「そりゃ精霊魔法程度じゃ、大した威力が出ないでしょうよ。でも僕達のクランの元素魔法使い達ならきっと!」
「──あんたね、さっきから……」
「ユイカ、今は抑えて」
我慢の限界に達したのか、文句を言おうと前に出かけたユイカの腕をそっと引っ張り、ティリルは彼女を押し止める。
「どうせすぐにでも分かるよ」
「……うん、そうだね」
ユイカがティリルの言葉を受け、意外にあっさりと引き下がってくれたのを見て、俺は内心胸を撫で下ろしながら、話題を変え話を進めていく。
「しかし……今この場に来ようともしない未クリアの人間が参加しようとしてくれるのか?」
「分からない。それに昨日スレでレイド戦の話を振ったのにも関わらず、クリアを優先すると言った奴に参戦の期待は持てんだろう」
「サーバー全員にアナウンスがあった今、声を上げない、こちらに合流しようともしない連中はいないものと考えましょう」
彼女の見ている視線の先を追うと、プレイヤーらしき集団が楽しそうに笑い合いながら買い食いしている姿が目に入った。
全くこちらの出来事に関心を持っていないようだ。
未クリア者しか参加出来ない制限があるから、早々に諦めただけかも知れないが、あんな風に完全に無関心な様相を取られると、こちらとしては結構クるものがあるな。
「話の前にクリアしてしまった団員へ手伝いだけでも出来ないかどうかの問い合わせをしたんだが、どうも戦闘に繋がる行為自体を制限されてしまっているらしい。ポータルに触れた時に、その説明と死亡しないよう状態固定の加護を与えられたとの事だ」
つまりダメージを負って死亡する事が無くなる代わりに、相手にダメージを与える事も出来なくなったということか。
なるほど。未クリア限定試練クエストの意味はこれか。
「恐らく手助け出来ないようにする為だろうな。スキルも全て封じられたらしい。
だからヒンメル、そう気にしすぎるな。悪くないのに詫びてきた団員もいただろう?」
「……そうね。うちはこのサーバーの未クリア者全員が参加を表明してくれているんだから、そっちを喜びましょ」
クマゴロウさんの気遣いに童女のような可愛らしい笑みを見せたヒンメルさんは、小さな掛け声と共に彼からふわりと飛び降りた。
「私がクランと掲示板両方から情報を発信するわ。あなたは現場指揮をお願い」
地面に飛び降りたヒンメルさんは、そのまま開いていたメニューウインドウを更に複数開き、両手を使ってタイピングを開始する。
「クマゴロウさんは下の広場のみんなの所へ、ダンゾーは外へ出ている斥候隊の統括を、俺達は先に正門の方へ行ってきます」
「頼む」
「拙者も門へ行くでござるよ」
手分けして移動しようとした矢先だった。軽やかな電子音と共に、メールが着信したのは。
この着信音はセイだ!
「ちょっと待って下さい! セイからメールが来ました」
散ろうとしたみんなの足が止まる。
「何って!?」
急かされる中、ざっと流し読みする。大半はこちらも想像出来た事だが、最後にあったボスによる考察文章が目に入る。
「あいつを無視して街に向かい出したそうです。あと、逃亡中と眷属との戦闘からみえたボスの能力と追加弱点の可能性情報が」
「送って!」
「今転送しました」
この大熊はインスタンスダンジョンを抜けた後、こっちに真っ直ぐ向かうよう設定されていたんだろう。
後はレイド級からワールド級にランクアップしたせいで、更に強化されている可能性があることだけ留意しなければ。この街の警備兵との連携と柔軟な対応か出来るかが鍵だな。
「毛皮の硬質化による防御力の向上、そして水での装甲弱化か。
ヒンメル、光だけでなく水の魔法も使える魔法師を優先的に増員してくれ」
レイド戦に参加出来るパーティーだと、光の元素魔法使いは少なかったから助かった。
「分かったわ。終わり次第、私も向かうわ」
ヒンメルさんのその言葉を合図に、俺達は行動を開始した。
「うー、せめて弱点が火だったらなぁ。光はあんまり使ってないから、レベルが低いよ」
「対魔法防御も弱点以外は恐ろしく高いみたいだ。眷属に『爆炎獄』仕掛けて、煤がついただけと書いてあったぞ」
「うわっ。アレでそれだけ?」
話を聞いて、嫌そうな顔をするユイカ。
「光だけでも使えて良かったじゃないか」
正門へ向かいながら、三人にメールの内容について詳しく説明する。
ダンゾーにはさっきのメールを送っているが、セイの魔法能力については、スレで見た程度しか知らないみたいだからな。必要最低限の情報は伝えておかないと。
勇み足で別れたものの、駆け足で三十分もあれば門まで着くので、今は早歩き程度で移動中だ。
あんまり早く行っても意味がないからな。出来たらあの隊長の言う通り、空にファイアボールがうち上がってからが望ましい。
「セイさんって、昔やっていたその『ファンタスティック・フロンティア』というゲームの魔法を元にしているんですよね?
