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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
ワールドイベント開幕
62/190

62話 賑やかな再会

セイ君の語り部に戻って、新章開幕です。

「あー、よしよし。怖くない怖くない」


 椅子に座ったままのボクの胸に抱き着いてきて、いまだに泣き止まないカグヤの頭を撫でてあやしながら、彼女がこうなった原因の方を見やる。


 そこには床に両手をついて、本気で落ち込み続けるレントの姿があった。


 この世界のレントは獣人種ビーストであり、獣度でいえば二段階になっている。

 目や顔付きなどに虎の特徴が出た、良く言えば精悍せいかんな、悪く言えば目付きのキツい顔付きに加え、向こうの現実(せかい)でも武術を修めているせいもあって、引き締まった体つき──いわゆる細マッチョであり、その容姿はワイルド系のイケメンだ。


 昔マッチョな獣人達に追いかけ回された事がトラウマになってるカグヤからしてみれば、十分恐怖の対象だったようで。


 レントってば、女の子にキャーキャーと騒がれ、ちやほやされ、もてはやされた事はあっても、出会い頭に本気で悲鳴上げられた上、怖がられて泣かれた事なんてなかったからね。

 相当ショックだったみたいだ。


 今ボク達のいるこの場所は、泊まっている宿屋の食堂だ。

 食事どきには大衆食堂としての役割も果たしている為、間取りも広く作られている。


 事が起こった時、ちょうどお昼時だった為たくさんの人で賑わっており、ボク達も食事している最中だったんだよね。




 経緯(いきさつ)はこう。


 この宿に着いてから、みんなずっと部屋の中でボクの料理や屋台で買ったモノばかり食べていたんだけど、たまにはこの宿の味も食べてみようと提案したのが、そもそものきっかけ。


 そこで下で食べようと皆に声をかけた。まだこの宿の『味』を知らないのは、ボクとしても引っ掛かっていたからね。

 やっぱり色んな味を体験して、少しでも美味しく作れるようになりたいじゃない。



 当然問題はある。

 ティアの姿は同郷プレイヤーにも住民にも『有名』だから、バレないようにとティアと精霊化(スピリチュアル)を行う必要があった。

 もとより彼女を置いて食べにいくなんて選択肢はない。


 大勢の人の前でワンピース姿を晒す事になるのは、その……。

 ──本当に。

 本当に不本意だけど、慣れてしまった。


 何だか大事なモノを失った錯覚もするけど、ボクの戦闘モードの一つだし、あまり気にし過ぎるのもマズい。

 今後の戦闘に支障が出てしまうだろうしね。


 カグヤの衣装が内着の上に羽織る羽衣タイプで、所々シースルー仕様な為、それと比べてしまい、気にならなくなったというのもある。


 そんな目立つ衣装を着ていたカグヤには、ボク達の旅に同行するようになってから、ボクの服(マツリさんから送られてきた女性服)を着せ、目立たぬ格好になってもらっている。


 当然あちこちのサイズが違っているけど。背丈とか胸回りとか。

 男だし、違って当たり前。でも、〔防具可変(アジャスト)〕機能があるから問題はない。

 カグヤの方が身長高いのは、今は忘れる事にする。



 今回一緒に食べられないティアに対しては、『後でフォローするよ』と念話で謝りつつ、みんなと話しながら食事をしていたちょうどこの時、レント達がこの宿に到着した。


 そして悲劇は起こる。

 やって来たレントがこっちを見付け、いつも通り再会の挨拶をボク達に掛けた時、横にいたカグヤが悲鳴を上げた。

 それはもう、わいわいガヤガヤと騒然としていたこの場を、一瞬で静まり返らせるくらいに。


 間の悪いことに、他のお客さんもたくさんいた中でコレが起こっちゃったもんだから、みなさんこっちに大注目という訳なんです。




 さて、騒然としだしたこの場をどうしよう?

