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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
ワールドイベント開幕
74/190

74話 やりすぎ注意


「お前の魔法、ホント使い勝手が良すぎるな。対応能力がダンチだ」


「……提案した本人が言うのもなんだけど、今回のコレ、流石にズルしてるみたいで、なんか釈然としないんだけど?」


「それは違うぞ。これは戦略だ。この方法が取れる以上、それは仕様であり、俺達は何も悪くない。

 ここは一番の戦果を上げたセイ様をしっかと拝んでやろう」


「ちょっ、止めてっ!?」


 柏手をして拝んでくるレントに引きつりながら、視界を前方に移す。


 そこには枝葉の部分から炎を噴き上げながら、一生懸命口パク・・・している怪音波トレントの姿があった。

 しかも、炎の部分が赤いアフロのように見えてしまい、滑稽すぎて、ボスの威厳もくそもない。


 あ、そもそもネタボスだし、元から威厳ないな。


 松明のように燃え続ける樹木(トレント)を遠くから眺めながら、今回の作戦を思い返していた。





 最初に行ったのは、トレントの攻撃可能範囲の把握と防御手段の確立だった。設置型ボスのおかげで、色々試しやすいのは助かった。


 作戦の概要はこうだ。

 まずは、手ぬぐいを耳周辺に巻き付けて、簡単な音波対策をしたレントが、少しずつ歩いてトレントに近付いていく。トレントの攻撃範囲とその威力を調べるためだ。

 そしてその後をリンに騎乗したボクとユイカが離れた位置で見守り、もしレントが動けなくなれば、彼の腰に巻き付けたロープを引っ張って撤退するという作戦である。


 なお、この囮役は多数決を取った際、満場一致で決定した。

 正直レントに負担を強いてしまうが、彼以外魔法職な為、この作業は向いていない。


 もう一人の近接型であるハクは、まだ状態異常が治っていない。ティリルでもまだ直せないらしい〔弱体化〕のステータス異常が発生しているハクは、ボクの依り代の中で休憩してもらっている。

 その代わりカグヤが実体化して、ティリルと共にお留守番である。



 トレントは状態の欄にあった通り、一切その場を動かなかった。

 だけど、ボスエリアに入った瞬間に歌い出し始め、そして更に近付くと、尖った根っこを武器として、レントに向かって伸ばしてきた。


 咄嗟に後ろに跳び離れるレント。その動きは普段のレントと比べてキレがなく、精彩を欠いている。


 思わず精霊眼でレントを視れば、〔鈍重〕というステータス異常が発生している。

 その行動スピードに制限が掛かるステータス系デバフらしい。

 

 アイツの事だから、その辺はちゃんと理解している。すぐ逃げられるように、しっかりと安全マージンを大きくとってるはずだ。


 そもそも普段通りなら、あの程度の相手はレントの敵じゃないんだけどなぁ。



 ……うん。

 見ている限り、トレントの攻撃距離は目算半径10メートルくらいかな。

 近付かなきゃそれらの攻撃はしてこないので、離れて魔法を打ち込みたい所なんだけど。


「頭と耳が痛くて集中できないよ。それと、魔法封印されていないのに、なんか魔法陣が途中でかき消されちゃう」


 どうもあの怪音波は、状態異常攻撃だけでなく、周囲に音の波を発生させることにより、魔法陣の構築を邪魔するスキルでもあるらしかった。


 それに、騒音被害の方も馬鹿にならない。


 エルフなボクも音に敏感……というか、ボク達全員音に敏感じゃないか。やっぱり音波対策は必要不可欠だなぁ。


 このだみ声な怪音波のせいで、めちゃくちゃ気持ち悪いんだよ。手で押さえているのに、頭の中にガンガン響いてくる。


 そんなボクのステータスにも、再び状態異常が発生している。

 今、表示されているのは〔遅延ディレイ〕だ。魔法やスキルの発動が遅くなる状態異常の一つ。


 ちょっと思ったんだけど、このボスいろんな状態異常を発生させて来るわけで。もしかしたら、耐性スキルの取得条件を満たすのに使えないだろうか?


 実際、さっき食らった状態異常は、SPを消費させてしっかり取得しているし、そのスキルレベルもかなりのスピードで上昇している。これは美味しい、のか?


