56話 憧憬
ちょっとだけ閑話→いつの間にか閑話という名の章が……。
この章タイトルの間は、語り部役が毎回変わります。
本編(セイ君視点)の裏側の出来事になります。
サブタイ含め、微修正しました。
(私➡️わたし etc……)
──夢見る少女──
「やっぱり凄いな~綺麗だな~」
テーブルの上に上半身をぐてーと投げ出しながら、わたしはその動画を何度も何度も再生させていた。
ちょっとお行儀が悪いかな。
ま、これくらいならいいよね?
ここは王都プレスにある『円卓の騎士』の本部拠点の一室。
普段は沢山の仲間が詰めているこの部屋も、今はわたししかいないから問題ない。
目の前のスクリーンプレートには、優雅に踊る少女が再生されている。
多くの精霊に祝福されながら、ゆったりと宙を舞う和装の少女。
初めてこの動画を見た瞬間、わたしの心があっという間に捕らわれてしまい、目が離せなくなった。
雷鳴の精霊を救出し、坑道の邪気を浄化した少女。
そんな彼女の名前はセイさんという。
まるで沢山の精霊にかしずかれているお姫様のよう。
本物の精霊の王女様は見たことないけど、きっとこんな感じの精霊なんだろう。
わたしのようなどんくさいエルフと違って。
画面の中で優雅に踊る少女が、同じエルフとは全く思えない。
あぁ、ちょっぴり自己嫌悪。
遠目で撮影されているせいで、彼女の顔も背丈も何もかもが分からない事にちょっぴりヤキモキしながら、机の上のアップルジュースをストローで啜る。
この人のこと、もっと知りたいな。
というか、この動画に映ってるアーサーさんやマーリンさんと一緒に戦ってるこの巫女服着た狐っ娘って、どう見ても結衣ちゃんだよね?
こっちの虎獣人さんは、樹さんの面影がちょっぴりあるし。
なら、あの人もいるはずなんだけどなぁ。
最初一生懸命探したけど、見付からなかった。
流石にこのドワーフのおじさんな訳ないし、他に男の人がいないし。
この戦闘に参加しなかったのかな?
残念、彼の勇姿を観たかったのに。
彼はどんな種族や容姿になってるんだろうか?
やっぱり可愛い系になってそうだなぁ。ウサギさんとかワンちゃんとか似合いそう。
本人も可愛いものが好きだし、文句言いながらもそんな姿になってそうだ。
春休みから三人同時に始めるんだ、と結衣ちゃんが嬉しそうに語っていたのを思い出す。
わたしは第二弾で始めてたから、「会いに行って初期のレベル上げ手伝うよ」と言ったら、「必ず追い付いてみせるから、その後で合流しよ」って言ってたっけ。
わたしのこの世界の容姿も聞かずに、「こっちから見つけてやる」って張り切ってたし。
どっちが先に見つけるか競争になったけど、この勝負わたしの方が有利だよね。
わたしなんて有名でもなんでもないし、一般市民のように埋もれちゃってるもん。
でもほんと。
始めたばっかりなのに、もう団長と肩を並べて戦えるんだから、やっぱ結衣ちゃんも樹さんもセンスあるなぁ。
セイさんも結衣ちゃんと同じパーティーにいるみたいだし、ということは、理玖くんもセイさんと一緒にいるって事に……。
そう考えた時、ずきりと心が痛む。
──御陵理玖くん。
親友の結衣ちゃんが心の底からベタ惚れしてて、しょっちゅう話題にしてる男の子。
学校では、絶大な人気を樹さんと二分している彼。
樹さんはどちらかというと同級生と後輩に、理玖君は年上の先輩に根強いファンが多い。
また理玖くんは、パッと見て女の子にしか見えない容姿のせいもあってか、一部の男子まで人気だったりする。
でも、容姿で「わーキャー」言ってる人は、表面しか見ていないにわかだ。
いや容姿も凄く可愛いんだけど、それだけじゃないんだ。
理玖くんが本当の意味で人気なのは、そんな容姿だけのおかげなんかじゃない。
彼は誰よりも優しくて、困ってる人を絶対に見捨てない。
たとえ自分がどんなに傷付こうとも、自分の大切な仲間を守るためなら絶対に引かない。諦めない。
そしてわたし──神城美琴にとっても、特別で、王子様みたいな……そして初恋の人。
絶対に言えないし、初めから失恋が確定してる。
分かっているんだけど、ね。
五年ほど前の小学生の頃に、とある出来事を切っ掛けに理玖くんや結衣ちゃんと知り合う事となり、それ以来仲良くさせてもらっている。
出会った当初から、甘々なカップルを通り越して新婚夫婦みたいなオーラが出ていた二人だけど、付き合ってるわけじゃないと結衣ちゃんから初めて聞いた時には、すぐには信じられなかったっけ。
確かに言われてよく見てみれば、理玖くんって結衣ちゃんを女の子として見てないというか、見ないようにしているというか、奥手を通り越してヘタレてるというか。
それなのにだよ?
