42話 決闘? いえ○○○○です
お待たせしました。
あと、9~11話も加筆して置き換えました。
大体で各話600~1800文字くらい増えています。
思ったより早く戻ってきたギルド職員から、相手側のいろんな話を聞くことが出来た。
今回の処遇だけど、当然こちらにはお咎めなし。向こうはギルドの奉仕活動という名のお仕置きとなった。
……ただね、やっぱりというかなんというか。
「相手が納得してなくてね。獣人種流の決闘で白黒はっきり着けようと言ってるんだよ」
済まなそうに伝えてくる。
まだ何がいけなかったのか理解していない彼らに、職員さんもげんなりしているようだ。
今度は、決闘ってなんか変な話が出てきたんだけど?
職員さんが言う獣人種流の決闘っていうのは。
簡単にいうと、トラブルで解決が見込めない時、月の精霊の名に誓いを立て、正々堂々と決闘して勝った方の意見が通るというものだそうだ。
……。
……はぁ、頭痛い……。
力の強い奴の我が儘が押し通るだけの悪法じゃないか。
それでチーム戦を行って自分達が勝ったら仲間に入れとか、あの人たち頭が悪すぎない?
そもそも仲間って、そういうものじゃないでしょうに。ファッションか何かだと思っているのだろうか?
「知りません。やりません。断って下さい」
勝っても負けても禍根を残しそうな戦闘なんか、好き好んでしたくないんだけど?
しかも、ボク達が勝っても何も得することがないときたら、やるだけ無駄ってものでしょ。
ボクのその言葉は予測がついていたんだろう。職員さんは大きくため息を吐き出した。
「相手が無茶言っている事はこちらも理解しているけれど、やはり無理ですかね?」
「勝ったから仲間に入れとか、旅の仲間ってそういうモノじゃないでしょう?
配下とか舎弟とかのノリならわかりますけど。
それにボク達のような後衛職2人に対して、自分達前衛近接職の4人と闘ってくれとか、相手の頭大丈夫ですか?」
当然ハクの事は言わないよ。今後何が起こるかわからないので、手札は極力隠しておくに限る。
レントならきっとそう対応するんじゃないかな。
「君もなかなか辛辣だね。まあ確かにそうなんだが、やはり獣人種の決闘は、君みたいな森精種の民から見るとおかしいかい?」
少し返答に詰まる。
森精種の住民に会った事がないし、どんな性格の民か知らないから答えにくい。
少し迷った後、
「ボク自身の意見としては、時と場合によると思いますよ。
部族対立が起こってどうしようもない時、代表戦士同士で白黒つけようとかならまだわかります。
ただ、個人の主張にこの制度を使うのは、片側の弱者に強要するような事態にしかなってないですよ」
「……貴重な意見ありがとう。規則とはいえ、拘束しちゃって悪かったね。
彼らは奉仕活動が終わっても、この街にいる限りギルドの監視が付くことになっているから、君達に迷惑はかけない。約束しよう」
「この街だけですか?」
「彼らの素行次第だね。反省していないようなら、他のギルドにも報告することになる。そうなれば、どの街でも監視対象になるよ」
「対応ありがとうございます。最後に一つだけいいですか?」
「私に答えられるものなら、お詫びの意味も込めて答えますよ」
「月の精霊様の神殿か祭壇、どこへ行ったら存在するかわかりますか?」
ボクの口から出た問いに、彼はビックリしたような表情を見せる。
さっきティアと話していた時、かの精霊にちょっと興味が出てきたのよね。
ちょっと迷った後、少し考え込む仕草をしたのち、彼は口を開いた。
「――祭壇や神殿といった話は聞いたことがない。ただ、この谷を更に奥に進んでいくと、獣人種の生誕の地という聖域があるそうだ。そこに気まぐれで降臨されるという噂が伝承として残っている」
「そこへ通じる道のりは?」
「言えない……。というよりも、誰もわからない。
一度行った事がある者もいるのだけど、彼らも道に迷った挙句、偶然辿り着いたと言っている。そして2度その地に行けた者は誰一人としていないんだ。
これはあの方が出している試練の一つじゃないかと、我々は見ている。道のりも場所も分からない。会えるかどうかも保証できないけど、それでも行く気かい?」
「もちろん。単なる興味本位ですけど、挑戦はしてみますよ。貴重な情報ありがとうございました」
彼にお辞儀をして、ユイカと共に部屋を出て行った。
「……濃密な精霊様の気配を纏っている森精種の少女なら、この試練どうなるんだろうね」
扉の閉まる音に紛れて、彼のそんな呟きが微かに耳に届いていた。
