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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
みこミコぶらり旅
48/190

48話 ウネウネ?

どの程度まで……と相当迷いまして、結局後の事を考えた結果、最後の部分を少し変更しました。(6/18 18:20現在)


17話と18話加筆しました。エフィ等精霊の顕現化に対するMP消費量をレベル増大型から固定数型に変更させていただいてます。

 ボク達はその森の外周にある結界の側に立っていた。

 上から見た感じだと、だいたいビギンの街くらいの大きさかな。


 この森と中央に(そび)える岩山へとテンライを派遣してみたものの、不思議な膜のようなモノで森ごと覆われており、テンライだけの突入は躊躇(ためら)われた。

 一応ぐるっと一周して貰ったものの、入り口らしきものも切り開かれた道もなかった。


 外からみる感じでは普通の森なんだけど、シンと静まり返っていて生命の波動を感じる事が出来ない。

 近寄って精霊眼で詳しく視てみれば、人の認識を逸らすようなタイプの結界である事が分かった。

 ボク達に、いやユイカにも効かなかったのは、この森がここに・・・ある・・とはっきり意識して向かってきたからだろう。

 森の中の様子は、結界で遮られているせいか音も聞こえず、見えている範囲しか分からない。



「どうやったら入れるの?」


 ここまでのボクの説明に、ユイカが質問の声を上げる。

 ボクも迷ってはいるものの、精霊眼で視る限り害は無さそうだし……。

 取り敢えず、普通に入ってみようと思う。


「一応普通に通過出来るよ。入った瞬間分断されないように、手を繋いでおこうよ」


「う、うん。ありがと」


 ユイカに向かって差し出したその手を、はにかみながらおずおずと握ってくる。

 そんな彼女の笑顔に内心ドギマギさせられながらも、なんとか平静さを装って、二柱(ふたり)に指示を出す。


 手を繋げないハクが分断されたら困るので、彼女はボクの中へ入ってもらう。

 テンライの処遇は迷ったけど、何かあった際の外の変化を伝えて貰うために、この場所で待機してもらおう。

 いざという時には、MPマナが掛かるけど、召喚でテンライを呼び寄せたらいいだけなので問題はないからね。



 意を決して、ユイカと二人で外と内を隔てている結界を通り抜けると、急に目の前に右側に蛇行していく道が現れた。

 外から見た時には無かった道に、早くも神経を尖らせる。


「いきなり道が現れたね」


「どこへ通じているのかな?」


 慎重に周囲の様子を窺う。

 外から見た時は全く分からなかったのに、今は森のざわめきに紛れて、数多くの生命が活動している様子がうかがえる。

 猛獣のたぐいがいたら困る。とっとと進もうか。


『ハク、護衛お願い』


 ハクを呼び出し、護衛を頼む。

 ボクとユイカ二人とも魔法職だからね。やっぱり近接が出来る信頼のおける仲間が欲しいなぁ。


 ミィンの町に残ったレント達。

 彼らは今頃どうしてるのだろうか?

 そんな感傷的な想いを抱きながら、道なりに奥へと進み出した。




 しばらく歩いていると、左右の茂みから数匹の黒い影が飛び出してきた。

 襲ってきたのは、狼の形をした一メートルくらいの岩のゴーレム。

 ロッククリーチャーの亜種。いや、こっちが本来の姿か。

 外にいたロッククリーチャーは、こいつらの成れの果てなんだろう。


 ハクが襲ってきた1体に体当たりをして吹き飛ばす。

 精霊眼で見る限り、こいつらには〔自爆〕と〔再生〕のスキルがなかった。

 大きさ的にも外にいた奴等よりは強いんだろうけど、なまじ狼の形をしているせいかその行動は読みやすい。簡単にあしらえると思ったその時だった。


 ゴーレム狼の突進を避ける為に道の端に寄った時、後ろから右足に何かが巻き付いた。


「ぇ?

 ――ぶべらっ!」


「セイ君っ!?」


『お兄様っ!?』


 物凄い勢いでいきなり足を上方向に引っ張られ、こらえられるはずもなく顔面から地面に激突する。

 受け身も取れずに地面に倒れ込んだボクが悶絶している間に、更に左足にもゴムのような感触の何かが絡み付いて。

 森の方へと引き(ずら)られて、更に上に引っ張られた。


「ひっ、ひゃぁあぁぁ!?」


 一瞬ウツボカズラのような形状の植物モンスターの姿が目に入ったけど、すぐに視界がスカートで遮られる。


 この態勢ちょっと待ってっ!?