あの人凄く天然さんなところがあって、男女問わず無意識にたらし込んでいくからなぁ。
……もちろんわたしもたらし込まれた一人だ。
もし、もしもよ。
結衣ちゃんの位置にわたしがいたら……。
わたしが彼の隣にいたとして、甘々で幸せな日々が……。
そしていつしか二人は、満月の祝福の中でそっと寄り添い、愛を囁きながらその唇を……。
「なんちゃって、なんちゃって!
……やだぁ、もうっ。恥ずかし~」
思わず具体的に想像してしまい、パタパタと両手を振り回して脳裏の妄想を振り払う。
そんなのは夢の中だけ。
想い続けるのは自由。
そう思ってたけど。
この異世界の住人さんから聞いちゃったの。
この世界は過去に幾度となく発生している邪霊戦役の影響を未だ脱する事が出来ず、男性の数が女性に比べて少ない。
そのせいもあって、女性の兵士とか冒険者とかも増加はしているらしいんだけど、未だに危険な職に就くことの多い男性の死亡率が高いせいもあって、男性の数は少ないままだそうだ。
その為、強い男性には多くの女性が押し寄せて求婚することが当たり前なんだって。
心の強い者。
大切な人を守りきれる力を持つ者。
そんな男性がモテる世界なんだ、ここは。
また国家も、強制力等は無いものの、国策として一夫多妻を推奨しているんだって。
いつか未来に、再び邪霊戦役が発生した時に備えて。
産めよ増やせよ、という事なんだろう。
精霊女王エターニア様が私達別世界の住民に、ゲームのような力を与えてここに呼んだ理由も『次の邪霊戦役への備え』である事を、この国の大臣がうちの団長に語ったらしい。
でも、これは。
この『一夫多妻制度』はこのゲームの、いやこの世界のお話。
だけど……。
この世界に来て、新たな命を授かったわたし達ならいいよね?
この世界にいる限り、この世界で暮らす限り。
結衣ちゃんが許してくれるならば、二人一緒に彼の傍に何時までも居られるかなぁ、なんて。
二人で彼のお嫁さんになれたら。
そんな都合のいい夢、現実になったらいいな……。
そういえば、みんなどこ行ったんだろうか?
わたしがこの部屋に来たときは、みんなわいわいガヤガヤしてた筈なんだけど。
何度も繰り返し見てる動画なのに、飽きずにまた夢中になってしまっていた。
気付いたら独りぼっちとか。
出かけるなら、声くらい掛けてくれたらいいのに。
みんな薄情もんだよ。
そう思ってたら誰かが帰って来たみたいだ。
扉を開けて廊下を覗くと、団長のアーサーさんとマーリンさんの姿が見えた。
あれ?
今日はお城でギルドや大臣さん達と色んな打ち合わせがあるって言ってたのに……もう終わったの?
「今日はもう上がりですか?」
声を掛けたところ、こちらに向かってきたマーリンさんと目があった。
「お? なんだ、ティリルちゃんは行かなかったのか?」
この世界の私の名前を呼ぶマーリンさんの言葉の意味が分からず、首をひねる。
「何の事です?」
「あれ、気付いてなかったの?
全隊員にメール飛ばしたんだけどなぁ」
アーサーさんの言葉に慌ててメールボックスを見れば、着信一件の表示が……。
う。またやっちゃってる。
「ごめんなさい、気付いてなかったです」
「大丈夫、これは緊急性のあるものじゃない。それに何かに夢中になってて気付かなかったんだろう?
夢中になれるものがあるのは、良いことだと思うよ」
ペコペコ頭を下げるわたしに、穏やかな、それでいて見守ってくれているような感じの笑みを見せるアーサーさん。
アーサーさんってば、ホント大人な出来た人だ。
理玖くんも成長したら、こんな感じの人になるんだろうね。間違いない。
「まぁティリルちゃんがメールの内容知ってたら、そもそもここにいないはずだしな。
実はあのセイちゃんが『合法PK』の野郎どもにPvsP戦闘吹っ掛けられていたんだよ。
んでだ。その勝負が観戦モードだったから、動画がギルドにて配信されてるぞ、という内容のメールだぞ」
「んまっ!
