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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
初イベに燃ゆる懐刀
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36話 貴方は私の

シリアスが長いと、前話みたく無意識にぶっ飛ばしたくなりません?(コラ

シリアスなんて早く終わって下さい(マテ


現地クエ終了まであと少し……

 ちょっとばかり、仲間から呆れられるというアクシデントはあったものの、無事(?)戦闘が開始された。

 大して足止めにならなかったのは残念。邪気を吸収してすぐに復活していたし。


 さっきの攻撃はトロールのHPからしてみれば、たいしたことがなかったのだろう。狂化も暴走も起きなかった。

 いや、起きてくれることを望んだわけじゃないけど。



 全体的な指揮をアーサーさんが担当することになった。

 始めは遠慮されたのか、こちらに指揮官役を振ってこられたのだけど、彼らの戦法やレイド戦に対する知識が足りなさすぎる為、全員辞退した。


 そのかわりという訳じゃないけど、ボク以外の職と能力を彼らに報告する運びとなり、それに基づいて戦略を組み立てる事となった。

 当然のことながら、邪気が減少しだすとその原因となるモノを排除にかかろうとする動きを見せることは、すでに報告済みです。

 その際にどうすればボクを守れるかが、彼らの命題のようだった。




 ――さてと、気を取り直して。


 トロールに対して、タゲ取りヘイト管理といわれる戦い方を始めた彼ら戦闘組を祭壇の上から見やり、ボクは深呼吸を繰り返す。

 前とは違い、五感の全てを封じてこの儀式に没入する為、恐らく全く周りを把握できなくなる。何かが起こっても対処出来なくなるし、一種のトランス状態となる。


 その為最終セーフティとして、傍にハクが控えてくれていた。

 狙われてしまっても、最悪命が助かれば何とかするとマーリンさんが言っていたので、非常時の対応はハクに完全に任せている。


 彼ら戦闘組がレイドボスという強大な敵に挑むのと同じく、ボクはこれより坑道の邪気の浄化という難敵に挑む。



『エフィ、合わせるよ。どうすればいいの?』


『私達が初めて出会った場所で語った自然に対する想いを。その場所の、世界の本来あるべき姿を幻想して。その想いが、私の、私達の力となる』


『分かったよ、エフィ。やってみる』


 再び生成した扇と狼牙を構え、ボクは静かに目を閉じた。そのまま心を無にしようとし、深く意識の中に潜り込む。


 あるがまま。

 自然と一体になる感覚。


 幼い頃から自然の息吹を感じる事が好きで、家を抜け出しては野山で同じことを繰り返してきたボクにとってはたやすい事。


 舞の制御はエフィが行ってくれる。

 エフィの為に、雷鳴の精霊ヴォルティスの為に、この世界の為に祈るだけでいい。


 正直にいって、この世界について知っている事は少ないけど。

 そんなボクでも、手伝えることがたくさんあることくらい十分理解していた。


 本来の、昔の坑道の光景を夢想する。

 この祭壇前も昔は美しい光景が広がっていただろうことは、想像に難くない。


 イメージの補完。

 かつてはドワーフ達が精霊達への感謝の意を示す為に作った場所を蘇らせよう。


 周囲への精霊達の呼びかけの思念こえ

 精霊達と共に生活を営んだ光景を教えて欲しいと。


 願望。

 再びこの地が元の姿に戻りますように。


 邪悪なる精霊ネフィリムの意思たる邪気。

 世界を破壊しようとするモノ。

 世界を汚そうとするモノ。


 世界を恨むことで自分を守ろうとする悲しい存在に。

 そんな彼らにも。

 安らぎを。


 ボクの中でそういったモノが多数混ざり合い、拡散していった。




 どれほどの時が経ったのだろうか?

 時間の感覚が全く分からない。みんなは無事だろうか?

 浄化は終わったのだろうか?


