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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
初イベに燃ゆる懐刀
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35話 円卓の騎士

あの人たちの登場回です。

あと全話を対象に改行して、読みやすく修正作業中。

 ユイカの火の元素魔法が再びトロールの顔面に炸裂する。ノックバックして少し後ずさったが、やはりダメージはあまりなく、すぐに回復を始める。

 でも何となくだけど、回復スピードが少し下がってきたような?


「なにあれ反則っ! 回復速すぎ、ストレス溜まるっ!」


 トロールの抑え役をしているのだろう、ユイカ。

 ハクと同じ愚痴を叫ぶ彼女に、思わず笑みが(こぼ)れた後、ハッと気付いた。

 気付いてしまった。

 さっきは素で受け入れちゃってたけど、これってお姫様抱っこ……。


「ちょっ!? 降ろしてっ!」


 さっきと違う意味でヤバい。恥ずかしすぎる。


「まあ待て。安全な場所に行ってからな」


 わかってやってるでしょ、この嫌がらせ!

 さっきからニヤニヤしてるしっ!

 いくら勝手に進んだからと言っても、人命かかってたんだよ? だから少しは多めに見て欲しいってば。


 わたわたしてるボクを抱え上げたまま、みんなのもとへ……って、

 ぎゃあぁぁぁっ!?

 なんか知らない人まで居るじゃないか!


「だ、誰ですかっ!?」


 レントの顎を無理矢理押し上げるようにして腕の中から脱出してそのまま遁走(とんそう)、近くまで戻ってきていたハクの陰に隠れながらく。


 うー、顔が真っ赤になってるのが、自分でもわかる。

 盾にされてしまったハクから、戸惑った思念が漏れてきた。


 ごめんなさい、ハク。後できっとお詫びするから。

 あ、初めて触れたけどハクの毛皮って凄く触り心地がいいなぁ。なんか落ち着く。ずっと触っていたい。


「ああ、こちらの……」


「いや、レント君。私から」


 紹介しようとしたレントを遮り、プレートアーマーを着込んだ普人種らしき金髪碧眼の青年が声を掛けてくる。


「戦闘中だから手短に。私はアーサー。あっちでユイカさんといるのが、私の仲間でマーリンという。

 早速で済まないが、貴女(あなた)がこのレイド戦を開始したと聞いている。戦闘参加許可を頂きたい」


「ええっと、その……」


 何この急展開? 何がどうなって?


 面食らっているボクの目の前にプレートが開き、『アーサー・マーリン/左記プレイヤーの所属するパーティーが戦闘参加許可を求めています。受諾しますか?』と出てくる。


 えっ。どうすればいいの。これ?

 レントの方に目をやると、


「勝手に戦闘に混ざると、かなり重いペナルティーが付くからな。横入り防止システムらしい」


 へぇーそうなんだ。

 その言葉を受け、受諾ボタンを押して承認を行った。

 これでいいのかな?



「よし、マーリン。ユイカさんのかわりに足止めしてくれ!」


「あいよ~」


 軽薄そうな間延びした声と共に、真紅の長髪をしたローブ姿の男性――マーリンさんが右手をかざすと、周囲に大規模な魔法陣が……って、でかっ!?

 あのトロールをすっぽり包めるほどの大きさの魔法陣なんだけどっ!