 なんかあちこちでヒソヒソされちゃってるし、その漏れ聞こえてくるその言葉には、やっぱりトゲがありまくりで、聞くに耐えない。


 本人達は聞こえてないと思ってるんだろうけど、聞かされるこっちの身にもなって欲しい。

 内容を柔らかく言い直すと、「元カノに復縁を迫ったんじゃね?」とかの、推測や背景を面白おかしく語っているのが一番多いんだけど、「イケメンはそのまま爆ぜろ」だの「ナンパ失敗ざまぁ」とか、男どもの怨念じみたあざけりもかなり多い。


 確かに普通に一部だけ見てたら、女の子PT(不本意だけど、ボクもそう見られているみたい)に声を掛けてきたナンパ男の図だよね。


 ボクも普段から樹に、いやレントに「イケメンずるい」とか言ってたけど、流石にこれは可哀想になってきた。



「あー、なんか忘れてると思ったらコレだよ。お兄の事、カグヤさんに言うのすっかり忘れてた」


 獣人種ビーストとしてユイカも耳が良い方だから、外野の声がばっちり聞こえてるみたいで、アハハとばつの悪そうに苦笑している。

 まあ言い忘れていたのは、ボクも同じなんだけど。


 ミィンの町から旅をしてきて、ビギンの街に着いた途端にコレだと、なんだか救われないよね。



「──その、レント君?

 先に上の部屋に集まって、皆の自己紹介といかないかい?」


 周囲を見渡しながら困った顔でアーサーさんが声をかける中、その後ろでマーリンさんと知らないお爺さんが必死に笑いを堪えている姿が見えた。


 そう言えば、新メンバーが二人加わるってユイカが言っていたな。あのお爺さんがその一人なんだろうか?

 となると、もう一人は?


「あの、こ、こんにゅっ!?」


 へっ?

 ……何だ今の?


 緊張した、でも聞き覚えのある声色の挨拶らしきものが背後から聞こえ、そちらに振り向く。

 そこには口を押さえて「いちゃい……噛んじぁ」とうめきながら涙目になった、ハニーブロンドの髪の森精種(エルフ)の少女がいた。


 ゲームや漫画等でよく見る女性用神官服を纏ったこの女の子が、もう一人の新メンバーなのだろうかと思った時、すぐにこの子の正体が頭に浮かぶ。


 そのおしとやかそうな容姿に似合わず妙に活動的で慌てん坊な所とか、色が違えど普段とあまり変わらない感じの髪型、何よりその声と雰囲気に覚えがあった。


「もしかして、み……っと」


 美琴なのと訊こうとして、こんな場所で向こうの本名、特に名前を呼ぶのはマナー違反な上危険だと気付き、口ごもる。


 ただボクのその様子で、彼女は自分の事に気付いてもらえたのが分かったみたい。

 ぱあっと晴れやかな笑顔になり、両手をブンブンと上下に振り回し始めた。


「セイく……いえ、セイさん。セイさん、セイさん!

 こちらでは初めましてです。こっちではティリルです、ティリル!

 やっと、やっと会えましたぁ!

 ティリルと呼んでくださいっ!」


「ちょっ、落ち着いて、ね」


 名前を連呼しだす彼女を落ち着かせようとする。

 てか何故『くん』から『さん』に言い直した?


『──へぇ、ティリルさんってこんな感じの人なんですね』


『ティア、何で知ってるの?』


『この前ユイカさんから聞きました』


 一体いつの間に?

 まあ、ユイカはレントから聞いていたんだろうけど、ボクにも言って欲しかったな。


 それに、腕の中のカグヤがようやく泣き止んでくれたのは良いんだけど、今度はそのまま甘えモードに移行したようで。


 犬みたいにボクにぐりぐり頭を押し付けてくるのはいいんだけど、大勢のひとがいるこんな所でハスハス、クンクンとするのは止めて欲しい。

 くすぐったいし、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど?


 しかも、なんか妙なプレッシャーを周りから感じるし、ボクの内にいるティアからは、何だかねてる思考が漏れ伝わってくるし。



「お主、なかなかの奇縁を持つのぅ」


 何とか笑いを堪え切ったお爺さん。目じりを擦りながらこちらにやってきて、ボクの方に声を掛けてくる。


「儂は椿玄斎ちんげんさいじゃ。よろしくの」


 えっ、チンゲン菜……?


「いや菜っ葉の方ではなくの。『ちん』は『椿つばき』の方じゃ」


「ご、ごめんなさい」


「よいよい」


 ボクの表情から間違えられたことを読み取ったのか、簡易ステータスプレートを見せながら訂正してくる。


 そのプレートに書かれている職業には、レベル39の〔軽剣士〕とある。

 どっちかというと、軽剣士というより、浪人とか流れの剣客といった風情だけど。


「まあ間違えられるのはしょっちゅうじゃ。気にせんで良い。

 このティリルの嬢ちゃんなんか、第一声が『美味しそうに料理されそうな名前ですね』じゃぞ?」


「お、お爺ちゃんっ!? 