 お腹までめくれてる、捲れてるってば!

 足開けようとするなぁ!


「あ、今日は白のレースだ……」


「わっ、うわぁっ!?」


 パッと咄嗟にスカートを押さえるけど、体勢的に完全に無理っ。

 てか、『今日は』って何!?

 ホットパンツ型の黒インナーを設定したはずなんじゃ!?


『そ、そういえば、お兄様。

 この前精霊女王エターニア様が、お兄様の見た目が野暮やぼったいインナーが気に喰わないらしく、『女の子ならオシャレと身嗜みだしなみには気を付けないと』って、チェンジするたびに女性用下着に変更する機能を付けたって言っておられました。色や形状も毎回変わるそうです』


『なっ!?』


 パニックになり始めたボクの思考に感化されてしまったのか、ティアまで状況にそぐわない説明を始めてきた。

 混乱しているティアの説明に絶句するボク。



 インナーは外せないと当たり前のように思っていたから、今の今までそんな事全く気にしていなかった。

 改めてそう言われてみれば、精霊女王エターニア様に貰ったこの加護衣に、下着までが付いてた事を再度思い出す。

 普通、ホットパンツを上に履いてるモノと思うじゃない!?


 まさかその時から!?


 確かにさっき慌ててスカートを押さえた時も、今こうしてスカート越しに恐る恐る腰やお尻のあたりを触ってみても、確かにホットパンツらしきモノの感覚がない。



 今までの行動を振り返り、嫌な汗が噴き出してきた。


 ミィンの町とかでも、レントを始め皆の前でも気にしてなかった。

 普通に階段を昇り降りしたり、歩くの面倒な時は空中移動したりと、スカートだという事を忘れて行動しちゃった時あったんだけど。

 そっちも、もしかして?



『あと『変身中の下着は防具破損(アーマーブレイク)システムのせいで、破損・・しない(・・・)ように(・・・)作れ・・なかった(・・・・)から気を付けてね』っておっしゃってました。

 それと、念じたり水場に入る事で自動的に『水着モード』に変わるように、インナーと同じ機能を加護衣このふくに付けたそうです』


 あの精霊(ひと)なんて事をっ!!

 ムンクの叫びみたいに、心の中で絶叫するボク。


 何故か脳裏に、『いい仕事をした』みたいにグッドサインを出している精霊女王エターニア様の姿を空目そらめする。



 そもそもR15のボクじゃインナーが脱げないはずなんじゃ……って、まさか自分で脱いで履き替えていないから、新しいインナーとして認識されてる?


 そういや、あの時動画に映っていた『見えちゃいけないモノ』って、インナーだと思って平然としてたけど……まさかホットパンツじゃなくて……。

 ボ、ボボボクの女の子用のし、下着だったとかっ!?


 そ、それが動画で……?

 みんなに見られたのっ!?



 ティアの聞きたくなかった説明に、完全に周囲の状況を忘れて悶絶する。

 あの時『看守さん』が焦っていた事の本当の意味に、ようやく理解が及ぶ。そりゃ慌てる。

 くっ。ちゃんとあの時聞いとけば。


 それに逆さ吊りのせいもあってか、頭に血が登ってしまって、思考が瞬間沸騰して何が何やら。



「早く脱出してっ!」


 ユイカの悲鳴じみた叫びに、思わずハッとして顔を上げれば、触手のようにうねうねと動いているつるが目の前に。


 そう、見てしまった。


 そのゴム質で光沢のある太い(つる)が、大量にこちらに向かって来て……。

 

 ウネウネとした……蔓……?

 ……みたい……あの時の……?


 うねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうね……。


 プツンッ。


「いっ、いやあぁぁぁぁぁっ!!」


 湧き起こる生理的なおぞましさと嫌悪感がボクに止めを刺し。

 完全にテンパってしまい、女の子のような悲鳴を上げてしまった。




「あ、あっちいってよぉ!」

 

 精神年齢が退行したみたいな悲鳴がでる。

 半泣きになりながらも、使い慣れた風の刃をめちゃくちゃに叩き付けていく。


 だけど、こちらに向かってくる蔓を弾き飛ばす事は出来ても、切断までには至らない。ゴムみたいに伸びて受け流されるだけで、全く斬れない。

 本体に飛んだものもあるけど、こちらも同様に弾性があって、ふにょんと変形して受け流されてしまっている。


 ウネウネしたモノへのトラウマと、段々とこの植物の本体に垂れ下がっている消化袋に運ばれていく恐怖に、頭の中がパニックになってしまっているせいもあって、力の練り込みと集中が上手くいっていない。


 ひいっ、このままモンスターに食べられちゃう!?



「『ファイア』っ!

 やっぱり見た目通り、火が弱点だよ! ゴムの焼けた部分の蔓狙ってっ!」


 あ。


 火が弱点。

 焦るあまり、鑑定する事すらすっぽ抜けていた自分が恥ずかしくなる。


 聞こえてきたユイカの声に、ボクはなんとか少し落ち着いた。

 ユイカは状況を見据えて、的確に対応してくれている。

 ゴム質の蔓が『ファイア』であぶられたおかげで硬質化し、弾性を失っているのが見える。 


「こ、このぉっ!」


 視界に入らないように目を閉じながら、その部分を精霊任せで風刃で攻撃。

 さっきまでとは違い、ザクリと蔓が斬れ飛ぶ。


 中空に投げ出されたボクを、狼を全て叩き潰し終わったハクが下から掬うように、その背で受け止めてくれた。

 

 おのれ変態生物、許すまじ!


 距離を取ってくれたハクにしがみ付きながら、ウネウネする蔓の部分を認識しないように瞳の焦点を外しながら、本体を親の仇のように睨み付ける。

 


名 称:ウツボゴムカズラ(植物)

状 態:普通

スキル:蔓鞭 消化液 斬撃耐性(限定) 再生(限定)

弱 点:火に弱い


〔特記事項〕

 動く生物を捕らえて絞め殺し、袋状の部分に詰め込み溶かして食べる捕食植物。なんでも食べる上、動く生物の足を縛って吊り下げてから、もてあそぶ性質がある。

 耐刃ゴムのような弾力があるせいで斬撃にはめっぽう強く、たとえ斬れてもすぐに生えてくる為キリがないが、焼くともろくなり、再生することもない。

 焼かずに倒すと、良質のゴム原料が取れる。



 駄目な部分ウネウネが存在したとはいえ、ちゃんと落ち着いて視てみれば楽に倒せたのに。

 てか、この変態生物とっとと潰す!


「『ファイアウォール』!」


 炎の壁を出現させる元素魔法を、ユイカがゴム生物のいる所に出現させる。

 焼かれて暴れ出すウツボゴムカズラを、ボクは目を閉じたままビシッっと指差し。


「――動くべからず せ 潰せ 巨人の掩撃えんげき


 範囲を限定的に設定し、自然界ではありえない程の強烈なダウンバーストを発生させた。

 あたかも空気の巨人が天から大地を殴りつけたかのような衝撃。

 大気の重圧が大地を圧し潰し、クレーターを作る。

 炎を浴びて脆くなっていたそいつは、完全に圧し潰されて砕け散り、跡形も見当たらなかった。


 ウネウネあくは滅ぶべし。




「ほらほら、もういなくなったから。セイ君、大丈夫?」


「……もうヤダぁ。帰りたいよぅ」


 ようやく戦いが終わり、気が抜けたようにペタンと両足の間にお尻を落として座り込む。

 もう嫌だ。ここから出たい。帰りたい。

 子供みたいな泣き言が思わず出てしまうくらいに、精神的に疲弊してしまっていた。



 あの騒ぎを察知したのか、奴らはわらわらと集まってきた。

 這い寄ってきて、地面を埋め尽くす大量のウツボゴムカズラ達。


 それをつい見てしまったボクは、完全にパニックになった。

 ユイカが側にいなければ、間違いなく気絶していた自信がある。

 情けないのは自分でも分かっているけど、こればっかりは勘弁して下さい。


 ユイカが半泣きのボクを励ましながら焼き払っていく中、焼いた焼いていない問わず、ボクは過剰なくらいウツボゴムカズラに攻撃を加えていく。

 辺りの木々をなぎ倒し、大地をクレーターだらけにした甲斐があって、ようやくアレが見えなくなり、今一息つけたのだった。



 うーん。もう帰ってもいいかな?