そんな不届き者がいたんですかっ!?」
「まぁまぁ、落ち着いて。彼女が余裕で勝ったから」
いきり立つわたしをそう言って宥めてくるアーサーさんの言葉に、少しだけ溜飲が下がる。
良かったー。あの人支援特化型だと思ってたから、戦えないものと……。
「前衛近接のクソ野郎三匹vsセイちゃんとユイカちゃんだったな」
「魔法職二人相手に、近接三人ですか!?」
てか何それ!
どう考えても勝負じゃなくてイジメ目的で吹っ掛けてるじゃない!
結衣ちゃんも大丈夫だったのっ!?
「落ち着いて。むしろ相手は後悔したんじゃないかな。
見れば分かるよ。一緒に見るかい?」
「是非!」
初めてあの人の戦い方が分かる!
そんな軽い気持ちだったんだけど、まさかの展開だったとは……。
「……ぷはっ」
色々突っ込みどころが多くショッキングな動画に、無意識に息を止めてしまっていたわたしは大きく喘いだ。
セイさんのジョブは精霊魔法系列だとアーサーさんに聞いていたけど、その実態はとんでもなかった。
水を龍に模して攻撃するわ、いきなり変身するわ、雷の鳥や虎を召喚するわと、何このハチャメチャなジョブ!?
それよりも何よりも。
凄く衝撃的だったのは……。
「この子、かわいい顔してやる事が結構過激だったんだよなぁ。徹底的に叩いて精神へし折りにいくとか、今回もえげつねぇな」
言葉のわりには愉しそうにマーリンさんが笑ってるけど、わたしはそれどころじゃない。
太ももの辺りまで伸びている艶やかでサラサラな銀糸の長髪。
大きくぱっちりとした鳶色の瞳。
小柄な体躯に、色白の綺麗な肌。
十中八九みんなが口を揃えて、美少女認定するだろうこの人は。
理玖くんだよ!
思わず頭を抱える。
普段傷跡を隠すために伸ばしてる前髪の奥にある可愛い瞳とか、優しげな目元とか、思わずムニムニしたくなるようなふっくらとした頬っぺたとか、愛らしくてつい視線が釘付けになっちゃいそうな唇とか、抱き締めるのを我慢する事で自制心の訓練が行えそうな天真爛漫な笑顔とか、もし抱き締めるとすっぽりとフィットしそうな愛らしい小柄な体躯とか……。
他にも色んなところがそっくりで面影があるし、何よりもわたしが彼を見間違えるはずないもん。
ずっとずーっと間近で見てきたんだもん!
それがなんでどうして今まで以上に女の子みたいな姿になって、変身とかしながらフリフリのワンピースとか着てるのよっ!?
しかもメチャクチャ似合ってる。
この甘えてくる鳥さんを愛でながら微笑んでる姿なんて、どこの深窓のご令嬢よっ!?
もう訳わかんないよっ!
「なぁアーサー、あの話やっぱ無理か?
この子達、是非うちに来て欲しいんだが。どうだ?」
マーリンさんの提案に、わたしは思わずガバッと顔を上げた。
えっ?
理玖くんと一緒のクランに……!?
一緒にお食事したり、一緒に冒険したり、一緒に過ごしたり出来るのっ!?
「マーリン。前にも言った通り、彼女は既にレント君のクランの一員だ。こっちの都合だけで引っこ抜く訳にはいかないよ」
えー、無理なの?
思わずシュンとなる。
「いや、そうじゃ無くてな。彼らごとこっちに引っ張るという意味だ。あの時色々話し合ったんじゃなかったのか?
まだ出来たばっかのせいか、ほとんど人数いなかっただろ、あそこ。大体、生産職や魔法職が最前線でタンクやるとかあり得ねぇし。
少なくとも彼らのクランと同盟組んで、希望者を向こうに出向させるとかどうだ?」
ええっ!?
そうなったら行きたいっ! 絶対行きたいっ!
