49話 隠されていたモノ
48話の最後を6/18 18:20頃に修正しています。
今話には影響はありませんが、その時間以前に前話を読まれた方はご注意ください。
6/20 ユイカの発言『テンライ→小鳥ちゃん』変更しました。
時折思い出したかのように襲ってくる狼型ロッククリーチャーを粉砕しながら、ボク達は歩を進める。
幸か不幸か、今のところウツボゴムカズラは出てこない。
あのまま全滅してくれたと思いたい。
道なりに歩き出してから、既に数時間が経過している。
この道曲がりくねってはいるけど、一応中心に聳える岩山に向かって道が伸びているので、大丈夫だと思うんだけど。
いや、ちょっと不安になってきた。岩山の見え方が全く変わらない。
上空から見た森部分の大きさだと、そろそろ中央に着いていてもいい頃なんだけど。
『ハク、大丈夫なの?
少し休憩を取ろうか?』
『ありがとうございます、御子様。特に問題はありませんよ。
それにここは安全地帯では無いのですから、先を急ぎましょう』
怪我をしていない部分を撫でながら、心配してハクに声をかけたんだけど、彼女は決して休もうとはしなかった。
ボク達の剣として時には盾となり、四方八方から襲ってくる狼の攻撃を受け続けているハク。彼女の白く美しい毛並みには、今や所々血が滲んでいて痛々しい。
顕現し実体化するという事は、この世界に一つの生命体として受肉するという意味でもある。
ハクは問題ないと言うけど、傷付きボロボロになっていく彼女の助けが出来ない事に、得も言われぬ歯がゆい思いをボクは常に抱いている。
何故なら精霊である彼女達へは、手持ちのどのポーションも効果がほとんどないんだ。
更に本来飲み薬なはずのソレをハクは戦闘中飲めないし、自力で使えない。一応患部に振りかけても少しは効果はあるんだけど、ただでさえゼロに近い効果が更に下がってしまう。
それにこれは他人事じゃない。
精霊化してる最中は、ボクも効果は低くなっている。
今まで結構な量のMPポーションを頻繁に飲んできたけど、気になってしっかりチェックしてみれば、確かに本来の回復量より今の時点で2割ほど減っていた。
初めて精霊化してがぶ飲みしながら坑道に行った時の事を思い出そうとしてみたんだけど、一本当たりの時間しか気にしてなかったからなぁ。でも、普通に回復していた気がする。
それにティアが言うには、ボクとティアが初めて出会った時よりも、より精霊に身体が近くなってきているそうだ。
多分原因は、精霊化のスキルレベルの上昇。これしか考えられない。
恐らく今後もスキルレベルの上昇に従って、ポーション系の回復量が下がっていき、そのうちほとんど効かなくなるんだろう。
これがレントや源さんの言い続けている『強い特性を持つ職ほどピーキーになっていく』という現象なんだろうか?
どこにも書いてない事だし、ボク以外の御子をまだ見たことがないから、正直よくわからないんだよね。
元来精霊には、特別調合した物じゃないと効果がないとの事。しかもその製法は、今の人の世では失われてしまった技法だそうだ。
つまりこれからは、その失伝した技法を記したモノを見つけて信頼できる薬師に作って貰うか、回復魔法に頼るしかない。
薬は雲を掴むような話になっちゃうから、回復魔法を使える仲間を引っ張り込むのが一番手っ取り早い。
ボク達には近接も足りないけど、治癒が出来る仲間もいないんだよね。
実体化を解除すれば表面的なダメージは消えるんだけど、今までのダメージは保有精霊力の減少という形で尾を引くそうだ。
そうならないように実体化を解除する前に傷を癒すか、解除して力の自然回復を行うしかない。
解除中はボクの依り代スキルで回復増進をできるけど、それも限界はある。
エフィのように目覚めないという事にでもなれば、悔やんでも悔やみきれない。
精霊魔法に治癒系の魔法があればいいんだけど。やっぱり早急に探すべきだよね。
可能性があるとすれば、生命の精霊さんに会うのが一番なんだろう。
彼女の神殿は王都にあると聞いてるし、近いうちに色々訊きに行った方がいいかもしれない。
それからしばらく進んで行くと、湖に突き当たった。しかもそこで道は途切れてしまっている。
その畔には、狭いスペースながらセーフティエリアが設置されていて、渡りに船とばかりにそこへ駆け込む。
ハクに有無を言わさず、ボクの中に入って休んでもらった。
朝から歩き通しで、疲れているのはこちらも同じ。
丁度時間的にもお昼なので、テーブルセットを取り出して作り置きしておいた鍋を真ん中に置く。
今日のお昼のメニューは、焼き立てホカホカのパン(ただし買ったのは一週間前)と各種フルーツの手作りジャム、コトコト煮込んだ力作のミネストローネ(おかわり自由)です。
時間凍結されるインベントリーって、マジ有能。
『ティア、解除するね』
『ま、待って下さい、お兄様。今日の午後はどうされるんですか?