 もうアレを見るのも嫌なんだよ。

 あの、どうしょうもないくらいウネウネとした蔓が、うねうねうねうね……。


 忘れたいのに思い出してしまい、ゾクリと再び鳥肌が立った。


 あの事件から生理的にダメなんだよ。

 ミミズとかウナギとかイソギンチャクみたいに、テカテカしてたりぬちゃっとしてそうな、ああいうウネウネしたもの。

 一、二匹くらいなら大丈夫なんだけど、大量にウネウネしてるともう駄目だ。

 

 

「――ねぇ。ユイカ」


「うん? なーに?」


「あいつ滅ぼしたい。今すぐこの森ごと吹っ飛ばしていいかな?」


「ダメに決まってるでしょ」


「うー」


 唸る。

 そんなボクを宥めるかのように、ユイカはボクの頭を撫でてくる。

 う。完全に子供扱いされてる。

 確かにワガママ言ってる子供状態だなぁ、今のボク。



 うねうね触手事件。

 それはボクがまだ小学校に入り立ての頃、兄さんが借りて来たVRホラー映画をなにも知らないで見てしまい、それ以来こうなった。


 ゾンビはまだいいんだよ。

 問題はその映画で出て来たアノ生き物が……色んな所で飛び出て、物語の主人公に襲い掛かる大量の触手のおぞましさに、恐怖が許容オーバーしてから、うねうね動くものが全く駄目になってしまった。


 当時、ボクの悲鳴を聞き付けてユイカが駆け付けてきた後、おろおろする兄さんに説教始めたユイカ。

 そんなユイカに甘えてしまって以来、彼女に対して色々強く言えなくなってしまったような気がする。



「ホントユイカがいてくれて助かるよ」

 

「ううん、セイ君にこうして頼られるのは嬉しいんだよ。それに女の子になったせいかな?

 反応がもう可愛すぎて、思わず画像スクショをたくさん撮っちゃったから、お兄に見せようかと……」 


「やめてっ!?」


 ニコニコと笑うユイカに、ボクは戦慄する。

 鬼だ。鬼がいるっ!

 ヤバい。ユイカがイジメっモードにっ!?

 

「冗談だよ。そんな大事なの見せるわけないじゃない」


「本当?」


「本当だよ」


「本当に本当?」


「うんうん。永久保存版だから『エルフちゃんスレ』に投稿……」


「ちょっ!?」


「ほらほら冗談だってば。今までだって本気で嫌がる事した事ないでしょ」


「ホントに止めてよね」


 よしよし、と撫でてくるユイカに、不貞腐(ふてく)れたような態度をとってしまう。

 

「――むぅ。ノリにのっかかったボクもボクだけど、なんでまだ子供扱いするのさ?」


「だって今のセイ君、いじけちゃってすっごく可愛いんだもん」


「えー可愛い言われても困るよ」


「まあそれは置いといて。

 今回のアレは仕方ないよ。あたしでもあれだけの量は気持ち悪かったもん」


 ムスッとしてそっぽを向くボクに、ユイカもそう言って慰めてくれるけど。

 この先、ヤバそうだなぁ。このエリア。

 

『お兄様も、その、えっと……苦手なモノがあったんですね』


 当たり前です。

 ティアも人を何でも出来るみたいな超人みたいに言わないで欲しい。

 アレ・・は精神崩壊レベルで駄目なんだよ。



 さっさとこの森の調査終わらせて帰ろう。

 ここはボクにとって死地だ。


 ユイカとティアに慰められながらも、とある決意をする。

 

 もし次奴らが大量に来たら……。

 ついうっかりという事にして、MPマナ全開で森ごと吹っ飛ばしてやる。

 そうしよう。



 彼のウネウネ嫌いは相当なもので。

 よくテレビで見る、木のタライに大量に入っている生きたウナギ。あれを見るだけで卒倒するレベルです。


 後戦闘ですが、のんびりしてる時の彼はこんなもんです。



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