55話 月の力とうつろうモノ
この章のエピローグになります。
最後にこの章終了時点のセイ君のステータスつけてます。
ふと気付いたら、ユイカちゃんが暴走しまくってまずい事になってたので、最後の方ばっさりカットしたんですが、それでも9800文字に……。
7/13 セイ君のステータスのHPとMPの計算が間違っていたのを修正。
「カグヤ様、どうかご無事で。
何かありましたら、すぐに屋敷に残す分体か、もしくはセイ様を通じて私まで連絡お願いします」
「大丈夫、分かってるわ。サレスこそ無事でいて」
まだ日の出て間もない頃、ビギンの町に急ぎ戻るべく、ボク達は館の前でサレスさんの見送りを受けていた。
大きなトラブルに見舞われない限り、予定より数日の猶予をもってビギンの町に戻れそうである。
今回から新しい旅の同行者として、カグヤが加わる事になる。
賑やかな旅になりそうで楽しみだよ。
ただボク達の仲間がほぼ精霊であるがゆえに、ボク以外が全員女性なわけで。
他の同郷の人達から要らぬやっかみを受けそうだね、って言ったら、ユイカに「周りからは全員女の子のPTにしか見えないから大丈夫」って返され、成る程と、それに普通に納得して……。
……。
──いや、納得したら駄目だって!
最近精霊化の使用に抵抗が無くなっているような気がするし。
既に手遅れなのかなぁ?
閑話休題。
カグヤと旅をするにあたって、彼女の知名度はどうなのか? という話になった。
まあ結論から先にいうと、引きこもりと人見知りが幸いしたというか、そこまで高くなかった。
ユイカ曰く、掲示板で調べたけど、彼女の加護を受けている事を宣言する人物は未だ現れていないらしい。
本人に「実際はどうなの?」と確認した所、今まで狭間の空間内で加護を与えた人はそこそこ居るそうなので、その人物に出会わない限り大丈夫のようだ。
自分が加護を与えている人物は分かるとの事なので、その時はボクの依り代スキルで避難するそうです。
まあ引きこもるきっかけになったバライスの街では出歩かない、ボクの中に引きこもる宣言してたけど。
その依り代スキル。
このスキルもエフィが常にボクの中にいるせいか、かなりのスピードで上がり続けている。
今では四柱くらい余裕で中に入れるようだ。
エフィにティア、カグヤとハクかテンライ。
彼女達の力の回復場所としての需要が高いこのスキル、もっと育てていかないとね。
「カグヤ様、最後にご忠告を。
毛布で耐えきれなくなったら、寝ぼけたフリして寝込みを襲うくらいはした方がいいですよ」
「ふぇっ!?
い、いいいきなり何を、なな何の事かしらっ!?」
物思いから戻ってきたら、なんだか二柱の会話が変な事になっていた。
毛布ってなんだろう?
「あら、違うのですか? 昨日清掃の時に、見覚えのない毛布がベッドの中に丸まってあったのですが。
……そういえば、セイ様。何か紛失とかしていませんか? 例えば毛……」
「わ、わぁー!?」
「そう言えばカグヤ様、あくまでも一般論ですが。
犬という生き物は、匂いをクンカクンカしないと落ち着かないそうですがどう思います?」
「ちょっと私は誇りある銀狼の精霊なんだからね。同じ事をしたとしても犬呼ばわりはっ……。
──あ、ち、ちがっ! 違うのよっ!」
「あぁ、匂いフェチがバレてしまいましたね。どうしましょう?」
それ、バレたんじゃなくて、ばらしたと言います。
……まぁ知ってたけど。
ホント言葉ってムズカシイナ。
「さ、サレスのばかぁっ!