今離れちゃったら、夕方まで制限が……』
『ちょっと気になる事があって、この周辺から動かないから大丈夫。
何か変化があったとしても、今日はここで一泊ね』
そうティアの言葉を遮って、〔雷精の侍獣巫女〕を解除する。そのままティアに最大MP100のコストを支払って顕現させた。
「あ、ティアちゃん。いらっしゃーい」
「お邪魔します」
ユイカが片手を上げて、ティアを迎える。
その間に、手早くもう一品──サラダを人数分準備して、っと。
はい、お昼ご飯の完成です。
「んじゃ、冷めないうちにいただきましょ」
やっぱり食事はみんなで食べなきゃね。
「やっぱりこのルートは、ハズレだったんだよ。明日は別の道を探して、森に分け入るとかしないと」
「でもそんな方法で、当てはあるのですか?
結界を越えた瞬間いきなりあの場所に居ましたし、この湖に沿って畔を歩いて行くしかないと思うのですが」
「あの岩山がゴールとは限らないでしょ」
「それはそうですが……見える範囲だと、あの山の周囲をこの湖が取り巻いてますし」
「うーん。確かにそうなんだよね。でも、畔だからって歩きやすい訳じゃないんだよ。実際この場所の横、森の木々が密集して張り出しているから多分無理よ」
「あぅぅ。いい考えだと思ったのですが」
昼食後テーブルでお茶をしながらこれからの事を相談し合っているユイカとティアの言葉を背にして、ボクは黙って遠くに見える岩山を眺めていた。
彼女達の言う通り、中央に聳える岩山を囲むように湖が取り巻いている。
流石に反対側は見えないけど、多分同じようになっていそうだ。
更にいうと、この湖はかなり広かった。
そのせいで対岸の岩山の麓すらよく見えない。
当然泳いで渡るという選択肢はあり得なかった。
ただ、何て言うか。
違和感が拭えない。
何だろう、このモヤモヤ感。
「やっぱり反対側まで行くためには、一旦外に出るか、やっぱり湖を回り込むかどちらかしか無いのでしょうか?」
「それならあの小鳥ちゃんに見てきてもらったらいいんじゃないかな。あの子、今外にいるんでしょ?
セイ君に喚んでもらえば……」
「ああっ! そうかっ!」
ユイカの言葉のおかげで、モヤモヤ感が吹っ飛んだ。
そう、事前にテンライが上空からこの森を見ているんだ。その時、この岩山の周囲には湖なんて見えなかった。
確かに遠目ではあったけど、これだけ巨大だと見えないはずがない。
なのに、今目の前に巨大な湖が広がっている。
どっちかが偽物だ。
当然この場合は湖の方が怪しい。
突然声を上げたボクにビックリしたのか、彼女達はキョトンとした顔でこちらを見ていた。
一声謝ってから、考え付いた事を説明していった。
「これが偽物の湖だとして、どうやって確認するの?」
ボクの説明に彼女達は納得のいった様子で、これからどうするか訊ねてきた。
「取り敢えずちゃんと水があるか……っと。普通に水があるね」
しゃがみこんで湖面に恐る恐る手を入れてみれば、ひんやりとした水の感覚があった。
流石に全く水がないということはないか。
「『テンライ』お出で」
手のひらに召喚陣を起動。外に待機していたテンライをこちらに喚び出す。
『ご主人たま、なーに?』
『ちょっと湖の上を調べてきてくれるかな?』
コテンと首を傾げるテンライに、湖上の調査をお願いする。
何があるかわからないので、少しでも異常を感じたら戻ってくるようにも伝えておく。
『あい。行ってきま♪』
テンライが飛び立っていくのを確認して振り返る。
「じゃ、あの子が帰ってくるまでちょっと休も……」
「あのー。もう帰ってきたんですが?」
「あ……ホントだ」
「ええっ!?」
その言葉に湖上を見上げると、確かにテンライの姿が。
何か問題でもあったのかな?
『テンライ、何があったの?』
『あれぇ?
ご主人たまがいるー?』
バサバサっとボクの肩に降りてきたテンライは、ボク達を見回した後首を傾げた。
不思議に思っているテンライの様子に、ボク達も顔を見合わせて首を傾げる羽目になった。
『何があったか教えてくれる?』
訊いてみても、ただ真っ直ぐ飛んできただけだと言う。
本人もよくわかっていないのか、その話す内容が要領を得ない。
えっと、つまりこれって?
「結界……よくわかりませんが、反転の結界じゃないでしょうか?」
テンライの思念が聞き取れるティアが代弁する。
その説明だと、湖の上をある程度進んだら強制的に進行方向が逆転して元居た場所に戻るってことだよね?
