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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
ワールドイベント開幕
68/190

68話 探索開始です


「アーサーさん達は別サーバーみたいだ。ちょっと残念だな」


「あ、やっぱり?」


 メニューのクランメンバーリストを開くと、源さんやマツリさん、椿玄斎さんの名前がグレー表記に変わっている。フレンドリストのアーサーさん達も同様だった。

 近くにいたからといって、必ずしも同じとは限らなかったようだ。


 彼らがいてくれたら、かなり楽出来たんだけどなぁ。


 ボク達全員、別に上位なんて狙っていないからね。そういうのは、攻略組の人達に任せておいたらいいんだよ。

 ただ、楽しめればそれでいいんです。


 どんな行動が高得点なのか分からない以上、普段通りにのんびりやるつもり。誰かが危機に陥っているとか、そんな状況じゃないからね。



「『テンライ』おいで」


 テンライを呼び出して、上空に放つ。


 こういう時の相場は、まず現在位置の把握。そして、近くの安全地帯や集落への移動だ。


「セイ、移動はどうする? ()()()も呼ぶのか?」


「ん。最初は歩こう。あんまり目立ちたくないし」


「目立ちたくないって……お前の場合、既に不可能だと思うぞ。あいつが決定的だしな」


「うっ」


 ひ、ひどいな。

 特異(ユニーク)職とバレているせいで、確かに何をしていようと、周りから注目されまくっているのは、最近ちゃんと自覚しているんだから。

 確かにもう開き直った方がいいんだろうなぁ。


「急いで村に行っても、人だらけになりそうですね」


「そうだね。のんびり行こう」


 テンライとの視覚共有で、既に目的地は視認している。この距離なら、恐らく歩いて一時間も掛からないだろう。


御子(セイ)様、私の背に』


「あ、いや……ボクも歩くから」


 スッとボクの前に乗りやすいように伏せようとするハクに、ちょっぴり引きつりながら、声に出してそう断る。


 みんなを歩かせて、自分だけ騎乗するとか……止めてよ、もう。過保護すぎ。

 いや、これは……あの子への対抗(ライバル)心かな?


「乗ればいいじゃないか、御子様。俺は気にしないぞ」


「レントは黙ってて。ほら、とっとと行くよ」


 やり取りを敏感に察したレントが笑いながらそう言うのを、ピシャリとシャットアウトし、先頭切って歩き出す。


 いつの間にか、周囲には誰もいない。ボク達もいい加減出発しよう。


「楽しみだね~早く行こ」


 駆け寄ってきたユイカと並びながら、テンライの俯瞰(ふかん)視界を元に方向だけ確認し、ボク達は近くの村らしき場所へ向かって歩き出した。




 辿り着いたその村は閑散としていた。


 いや、同郷者プレイヤーはいるのだけど、この村の住人が全くいない。

 情報を集めようとしているのだろうか、多くの人達があちこちの家屋の中を覗き込んだり、出たり入ったりを繰り返していた。


「廃村なのか?」


「どうも打ち捨てられた村のようだよ」


 すぐそばの家の壁を見やる。そこには何か大きな獣の爪の跡が残っていて、あちこちの壁板が壊れていた。


 こんな有り様でも、一応セーフティエリア内のようだ。精霊の力を借りた結界の存在を感じる。



「で、どうするの?」


「取りあえず、一番大きな家に向かおうか。多分それが村長、もしくは、村の有力者の家だろう。そこに情報があるのは、こういうもののセオリーだしな」


 ボクの問いに、そうレントが答える。


「こういうのって、周りの人に聞きながら互いに協力した方が早いんじゃないの?」


「甘い。セイ、これは俺達以外の全員がライバルだぞ。バカ正直に教えてくれるわけないだろ」


「恐らく自力で発見していかないと、評価点が貰えないような気がしますよ」


 ティリルにまでそう言われて、なるほどと納得する。

 確かに教えて貰ってばかりじゃ、評価は低くなるか。


 テンライの誘導に従って、みんなでぞろぞろと移動する。

 小さい村といっても、それなりの大きさがある。黙って歩くのもなんなので、気になっていた事を訊ねた。


「掲示板って、どこまで機能が残ってるの?」


「お前なぁ、それくらい自分で見ろよ……まあいいけど。

 このサーバーのプレイヤーだけしか書き込めない新規スレッドが一つ出来ているな。今までのスレッドもあるが、そっちはグレーになってて開けなくなってる」


「へぇ……そこに重要な事が書き込まれたりとかは?」


「あのな……これはランキング戦だぞ?