こんなところでなんてこと言うのよっ!」
ここ最近見慣れ始めた光景。
じゃれ合うかのように漫才を始め出す二柱を生温かく見守りながら、ボクは昨日の事を思い返していた。
あの夜の帰り道。
泣き疲れたのだろう、途中で寝てしまったカグヤを背負ったまま急いで下山してみれば、麓の登山口にてサレスさんが待っていた。
ボクに対して会釈をしてくるサレスさんは「そのままついて来て下さい」と小声で言い、ボクはカグヤを彼女の自室まで運んだ。
寝室前でサレスさんにカグヤを預けた後、待つように言われたサレスさんの自室で落ち合う。
そこで今夜の出来事を簡潔に伝えていく。
サレスさんから説明を求められたわけではないけど、共鳴が起こった事も伝えた。
ただ、どうも彼女は全てをわかっているようだった。
「そうですか……。
誘導したとはいえ、この短期間にそこまで依存されるようになるとは。
セイ様、ルナ様を──いえ、カグヤ様でしたね……あの方を受け入れて下さってありがとうございます」
「サレスさん、正直分からないです。どうしてボクなんかにみんなが……」
「セイ様、そう自分を卑下してはなりません。貴方はそれだけの事をしてきているのですよ」
珍しくボクの言葉を遮って、サレスさんが続ける。
「私も疑問なのです。どうしてそこまで自分を下に見続けるのですか?」
「それは……」
答えようとして言葉に詰まる。
そういえばなんでだろう?
どうしてこんな思いが?
何を忘れているんだ?
懊悩たる物思いに沈んだボクをしばらく見ていたサレスさんは、そっとボクの額に指を当てた。
「私は貴方の事を評価しております。ですから今後の事も見据えて、『貴方に加護と祝福を』」
サレスさんの指が仄かに輝き、その光がボクの中にスッと入り込み定着する。
「私はしばらくカグヤ様と貴方について行けません。
ですがこの加護があれば、貴方なら私への連絡と召喚が可能かと思います。役立てて下さいませ」
お礼を言ってサレスさんの部屋を辞した後、ボクはユイカ達の元に戻ってきていた。
時刻は既に明け方になってしまっているし、今からふたりのいる元のベッドに潜り込むのも、他のベッドを使うのも、何だかばつが悪い気がする。
てか女の子同士ならともかくとして、女の子が寝ているベッドに男の方から潜り込むとかどうなのよ?
自分のあまりに世間ずれした考えに、ふと気付いて苦笑する。
そのまま寝室に入るのを止めたボクは、手前の応接間のソファーにインベントリーから取り出した毛布に包まって寝転びながら、色んな状況の整理をすることにした。
今夜の行動の途中は一切アナウンスが流れなかったけど、サレスさんの部屋を出た途端に、アナウンスとメールが着信していた。
その形になったのは、この一連の出来事がどうやら『突発型試練クエスト』扱いになっていたからのようだ。
内容を順に確認していく。
この『王女の目覚め~月下の章~』という名の試練クエストのアナウンスログを開けば、出来すぎな結果がずらずらと出てくる。
『試練クエスト『王女の目覚め~月下の章~』がクリアされました。貢献度により以下の褒賞が付与されます。
月の精霊ルナと盟約が交わされました。
称号〔月の精霊の寵愛〕及び〔カグヤのご主人様〕を取得しました。
〔精霊化〕の新たなる秘技〔月精の寵授巫女〕を会得しました。
その秘技に付随するスキル系統が習得可能になりました。
静寂の精霊サレスと盟約が交わされました。
称号〔静寂の精霊の祝福〕及び〔駄メイドのご主人様〕を取得しました。
ボーナスとして、SP+10が付与されます。
詳細はメール及びヘルプガイドをご確認下さい』
SP+10が付与は純粋に嬉しい。
嬉しいんだけど、ヘンテコな称号が……。
訳の分からないのと、欲しくもない称号があるんだけど、熨斗付けて返品出来ないんだろうか?
カグヤは『仲間』であって『主従関係』じゃない筈なんだけど、この称号システムどうなってるのよ。
何気無くステータスの称号の部分をクリックしたら、説明が出てきた。
あ、説明見れたんだ。
どれどれ……。
〔カグヤのご主人様〕
彼女のワンコな部分が貴方に完全服従した証。
もう彼女は貴方から離れられない?
〔駄メイドのご主人様〕
駄メイドに弄られる宿命を持った者に贈られる証。
きっとこれからも弄られ続けるだろう、間違いない!