「……2、30分ってとこか。その間にとっとと話をすませようぜ……『セイクリット・バインド』」


 恐らく光属性の元素魔法であるらしいその魔法。トロールの周囲と足元に無数の魔法陣が出現し、そこから幾何学模様の帯状の鎖みたいのが出現、絡み付き縛り上げていく。


 突然の拘束にトロールはえながら暴れようとするけど、多少軋んだ程度で全く外れる様子がない。そのままその場に固定されてしまった。


 す、すごい……。


「おっと、攻撃するなよ? 少しでも衝撃を与えると魔法が消えるぜ?」


 チャンスとばかりにユイカが魔法を使おうとしたとき、彼から忠告が飛ぶ。


「強力な分、制約が多い魔法なんでな。さ、ちょっくら休憩にしようぜ」


 ローブの内ポケットから、白い棒を取り出し――タバコだ……に指先に火を灯してつけ、美味うまそうにふかす。

 妙にさまになっていた。


 ……あるんだ、タバコ。




 ボクの提案で、祭壇の上の魔法陣の中で休憩を取ることにした。

 水晶の塊の直撃は免れていて、祭壇はなんとか無事だった。起動しっぱなしだったので、回復効果狙いでみんなをその場に案内する。


 魔法陣の効果に驚きの声を上げるみんな。「前来た時はこんな状態じゃなかったぞ」と騒ぐマーリンさんを横目にして、レントに説明を要求する。


 その話だと。

 ボクがみんなを放っぽりだして先に行ってしまった後、現れ始めたゴブリンどもとの連戦に苦戦していたところ、後ろから彼ら二人が追い付いてきたらしい。


 どうやら強引に駆け抜けたことで、通り道に邪人が溢れたのが原因のような気がしてきた。


 あぁ、みんなが遅くなった原因がわかった……なんとなく居心地が悪くなってきたけど、内心冷や汗をかきながらも続きをうながす。


 彼らはボクに声を掛けてきたみたいに共闘を提案してきた後、あっさりとゴブリンどもを撃破。

 ボクのメールからレイド級ボスとの戦闘になってる事に焦り、ボクを回収する為の撤退戦を行うつもりでいたレントは、二人の素性に気付き、クエストの協力をお願いしたらしかった。


「話を聞いてぶっ飛んだわ。レイド級っていやぁ、最大30人5PT参加できる、集団戦用大ボスだぜ?

 状況が許さなかったんだろうが、一人で引かずに立ち向かうなんざ、そんなイカれた事するのはこいつだけだと思ってたからよ」


「お前もノリノリで合流してきただろうが。人ばっかり変人扱いするんじゃない」


 軽口をたたき合う二人に唖然あぜんとする。

 レイド級が思ってたよりもヤバいボスだった事に対してもだけど、それ以上に全く気にする様子が見られないこの二人の実力ってどれほど……。

 ボクの表情から察したのだろう、レントが教えてくれた。


「彼らは例の人達だよ。現トッププレイヤー集団のひとつ『円卓の騎士』のクランリーダーとそのサブで、〔勇なる者ブレイバー〕と〔聖者セージ〕本人だ」


 ……。

 …………。

 …………はぁっ!?


「はーい、〔聖者セージ〕やってまーす」


 レントの説明にマーリンさんがお道化どけた声を上げ、ヒラヒラと右手を振る。


「どうしてこんな初期エリア近い所に?」


「今回に限らず、緊急クエスト関連……特に邪精霊関係は、全てに首を突っ込む事にしているよ」


 ボクの問いにアーサーさんがにこやかに答える。


「特に今回は嫌な予感がしてね。

 ――聞けば雷鳴の精霊(ヴォルティス)の坑道で、彼女以外の上級精霊が連名で託宣たくせんしたクエストだというじゃないか。どう考えてもかの精霊の身(ヴォルティス)に何かあったとしか思えなかったから、準備不足ではあったが、すぐ動けた私達だけで急行したという訳だ」


 随分思いっきりのいい行動力と勘をしてるね。勇者と言われるだけの事はあるなぁ。


「さてそんな事より、まずは目の前の事を先に片付けようか」




 レントとアーサーさんの質問を受け、現在判明しているトロールの動きやスキルを説明していく。


「セイさんは召喚系? 魔法職なのに、よく一人で持久戦出来たね」


「ここにいる彼のおかげですよ」


 『ハク』は真名だから他の皆は聞き取れない。ハクを撫でながら、わざとボカして言う。ホントの職については言わない方が良さそうなので、肯定も否定もしないでおく。多分すぐにバレそうだけど。


 邪気の浄化を行っていたら急なターゲット変更された事を説明しようとした時、今まで黙って何かをチェックしていた源さんが口を開いた。


「なぁきたいんだが、この緊急クエストの詳細にある『邪気の減少及び消滅任務』っての、これどういう意味だ?」


 何それ。初めて聞くんだけど?


「ああ、それはね。奴等邪人を倒すと、フィールドから一定量の邪気が減算されるんだよ。討伐を繰り返して数を倒していけば、いつかは枯れるんだ」


「いえ、あの……邪気って霧状でそこらかしこにあるので、今回に限っては、それを直接浄化した方が手っ取り早くないですか?」


 横から思わず口を出してしまったボクの言葉に、アーサーさんは目を丸くする。


「え? セイさん、まさか邪気そのものが見えるのかい?」


「あ、いえ……」


 あ、もしかしてまずいこと言っちゃった?