これって、湖の上をボートか何かで進んでも反対岸まで行けないという事に。
湖上でその場所を探し出して、その場所の形を調べてって……いや、無理。結界が全周囲カバーしてるに決まってるから無駄な行為だし。
「……どっかに山に繋がってる地下通路があるとか?」
「ユイカ、それ漫画の見過ぎ」
「えー。普通に可能性アリアリでしょ?」
『ねぇねぇ、ご主人たま。ご主人たま。テンライ何ちゅればいいの?』
「ちょ、ちょっと待って。今考えるから」
やる気満々ですぐにでも飛び立とうとするテンライを抑えつつ、ごっちゃになってきて頭を抱える。
ちょっとゆっくり考え直さないと分からなくなってきたし。
テンライには森の上空の調査をお願いしようかな?
でも、そっちにも結界がありそうだしなぁ。
そんな時、遠慮がちにボクの服をちょいちょい引っ張ってきたティアがいた。
その何だか言いたそうなその表情を見て、「待って」と言ったさっきのボクの言葉に、律儀に待つか言うべきかどうか悩んじゃったらしい事が窺えた。
そのせいで服をちょんちょん引っ張る行動に出たのだろう。
慌ただしいテンライに向かって落ち着いて欲しいと思って言った言葉なんだから、質問があれば気にせず言えば良いのに。
ティアのその可愛らしい行動にほっこりしつつ、
「どうしたの?
気付いた事があれば言って。正直お手上げだし」
「お兄様、精霊眼で状態を見破れませんか?」
「あっ」
ティアナイス。
すっかり状況に慌ててしまって、この眼の事を見落としてたよ。
お礼の意味も込めて、彼女の頭を撫でてあげる。
えへへと照れた笑みをみせるティアに癒されながら、そのまま視線を湖に向け、じっくりと視やる。
凝視し続けても全く変わらない。何も瞳に映らない。
違うのかな?
いや、もう少し。
ふとわき上がる違和感に従って、眼に力を込め視続ける。
と。
不意にMPが精霊眼に吸われていくのを感じた。
どんどんと吸われていく……って、ちょっ、ちょっと待ってっ!?
止まらない。コントロール出来ない。
元々そんなにMPが残っていなかったから、慌ててMPポーションの容器を取り出して補給する。
MPが無くなる寸前で、何とかそれは止まった。
あ、危なかった。こんなことで気絶するかと思っちゃった。
しかしなんで眼にMPが大量に雪崩れ込んだのだろうか。今までこんなことは一度もなかったのに。
MPが無くなる寸前で、頭痛が酷い。
ポーションのクールタイムが終わるまで我慢するしかないか。
ボクのその様子を心配そうに見つめるみんなの視線を感じつつ、目の前の空間を改めて見つめ直した。
――瞬間。
視界に今まで見えなかった魔法陣みたいな幾何学模様の何かが映った。
ビックリしてまじまじと見つめる。
これが原因なのか。
邪魔だなと思った時、瞳から力が抜けていくのを感じた。
徐々にそれら魔法陣がかき消すように消滅していく。
そしていきなり目の前の空間にヒビが入った。
「「「えっ?」」」
ガラスの割れるようなけたたましい硬質の破砕音と共に、目の前の景色が砕けていく。
大音響にビックリして左右からしがみついてきたユイカとティアを庇うように抱き寄せ、少しの変化を見逃さないよう経緯を見守る。
目の前に滲み出るように現れたのは、小さな湖の先に跳ね橋を挟んで建つ一軒の洋館。
しかも遠くに見えていた岩山がグンと近くなり、その洋館の背後にあった。
「――ファンタジー過ぎ。魔法でここまで隠せるの?」
ユイカがボクの腕の中で呆けたように呟くが、それはボクも同感。
てか、これ精霊眼持ってない人見つけられないんじゃないだろうか?
「お兄様。大丈夫ですか?
かなり顔色が悪いようですけど」
「そうだね、MPを使いすぎてちょっと辛い。
まあ取りあえず先に行けるようになったみたいだし、結果オーライだね。
今日は休もう。明日になったらボクが反対側に渡って跳ね橋を……」
「――困りますね。今度は隠蔽の結界を破壊しただけでは飽きたらず、あまつさえ侵入して仇なそうと画策するとは」
ボクの言葉を遮るように、どこからともなく落ち着いた女性の声が響く。
えっ?
仇なすって何?
ダンッ!
「一度目はしてやられましたが、今度はそうはいきません。お覚悟を」
十メートルを遥かに超える白銀の体躯を持ち精悍な顔付きをした巨狼と、その背に立っているメイド服の女性が、空から目の前に降りてきたのだった。
仕事に出る前に急ぎ予約投稿した今話。
何度も推敲してるうちに何故か1500文字ほど増える。不思議。
色々とサラッと流していた主人公の職のピーキーさを説明するのが大変(彼が自覚しないと書けないし)。
説明くさくなってたり、雑になってなきゃいいけど。
もし、誤字脱字、意味不明な文面等あればよろしくお願いいたします。