……。
そっと閉じた。
溜め息一つ、今のは見なかった事にして、続いてステータスの取得スキルの精霊化の項目の中を開く。
そこにあった〔月精の寵授巫女〕を選択し、スキル性能情報を開示させる。
〔月精の寵授巫女〕
天より降りし月の光は等しく民を祝福し その身を捧げ献身す
月系精霊魔法以外の全ての攻撃及び防御スキルを封印する代償として、自身が認める同一エリア内の全味方へ全ステータス強化付与を行い続ける。
〔気品〕〔魅力〕スキルを所持し、〔舞踏〕〔祈誓〕いずれかのスキルを実行しなければ、効果は減衰される。
人数制限は存在しない。付与値は精霊化のレベルと等価。
この力は付与魔法とは別扱いの為、全て重複する。
更に祈りを捧げることにより、対象一人に自身のステータス(装備品値のみ除く)を全て付与してシンクロ、身体ダメージ及びMP消費、デメリットを引き起こす状態異常全てをその身で引き受け自身を身代わりとする秘奥技〔献身〕を発動させる事が出来る。
これは一体……。
一瞬意味が分からなかった。
戦闘能力の大半が封印されるとか、まともに戦えなくなるし、この秘技の使い道がわからな……。
あ、だからか。
味方の全ステータス強化。
スキルレベルと等価数値で、しかも対象者がパーティー単位じゃなく、全味方と実質無限。
こないだのトロール戦、あのようなレイド戦で威力を発揮する精霊形態だった。
また、減衰されるとはいえ、ただいるだけで味方が強化されているのは、色々便利そうだ。
更に、たった一人だけだけど、ボクのステータス値を全て渡してダメージも全て引き受ける〔献身〕。
気軽に使えないこの技、ここぞの場面で使用する事になりそうだけど、全体強化付与と両立出来るのかな?
事前に試してみるしかないか。
ただどれをとっても、完全に安全地帯で守ってもらわなければならない、そして自己犠牲の秘奥技、まさに支援特化系の極致。
エフィの戦巫女もティアの侍獣巫女もそうだけど、やっぱり特定の分野では相当強い。
使い所を誤らなければだけどね。
そして、正直一番見たくなかったメール。
やっぱり予想通りというか、差出人の名前とアイテム添付メールの時点で、諦めざるを得なくなった。
『見てましたわよ。月夜の逢瀬、そして『セレーネ』の心を鷲掴みにして引きこもりを直すその手法、流石ですわ。次はソルちゃんを口説きに行くのです。娘達をよろしく頼みますわよ。
──追伸
お祝いにエターニアにあなたのドレスを作って貰いましたわ。役立てて下さいませ。 ディスティアより』
……カグヤの姉であるソルさんを口説きに行け指令来ました。
その言い方、何とかならなかったの?
名 称:月精の加護衣
状 態:特殊
種 別:装備品(服飾セット)
耐 久:∞
重 量:1
付与枠:なし
効 果:
精霊女王が感謝の気持ちを込めて作成した個人認証型御子専用装備。〔月精の寵授巫女〕を発動すれば自動的に装備され、解除すると外れる。持ち主に合わせて成長していく不思議な羽衣風ドレス。
状態異常耐性値が精霊化のレベルに依存して上昇(レベルに対して等倍)
〔月精の寵授巫女〕中のスキル『献身』の消費MP半減、及び体力(HP)の自動回復付与
〔月精の寵授巫女〕を使用した時間分だけ精霊化のクールタイム半減
うん、もう手遅れだけど、どうしても言いたい。
何でドレスなんだよ!
所々透けてるみたいだし!
しかも添付アイテム取り出してもいないのに、下着を含めたドレス一式が勝手に実体化して、ボクの中に吸い込まれていった。
今後は全て強制で衣装チェンジですか?
うん、強制っぽいですね。
昼間カグヤが着ていたあの七夕の織姫みたいな羽衣ドレス、ボクが着ても似合う訳ないでしょ。
……ないよね?
「フライング~ふぉっっくす!」
「ふぎゃっ」
あのまま途中で寝落ちしてしまったらしく、ソファーで完全に熟睡していたボク。
朝起きてきたユイカにダイビングボディアタックをかませれて叩き起こされた挙げ句、二人して床に転げ落ちる事になった。
「セイくーん?
夜中にどこへ何しに行ってたのかなぁ?」
「ゆ、ユイカさん、ちょっとひどいですよ。退いてあげて下さい。
その、お兄様大丈夫ですか?」
ボクのお腹の上でマウントを取ったユイカを制止すべく、ティアが慌ててパタパタと駆け寄ってくる。
あぁ、ティアが慈愛の天使に見え……。
「そのお兄様の全身至る所にね、あたし達の匂いを上書きするようにルナさんの匂いがべったり付いてるんだけど?