 いくらなんでも脚色しすぎ……というか、何でそんなことセイさんに言っちゃうのっ!」


 真っ赤になって抗議の声を上げるティリルに、ほっほっほと笑みを返す椿玄斎のお爺さん。

 なかなかいい性格をしてるみたいだ。


「申し遅れました。ボクはセイです。こっちの子は……」


 自己紹介する為抱き着いたままのカグヤをそっと引き離しながら、二人へ順に仲間を紹介していく。


 けど、ここじゃね。

 これ以上は、他のお客さんの奇異と興味津々な目が邪魔だな。



「皆さん、上に行きましょうか。続きは部屋で。

 ──ちょっとレント、いつまで落ち込んでるの。いい加減にしてよ」


「いや、その……。

 ──なあ、セイ。俺ってそんなに怖いのか?」


「はいはい、怖くない怖くない。後できっちり説明するし、ここじゃ邪魔でしょうが。

 ほらほら、シャキッと立つ。部屋に行くよ」


 普段のやられているお返しとばかりに、うなだれて元気のないレントの頭をぺしぺしと軽く叩き、しつこくぶつくさ言ってるレントの問いをピシャリとシャットアウト、そして強引に立たせて、腕を取り引っ立てていく。


 ったくもう。

 ほんと世話が焼けるな、こいつ。


「さすがは幼馴染。手慣れてるね」


「正妻の貫禄すげえな。もう尻に敷かれてんのか」


 背後からアーサーさんとマーリンさんの会話が聞こえてきたけど、なにそれ?


「正妻違います。それにコレ(・・)は幼馴染です」


 しょんぼりしたまま二階への階段を上がっていくレントの背中を押していたボクは、その言葉に振り返ってマーリンさんの間違いを訂正しながら、今度はレントの背中を軽くポコポコと叩く。


「こらセイ、いい加減に止めろ。痛いぞ」


「なに言ってるの。ボクなんかの力じゃ痛くもないくせに」


 それに、源さんの作品であろう立派なハーフアーマーの部分を軽く叩いてるだけなんだから、ダメージなんかあるわけないでしょ。


「けど、このメイル。さすが源さん、いい仕事してるね」


「ああ。

 ──そういやセイ、素材サンキューな。おかげで装備が充実出来た」


「な、何を今さら……ボクとレントの仲でしょ」


 急にお礼を言われ、照れながらもそっぽを向く。

 照れ隠しに源さんが岩蟻の堅殻を使って作った作品アーマーをペタペタ触りながら、階段の途中でそんなやり取りをレントとしてたら、


「セイちゃん、相変わらず自覚無いわねぇ。せめて部屋に行ってからしなさい。皆さんに迷惑かかるでしょ」


 と、近くに来ていたマツリさんが頬に手を当てながらそんな事を言ってきた。


「迷惑って何?」


 その言葉に疑問を感じながら、食堂の方を見下ろす。


 そこには、女性達の何だか微笑ましいモノを見たような視線と、男達の怨念おんねん怨嗟えんさのうめき声が周囲に満ちていたのだけど、どうしてこうなったのか全く意味が分からず首を傾げる。


「──ねぇ、ユイカ。より悪化してる気がするんだけど……」


「うん。相変わらず無自覚だからね。向こうの世界での感覚のまま、毎回アレやっちゃってるから」


「だからあんなこと言われちゃうのに……なんで言ってあげないの?」


「前にそれとなく言ったんだけど、ちゃんと理解してくれなくて繰り返しやっちゃうの。多分自分で気付かない限り、絶対無理なんじゃないかな」


 だからどういうことだってば?

 だから向こうで樹と喋ってるように、こっちでも普通にレントと喋ってるだけじゃないか。

 何がどう変なんだろ?


「どういう意味?」


 階段を上ってきたユイカとティリルの幼馴染コンビに問い掛けるも、生暖かい視線と溜め息が返ってきただけだった。


 何故に?

 誰かちゃんと教えてよ。




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