 ふとそんな意識が浮上した時、自分の内に眠る彼女の気配が身動みじろぎをしたのが分かった。


『……あれ。ここどこ?』


 鈴のような澄んだ、か細い呼びかけ。ボクの内に広がる白く輝く精神世界で、あの時見た薄藤うすふじ髪の少女が現像化する。

 不安そうな彼女の声に、なるべく柔らかくボクは答える。


『大丈夫? どこかつらいところはないかな?』


『……私消えたはずじゃ?』


雷鳴の精霊ヴォルティス、君とその眷属のハクは無事だよ。安心して』


 言葉と共に、わかりやすいよう今までの出来事を思念映像イメージのカタチで彼女に伝える。少しでも彼女の不安を取り除きたい。


 そのイメージが伝わったのだろう。

 ようやく助かったことが実感できたのだろう。

 彼女から大きく嗚咽おえつが漏れた。


 泣き出した彼女を慰めようとし――この精神世界でボクは身体を持ってない事に気付く。

 だけども、呼び掛けに応じたエフィがボクのかわりにすぐ来てくれた。


 淋しかったのだろう。

 怖かったのだろう。

 安心して涙を流す彼女を、エフィはそっと抱きしめる。


 『よく頑張ったわね』


 『お姉様ぁ』


 泣きじゃくる雷鳴の精霊ヴォルティスを優しく抱きしめ、頭を撫でながら、ねぎらいの言葉をかけるエフィに思わず貰い泣きしそうになる。


『セイ、ありがとう。この子を守ってくれて。キミがいなかったら、きっとこの子を失ってたわ』


『よかったよ、無事でいてくれて。

 ……雷鳴の精霊ヴォルティス、何かあったら言ってね。出来る限り協力するから』


 ボクの思念こえに、パッと顔を赤らめて俯く雷鳴の精霊ヴォルティス

 ……あれ? 今の言葉にそんな恥ずかしがる要素ってあったっけ?


 その様子を見て、ニヤッと訳知り顔のような表情を見せるエフィ。雷鳴の精霊ヴォルティスの耳元で何かボソボソと話し始めた。

 ボクの精神世界の中なのに、何故か二柱ふたりの会話が聞こえない……いや、盗み聞きするつもりは全くないけど、ものすごく気になるんですけど?

 真っ赤になりながらも、エフィに背中を押されて前に出る雷鳴の精霊ヴォルティス


『お、お兄様……助けていただき、ありがとうございました』


 目の端に残っていた涙を拭い、照れながらニコリと笑ってお礼を言ってくる雷鳴の精霊ヴォルティスに、ガツンと衝撃を受けた。

 なんかこう……ほら、ずっと守っていきたくなるような笑顔が。

 ――じゃなくて、お兄様って何っ?


『ボクの名前はセイだから』


 呼び捨てで構わないよ。そう続けようとしたら、


『呼び捨てなんか出来ません!

 そんなの……そんなのは嫌です。『レクティア』は、御子様の事をお兄様と呼びたいです』


『ええっ。あの、レクティアって?』


『はいっ! 私の真名になります。遠慮なく呼びつけて下さい。

 私達の中では一番の若輩者で、ふ、不束者ですが、ハク共々末永くよろしくお願いいたします』

 

 って……ちょ、ちょっと、三つ指突こうとしないで! 

 普通で、普通でいいんだよ?

 エフィもこんな無垢そうな素直な子に何を教えたんだよ、もう。




 すったもんだはあったものの、結局根負けする形で、『お兄様』は定着してしまった。しかも、みんなの前では言わないで欲しいと言ったら、『私達だけ……二人きりの時だけですね』と嬉しそうに言うので、それ以上何も言えなくなる。


 それに多分きっと、ついみんなの前で言っちゃいそうだな、この子。

 諦めるしかないか。


 何だか説得しようとすればするほど、ドツボにハマっていく気がしたけど、彼女は悪くない。

 何だろう、このやるせなさ。


 他の仲間達に『レクティア』の真名は聞こえないし、発音できないのでどうしたらいいか考え、『レクティア』の愛称である『ティア』と呼ぶことにする。

 呼ばれた本人は、『お兄様から名をいただけました』と喜んでいたので、気に入ってくれたのだろう。そう思う事にしたよ……。




『みんなの様子ってどうなってるのかな?』


 ティアを見てほっこりしちゃってたけど、まだ終わってないんだよね。

 エフィがこちらに来たという事は、浄化作業は終わったのだろう。だけど、皆がまだ戦っている。

 やる事はまだ残ってるはず。


『少し前に坑道内の浄化作業が終わったわ。セイのおかげね、ありがとう。

 後は、今実体化している邪人達だけよ。ただ正直かなりの力を使い果たしてすっからかんだから、もう私達に出来ることは何もないわよ?』


『そんな……祭壇では力が回復するはずだよ?』


『坑道は広いわ。出来る限りの時間短縮の為、私達は回復する以上の力と意思を放出し続けたのよ?