 人を蹴落とす情報戦の場になるくらい分かるだろ。身内以外は信用するな。

 それに今は……ああ、やっぱりほとんど雑談だな。

 例え情報らしきものが書き込まれても、恐らくミスリードだろうさ。結局どうでもいい事だったとか、後出し情報でこなすには戻らなければならないとか、悪意をもって他人を嵌めようとしてくる事ばかりだから、あてにしない方が良いぞ」


「えー、それは言い過ぎじゃ……」


「……俺はお前の純真……いや、素直さが心配だわ。早く慣れないと、いつか騙されるぞ」


 そう言われてもなぁ。こればっかりは中々難しいモノが。


「納得してないな?

 こういうのは話半分で、周りに合わせておけばいいんだよ」


 そういうもんかね。


「セイ君はこのままピュアなままでいいんだよ」


「わたし達がしっかり見てますから、セイくんは好きなようにして欲しいな」


「うっ」


 ユイカとティリルがそうフォローらしき言葉を投げてきたけど、それもちょっとどうかと。

 女の子達に守られる男……これは恥ずかし過ぎる。


 やっぱりもっと見る目を養わないと、ね。



「──それはそうと、わたし達がいるここは『第三八世界』みたいです。レントさん、一つの世界の定員はどれくらいだと思います?」


「サーバー数の分母が分からないからなぁ。他のサーバーのイベントスレッドのタイトルが見えないから、何とも言えん」


 あんまり人が多いと、このイベントクエストはやりにくいと思う。多分、かなり分散してそうだ。

 実際さっきからすれ違う同郷者は、意外と少ない。


 とっとと先に進んで行った人もいるだろうから、多分二、三百人もいたらいい方だろう。


「あ、セイ君の事書かれているよ。『エルフちゃんと同じ鯖ヤッホー!』って」


「エルフになった人って他にもたくさんいるのに、セイの代名詞みたいになったな」


「そんな話聞きたくないよ!?」


 誰だよ、もう。

 だから、掲示板なんて見たくないんだよ。


「まあ有名税って奴だ。あきらめっ、いてぇっ!」


 ふくれっ面してたボクの頭をポンポンと気軽に叩くレントが急に憎らしくなってきて、その向こう脛を蹴飛ばしてやった。


 ふんっ、だ。




 この村で一番大きな家屋は、ちょうど村の中心にあった。

 村の集会場も兼ねていたのだろう、大きな広場の横手に建っていたその家屋の前に、ちょっとした人だかりが出来ていた。


 ボクの耳に、口汚く怒鳴り合い、言い争う声が聴こえてきた。みんなも聴こえてしまったみたいで、その表情を曇らせている。



「──だからさっさと退けって、言ってんだろうがっ!」


「どうして通してくれないのよ!」


「今は俺達のクランが探索中だって、言ってんだろっ! 何度も言わすんじゃねぇ!」


「なんで勝手に封鎖してんだよっ!」


「俺達も同じように待たされたんだよ、お前らも順番守れ!」


 しかもこれは……。

 早速レントが言っていた事が、現実になったようだ。


 その大きな家の出入口を塞ぐように、男達が武器に手をかけて立っている。入ろうとする人を牽制しているようだ。

 かなり険悪な空気が周囲に満ちていて、すぐにでも喧嘩が、いや、お互いに武器を抜いて殺し合いが始まってもおかしくない雰囲気が漂っていた。


 喧嘩くらいなら多分大丈夫だけど、流石に武器を抜くのは拙いんじゃないだろうか?


 多分イベント中でも、相手を殺害するような事態になれば、闇堕ちしてしまうはずだ。

 例え同郷者プレイヤー同士でも、PvsP戦の決闘モードを介さないで、相手を死に戻りさせた場合は犯罪者扱いになり、自動的にネームプレートが赤に変わる。ギルドの素行注意という手続きを挟むオレンジネームとはわけが違う。


 一旦赤になったら、よっぽどのことがない限り赤のままだし、反省して罪を償えたとしても、前科持ちとしてオレンジが消えないって聞いている。

 普通なら、そんな事態避けようとするんだけど、イベントが同郷者プレイヤー同士の対抗戦だから、別パーティーを倒しても大丈夫と考えているのだろう。

 すなわちレッドネーム化して、犯罪者の仲間入りしてしまう可能性を考えていないんだろうな。



「うわぁ、最悪……しかもカッコわる」


 ユイカが周りに聞こえないように、ボソッと呟く。


「同感。普通あそこまでする?」


「まあそういうなよ。上位狙ってる奴は必死にもなるわな。だからと言ってアレはないが」


「お兄、どうするの?」


「あれに巻き込まれたくないですね」


 少しでも絡まれる可能性を下げる為、その場から離れて、遠くから様子を窺う。


「レント。あそこで何を探そうとしてたの?」


「ん? ああ、仮にも村を指揮する立場の人間が、周囲の地理を知らないわけがないと思ってな。地図に相当するモノがないか、探しにきたんだが」


「もう持ち出されてしまったんじゃないの?」


「一つしかなかったら、最初に発見した人しか恩恵に(あずか)れないだろ。持ち出し不可の制限がついたパターンじゃないかと思う」


「じゃ、ちょっと中の様子を覗いてみるよ。視覚を飛ばすから、ボクの身体の護衛よろしく」


「えっ?」


 屋根の上で待機していたテンライに呼び掛け、彼女の意識、そして視覚をリンクさせる。そして非実体化を行い、家の中に侵入していった。


 こういう時、精霊って便利だよね。姿を消せるんだし。

 ボクも精霊化(スピリチュアル)のレベルが上がっていけば、彼女達と同じように非実体化して透明になれるのだろうか?


