5話 合流
5/21 加筆しました。
中央区に繋がる立派な門をくぐると、中世のようなレンガ造りの建築物が立ち並び、石畳がきちんと敷き詰められている街並みがあった。
目の前を色んな種族が行き交い、空を見上げると、大小様々な雲が流れている。
広場の入り口には鳩がうろついており、外周に並ぶ露店からは店主の客を呼び込む声。
あらゆる声が入り雑じり、雑然とした喧騒の音となってボクの耳に聞こえてくる。
地図を見た時、そして丘から見えた中央区に繋がる門を見た時から想像してたけど、中央区も相当広いなぁ。
そりゃサービス開始時、大勢のプレイヤーが一気にここに来たことを想定していたら、これだけの広さを作る必要があったのだろう。
樹が言うには、過去運営が行った世界クエストはここがスタート地点だったらしいから、今後もごった返すんだろう。
ただこの広さのせいで、中央区まで辿り着くのに相当の時間がかかってしまってるし、待ち合わせ場所がまだまだ遠いんだよね。
待たせすぎるのもよくないと思い、メールにて現在地と到着予定時間を入れておいたけど、合流出来たら謝らなくっちゃ。
噴水広場の中もまた、多数の種族の坩堝と化している。
おそらく、ボク達と同じように待ち合わせをする新規プレイヤーも数多くいると思う。
たまに上等そうな装備を着けた人達も見受けられるが、こちらは多分クランへの勧誘か、知人の後発プレイヤーを迎えに来たかのどちらかかな。
高辻双子のゲーム内の容姿は、ついさっきスクショの画像メールが送られてきていたから、これで探すのに問題なくなった。
ちなみにこのゲームのスクショや動画撮影は、自分の視線で撮影するために自撮り出来ないらしく、二人はお互いに撮り合ったみたい。
こちらからは送れないため、文面にて髪色等の容姿を伝えるにとどまる。
人混みを掻き分け、待ち合わせの場所に急ぐ。
ぶしつけな視線や値踏みする視線、様子を窺うような気配を感じるけど、チラリと視線を向けて牽制し、態度で無視する。
隠してるようで隠せていないそんな視線の数々は、リアルで散々慣れているから。大抵はこれで視線を逸らしてくれる。
ただ、しつこいのもいて。
こっちの牽制に気付いていないのか、何度か、こそこそと人混みの間をぬって追いかけてきて、陰からこちらにしつこく視線を送ってくる男がいたけど、何してるんだろうか?
あれでバレてないとでも?
なんか気持ち悪いな。
巡回しているのだろう、前から歩いてきた兵士にさっきの男のことを伝えておく。
犯罪予備軍になりそうな芽は摘みとっとかないとね。
あ、職質されてる。
治安維持に頑張って下さい、名も知らぬ兵士さん。
「あ、セイ君? こっちこっち!」
待ち合わせ場所にようやく到着したボクに対して、サラッとした亜麻色のボブカットの女の子──樹の双子の妹である結衣──もとい『ユイカ』がぶんぶんと両手を振ってるのが見えた。
彼女の身長はボクとどっこいどっこい(最近負けてる気がするけど)で、行動の一挙手一投足が小動物な感じの小柄な女の子である。
リアルでは、腰まで伸ばした髪をツーサイドアップに纏めている事が多い彼女だけど、こっちでは逆に短くしたんだね。
ちょこんと頭に乗っかる先端が少し黒み掛かっている狐耳と、手を振るごとに大きく揺れる1房の狐の尻尾が可愛かったり。
種族は獣人種・狐族かぁ。結衣の種族スロットにも獣人が出たんだ。イメージピッタリだよ。
揺れる尻尾からも、本人が楽しげであることが伝わってくる。
隣には、金髪長髪を後ろで軽く縛った虎獣人……こっちは樹だな。
プレイヤー名は樹=トレントをもじって、いつも『レント』にしている、って言ってたし。安直な。
ユイカとは違い、獣割合をほんの少し上げたようで、目付きなどに虎の特徴が出た、なかなか精悍な顔付きになっていた。
──なんか野性的なイケメンにクラスアップしてる……。
んで、横にいるのはボクの兄さんの海人、もとい『うみんちゅ』。
蒼色の髪にエメラルドブルーの瞳の、ぱっと見、普人種の細マッチョな優男。
……。
マッチョ率高くないデスカ?
種族は昨日聞いても教えてくれなかったけど、一体なんだろ?
なぜか『うみんちゅ』という文字が達筆な筆で書かれたTシャツを着てる……。
ネタプレイに走ってるのは知ってたけど、なんてもの作ってるのさ、兄さん。
「待たせてごめん!」
「今着た所さ、ハニー……うべっ」
いきなりなに言い出しますか、このブラコン。
思わず向こう脛を蹴飛ばし、口を閉じさせる。
結構いいところに入ったらしく、ピョンピョン跳ね回り始めるバカ兄の図。
「ええっと、うみさん……毎回ネタに走るのって辛くないですか?」
「……大丈夫だ、問題ない。
だが、弟の現身が可愛すぎて辛過ぎる。この姿を他の有象無象に見られると思うと、悔しさで今にもPK職になりそうだ……。
──そうだ。どうせなら、いっそのこと女体化プリーズ」
しょうもないこと言いだした兄さんの向う脛を再び軽く蹴飛ばし、小さくため息をつくことになったのだった。
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《ASの知識の何故?なに?TIPS》
●獣人種
人と獣の姿を持ったハイブリット種族。獣特性の能力を付与された普人種と考えると楽。
またプレイヤーには獣度と呼ばれる基準値があり、
1段階→普人種に耳尻尾
2段階→獣の特徴の一部が目や腕等に出る
3段階→結構ふさふさ(半分獣)
4段階→歩く獣(手足は普人種基準/5本指等)
と、設定できる。
獣部分の特色も、かなり細かく設定できる。
もちろん住人側にも同じように段階が存在するが、4段階は確認されていない。
基本種族スキル〔獣化〕を持ち、種族に応じた能力アップと使用時間がある。
また大まかに分けて、陸上種・海生種・比翼種の3タイプに分かれ、各種からも更に細かく分類される。
代表的な種族を羅列。やはり陸上種の方が種別が豊富。
・陸上種
犬 猫 狐 熊 豚 etc…
・海生種(海人種とは別物)
魹 海豹 海豚 etc…
・比翼種
鷲 鳶 梟 etc…
またレア種、それ以外にもハイレア個体と呼ばれるものが存在。
こちらは通常の〔獣化〕ではなく、特殊スキルを持っていることが多いが、最初からレア種族を選んだ人は、能力が封印されている事が多い。試練(設置型/突発型問わず)にて解除可能。
通常個体からも特定の試練をクリアして進化可能。
銀狼 黒豹 雷虎 多尾 etc…