「ねぇ、セイ君。ホントに奥地に挑戦するの?」
冒険者ギルドを出たボクの後ろを黙ってついてきていたユイカ。宿まで待てなかったのだろう、人通りが少なくなったのを見計らって声を掛けてきた。
「言った通りだよ」
「でも危険だって」
「ちょっと見に行くだけだよ。それに可能なら訊こうかと思って。エフィの事」
あんまり大っぴらに喋る事でもないし、どこの誰かも分からない人間に聞かれたくない。ユイカと密着するように近付いて会話をする。
色々言葉を省いたその言葉で、ちゃんと理解してくれたようで。ユイカの方から更に近づいてくる。
「すぐに出るの?」
「何日かかるかわからないから、しっかり準備してから行こう。無理はしないから。何か危険があれば、すぐ引きかぇすみゅ。
……な、なにするのさ?」
いきなりボクの両頬をむにゅっと摘まんできたユイカに文句を言う。
「嘘ばっかり。人の事だと、どこまでも無茶して行く癖に。
――危ないと思ったら、あたしを置いて行く癖に」
言葉に詰まる。
確かに理屈じゃわかってるんだけど、勝手にやっちゃうんだよね。
「ちゃんとあたしを連れてって。どこでも、何があっても付いていくから。それが条件」
「けどそれは……」
「置いてったら、一生付きまとうからね?」
「そこは普通絶交するって言う場面じゃむぎゅぅ。いふぁいいふぁい、ふぁふぁしてごふぇん」
伸びる伸びるって、頬っぺたがぁ。
半涙目になりながらも意地になって引っ張ってくるユイカを、慌てて宥める。
「ちゃんと連れてってくれないとヤダ。もう昔みたいに置いていかないでよぉ」
「……あ」
ドキリと心臓が跳ねる。
やってしまった。
結衣の言う昔という出来事に、ボクは正直心当たりがない。頭の怪我をした時の前後の記憶がないから、多分その時の事なんだろう。
ただ、今回のボクのはっきりしない発言と態度が、彼女のトラウマを再度誘発させてしまった事に後悔を覚える。
当時、幼心ながら守っていくと決めたのに、何やってるんだろう。
「ちゃんとついて来てよね。ボクが前を歩くから、後ろを守って欲しいな」
「……りっ君?」
「絶対にはぐれないでね。一緒に行こう」
「――っ。うんっ!」
弾けるような笑顔を見て、決意を新たにする。
ずっとこの笑顔を守っていこうと。
翌日、ボク達は入ってきた門とは違う、正反対にある裏門の外にいた。
必要な用意は昨日のうちに、二人一緒にこなした。各種ポーション類や食糧といった物資を分け合う。基本的に食材は自前で作れるボクが持ち、調理済みの食料はユイカの担当。褒賞でもらった薬はきっちり半分に分けた。
そしてその日の夕方には、みんなで宿に泊まってのんびり過ごした。
本当は2、3日まったりしたかったけど、目的が出来た以上、先に進みたい。
エフィと同格である月の精霊に会うことが出来れば、未だ眠り続けているエフィを早く目覚めさせられるかもしれない。
挑戦する価値は、十分にあった。
そうして朝気合いと共に早起きして、皆で連れ立って裏門から出てみれば……。
「よくもてめえら、コケにしてくれたな」
昨日の奴等が堀を渡ったすぐ先で、行く手を阻んでいたのだった。
奥に続く街道を遮るように陣取っている奴等の中に、前回キエルと名乗っていた元同級生はいなかった。
何でいないのかは知らないけど、面倒が一人分減ったのは喜ばしい……なわけない。
ホント何なのコイツら。またコレなの?
正直もう関わりたくなかったから、早朝出発したんだけど?
ギルドの中でもそうだったけど、ここも街のすぐ側だから、朝早いのに往来が多い。
どうしてこういう奴等は、わざわざ人目の多い所で騒ぎを起こしてくるのだろうか?
また目立ってるじゃないか。
相変わらず何か喚いている三馬鹿に、いやいや精霊眼を合わせる。
覚えたくないので名前はスルーし、プレートの色をチェック……オレンジ?
そういえば、ギルドの職員さんが保護観察処分にするって言っていたっけ。つまり、要注意人物カラーかな。
赤になってたら、遠慮しなかったんだけど、どうしよう?
『御子様、主様。何ですか、この痴れ者は?』
ボクの左側に非実体化して待機していたハクが、不機嫌な思念で唸る。
ハクは昨日の騒ぎの時、ボクの中で寝ていたからなぁ。誰もが蒸し返したくなかったから、今まで知らなかったのは当たり前か。
『昨日もお兄様を侮辱した愚物です』
右側に寄り添っていたティア。こちらも不機嫌極まりない思念を発して……。
ええっと、あれ?
二柱ともいきなり何を?
