45話 貰ったモノは
掲示板騒ぎの時のセイ君視点と、説明回です。
また、14話まで加筆とチェックを終了しています。
(13話はサブタイ変更しています)
ギャラリーから逃げるように旅立ってすぐのこと。
いきなりメールが大音響で、しかも『監獄精霊看守ちゃん』の名前で着信したのを見て首を傾げる。しかもそこには『大至急』の三文字が。
同じ精霊のティアに訊いてみれば、自分達精霊やボク達のようなプレイヤーを監視観察している精霊だとの回答があった。
通達という形で命令されることは過去にあったらしいけど、普段は会う事もないらしい。当然きちんと顔を合わせて話したことはないとの事で、彼女もよくわからないという。
『監獄』という名前やティアの話だと、何だか物騒な精霊なイメージがするんだけど?
ちょっとビビりながらもメールを開いてみれば、どうやら運営絡みのメールであるらしかった。
その事にホッとし、書かれている内容を確認する為開封した。
開くとそこには『PvsP戦の観戦モードにおける動画配信の不手際について』とのタイトルが。
内容を読むと、そこには先だっての戦闘の動画が配信された際に本来なら映ってはいけないものが映ったみたいだ。
それを見た掲示板の住民が大騒ぎしたそうだ。運営は動画が広がる前に手を打つため、現在対応中との文言があった。
更にメールの最後には、『今回の事態を重く受けとめ、個別に謝罪を行いたく思います。またお詫びの品も用意いたしました。ご足労をおかけしますが、よろしくお願いたします』と書かれていた。
映ってはいけないモノってなんだろう?
水龍で男を嚙み潰した時のエグい画像を直視した人からクレームでも出たんだろうか?
それだとお詫びの品ってのがおかしいし、よくわからない。
「ちょっと『ハク』ストップ。運営からなんか招待されているから行ってくるね」
「何の話?」
走るのをやめて立ち止まったハクから、ふわりと飛び降りる。
乗ったまま振り返って訊いてくるユイカに、運営から届いたメールを可視化して見せる。それを見たユイカも飛び降りてきた。
「ふたりとも休んでてね」
そう伝えて、ボクはメールにあった『押してください』とあったボタンを押し込んだ。
「お待ちしておりました。セイ様。
運営の直属の監獄精霊として世界の調整等行っています、『看守ちゃん』と言います。
あら、雷鳴の精霊ちゃんまで来たのですか?」
『はい、お久しぶりです。看守様』
「初めまして。よろしくお願いします」
ボタンを押した瞬間、瞬時に目の前の風景が切り替わり、チュートリアルを行ったところのような、何もない殺風景な光の部屋に出現していた。
目の前には、ASのPVで見たプレシニア王国の軍服に似た服装をした女の人。天使の羽のような1対の白い翼を生やした彼女は、こちらを見て軽く頭を下げてきた後、そう挨拶してきたのでこちらも真似をするようにお返しをする。
ティアは精霊化したままだったから、一緒に来てしまったみたい。声を掛けられたティアは苦手意識があるのか、彼女の言葉に緊張している気配がボクに伝わってくる。
しかし『看守ちゃん』ってなんて適当な。
ボクから見たら『看守さん』なんだけど、それは言わないほうがいいんだろうなぁ。
「セイ様、今回の件こちらの手落ちにて不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。
問題画像は記録されたモノ全ての修正を始めております。流出も今のところはないという事で、お詫びの品といくつかの対応について相談したく呼ばせていただきました」
「その事なんですが。その動画の修正をしていただけているなら、ボクとしてはもういいですよ」
そもそも何が駄目だったのか、全く知らないんだけど?