 ホントはカグヤかティアに探索を頼みたかったんだけど、二柱(ふたり)ともボクから離れたがらない上、今はまだ寝ている。起こしてまで頼むのはかわいそうだからね。


 でも、今回はテンライに頼んで正解だったみたいだ。


「──ええっと、居間らしき部屋の壁に地図みたいなのが描かれてあるよ。ちょっと待ってて。スクショ撮れないかどうか、試してみる」


 壁の地図にピントを合わせ、スクリーンショットを複数枚撮る。

 テンライの精霊眼とボクの精霊眼をリンクさせているから、自分の目じゃなくても撮影出来るだろうと、予想はしていたんだ。

 思った通り、問題なく撮る事が出来て、ひと安心する。


「うん、無事撮れた。今みんなにメール添付して送るよ」


「……お前、便利すぎるぞ」


「これはもう一家に一人、セイ君が欲しいレベルだね」


「人を家電みたいに言わないでくれるっ!?」


「あはは……」


 まったくもう。



 幼馴染達とワイワイしながらも、再びテンライと同調して、他の部屋も見て回る。


 家の中にいた男達の動きも注視していたんだけど、かなりめちゃくちゃな事をやっていた。

 彼らは邪魔なモノを蹴飛ばし、机の中のモノを乱暴にひっくり返しながら、強盗のような家探しを行っている。呆れてモノも言えない。


 しかしこいつら、後の人の事をまったく考えていないなぁ。廃村だから、どうでもいいと思っているのだろうか?


 しかも仲間に耳打ちされた男の一人が、壁の地図に向かってハンマーを振り下ろし始めたのを見て絶句する。

 破壊して他の人に見せないようにする気か、こいつら。


 砕けていく壁を見ながら、間に合って良かったと安堵する。


 しかし、こんな奴らがいるクランとは、今後関わり合いになりたくないな。何とかクラン名が分からないものか。


 ゲラゲラと下品に笑いながら机を蹴飛ばしていたスキンヘッドの男に向かって、精霊眼の鑑定を発動させてみた。



 【ガンドルフ】男性 種族レベル:42

  バーバリアン 職業レベル:22

 【リア獣爆発しろ】 ランク:A



 お、上手くいった。ちゃんと分かるんだなぁ。さすが森羅万象。


 てか、クランランクが『A』とか、相当高いな。

 トップクランの一つである『円卓の騎士』でも、ついこないだ『A』から『S』に上がったばかりだと、マーリンさんが言ってたのに。

 そんなに有名なクランなんだろうか? どっちかというと、悪名っぽいけど。



 そういや人物鑑定したの、これが二度目だったかな。


 あの時はプレートの色だけ確認したかっただけだったから、よく見てなかったせいで覚えていないけど、名前とかクラン名だけでなく、職業やレベルまで確認出来るとは思わなかった。


 室内や表にいるこのクランメンバー全員、一人ずつその姿をスクショにて撮影し、NGタグをつけて、要注意人物として仕分けておく。


 後でみんなに見せて共有しよう。しかもこいつら全員オレンジネームだったから、普段の素行も良くないことくらい容易に想像がつく。

 

 オレンジネームといえば。

 バライスの街で突っかかってきたあいつ等の顔をふと思い出してしまい、憂鬱な気分になる。元同級生とかもいたなぁ。彼のネームプレートの色は確認してなかったけど。確か名前は、キ……キ……。

 なんだっけ? まあ忘れても問題ないから、どうでもいいんだけど。


 玄関前では、既に武器を抜き放った者同士、複数のパーティーが入り乱れて醜い争いが始まっていた。そりゃ、建物内から破壊音が響き出したら、どういう状況になっているか誰だって気付く。


 ホント厄介だな、このイベント。しかも同じ世界にいる同郷者を選べないのが痛い。


 相手がレッドネームと言われるPK職──犯罪者だったら、気にせずぶっ飛ばしても罪に問われないんだけど、オレンジネームの相手にそれをしちゃうと、こっちが闇堕ちしてレッドになっちゃうからなぁ。

 やっぱりそういう人種とは距離を置いて、関わらないのが一番だね。


 ただ、後の人が地図が見れない状態を放置するのは、自分のせいじゃないとはいえ、ちょっと後味悪いなぁ。

 村の探索がひと段落したら、地図を公開しようっと。掲示板への記入は、気が進まないけどね。



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