ティアちゃん言いたい事はない?」
すんすんと鼻を鳴らすユイカの言葉に、ぴしっとティアの表情が固まった。
そのまま無表情になって、ガシッとボクの両肩を押さえ付け、頭の方から覗き込んできた。
「……お・に・い・さ・ま。きりきり白状しましょう。
それにお兄様からルナ様だけじゃなくサレス様の気配もするんですが?」
ひいぃぃっ!
なんか断罪の死神みたいに豹変したっ!?
「今説明……」
「おはよう御座いま……あら?」
慌てて説明しようとした時、サレスさんがやって来た。
こちらの状況を見て、にやりと……あ、まさかっ!?
「セイ様、朝からお盛んですね。昨夜はカグ……ルナ様とお楽しみだったのに」
やっぱりこの駄メイド、特大の爆弾投げ込んできたっ!?
「ルナ様にとってあんな経験初めてで、疲れ果てたのかまだ寝ておられるので、先に私達だけで食事の用意をさせていただきますが、その様子だともう少し後の方がよろしいですね」
固まるボク達を残し、そくささと退出していく駄メイド……って、ちょっと待って!
言うだけ言って、後処理無しっ!?
「……昨夜はお楽しみ、ですか?」
「疲れて起きれなくするくらいやったんだ?」
何を想像してるのか、真っ赤になって呟くふたり。
「ち、ちょっと待って、そこの駄メイド!
何でわざわざ誤解をさせるような言い方を……」
「「セイくーん(お兄様)!?」」
ガシッと更に力を込めてくるふたりをどう説得しようかと考え、その難易度に頭が痛くなってきた。
ほんと朝っぱらから勘弁してよ、もう。
「「ごめんなさい」」
「いや、もう気にしてないから」
駄メイドを念話と強制召喚で呼びつけて説得に当たり、ようやく理解したのか、しゅんとなってしまったふたりを慰める。
そもそも男女間にも当然のようにR15コードの制限があるんだから、ユイカはそれくらい察して欲しかった。
それにだ。
「ユイカにもアナウンス来てたんでしょうに」
「あんなアナウンスじゃ分からないって。その……取られたかと思っちゃったもん」
ソファーにぐったりと座り込むボクの左腕にしがみつきながら、ユイカが口を尖らせる。
「強い力を持つ男性に多くの女性が群がり求愛するのは、この世界では普通の事です。やはり死亡率の高い危険な世界ですからね」
テーブルに食事の用意をしながら、サレスさんが続ける。
「男性の方から見ても、多くの女性を娶る事は一種のステータスであり義務です。
まぁセイ様はその身を縛りつけているコードが外れるまでに、答えを見付ければ良いのですよ」
こっちの悩みを見透かしたように言うサレスさんの言葉が耳に痛い。
てか、ハーレム持てとか言われてるみたいでなんかやだな。
それはこっちの人の考え方でしょうに……まぁボクがいくら言っても、この有り様じゃ説得力無さそうだけど。
「それにどうも勘違いされてるようですが、ヴォル……いえ、ティアちゃんを子供扱いし過ぎるのはかわいそうですよ。彼女が引き継ぐ前は草原妖精種の……」
「さ、サレス様、お兄様と私はこれでいいんです。問題ないですから」
ボクの右腕にぎゅーっとしがみつきながら、ティアがサレスさんの言葉を遮る。
こんな感じで、出会った時よりも更に遠慮がなくなって来ているティアに、嬉しいやら恥ずかしいやら。
でも、グラスランナーって何?
しかもそんな時に、こういうのは重なるもので。
「……おはようございましゅ」
扉が開いたかと思うと、枕を抱き抱えた薄手のネグリジェ一枚なカグヤが入ってき……って、またっ!?
しかもまた盛大に寝惚けているみたいで、ふらふらっと足がよたついている。
なんか凄く嫌な予感が……。
「えへへ。やっとセイの匂い発見だぁ」
きゅっ。
ボクの方を見てふにゃっと蕩けた笑顔をみせたカグヤは、そのまま身動き取れなくなっていたボクの正面から胸の辺りにしがみついて、犬のようにぐりぐりすんすんと……って、こらぁっ!