 例えMPマナは残っていても、どれだけの精神力、体力を消耗したことか。

 これ以上は危険だわ。それにきっともう大丈夫だから……私もしばらく休眠状態になってしまうわ。ごめんなさい』

 

 エフィの言葉に周囲の状態が一変する。

 何もない白い空間の場景が、さっきまで見慣れた祭壇の広場に戻ってくる。現実空間に戻ってきたボクの視線の先で、レント達が戦ってるのが見えた。


 参加しようと足を踏み出そうとし――瞬間。

 身体が重い。

 息が苦しい。

 立っていられず崩れかけたところを、傍にいたハクが咄嗟に体を寄せ、周囲に気付かれないようそっと支えてくれた。


 精霊化スピリチュアルが解除されたことによるペナルティーなのかと思ったけど、まだ切れていない。

 ここまで消耗していたのかと、エフィの言葉をあまりにも甘く見ていたことを認識する。

 寄りかかるボクを支えてくれている、心配そうにこちらを見やるハクの頭を力なく撫でながら、そっと戦況を見守る。




 死後の世界のような雰囲気を醸し出していた広場は、まるで幻想的な、それでいて静謐せいひつな空間に様変わりしていた。

 突き出ていた水晶は穏やかな光を放ち続け、下級精霊が半実体化しているのだろうか、そらにはホタルの光のようにほのかな光のたまが揺らめき飛び交っている。

 

 そんな夢幻の光景の中を、黒い墨汁を垂らしたかのように濁った血液をまき散らしながら暴れるトロール。

 傷つき、そして回復しなくなったせいか、切り刻まれた体表から飛び散る液体が空中にまき散らされ、しかし存在を許さないと言わんばかりに地面に到達する前に浄化され消滅していく。


 エフィの言葉通り、討伐は時間の問題……のように見えた。


 でも嫌な予感は膨れ上がっていく。何か見落としているような?

 考えていたボクの脳裏に浮かぶ光景。初めての死に戻りの際、オークが怒号を発した後に身に纏っていた……。


 気付く。


 最後に見た姿と変わらぬトロール。

 まだ最後の力を、狂化と暴走の余力を残している!?


「気を付けてっ! そろそろ狂化がっ」


 喉が引っ付いたように声が出にくいのに無理矢理叫んだせいで、息も絶え絶えになりながらも注意を促す。

 

 そのタイミングで、偶然にもトロールの右腕が宙に舞った。

 ボクが体験したオーク戦と同じ場景。

 刹那――咆哮。

 物理的な衝撃破となって、切り落としたアーサーさんを遠くに弾き飛ばした。


 赤黒いオーラを纏い、命を燃やすような絶叫に近い咆哮を上げながら、殴りかかろうとする先に……突然の事に固まったままのユイカが。


 ――させない!


『お兄様っ、私にMPマナを!』


 繋がったままだったティアに、反射的に彼女へありったけの全てのMPマナを注ぎ込み。


『ハク、お兄様の敵をお願いっ!』


 ハクへ指示する叫びを最後に、ボクはプツリと意識を失った。


最初真名が発音できない人用の名前として『レクティ』にしていましたが、読者様の提案により、『レクティア』の愛称である『ティア』に変更させていただきました。指摘ありがとうございます。


ティアの『お兄様』発言。『おねにいさま』は流石に止めました(笑)


また『元素の精霊の戦巫女』→『元精の戦巫女』に変更しています。ルビは変わっていませんが、語呂だけで選んでる為、色んな言語が混ざりまくってごった煮状態ですけど。


PCはともかくとして、スマホ/携帯だと行間操作でも読みにくくなっていた(ルビのせい?)ので、会話文を開けたり、段落変更を増やしたり戻したりと、コソコソといじっています。

スマホで見た場合の各話の最終更新日がぐちゃぐちゃになっていますので、ご了承ください。

いつになったら、一発無改稿掲載出来るようになれるのでしょうか?

ままならないなぁ。



ままならないと言えば……

毎日ワンコインの開花の方で久しぶりに自力虹ヤマ○キお姉様キマシタ。それはそれで嬉しいのですけど、なぜ追加やセレの方で虹が来なかったんだ?(血涙


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