それに修正始めているなら、もう大丈夫なんでしょ。わざわざ人の粗探して、騒ぎ立てる趣味なんてないし。
首を傾げながら言うボクの言葉があまりにも意外だったのか、彼女は「え……?」と目をパチクリさせる。
「あ、あの。公式掲示板で不適切なコメントが飛び交う羽目になってるのですが、その原因をご存じで?」
「掲示板なんてもう見てないし、これからも見るつもりもないです。この件も修正されたなら、もうどうでもいいです。
――あ。あえて言うなら、掲示板の不適切コメントも警告と共に消して下さい。しつこい人はそちらでお任せします。
あと、それってボクも処罰対象です?」
「い、いえ。セイ様は何も悪くはありませんが……」
「よかった。では対応よろしくお願いします」
お辞儀して伝えたボクの言葉に、彼女は何故か絶句して完全に固まったようだった。
『こういう方なんです』
ティアの言葉に、看守さんは再起動したようだった。「うそぉ、あり得ない。せめて訊くか文句言うでしょ」とか思わず呟いちゃっているのが聞こえる。
この耳いいんだから聞こえているよ?
失礼な。
自分の知らないところで勝手に始まって、もうきちんと対応されて終わっている事なんでしょ?
それを不必要にわざわざ蒸し返して文句言うとか、好きじゃないんです。面倒なだけなんです。
「で、では、お詫びの品の方ですが」
「そっちもいらない……」
「ダメです!」
「えー」
遂に大声で叫んでボクの言葉を遮ってきた看守さん。「や、やりにくいです。この子」ってボヤいている。
だからこっちまで聞こえてるってば。全く失礼な。
もう何の実害もないんだから、何も行動していないのに自分だけモノまでもらうのは、ちょっとズルしてるみたいでやだなぁ。
「兎に角、一つ選んでください。絶対ですよ、決定事項ですからね!?」
語気を荒げて訴えてくる看守さんに、思わず後ずさりする。
そんなボクの目の前に一枚の黒色のカードが現れ、浮かんでいる。
「それが『リストカード』です。戻ってからお使いください。
手に持っていただいて『システム起動』と宣言すれば使えます。
絶対に使って下さいよ!?」
しつこく念を押してきた彼女の勢いに押されて、コクコクと頷く。
ボクがそのカードを受け取ったのを見て、ホッとした表情を見せた彼女。
「では、元の位置にお送りします。この度は御足労いただきまして、ありがとうございました」
一礼し薄れていく彼女に、こちらも思わず黙礼を返し。
ユイカとハクの待つ世界へと戻ってきた。
「うひゃわっ!
……は、早かったね」
何かを見ていたユイカがびっくりした声を上げる。見ていたメニューのプレートをパッと隠すように消して、慌ててこちらに振り向いてきた。
一体どうしたんだろう?
「終わった話にあーだこーだ言うの嫌だったから、全部向こう任せにしてきた……って、どうしたの?
なんか顔真っ赤なんだけど?」
「べ、べべ別に何でもないよ!?
それより何貰ったのっ!?」
誤魔化すようなユイカの態度に首をひねるものの、まぁいいかと、貰ってきた『リストカード』を見せる。
「これだよ。一緒に見よう」
伏せて休んでいるハクの傍に二人で座ってもたれ掛かりながら、言われた通り手に持って起動させる。
ボクの音声認識に従って黒いカードが宙に浮き、光と変わる。それと入れ替わるように、目の前に多数の品物が羅列されたプレートが出現した。
そこにはSPを筆頭に、スキル書から魔法書(共に中級みたい)、ミスリル鉱石を始め見たことのない素材セットまであった。
自分の努力でとれた報酬なら喜びながら選ぶんだけど、やっぱり何だか気乗りがしない。
「どれ選ぶの……って、なんか嬉しく無さそうだね」
「そりゃね、棚ぼたで押し付けられたモノだし。ボクはいらないからユイカに上げる。選んで」
「えー。セイ君のでしょ。今回だけはあたしが貰うわけには……」
ゴニョゴニョと、最後の方が歯切れが悪いユイカに疑問符を浮かべたけど、二人とも要らないとかどうしよう?
