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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
出会いから始まる物語
4/190

4話 牧歌的な微風の中で

ただでさえ説明が多いので、読みやすいように最後にTIPSを付けました。必要な時に出てくる感じで。


5/17 加筆しました。

 ──微風そよかぜが気持ち良かった。


 キャラメイキングとチュートリアルを終わらせたボクは、いつの間にか風通る草原の丘に立っているのに気が付いた。

 目の前には、透き通った水を湛えた大きな湖が広がっており、漁師が漁をしているのだろうか、その湖上にはいくつかの小舟が浮かんでいる。


 なんで街の外? とちょっと混乱したが、ステータスを開くと現在地が『ビギンの街・南区』となっていたのを見てとりあえずは安心する。


 どうしてこんな所にいるんだろうと考え、不意にエレメンティアがチュートリアルで語った言葉を思い出す。


異界の旅人(プレイヤー)さんが一度に大量に一か所に押し寄せたら、住民の方達の迷惑になるからね。

 初めてこの地に足を踏み出した時だけ、街のどこかにランダム転移されるよっ!」


 この世界を、まずは一人で感じて欲しい。

 そんな運営のメッセージが込められている気がする。


 こういった自然の牧歌ぼっか的な空気が好きなボクとしては、このままここで昼寝でもしてみたい欲求が沸き上がってくるけど、双子と待ち合わせをしてる関係上諦めるしかない。

 でもいつか落ち着いた頃に、ここにもう一度来たいな。




 メニューマップに取り込まれていた『始まりの街の地図』を視界の端に小さく起動アクティブ表示しながら、『ビギンの街』の中心部に向かって歩き出す。


 そよ風が頬を撫でる感覚や、小動物や昆虫のざわめき。

 周囲から匂い立つ草の香りなど、まるでゲームと思えない。

 踏みしめる大地の感覚もリアルとまるで同一。


 聞いていた通り、すごい再現力。



 なだらかな丘を降りた所は両側が畑になっており、南北に道が通っていた。

 それぞれの道の先に門が見えるのを見て、地図のナビ機能で方位を確認、北側の門に向かう。


 左右に広がる畑はプレイヤーの畑なのだろうか、薬草や樹木が生い茂り、実をつけていたりする。

 まあ、綺麗に整地されている畑もあれば、乱雑に植えられているものもあるけど。



 と、前から1台の馬車がやってきているのが見えたので、邪魔にならないように端によけた。

 馬車を操っていた皮鎧の男が軽く手を上げて感謝の意を表してくる。

 

 プレイヤーの一団なのだろうか?

 なんかのクエストなのかな。と眺めていると、小さな女の子が御者台の後ろからぴょこんと顔を覗かせた。

 男性の陰からこちらを見つめてきたのがわかったので、思わず小さく手を振っておく。


 にぱぁ、と花開くような笑顔をこちらに向けながら手を振り返し、皮鎧の男性を「パパ」と言って何か報告している少女を見送る。

 彼らはNPC、いや、この世界の住民だったらしい。


 外していたアイコン表示を入れ直して見れば、緑のアイコン(住民表示)だった事に驚いた。「ほんとに見分けがつかないなぁ」と呟き、再びチュートリアルでエレメンティアに言われたことを思い出す。



「この世界を楽しみたいのであれば、数ある倫理コードの一つである『異界の旅人(プレイヤー)アイコンと住民アイコンの表示』を切っておくことをお勧めするよっ!」



 彼女がそう言った訳もなんとなくわかる。

 彼ら住民(NPCという言葉は、彼らにとって侮蔑用語に聞こえるそうだ)もこの世界で生きている。


 当然だけど、もし彼らが死亡するようなことがあれば、彼らは復活したりしないという。

 こちらの住民に対しても、一人の人間として尊重した応対をして欲しい。そういう事なのだろう。


 この世界において、ボク達プレイヤーは住民達のような『死』というものはない。

 いくらデスペナルティーが大したことないといっても、ボクはむやみやたらに死ぬような事は避けたいと思っている。

 この世界に降り立った以上、彼等と同じ立場で過ごしたい気持ちがあるから。

 

