58話 後始末は頭痛と共に
今回の時系列は、セイ君がマトリの町で拝まれた後です。
後始末と書いて『フォロー』と読んで下さい。タイトルにルビ打てないんで。
時系列が前後しちゃったのは、別のあの人の話を書いてる途中でこの話を思い付いたからです。
書くのを忘れてたわけでは……ゴザイマセンよ?
割り込み掲載も考えたのですが、そこまでする意味もないのでこのまま普通に更新です。
──源さん──
「──で、どうすんだこれ」
目の前の作業テーブルにある数々の希少鉱石を触って持ち上げては、またテーブル上に転がすといった感じで弄びながら、俺は愚痴る。
あんまり乱雑に扱って良いモノじゃねぇし、レントの奴も俺に愚痴られても困るとは思うんだが、俺達二人の溜め息とお互いの愚痴が止まらない。
あいつが悪いわけじゃねぇ。
むしろこっちの俺達の事を大切に考えてる事がわかっから、逆に対処に困るんだよ。
せめて自分の欲しいモノを優先に──そう例えば、ポーションやら食材やら技能書辺りに交換しときゃいいものを、何だってこんな物議を醸し出すような素材に交換しやがったんだよ。
確かにミスリル鉱石も大量にあったし助かる。
嬉しいことだ。
たがな……。
アダマンタイト?
タングステン?
ナニソレ、美味シイノカ?
どう考えてもまだミスリル合金が精一杯の今の生産職の状況下で、んなもん世に出せる訳ないだろ。
しかも先のエリアの鉱石のせいか、加工するための道具の質がギルドの生産室ですら足りねぇ。
ということはだ。
産出する国のギルドに行くか、その国で加工道具を用意する、もしくは自力で加工道具を作らない限り、どんな奴も加工出来ねぇってことだ。
そもそも俺はようやくミスリル合金の精練が何とか出来るようになったレベルなんだぞ。
気軽にポンと渡されても、こんなの対処に困るわ。
しかもなんだこの『雷の精霊結晶』って。
今少しだけ出回っている『○○の精霊石』っていうアイテムが高級品素材だってことぐらいは知ってるが、結晶なんてアイテムは見たことも聞いたこともねぇ。
生産者スレでも見たことねぇし、書き込んで訊ねるのもヤバい気がするんだよ。
そもそも使い方以前に価値が分からねぇ。
物品配達の受け取りの際にギルドのねぇちゃんに聞いたら、「こちらは私達ごときが値を付けられません。鑑定や売買の管轄は精霊神殿でございます。もし付けられたとしても、お支払い出来るお金が当ギルドにはございません」とか言われっし。
既にこの時点で嫌な予感をびしびし感じながら、念の為に確認をしなきゃなと、レントと二人で精霊神殿に持って行くことにしたんだ。
ミィンの町には、雷鳴の精霊の精霊神殿が無い。あるのは、炎の精霊と地の精霊の神殿だけだ。
まさしく鍛冶の町らしいラインナップだな。
そのため俺達は、取り敢えず地の精霊の方へとお邪魔することにした。
正直に言うぞ。
行かなきゃ良かった。
何とか関係者以外の人払いをお願いして、用件を説明しながらこれをチラッと見せただけで、受付嬢やその背後で偉そうにしていた神官や付与師どもは呆気なく卒倒しやがった。
おかげで神殿は上から下へと蜂の巣をつついたかのような騒ぎになった。
その後神殿の迎賓室に無理やり通された上、お偉いさんが飛んで来る事態になっちまったんだが、震える声で語る神殿長やらの話では、自分達で付与出来る限界はもっと低いそうだ。
上級精霊より託宣を賜る事が出来る精霊巫女でさえ、『石』に属性に応じた精霊力を補給するような形で込める事が出来るだけで、精霊の持つ力そのものを体現する『結晶』へと昇華させる程の力を込めた上に、更にそれを定着させるなんて芸当は不可能。
そしてそんなレベルは精霊本人にしか創ることは出来ないと、彼は真相を吐露する。
精霊神殿としては『結晶』なんぞ、雲の上の秘宝中の秘宝。
それも精霊から直接賜るか、偶然見付かる以外ありえないそうだ。
この町の神殿を統括してる彼でさえ、「初めて実物を見て触れさせて戴きました」と、感動に震えながら涙ながらに感謝をしてきた。
この経験を一生の宝物にするそうだ。
精霊石でさえ小さな家が一件建つレベルだというのに、結晶──しかもここまで高品質だと最早国宝級だそうで、「恐らくこれ一つで『ミィンの町』が住民ごと楽に買えます」と言われた俺達までが卒倒しそうになった。
どう考えても、序盤でこんなアイテムを手に入れられる事態がおかしいレベルだろうがっ!?