レントにスキル書を押し付ける案も出たけど、あいつも妙に察しがいいから、絶対返品してきそうだしなぁ。
やっぱり世話になっている源さん夫婦に、素材としてプレゼントするのが一番かな。
金銭的な負担なしで色々作って貰ってるんだし、そうしよう。
その事をユイカに提案すると、彼女も二つ返事で頷いた。
ただ、あんな事があったバライスのギルドにはすぐ戻りたくないので、先に奥地に行ってからだね。
リストから『スペシャル鉱石セット』なるモノを選択し、その場に実体化させる。多種多様な鉱石が大量に出現して、ボクの目の前の地面にうず高く積み上がっていく。
それをユイカに頼んで、彼女のインベントリーに入れていく。
ボクは触らない。いや、触りたくない。
精霊化していない状態であれば、純度の低い鉱石の段階なら持てるし大丈夫なんだけど、ミィンで源さんが精練し冶金した高純度の鉄鋼の塊を何気なく素手で直接触った時は、それはもう酷い事になった。
その時、レベル上げのためにティアと精霊化していた事も、事態の悪化に拍車をかけたみたいだ。
触った瞬間、その手が一気に火傷みたいに爛れて腫れ上がり、不意に喰らった激痛に気絶してしまって大騒ぎになったのよね。
あの戦いの後にコードを弄って『痛覚設定』を『五十%カット』に切り替えたばかりだったから、急激な痛みの量の変化に、ボク自身が慣れていなかった影響もあると思う。
この時まで、ボクの種族特性のデメリットがここまで酷いとは思わなかった。鉄製をはじめとする金属武器で攻撃されて傷付くようなことがあれば、間違いなく他の人よりヤバいことになる。
前に源さんが作った鈴を触ったことがあったけど、あれは柄が木製だったのと、精霊化していなかったから持てただけだと思う。
試しに精霊化した状態で柄を持とうとしたら、手を近づけただけで悪寒が走り、もう触れる気にもなれなかった。
当然この事を知ったみんなから、絶対に周囲にバレない様に気を付けろと、しつこいくらいに念を押された。
自分の事だ。言われなくても流石に気を付けるつもり。
この体験以降、もう鉱石系は触りたくない。
もう一種のトラウマだよね。
これが鍛冶の町ミィンから逃げるように旅立つ切っ掛けになったんだよなぁ。
ボクが今まで持っていた調理器具は、安物だったおかげで金属製品じゃなく、モンスター素材製品だったみたい。
包丁はともかくとして、フライパンや鍋とかどうなってるんだろうと調べてみたら、何か分からない名前のモンスターの甲羅だったし。確かに最初見た時、金属っぽくないなぁと思ってたけど。
フォークやナイフを始め、更には家屋のドアノブや手すり。
今後ボクの前に金属製品が出てきたら、マツリさんが作ってくれた手袋をはめないと、精霊化してなくても安心して触れられない気がする。
今まで見てきたそれらは全て木製やモンスター素材ばかりだったから、今の今まで表面化しなかったんだろう。
レント達は、古代森精種の金属不可のデメリットが、御子の職業特性と精霊化によって更に悪化したんじゃないか、と言っていた。
それが、この世界の日常生活に影響する程のデメリットに発展することになるとは、思いもよらなかったよ。
セイ君は検証するような子じゃないので、軽く補足しておきます。
森精種ではこのような事は起こりません。普通に金属も触れます。
通常の古代森精種では、流石に触っただけで火傷するようなことは起こり得ません。ただ、必要以上に重く感じたり、その影響で身体能力が下がったりするだけです。
精霊化をしているときに触ったおかげで、セイ君はかなり神経質になっちゃっています。また御子の職業特性として、通常より精霊に近くなっていますので、更にデメリットがきつくなっています。
また精霊化(雷)は特に相性が悪いので仕方なし。