 何かあっても、リンに乗っていれば、どんな状態でも撤退可能だし。


「混乱とか魅了とか、掛かると危ない状態異常出た場合どうするの? あたしを襲ってくれるの?」


 ……。

 あ、うん、危険だね。選択肢から外そう。

 そもそもなんで襲われ希望なんだよ。訳が分からない。



 こちらも精霊魔法を使おうとしても、音波で邪魔されているのか、精霊達にボクの声が届かない。

 しかもトレントが歌い始めた瞬間、音の波に流されるように、この場から下級精霊の子が弾かれていくのをさっき見た。

 下級精霊がいないと、基本的に精霊魔法が使えない。


 ティアがいれば、雷の精霊魔法を使えるとは思うけど……。そのティアも、このエリアにいるだけで、かなり苦しそうに感じる。

 そのティアに、力を出せなんて言えないよ。


 あんな変なのでも、やっぱりボス級はボス級か。

 ここはレントと一緒に近接……うん、そっちも無理だな。


 本職じゃないボク達が入ったら、逆にレントの邪魔になるし、ボクが怪我をすれば、ティアにまで痛みが波及する事がさっき証明されたばかりだ。

 わざわざ傷つきに行く必要もない。


「いったん離脱するよ」


 涙目で耳を抑えた状態のユイカに声を掛け、ロープを軽くちょいちょいと引っ張ってレントに合図して、その場から離脱していった。




「あ、セイ。お帰りなさーい」


「どうでした?」


 カグヤとティリルの出迎えに、一息つく。思ったより精神的な疲労が大きい。


 ボクが出していったテーブルセットを利用して、甲斐甲斐しく全員分のお茶を用意し始めるティリルを眺めつつ、物思いにふける。


 色々見えてきたけど、対策としてどうしたらいいんだろうか?

 一撃で倒す事は出来ないから、結局歌われてしまうのは避けられないけど、最初起こす前に魔法をぶちかましていたら、また対応が変わったかもしれない。


『ティア。ちょっといいかな?』


『はい、お兄様』


 ちょっと聞きたいことが出来て、ティアと内緒話を始める。


『ティアから見て、あの空間どうだったの?』


『精霊としての見解ですか?

 あの音の波、下級の子は絶対に対抗出来ません。私達ですら、単独なら踏みとどまる事が精一杯ではないでしょうか。お兄様の支援があるからこそ、まだ対抗出来たのだと思います』


『支援って?』


『意志と契約の力。つまり契約者(おにいさま)の魔力と絆です』


『そもそも精霊化してるボクは、どういう扱いなのかな?』


『お兄様はお姉様の御子様なので、私達より上位の存在に該当します。

 あと、今回のテスト戦が、最初より被害が少なかった点についてなのですが、これはリンとの接触が大きいようです。

 前回は分かりませんでしたが、今回騎乗して触れ合っていたから、その支援の力を強く感じ取れました』


 えっと、元麒麟──本人は否定してるけど、リンと契約できたから、聖獣の加護の一つである状態異常無効の力の一端がボクにも影響しているという事?

 他の人より耐性のなかったボクが、一つしか状態異常を食らっていない事から見て、これで少しはマシになった、のかな。


『そうだ、前から疑問に思っていたんだけど。元素魔法や回復魔法って、何を力の源としてるの?』


『精霊です』


『えっ?』


『基本は一緒です。そうですね……。

 予め決められている設計図──元素魔法だと〔魔法陣〕、回復魔法だと祈りを捧げる〔聖唱〕ですね。その型に精霊の力が注がれたのが元素魔法や回復魔法と呼ばれるもので、術者が自由に設計図をその場で創り出して、現場にいる精霊へ力を貸して下さいとお願いしてくるのが精霊魔法です』


『でも、元素魔法はフィールドに影響されないって……』


『魔法陣や聖唱の魔法構造自体に、遠距離からも力をリンクさせて注げるように、魔法式が組み込まれているんです。その場合、少し発動が鈍ったり、威力が下がったりする現象が起こります。