「むぅ。やっぱりセイ君はたらし過ぎるよ」
「うぅ、もう決めたんです。決意表明です。引きません」
両側から更に引っ付きながら、詰め寄ってくる彼女達。
「てか異邦人の方々が大好きな台詞『リア充爆発しろ!』がとっても似合うお姿ですね♪」
ボクの状態を眺めながらそんな事を言い放つサレスさんに、何を言うのでもなく、無言で天を仰いだのだった。
「──ルナ改めカグヤです。旅に同行しますので、よろしくお願いします」
完全に目を覚まして着替えてきたカグヤが、少し緊張した感じでユイカとティアに畏まって挨拶したのをきっかけに、かなり遅めの朝食が始まった。
ちょっと緊張してる?
さっきの挨拶もそうだけど、昨日の彼女らしくない行動が多いなぁ。
なんか借りてきた猫……もとい群れに合流したての狼みたいな?
「……ええっと、カグヤ様?
その、真名まで?」
「うん、教えた……です」
「そうですか」
なんかティアとカグヤの間の空気重いのなんのって。
二柱の精霊としての立場的な立ち位置と、ボクに対する立ち位置が違うせいで問題をややこしくしてるのかな?
もう……何でそんな事気にするんだよ。
「ティア、みんなも。食べながらでいいから聞いて。昨日の事と得たスキルをちゃんと説明するね」
二柱に声をかけ、みんなを交えて説明していく。
きっちり説明して、わだかまりを無いようにしなくちゃね。
ティアの時と同じように、力の把握をするという建前で、カグヤと精霊化をみんなの前でお披露目する事となった。
確かに実戦でいきなり使うのも怖いからね。
カグヤとは初めてだから、今後も色々試して慣れておきたい。
ユイカには現在のステータスからどう動いたか把握する役目として、ターゲットになってもらった。
既に昨日の時点で必要なスキルは全て取得しているので、本来の性能通りに結果が分かるはず。
照れながらもどこか嬉しそうなカグヤと手を繋ぎ、スキルを発動させる。
いつものように一体感と浮遊感を得て、床に降り立ち……。
──妙なバランス感覚に、思わずよろけた。
一体何が?
ドレスの裾を踏んづけちゃった訳でもないし……でも、なんか頭とお尻に変な感覚が。
「セイ君がワンちゃんに……ワンコバージョン来たぁ!
可愛すぎ! これは激しくスクショ案件っ!」
……。
はぁっ!?
何やら妙に興奮して叫ぶユイカの声に、慌てて頭におそるおそる手をやれば、ピィンと立ちながらも柔らかなケモ耳が……。
「へっ……ふわぁっ!?」
変にそっと撫でるように触ってしまったせいか、電気が走ったかのようにゾクゾクっと、えもいわれぬ感覚が全身を貫く。
ヤバいっ、このケモ耳もエルフ耳と同じくらい敏感過ぎる。
いや、触られ慣れていないから敏感になってるだけ?
「ねぇ、セイ君。撫でていい? モフッていい?
あたしのも好きなだけモフッていいから!
お互いモフモフしよ!」
「ひっ!?」
手をわきわきさせて詰め寄ってくるユイカが怖いんだけどっ!?
「いや、その、ほら、検証が先で」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから」
「じゃハクを呼ぶから……」
「セイ君だからこそモフりたいの!」
えー。
「これは……セイ様のエルフとしての因子より、カグヤ様の銀狼としての因子の方が強く出ていますね。この姿がセイ様がイメージした力の理想像ですか?」
ユイカの魔の手から逃げようとしたタイミングで、サレスさんにそう言われて固まる。
「精霊魔法の真髄が確たるイメージと想いの強さであることは、セイ様もご存知でしょう?
精霊魔法の秘技である精霊化も例外ではありません。力を強く行使出来る姿を自然と取るのは当然の事。つまり……」
「つ、つまり?」
ユイカに捕まって、背後から抱き締められながらも聞き返す。
全員神妙な表情になって、サレスさんの次の言葉を待った。
「ぶっちゃけると、普段から無意識に『ケモ耳っ娘最高! モフモフしてぇ!』って思っていたから、そんな姿になったんじゃないでしょうか?」
「んな訳ない!」
真面目に聞いて損したよ!
