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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
ワールドイベント開幕
75/190

75話 山小屋にて

お待たせしました。


 トレントが蔓延(はびこ)る森を抜けた後、ボク達は山裾にある寂れた山小屋の中で、休憩をとっていた。


 あれからここまで移動する間に、太陽は西に落ち始め、外は薄闇に包まれ始めていた。

 今夜はここで野宿にする事にしたのだった。


 ここからはまた他のパーティーが混ざって来るかと思ったら、ボク達だけしかいないようで拍子抜けする。

 レントとティリルの見解では、どうやらここもインスタンスダンジョンの一部らしい。


 まだ明るい内にテンライを偵察に出したのだけど、ある一定範囲を越えると、何か結界の膜のようなモノを突き抜けた感覚があった。

 どうやら、マスブロックのような形で、細かくエリアが設定されているようだ。


 正直なところ、他人がいないインスタンスダンジョンの方が助かる。

 いつも一緒にいる幼馴染だから気兼ねしなくていいし、精霊化(スピリチュアル)解除後のペナルティー期間を他人に知られたくないというのもある。

 基本的に約半日分だけ精霊化して、その後は解除しているから、たいてい夜は弱体化の時間だし。


 レベルも順調で、今じゃ必要なマナポーションの量も減ってきている。

 現在一時間あたり百八十しか減らなくなってるから、その内、戦闘が無いなら一度も飲まなくても、維持出来るようになれそうだよ。



「ただいま戻りました」


「インスタンスで助かったな。そうじゃなければ、この山小屋エリアが人だらけで、いも洗い状態になってたところだ」


「セイ君ただまぁー。周囲は異常なしだよ」


 料理をしているボク達のところまで、三人が報告しにやって来た。どうやらユイカやティリルと一緒に、軽く周囲をチェックしに行ってきたようだ。


 もし、このエリアが他のパーティーで埋め尽くされるような有り様になっていたら、ここで宿泊しようとしなかっただろう。

 無理して先に進んでいるか、エリア外でテントを展開した上、交代で見張りを立てて、そっちで休んでいる。


「でもこの山小屋って、イベント的にどうなのさ?

 こういう状況下だと、映画とかドラマだと、襲撃されたりするのがお約束でしょ?」


「それは分からないな。一応セーフティエリアっぽいが……本来とは、色が違うんだよな。どういうことだ?」


 本来のセーフティエリアの外周に漂う燐光は、純白の輝きを放っているんだ。

 なのに、これは青白い光に満ちている。何だか嫌な予感がするんだよね。こういう時の嫌な予感は、何故か的中することが多いから困る。


「お兄様、寝る前にあの子『ハク』を喚んで、見張りをしてもらいましょう。気配に敏感ですから、頼りになります。念には念を入れた方がいいかと」


「じゃ今日は私がセイの中で休むね。この平行世界、二柱(ふたり)しかセイといられない変な制限付いちゃってるから。

 ティアはどうするのかな?」


「その、お兄様、カグヤ様……。こ、今夜は私が甘えさせて貰っても良いでしょうか?」


「いいよ」


「私も問題なしだよ。でも、明日は替わって欲しいよ。セイ、いい……かな?」


「うっ……まぁ、善処するよ」


 ジャガイモの皮剥きを手伝ってくれていたティアに、さっきまで溶かし用の玉葱たまねぎのみじん切りをしてくれていたカグヤ。

 そんな二柱(ふたり)のお願いを聞き入れ、こちらに明るい笑顔を見せ、抱き着くように引っ付いてきたティアの頭を軽く撫でていると、


「お前ら、ホント仲いいな」


「ティアちゃんにもカグヤさんにも言える事だけど、セイ君への想いが天元突破してしちゃってるからね。セイ君のお願いなら、何でも聞いちゃいそう」


「うん、分かる気がします。ちょっと妬け……羨ましいかも」


 それを見て、レント達が呆れた声を上げるが、そんなことを言われてもねぇ。

 なんかもう当たり前の光景になっちゃってるし。


 ただティアはいいんだけど、カグヤとはちょっと恥ずかし過ぎる。


 妹が出来たみたいなティアとは違い、ボクと同年代以上の容姿している精霊ひとから、こうもベッタリ甘えられるとね。


 ちょっと酷い言い方になるけど、カグヤ自身、飼い主に甘えてるみたいな感覚なんだろうな。ボクの事を、たまにご主人様呼びするし、多分間違いないだろう。


 出来たら自重して欲しいけど、もしそう言ってしまえば、悲しそうな、捨てられた子犬のような表情になっちゃうのが、容易に予想出来るがゆえに、結構対処が難しい。

 カグヤの事は、その、好ましくは思ってるんだけど、ね。


 最近はユイカとも仲がいいから、その調子で世間に慣れていけば、ボクにベッタリじゃなくなるはず。


 ただそんな中、やっぱりレントに対してだけは、まだぎこちない。今もレントがやって来た途端、ススッとレントと自分の間にボクを挟んだし。

 

 うーん。カグヤはまだレントに慣れないか。もう少し時間が必要かもしれない。

 同じ仲間なんだし、せめて苦手意識だけは何とかして欲しいな。



「でだ。今日はカレーか」


「そうだよ。作り置きもたくさん作ろうと思って」


「お、ご飯まであるのかよ。よく手に入れられたな」


「ふふーん、余を称えよ♪」


 さっきカレー粉を放り込んだから、暴力的な香辛料の香りが室内に充満しだしているのだ。

 後は煮込んで、片栗粉やジャガイモでトロみがついたら、完成である。


 そもそも、カレーのスパイスの調合は、ボクが行ったのではない。円卓の料理系生産職の人がボクへのプレゼント用に配合したのを、マーリンさんが昨日持ってきてくれたものだ。