 それにお兄様も、契約の繫がりを元に、サレス様のお力を遠距離発動させましたでしょう。あれと一緒の現象です』


『……あ』


 そうだった。自分でやっておいて、否定するという意味不明な事してた。


『ということは、この世界でも、サレスさんの力を借りれるのかな?』


『可能です。本人が否定しない限り。

 ……その、私だったら、その……お兄様に声をかけられたら、何処であろうとすぐ跳んで来ますから!』


『あ、うん。ありがとう』


 妙に気合いが入った思念(こえ)に、ちょっぴり気圧されてお礼を言う。


 ……そうか。

 元の世界ではなく、この平行世界にいてもサレスさんの力を借りられるなら、話は別だ。戦いが凄く楽になる。


「みんな。少しやってみたい事があるんだけど」


 お茶とお菓子を摘まみながら愚痴を言い合っている仲間達に、ボクは声をかけたのだった。




 あやふやな説明しかしてなかったサレスさんの事をちゃんと説明し、彼女の力を再び具現化した。


 本当は本人ごと召喚しようとしたが、今は忙しくてどうしても手が離せないらしく、仕方なく力だけを借りた格好だ。


 みんなに紹介したかったし、カグヤも会いたかっただろうに。


 ティアも『断るなんて』と、ぷりぷり怒っていたけど、念話越しに、時折、悲鳴みたいな思念(こえ)が混じって聞こえてくるとあっては、流石に引き下がらずにはいられなかった。そのままそっと回線を閉じる。

 ホント何やってるんだろうか、あの駄メイド。


 静寂の精霊であるサレスさんの力を、ボク達に都合のいい結界の形へと創り上げる。

 ボク達までトレントの音の波が伝わらないように、なおかつ、ボク達同士は会話が出来るようにと、ね。


 それを維持しながらボスエリアに入り直し、相手の物理攻撃が届かない遠距離から、ユイカの火炎魔法を叩き込んだわけである。




 うん、回想終わり。

 

 勢いよく燃えている割には、幹の部分に火が回っていない。その為か、HPゲージの減り方が鈍いようだ。

 しかも、少しずつ火の勢いが衰えているような?


「ユイカ、火勢が弱まってるぞ」


「じゃ追加で。『フレイムランス』」


 今度は火炎槍(フレイムランス)を幹の顔に直撃させる。

 しなって仰け反るトレント。だが、燃えずに焦げ跡だけがついている。


「おい、火力が足りてないぞ」


「……生木だから?」


「弱点の火でこれですか? もしかしたら、本体は魔法耐性が高いかも……」


 そりゃこのまま何度も魔法をぶつけていれば、いつかは倒せるのだろうけど、時間はかかるし、MP(マナ)ポーションが一気に減ってしまうのは避けたいなぁ。

 ここは協力しないと。何がいいかな?


 火が前にあるから、火の精霊を呼ぶ触媒には困らないけど、それだと芸がないしなぁ。


 ……そうだ。

 あれがいいな。


 ティアは雷鳴の精霊なんだし、彼女と協力して、雷系魔法の大技でもいこう。

 安全に実戦で使用出来る機会なんて、そうそうないんだし。


 今まで雷の原理を詳しく知らなかったもんから、前回使った風と雷の複合魔法は上手く制御が出来なかった。

 そのせいで、ティア本人の力を借りた精霊魔法を使うことを避けてたからね。


 ここ最近、ネットを使って雷の性質について自分なりに勉強したから、きちんと使えるようになったはず。


 そうだなぁ……カグヤの力も借りれば、全MP(マナ)の半分くらい使えばアレを撃てるかな?



「んじゃ、かわりにボクが倒すよ」


「何?」


『ティアの力を使うよ。ボクのイメージを読み取って合わせて。カグヤも祈りを』


『はい、やりましょう。お兄様♪』


『うん、セイ頑張って』


 疑問符を浮かべたレントを無視して、とある魔法をイメージする。

 初めて行う共同作業に嬉しそうに頷き、深く同調を行ってくるティアに、流れ込んでくるカグヤの想いの力。

 うん、こちらも負けていられない。


 さぁ、行くよっ!