「セイ、言ってくれ。その邪気はどういった動きをしている?」


「ええっと……トロールがえたり傷を負ったりする毎に吸い込んでいるよ。この広場から減ってきたら、ボクらがやってきた入口の方から流れ込んできてるけど」


 レントに促され、ボクは答える。


「……ってこたぁ、奴の超回復の正体は」


「ああ、なるほど。邪気の補給による活性化か。しかも別の所にいた邪人達が全滅しない限り、元の木阿弥か。参ったな」


「急いで来ちまったのが仇となったのかよ。メンドクセェ」


「そういうな。来なかったらセイさんを助けられなかった。それで良しとしよう」


「撤退も含めた作戦の練り直しが必要だな」


「掲示板に投稿して、他のプレイヤーに邪人どもをお願いするってのはどうだ?」


「今更そんなこと言ってみろ、レイド戦に参加したいとかいうやつ出てくんぞ? 待ってられん。ここが破壊されたらどうすんだ?」


 顔を突き合わせて相談を始めた彼等を、ユイカやマツリさんと一緒になってハクを撫でながら眺めていたら、ふと気になる事を思い付いてエフィに尋ねてみた。


『エフィ。ボクも意思ちからを合わせる形で浄化に協力したらどうなるの?』


『正直分からないわ。でも確実に強化されて速くなる筈よ』


そのエフィの答えが聞きたかったモノと一致し、ボクは彼等に提案する事にした。


「話し中すいません。

 ……もし、確実にボクの身を守っていただけるなら、祭壇を使って邪気の霧を浄化して見せますよ」




 トロールを拘束している光の帯に亀裂が入り始めているのを見やりながら、祭壇の上でストレッチをする。


 作戦は簡単。拘束が解ける前にボクがまず一撃を入れ、後はひたすら浄化に専念。

 他のみんなは浄化が完了するまでボクの護衛と、邪気を消費させる為の散発な攻撃を行う。これだけだ。


 いや、本来はボクが攻撃を入れる意味はあまりないし、強力な一撃がいるのならマーリンさん達の方が適任なのだけど、どうしてもと言ってお願いした。


 ……めちゃくちゃ怖かったんだよ?

 しかもその後のお姫様抱っこされるという精神攻撃。少しくらい……いや、熨斗のし付けてしっかりとお返ししないと気が済まない。


 マツリさんの付与魔法による支援が全員分完了したのを見計らい、深く集中を行う。

 呪いの侵食は既に解除されている。これで全力で()れる……。


 現在のトロールの体勢――両足を踏ん張って拘束を引き千切ろうとしている姿を見て……ちょっとした仕返しを思い付いたんだよね。


 最初はちょっと……男として抵抗はあった戦法だけど。

 ……まぁ今は女の子になってるからいいか。と考え出したら、むしろ何故かノリノリになった。


 散々な目に遭わせてくれた仕返しだ。

 ふっふっふっ、地獄の苦しみを味わうがいい!


 独り暗い笑みを浮かべている中、みんなの包囲陣(はいち)が完了した。


「こっちはいいぜ。始めてくれ」


 マーリンさんの言葉にボクは力ある言葉を解き放つ!!


「さあ、大地の精霊さん。仕返しの時間ですよ!」


 思わず声高々に叫ぶ。言ってから少し恥ずかしく感じたけど、これも周りに攻撃の発動を伝える為。いたかたなし。


 ボクの呼び掛けで作られたのは、落とし穴。深さは大体3メートル。

 浅いけど、実は深く作る必要はない。

 なぜなら、作った場所はトロールの右足と左足の位置だけで、中央を三角形にしただけ。

 どうなるかというと。


 「ごげぇっえええっ!?」


 足場が急に消えて自重で一気に落ちたトロール。残っていた地面の角にしたたかに打ち付けた。

 ……男のシンボルを。

 右手に持っていた棍棒を取り落とし、そのまま前屈みに倒れ込んでビクンビクンと痙攣けいれんを始める。


 おー。思ったより効果は抜群だ!


「おし、みんな今だよ。やっちゃえ」


 と、ノリノリで声を掛けたんだけど……。


「お前な……」


「……ひでぇもんを見ちまった」


「うわぁー」


「な、なかなか過激なお嬢さんだね……」


「やべぇ。こっちまで冷や汗が」


「あらあら」


 何だか心なしか前屈みになってる男性陣と絶句している女性陣。


 ……あれぇ?


●いつになるかわからないけど、念の為のお知らせ(前置き長いw)

 当然最新話優先していますが、それと同時に、序盤の話の改稿を進めて行こうと思ってます。

 基本世界観及びキャラ設定やシナリオ等は変わりませんが、スカスカな部分を肉付け補修する方向で。

 最初はさっさと話進めるために急ぎ足な部分が多すぎる上、序盤ほどきちんと説明しないといけないのに出来てなかった部分や見直しできてなかった部分が複数見受けられ、読み直してるとちょっと手直ししたくなりました。

 いつ頃置き換えるとか、明記できるほど進んでません(まだ1話も終わってないw)が、改稿したら活動報告等でお知らせします。(多分かなり先の話になります)

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