「そ、そうですお兄様。次からイメージし直せば」
「セイ様の月の精霊体としての姿がまだ決まってなかったから、カグヤ様の銀狼のイメージが入り込んだんです。もう固定されてるようですよ」
「えー」
「良いじゃないですか、凄くお似合いですよ。
まるでセイ様とカグヤ様の間に出来た娘のようなお姿ですね」
ピシッと瞬時に凍り付く空気。
ま、またやらかされたっ!?
『さ、サレスったら何て事言うのよ!
そんな事……そんな……ふたりの愛の結晶だなんて……えへ、えへへ……』
「あぅ……私もお兄様と融合してる時はそのように見られているんでしょうか……」
「ふ、二柱ともズルいよ!
あたしもセイ君と合体してまざりたい!」
「合体じゃなくて精霊化!」
何て言い方するんだよ。
最近頭の痛くなる出来事だらけだ。
「セイ様、苦労されてますね」
「何で元凶が他人事みたいに言ってるのっ!?」
「メイドですから♪」
ボクのツッコミに、訳の分からない返事を返す駄メイドに、本気で加護と称号を返したくなったのだった。
「お兄様、そろそろ私と精霊化を」
二柱の漫才が終わるのを見計らって、予定通りティアと雷精の侍獣巫女を行い、ボクの内からハクを呼び出す。
ビギンの街への帰り道は、カグヤの力のおかげで更に楽になりそうだった。
「セイ様もお元気で」
ハクに騎乗したボク達を見上げ、サレスさんが微笑む。
「カグヤの事は任せて下さい。では、行ってきます」
さあ、行こう。
仲間達が待っているあの街へ。
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名前:セイ
種族:古代森精種 種族レベル:27
職業:御子 職業レベル:8
HP:600
MP:610
STR:22
VIT:33
AGI:30
INT:45
MND:50
DEX:22
※上記はスキル及び装備品を含まない基礎ステータス
BP:0
SP:50
○所持スキル
種族系
〔精霊眼:森羅万象〕〔浮遊(精霊化時)〕
職業系
〔精霊魔法Lv67〕〔精霊召喚〕〔精霊顕現Lv43〕〔精霊化Lv19〕〔念話(対精霊)Lv34〕〔依り代Lv31〕
攻撃系
〔杖術Lv19〕〔体術Lv33〕〔魔法具操作Lv27〕
補佐系
〔HPアップLv29〕〔MPアップLv41〕〔STRアップLv23〕〔VITアップLv23〕〔AGIアップLv30〕〔INTアップLv50(上限値)〕〔MNDアップLv37〕〔DEXアップLv23〕〔気配察知Lv48〕〔夜目Lv37〕〔消費MP減少Lv33〕〔騎乗Lv27〕〔舞踊Lv20〕〔祈誓Lv1〕new〔気品Lv1〕new〔魅力Lv1〕new
耐性系
〔毒耐性Lv4〕〔麻痺耐性Lv2〕
生産系
〔採取Lv31〕〔調合Lv17〕〔料理Lv47〕
○精霊化形態
〔元精の戦巫女〕
〔雷精の侍獣巫女〕
〔月精の寵授巫女〕new
○称号
精霊王女の寵愛
精霊王女の御子
雷鳴の精霊の寵愛
雷鳴の精霊のお兄様
月の精霊の寵愛new
カグヤのご主人様new
静寂の精霊の祝福new
駄メイドのご主人様new
○追加装備
女性服及び着ぐるみ多数(マツリ作)
舞踏扇(魔法具)
月精の加護衣
○取得アイテム等
岩蟻の素材多数
雷の精霊結晶(中)
多種多様なレア鉱石
クリーチャーの魔石核
ゴム素材
月光花(開花状態)
○同行精霊
精霊王女(眠り姫)
月の精霊
雷鳴の精霊
ハク
テンライ
ホントはセイ君の衣装的に七日にアップしたかったんですが、間に合わず無念。
ようやく運営の公式イベントです。ここまで長かった……。
でもリアルではまだ一週間しか経ってない、不思議。
後、その前にちょいと数話挟むかも? です。