『――じゃあ殺りますか?』
『ええ、ハク。今まで生きてきた事を後悔させてあげ――』
『待って待って、二柱とも待って!』
慌てて止める。
別にこの三馬鹿がどうなってもかまわないんだけど、赤ネーム以外に手を出させてこの二柱を汚させたくないし、そもそもそんなことしたら堕ちてしまう。
流石にPK職の奴等と同じレベルになりたくない。
周りの人々も遠巻きに見てるだけ。
巻き込まれたくないんだろうけど、これがアーサーさん達だったら……。
そんな考えが脳裏によぎってしまい、振り払うように首を振る。
確かに彼らなら、何も言われなくても助けに入ってくれるだろう。
でもこれは自分達の問題だし、人任せにしたくない。
それに……。
「――ユイカ、いいかな?」
「あたしは言ったよ。何があっても、ずっと一緒についていくって」
ボクの主語を抜いた問いに、答えてくれる。
覚悟を決めた。
ユイカ達がボクを悪く言われている事に怒っているように。
仲間を悪く言われ続けて、いい加減ボクも我慢の限界だ。
「――いいよ。やろうか」
「……は?」
自分勝手に喚き散らしていた男達を遮るように宣言すると、ステータスメニューからPvsP戦の項目を開き、二種類あるモードのうち『実戦モード』を選択する。
もう一つの『模擬戦モード』と違って、なんでもありの制限無しのルール。
当然そこには『降参』なんてぬるいものは存在しない。相手が全員死に戻りするまで続けられる、正真正銘のガチバトルモードだ。
「もちろん行うのは『実戦モード』のPT戦。死に戻りしたくなかったら、今のうちに尻尾まいて逃げたらいいよ」
挑戦状を叩きつけ煽るボクに、奴等はいきり立つ。
「誰が逃げるかよ!」
「マジで勝てると思ってやがるのかよ。腹いてぇ」
「生意気な後輩にはしっかり教育しないとなぁ」
恐らくこうなるように仕向けたかったんだろう。狙いが上手くいったとばかりに、下卑た笑みを隠そうともしないで、あっさり了承してくる三馬鹿。
――瞬間。
空間がズレた。
フィールドが別次元に隔離される。
地形や景観はそのまま。ただ、四方一キロメートルから人影が消える。
ボク達と相手はランダム転移され、このフィールドのどこかから開始される。
目の前には、直径十メートルの半円形の不透明な障壁。魔法もスキルも封じられたこの空間内からは、相手PTがどこにいるか分からないようになっていた。
宙に浮かんだ光の数字がカウントダウンしてくる。
……残り『85秒』。
堀が辛うじて取り込まれている事から、それを背にすれば、少なくとも奇襲は防げるかな。
相手の立ち位置次第で色々出来そう。
周りにいた人達は今頃大騒ぎだろうなぁ。
『シークレットモード』にも出来たんだけど、あえて『観戦モード』にした。
これは、周囲の人達にも見えるだけじゃなく、全冒険者ギルドに動画として二十四時間だけ保存され、所定時間内なら、いつでも誰でも自由に閲覧出来るようになるモードだ。
全て白日の元に晒されちゃうけど、もういいんだ。下手に隠すから舐められるんだ。
現在のボク達の全てを見せつけたらいいんだよ。
ボク達を舐めるな、ってね。
〔元精の戦巫女〕は今使えないけど、〔雷精の侍獣巫女〕で十分。相手の強さは分からないけど、レントが三人いると思えばお釣りがくるでしょ。
あいつ馬鹿みたいに強くなっていたからなぁ。
ミィンの町で暇していた時に近接系の敵の対処を練習する為、ユイカと一緒にあいつと模擬戦していたんだけど、一本も取れなかった。ユイカと二人がかりでもだよ?
バグキャラか、あいつは。
でもそのおかげで、自分の力量が正確に分かった。出来る事、出来ない事。
――そしてステータスに表示されていない自分の技とかの特性も。
インベントリーから、源さん夫婦が作ってくれた扇を追加で取り出す。
あの時の舞に使用していた扇を、魔道具として再現してくれた夫婦に感謝する。今は自力生成できないからね。
本当の力を見せつつも、色々勘違いして混乱して貰おう。
カウントダウンがそろそろ終わる。
相手がオレンジネームなのは周囲も分かっているし、多少やらかしても大丈夫だろう。
ボク達の全身をニタニタと下卑た笑いで見つめていたあいつ等の姿が脳裏に蘇る。
何か得体の知れない、良く判らない、記憶にない過去と重なり、全身が一瞬総毛立ち、ぶるりと震える。
始めてのガチな死合いから来る武者震いか、それとも生理的なモノから来る嫌悪感か……。
当然ながら、間違いもなく、明らかに後者、その純然たる事実に。
……もういいよね?
我慢しなくても。
ふと、自分が微笑んでいることに気付く。
昔とは違う。
今はもう……抗える。
そう。
ボクは戦える。
隣に立つユイカの手をそっと握る。
こちらに振り向いたユイカに微笑むと、コツンと額を合わせ。
「さて……一緒にやろうか。準備はいい?」
「当然だよ。セイちゃん」
二人で笑い合う。
決闘?
月の精霊に誓う?
そんなの生温い。
――さぁ『公開処刑』の時間だよ。