「とは言ってもな。クマゴロウさんの所の『ヘイヘイホー』がレント君と彼女のクランに関わるなと言い出してきてね」
「なんじゃそりゃ?」
「どうもサブマスのうみんちゅさんが勝手に言ってるみたいだ。しかも『妹に手を出してみろ。夜道を歩けないようになるかもな』って言ってるらしい。
どうにも本気か冗談か分からなくてね。クマゴロウさんに会ったんだが、先方も困惑されてたようだ。正直よく分からない」
「まさかの兄妹だったのかよ……しかも兄貴の方、シスコンすぎね?」
……なにそれ?
でもセイさんは理玖くんで、男の子で。
え? なんで妹?
「兄妹ならどうして彼女は『ヘイヘイホー』に入っていないんだろう?」
「俺に聞くなよ……。
──あれだ、お年頃ってやつで、多分兄貴と一緒が嫌だったんじゃね?」
そう言えば、アーサーさんもマーリンさんも性別誤解してるよね?
まあ私も知らなかったとはいえ、さっきまでそうだったけど。
訂正した方がいいのかな?
それに、うみんちゅさんって誰だろう?
まさかと思うけど、理玖くんのお兄さんの海人さんだったり?
あーどうしよ?
どうしたら良いの?
頭が混乱して来ちゃっ……。
「ひゃぁああっ!?」
喜んだり落ち込んだり訳の分からないことに頭を抱えたりと百面相していたら、背後から首筋を羽根のようなもので軽くつぅーっとなぞられ、思わず悲鳴を上げてしまった。
「──お前さんら、わざとやっとらんか?
あんまり嬢ちゃんを困らせるんじゃないぞい」
「お、お爺ちゃん? いつの間に後ろに!?
もう、いきなり何するんですかっ!」
「お? 爺さん帰ってきたんか?」
慌てて振り返ってみると、わたしの背後にいたのは、しばらく前から用事で出ていた椿玄斎という名前のお爺ちゃんがいた。
どうして背後にいるのよ。
こちら側にはドアなんかないのに。
このお爺ちゃん『円卓』では最高齢なんだけど、これでもかってくらい元気なご老人で、しかもまさかの近接戦闘職。
うちのギルドの生産職に依頼して作らせた日本刀と着流しを愛用している、どこか飄々(ひょうひょう)としたお爺ちゃんだ。
ふらっといなくなったかと思ったら、今のようにいつの間にか戻ってきてて背後に居たりと、よく分からない人なんだよね。
あとちょっと、いやかなりの女好きっぽい。
しょっちゅう街の女の子と会話したり、一緒に行動したりしてるのを見かけてる。
「御老、ご用事は無事に終わりましたか?」
「うむ、あちらさんはあれで終わりじゃ。
──それはそうと、面白い事になっておるようじゃのぅ?」
テーブルの上でエンドレス再生されている、セイさんの戦闘動画を見やりながらお爺ちゃんが呵々と笑う。
「どこから聞いてました?」
「マーリン殿が『かわいい顔して』とか言ってる辺りからじゃな」
ほぼ全部だよ、それ。
「別に悩むことなんてないぞい。こんな問題の対処は簡単じゃ」
続けて言い放つお爺ちゃんの言葉に、みんなの目が白黒する。
「出向なんぞしなくても、この『円卓』を退団して『精霊の懐刀』だったかの?
そっちに普通に入団すりゃええ」
「御老、それは一体……あぁ、そうか。対外的には辞めて移籍か」
「まぁ実際に退団が必要じゃがの。別に個人的な友人としてこっちと密に繋がっておっても、ヘイヘイホーも文句は言えぬよの?」
「流石は爺さん。伊達に年くってねぇな」
「馬鹿もん。わしゃまだ若いわい」
笑いながら、動画の方を見やる。
「言い出しっぺの儂が行こう。常にふらふらしとる儂なら納得されやすいし、とやかく言われまいて」
「よろしいのですか?」
「構わんよ。ちょうどこの若いもんに興味が出てきたしの」
「アーサーさんっ!
わたしも、わたしも行って良いですかっ!?」
咄嗟に私も手をパタパタ上げてアピールする。
この機会逃したら、絶対に後悔する。
そんな確信めいた予感があった。
会いたい。声を聞きたい。絶対に一緒にいたいっ!
ここは行動しなきゃっ!
頑張れ、わたし!
「ティリルさんも?
確か向こうは魔法系列ばかりで近接が足りな……」
「いや、アーサー。あっちにはヒーラー系居ないぞ。むしろ必須じゃね?」
アーサーさんの言葉を遮るように、マーリンさんが口を挟んだ。
ナイス援護射撃です、マーリンさん。
やってて良かった回復職。
天はわたしに味方してる!