 そんな気持ちを邪魔するだろうPKの存在。

 もっともそれに楽しみ方を見出すプレイヤーもいることはいるだろうし、そういった事は『リアリティを出す』という観点から禁止されてはいない。

 住民にも暗殺者のような人物がいそうだし。


 でも当然そういった行為は現実と同様、厳しい対応を迫られる筈である。

 そういうプレイヤーはギルド指定の賞金首となるし、そんな彼らを見付けたら、当然許すつもりも穏便に済ますつもりも毛頭ない。

 徹底的に潰すつもりである。


 そう、あんな想いはもう……。


 何故かふと、額の傷痕の痛みと共に暗い考えが沸いてきたのを感じたけど、そこまで想う原因がわからず戸惑う。それを振り払うかのように首を振った。


 そうだよ。昔にドジって崖から落ちて怪我したことをいつまで引きずっているんだろう?


 と、考えながら気分を戒め、気分転換のつもりでステータスメニューを開く。

 そこにタイミングを待ってたかのように、メールが連続で届いた。


 2通が連続して着信、初めからあった1通と合わせてフォルダにあったメールは全部で3通。

 初めからあった1通は運営から初ログイン祝福メール、さっき来たメールは樹と結衣合流したという報告メールだった。


 どうやら、二人とも最初から中央区にログインしてきたようで、しかも出てきた場所が噴水広場のすぐ近くだったらしい。


 ボクだけ離れてしまった場所に出てきたことで、さっさと行こうと自然と急ぎ足になる。


 それとは別にもう1通あり……『俺の弟へ』というタイトルがついてるメール……なんとなく読まなくていいやという気がして、それをそのままゴミ箱フォルダに放り込んだ。

 こんなメール送って来る相手は一人しかいないし。




 メールの送り主は、タイトル通りボクの兄だ。

 そしてボクには兄の他に姉がいる。しかも、二人ともこのゲームのβテスターだったりする。


 一番上の美空みそら姉さんは最近結婚して家にいないし、夫婦そろってのんびりこの世界ゲームを新婚旅行ばりに楽しんでいるらしいが、問題は大学生の海人かいと兄さんの方である。


 何といえばいいかよくわからないけど……。

 普段は『面倒見のいい好青年』と近所では通っている。が、ボクから言わせると『極度のかまいたがり』である。


 ──ボク限定で。


 自虐ダメージ覚悟で言うならば、間違いなくブラコンのがある。

 正直聞きたくも理解したくもないんだけど、当然ながら一緒に暮らしてるからなぁ。


 今回のボク達の初ログインの事を知るや否や、普段根城にしている街からこっちに来るって言ってたし、恐らくすでに双子と合流してるはず。

 待ち合わせで待たせるのも悪いと思ってるので、マップを見ながら近道を探し、急ぎ足になるのであった。


 


───────────────────────


 


ASアスの知識の何故?何?TIPS》


●精霊世界『エストラルド』の住民たち

 プレイヤーが選べる初期種族の普人種ヒューマンをベースに、獣人種ビースト森精種エルフ山精種ドワーフなどが普通に暮らしている。

 ハーフなど混血もいるが、よく物語であるような血統主義的な差別はない模様。

 もちろん隠れ住んでる種族や村は多数存在。


 ちなみに大抵のプレイヤーから始まりの街と言われているが、運営が発表したゲーム内の公式名称は『プレシニア王国/ビギンの街』。

 まんま『祝福の王国/始まりの街』を英語風に変えてもじっただけである。


 あまりにきちんと読んでもらえないせいか、運営が用意したチュートリアルの地図(第2陣スタートから実装された)まで、ビギンの街の名が消えてしまった。

(もちろん『アイテム名称』だけであって、地図の中にはしっかりと『ビギンの街』と書いてある)


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