「──黄昏の世界よ 大地よ 天空そら

   今こそときは来た 数多あまたの天光よ

   天門より来たりて 我が手に集え……」



「おい、おまっ!? それ、ちょっと待……」


 レントが何やら叫んでるけど、大丈夫だって。

 これは単体魔法だし、ちゃんと制御出来る筈だから。



「……この熱き魂に宿りし裁きの力

   我が想い 力となりて現出せよ……」



「ティリル、防御魔法を!」


「えっ、えっ?」


「セイ君それっ!?」


 いきなりレントに言われて、意味が分からず混乱しているティリルと、魔法の正体にようやく気付いたユイカ。


 スッと、天に向かって左腕を突き出す。

 迸るMP(マナ)を電力に変換、更に魔力で絶縁空間を創り出して、その内部に帯電させ圧縮を始める。



「……紫電の(つち)よ (とが)ある存在(モノ)を許すな

   撃ちえ 滅却せしめよ……」



 高電圧により、大気が電離しプラズマ化する。


 直径は……だいたい十五メートル程度でいいか。あんまり大きくする意味もないし、小さくていいや。


 いやぁ、調べた甲斐があったよ。ようやく雷やプラズマの原理が少し理解出来たからね。

 前よりも明らかに、雷の精霊魔法を楽に制御出来るようになってる。



「……正義の名の(もと)に集いて 我が宿敵を

   討ち滅ぼせ 穿(うが)て 雷神の鎚(ミョルニル)!」



「伏せろっ!」


「あわわわっ」


「うひゃぁ」


 目の前のトレントごとき、すっぽりと覆える大きさまで育ったプラズマ球。

 その雷球を腕の振り下ろしに合わせて、トレントに向けて叩き付けた瞬間、呆気なく奴は瞬時に蒸発し、そして大地ごと爆発した。

 そしてボク達にも襲いかかった衝撃波と粉塵は、透明な空気の膜に遮られ、周囲に流れていく。


「……あ?」


「やだなぁ、レント。仲間への防御も忘れてないってば。ほら、ちゃんと風の結界を構築してるでしょ」


 地面に伏せたまま、ポカンとしていたレントやユイカ、ティリルに、ボクは笑いながらそう説明する。


 そうじゃなきゃ自分の魔法に巻き込まれて、ボクまで吹っ飛んじゃうじゃないか。

 まぁ本来、こんな近距離で炸裂させる魔法じゃないけど。


『さすがお兄様ですっ!』


「わぁ、セイすごい!」


 ボクの背後で静かに見ていたカグヤは、興奮してそのままボクの腕の中に飛びついてくる。


 もっと信じて欲しかったな。このカグヤやティアみたいに。



 この魔法は、あのゲームで登場した魔法の中で、瀕死の時に一度しか使えない究極魔法の一つだ。


 派手な演出と共に、衝撃波と大爆発を起こして、周りを吹っ飛ばす秘奥義の位置付けになる。

 その分、かなり詠唱が長い。こんな風に安全が確保出来てないと、そうそう撃てないからなぁ。


 それにだ。こっちで使うと決めたからには、きちんと対策をとって、使いやすいよう制御しているに決まってるじゃないか。


 うんうん、ホント上手く出来た。

 思っていたよりも、MP(マナ)の消費も少ないし、いざという時の切り札になってくれそうだ。


 しかも、モヤモヤしていた気分も、さっきのストレスもバッチリ解消。これでスッキリしたなぁ。



 粉塵を風の力で吹き飛ばし、トレントがいた場所を見る。


 トレントや大地に含まれていた水分が瞬間蒸発し、大爆発を起こしたからか、そこにはぽっかりとクレーターができ、もう何も存在していない。


 そして斜めに叩き付けたせいか、出口の方面が酷い事になっている。というより、大地が扇状に抉れ、あたかもそれは、スプーンで斜めに抉り取ったかのような、様相を呈している。


 その周囲もまた、衝撃波が殺到した影響で周囲の木々が根こそぎ吹き飛び、だだっ広い空間があるばかりになっている。


 うん、これはインスタントダンジョンだから、壊しても問題ないし、誰にも見られていないのはいいよね。


「なぁ、セイ……」


「うん? なにか……ぇ?」


 ユラリと幽鬼のような動きで立ち上がったレントが、いきなり目にも止まらぬ速さで背後に回り込むと、ガシッとボクの頭を背後から両手で掴んで……。


 へ?


「そう言うことはな……さ・き・に・言えぇっ!」


「みぎゃあぁっ!?

 痛い、痛い、いたいぃ!」


『いたっ!? いたたっ!

 ふえぇえっ!』


 両手の握り拳でこめかみをグリグリとウメボシ攻撃をされ、ボク達はみっともなく悲鳴を上げる羽目になったのだった。



当然ながら、力を借りる相手が、

下級精霊<<中級精霊<<越えられない壁<<上級精霊

の順で、同じ魔法でも強力になり、難易度も劇的にあがります。

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