その魔法もそうなんですか?」
俺達の会話の意味が分からず首を傾げるティリルを見て、セイの使う魔法をもう一度説明する。
トレントの時では、ざっくりはしょった説明しかしてなかったからな。やっぱあのゲームをやった事がないと、名前だけ聞いてもよく分からないか。
「成る程、『ファンフロ』の魔導師キャラ経験者でござったか」
「眷属相手なのに、それだときつくないですか?」
「やってみない事には。あいつの魔法って、なんか色々おかしいからな。正直俺達が使う水や光だと、どういう結果になるか分からん」
「ふむ……じゃ、光や水の属性を武器に付与して戦うのが良いでござるな」
「そうなるだろうな。だがそうすると、今度は付与師が足りるかどうかが不明だが」
水と光の付与に限定されているから、間違いなく使い手が足りないだろうなぁ。ぶっ倒れても無理矢理ポーション飲まされて働かされる未来が見える。
「それに大熊といっても、ログハウスくらいの大きさだぞ。総攻撃しようにも、大きさ的に囲める人数は限られてしまう。恐らく波状攻撃で戦うことになるな」
「そもそも俊敏な魔獣相手に、包囲して固定ハメ出来るでござるか?」
「……正直無理だと思う。落とし穴でも掘るか?」
「……落とし穴掘るだけで数日過ぎるでござるよ」
「だよなぁ」
二人してため息をつく。
考えれば考えるほど、無理な未来が見えてくるな。我ながら悲観的な性格してる。
「セイちゃんが駆け付ければなんとかなるよ、きっと」
「そうだね。だってセイさんだし」
俺達二人とは対照的に、楽観視してるティリルとユイカ。ダンゾーが傍にいるからか、二人ともセイを『さん』や『ちゃん』呼びして女性扱いしている。
前に家で流石に可哀想だろと突っ込んだ事があるんだが、妹の奴「あっちで変な虫がつくのを防ぐ為、バレるまで利用するから」とか言いやがったしな。
そうなると、今度は俺が割を食うんだが?
確かに精霊化中は女の子になっているんだが、だからこそ余計に俺がきつい。
あいつは周囲の目なんて全く気にせず、男同士の感覚のまま、俺に気軽に引っ付いてきやがるからな。
女性達の応援するような生暖かい視線や、男どもの嫉妬と殺意の視線がキツいのなんの。
ユイカ曰く、雷精の坑道で円卓の二人が普通に勘違いしているのを見て、これは使えると思い付いたらしい。冗談半分でも、あんなことするんじゃなかった。
しかもだ。
その内ちゃんと男だとバレてこの針のむしろ状態は終わると踏んでいたのに、衣装強制チェンジでスカートを穿き続ける事になった上、まさかステータスプレートで自分から自爆してトドメを刺すとは思わなかったからな。
今回も大勢の前で精霊として、つまり女の子の姿で戦う事になるだろうから、周りからの勘違いは加速するだろうしなぁ。
ティリルもユイカも、セイが男の子ではなく女の子として有名になる事にホッとしているようだが、一つ忘れちゃいないか?
変な虫は男にもいるんだぞ。セイの奴が変な直結野郎に狙われたらどうする気だよ、全く。
まあこっちの世界ではコード制限があいつを守ってくれるだろうし、現実世界ではあいつを探し当てられないだろうけどな。
一つ言えることは。
今後も俺の気が休まる時がないんだろうと言う事だな、うん。
レント君視点は、あと1話続きます(多分)。
本当は三話構成の予定だったんですが、ござる忍者が思ったより動かしやすくてw