「このユイカちゃんは親友なんです。手助けしたいんです。
それに他にも、その……知り合いが。だから他の誰よりも馴染み易いと思います」
「なるほど、確かにそういう事情なら、彼らも頼もしく感じるだろうね」
私の説明に、アーサーさんは快く頷いてくれた。
やったっ!
これでみんなと一緒に居られるよっ!
「……親友と知り合いのぅ。ほんとにそれだけかの?」
と、そこにボソッと小声でお爺ちゃんが……。
な、何か嫌な予感。
「連日熱い視線で動画観ておったじゃろ。好いた男でも向こうにおるの……」
「お、おおおお爺ちゃん!?
いきなり訳の分からない事を言わないでよ!」
ぎゃぁー! 何て事言うのよ!
どう考えても、絶対に誤解される!
慌ててお爺ちゃんの口を塞いだけど、逆効果になったようだ。
「もしかして、レント君がいるからかな?」
「あぁ、あいつモテそうだしな。今頃こっちの住民も含めてハーレム築いてるんじゃね。セイちゃんも大変そうだ」
やっぱりぃっ!?
「違いますっ!
いつ……じゃないっ!
そのレントさんのこと、なんとも思ってませんから!」
否定するも、何かますます泥沼にハマっていくような……。
──って、なんでそこで理玖くんの名前がっ!?
「まずはセイちゃんに認められるように頑張りなよ。この世界の法は、そういうのを認められてるから、あいつを一緒に支え合うのがコツだぞ」
「そういえばレント君、ピンチだったセイさんを颯爽と駆け付けて、お姫様抱っこで助け出したりしてたね」
はいっ!?
「あの動画の後、意識を失った彼女を自分が町まで運ぶとか言い出したりして気遣ってる様子は、まるで物語の主人公のようだったよ。
彼にとってセイさんは、相当大切な人なんだろうね」
はぁあぁっ!?
樹さんの馬鹿馬鹿!
理玖くんを他の人の前で女の子扱いとか、何て事をやらかしてくれちゃってるのぅっ!?
「おいおい、そこの悪ガキども。本人前にして、そこまで言うもんじゃなかろう」
「あ……す、すまない。ティリルさん。気がきかず……」
「すまん、ティリルちゃん。気に障ったのなら謝る」
「い、いえ。大丈夫です。気にしてませんし、レントさんとはホントに何もありませんから」
聞きたくなかった裏情報にショックを受けながらも、もう一度しっかりと否定しておく。
「ったく、爺さんから言い出したんじゃねぇか」
「さぁ、なんの事やらサッパリじゃわい。
──まぁ『事実は小説より奇なり』じゃが」
真っ白になりつつあるわたしの肩をポンポンと叩きながら、お爺ちゃんがエルフのわたしだけに聞こえるように囁いてきた。
「このセイの坊やを好いておるのじゃろう?
儂はわぁっとるから、少しは落ち着きなさい」
うっ!?
そう指摘されるのも恥ずかしくて、落ち着かないよっ!?
でもなんで?
「何で男だと分かった? って顔しちょるの。男女の骨格の違いによる動作の差異よ。
まあ途中で女の動きに変わったがの」
何それ、意味が分からないんだけど?
首をひねるわたしに笑いかけながら、「ま、会って本人に訊けばいいんじゃよ」と締めくくった。
「という訳で、二人で行ってくるでの。手続き頼むぞよ」
「二人の退団を了承した。だが、出発は少し待ってくれないか?
クランリーダーのレント君にも経緯を説明しておきたいし、そもそもイベントに参加するために、みんなビギンの街に行くだろう?」
「そうじゃの」
「実は先程レント君からいくつかの相談案件が来たんだ。
ビギンの街に行く前に先にミィンに行くことになると思うが、その時に私達と一緒に出発で構わないかな?」
「大丈夫です。出発はいつですか?」
遂に……遂にこの世界で彼と会えるんだ。
逸る気持ちを押さえながら、アーサーさんに問う。
「うん。出発は早くて明後日で、それまでに……」
アーサーさんの説明を聞きながら、わたしは気持ちが舞い上がっていくのを感じていた。
理玖くん──セイくんと会った時の事を色々シミュレーションする。
ようやくだよ。
ようやくこの世界での、わたしの物語が本格的に始まるんだ。
けど、この時のわたしは。
この先セイくんと共にとんでもない出来事に巻き込まれていくことになろうとは。
想像だにしてなかったの。