 しかも、その料理人の名を訊いて、更にビックリした。

 なんとあの時出会ったキュニジさんだったんだ。知り合いでフレンド登録している事をマーリンさんに伝えたら、彼もびっくりしていた。意外と世間というのは狭かったらしい。


 マーリンさんに頼んで、彼の泊まってる宿にお礼を言いに行き、そこで色々と情報の交換をすることになった。

 その際に、ボクの手持ちの食材と彼の食材の物々交換も済ませている。その際、何と彼はお米を持っていたので、当然あのお肉の出番です。

 ふふっ、これでようやく白米もゲットですよ。


 もちろん炊飯器なるモノは存在しないので、野営用の飯盒でご飯を炊くことになる。

 土鍋でもよかったんだけどね。やっぱり雰囲気に合わせたい。


 泡をふかなくなった飯盒(はんごう)を火から下ろしてひっくり返し、軽く底を叩いて蒸らしておく。



「ねぇねぇ、セイ。さっきから不思議な匂いがするよ?」


「これはカレーという食べ物だよ」


 三つの鍋を弱火でゆっくりとかき混ぜながら、カグヤの質問に答える。

 鍋の中身は、それぞれ『激甘口』『普通』『激辛』である。


 ボクとティリルの好みはオーソドックスな味でいいんだけど、ユイカとレントは違う。


 ユイカは辛いのが苦手で甘口しか食べられないし、逆にレントは辛くなければカレーじゃないと言い切るほどの辛口派だ。

 双子なのにここまで極端に味覚が違うのも珍しいと思う。


 この調合されたカレー粉は、世間一般でいう中辛ベース。そこに、辛口用の追加スパイスを加えることで、辛さを調節するような形になっていた。


 甘口にするには、独自に味を調整しなくちゃならない。キュニジさんが調合してくれたスパイスには、この二種類しかなかったからね。


 辛くする事はいくらでも出来るんだけど、甘くするのはこちらで何とか工夫しなくてはならない。

 

 ユイカ用の甘口カレーには、これでもかというくらいに、ハチミツとリンゴを入れて調整してある。これでもユイカには辛いんだろうなぁ。


 まあ、これくらいは我慢してもらおう。牛乳も手に入れていてまぜ込んであるから、少しはましなはず。


「あの、なんだか一つだけ、色と匂いがあからさまに違うのですが……」


「うわぁ……。真っ赤っか」


「あ、それ、レント専用辛口。こいつ、辛いの大好きだからね」


「やかましい。辛くないとカレーと言わないだろうが」


「はぁ……。そんなわけで、みんなは食べようと思っちゃ駄目だよ」


 頼んでも食べる人なんていないだろうけど。この激辛殺人カレー。

 今回は普通の20倍程度で抑えたけど、こんなのよく食べれるなと、本当に呆れるよ。


「食べるなと言われたら、どれくらい辛いか、つい試したくなっちゃうよね」


 怖いもの見たさなのか、止める間もなく、おもむろに側に置いてあったスプーンを手に取り、ちょんとカレーに突っ込んで、ペロリと舐めるカグヤ。

 

 あ……。

 やっちゃった。


 いきなり固まり動かなくなったカグヤを見て、ため息一つ、口直しの牛乳を用意する。


「ひ、ひゃりゃぁああぁっ!」


 口を押さえて転げ回り始めたカグヤに、水精霊の力を借りて冷やした牛乳を手渡すと、床にへたり込んだまま、それを勢いよく飲み始める。


 あーあ。

 あちこちこぼしちゃってからに。


「お、思ったより月って、その、残念な精霊(ひと)だったんだな……」


 うん、気持ちは分かる。

 分かるけど、それ以上は言わないでね。


「カ、カグヤ様、大丈夫ですか!?」

 

「ひぃ、ひたひよぉ。ひふぁふぁあふひぃ……」


 痛いよ舌が熱い、かな?

 

 今度は水を氷に変えて、涙目になっている彼女の口に入れて上げる。


「ふぇいぃ~」


「はいはい、なにかな?」


「ひたふぁ、ふぁふぇふぇ」


「へ?」


 聞き間違えたかな……?


「ひたぁ、なふぇふぇなふぉひふぇ」


 んべっとこちらに舌を突き出して要求してくるカグヤに、ボクもみんなも周囲の空気ごとビシッと固まった。


 そんな……。

 そんなこと……。


 カグヤの舌を舐めて治すなんて出来るかっ!


「食べちゃ駄目だよっ! 早まらないでっ!」


「離して、ティリル!

 分かってても、ヤらなきゃダメな時もあるのっ!」


「……」


 スプーンを片手に暴れているユイカと、彼女を羽交い締めにして押さえているティリルに、鍋を凝視したまま一言も発しないティア。


 あ、頭痛い……。


「お前ら、食い物で遊ぶなよ……」


 レントも同じ気持ちになってたようで、疲れた声で呟く。


「……ティリル。回復魔法お願い」


 舌を突き出したままこちらをキラキラした目で見てくるカグヤに、ボクはそう宣言して逃げたのであった。





唐突ながら、カグヤちゃんの好きな事のランキングです。


5位 睡眠

4位 サレスが作ったおやつ

3位 セイの食事

2位 サレスやダークネス(眷属)

1位 ご主人様セイと一緒にいる時間



小型座敷犬みたいな状態になりつつあるカグヤちゃんです。

……初期設定でもあった、(銀)狼族の誇りを持つツンデレちゃんという設定はどこ行ったのだろう?




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