あいつは今の俺に聖剣とか魔剣とかといった、対ラスボス最終決戦武器でも作らせる気かよっ!
そしてな。
それとは別に、一緒にいたユイカ嬢ちゃんの報告メールが届いて知ったんだがな。
それによると、あいつはあろうことか、大勢の人間がいるギルドの中の受付前で気負いもなんもなく、サクッとあっさり創っちまったらしいんだよ。
あの馬鹿たれ、何て事やらかしてくれやがる。
見てたプレイヤーの奴らは、誰一人この異常事態を理解していなかったおかげで、アイツの個人スレで騒がれた程度で済んでいたが、もしバレて大騒ぎになってたら、この先街を安心して歩けねぇ事態になってただろうが。
……マジで自分の身が危なかった事に気付いてんのか、あいつ。
精神ダメージをこれでもかといわんばかりに受けた俺達は、神殿をふらつく足で転び出るように退場した。
二人して何処か遠い目で帰路に着き、そして今、レントと二人でテーブル挟んで頭を抱えているというわけだ。
正直、道中どこをどう歩いてギルドの生産部屋まで戻って来たかすら全く覚えていねぇ。
「──なぁレント。
旅立つあいつへお袋みたいにあーだこーだ言ってた時、なんか大袈裟だなぁと思ってたんだが……ようやくあの意味を痛感したわ」
「おやっさん、ようやく分かってくれたか。
あいつを一人で放置することへの心配、そのせいで起こってしまった出来事の後始末の厄介さが」
「今回のコレは精神破壊クラスじゃねぇか。
しかも本人悪気はねぇし、行動の発想原理が他人の為だから怒るに怒れん」
マジでシャレにならんぞ。
普段から馴れているだろうレントすら、今回はダメージがでかかったようだ。
流石にちゃんと注意しなきゃいけないとは思うんだが、どう言えばいいんだよ、これ?
現実世界ではたかが知れてて今まで問題なかったんだろうが、法律や常識が違うこの世界で一気に表面化しちまったんだろうな。
「で、どうするよ?」
「どうすると言われてもな……おやっさん、その素材の山何とか使えるように出来ないのか?」
「ミスリル程度ならともかく、あんまり無茶言わんでくれ。それにこの結晶に至ってはマツリの奴の協力もいんぞ」
付与士の領域だろう、これは。
一体どれ程のレベルと技能を要求されるんだか。
ワンミスで国宝級のアイテムがパーになるとか、恐ろしくて気軽に試すこともできんぞ。
そう考えた瞬間、壊れたら創り直せば良いじゃないとばかりに、にこやかに結晶を量産するあいつの姿が脳裏に浮かんで、更に頭が痛くなってきた。
あいつなら、絶対にそう言いそうだ。
「あなた、レント君。お茶とお菓子が出来ましたよ。ひと休憩入れましょう」
噂をすれば影。
俺の妻が別室で焼いたクッキーと紅茶を持ってきたので、それを機に休憩に入る事にした。
元々料理に関してはセイが一手に引き受けていたんだが、和洋中華何でもござれで色んな美味い料理やお菓子を作るもんで、舌が肥えてしまった。
それにマツリの奴も感化されたのか、最近では料理スキルを取って色々作るようになった。
いいも悪いもあいつの影響力はでかい。
そしてこれからも、あいつは与え続けるだろう。そういう星の元に生まれてきている。間違いなくな。
結局どうするかの答えは出ず、仕方なくレントの奴が円卓のアーサーに相談という形でメールを飛ばした。
その時に向こうの返信で、こちらのクランに移籍したいという爺さんとお嬢ちゃんがいるという話を聞けた。
その入りたがってる彼らの職業は、近接剣士と回復職ということで、俺らにはどちらも不足している。
渡りに舟という事で、ありがたく受ける事にしたのだった。
その時についでに、観戦モードでバトっている動画が出回ってるという話まで聞き、そして動画を見てぶっ飛んだ経緯は割愛する。
ただ一言。
セイが出掛けしなに俺達に言ってた「静かな旅がしたい」という言葉。
あいつにゃ絶対無理だと思ったわ。
次はちょっと場面を飛んで、あの駄○○○の予定(あくまで)です。




