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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
初イベに燃ゆる懐刀
33/190

33話 守ると決めたんだ

精霊化スピリチュアルのエフィの台詞ですが、読みにくいので表示形態を変えました。今後は念話と同じ『』になります。


 地上の方で段々大きくなるプレイヤー達の大騒ぎおまつりに乗じて、順調に潜っていく。


 すでに実体化していた邪人達も全て上階の方へ移動しているようで、こちらは完全に手薄になっていた。そのおかげもあって、スピードを少しでも上げるために大胆に動き始めている。


 たまに少数のゴブリンと鉢合わせするけど、事前に察知できるのよね。隠れて待ち伏せを行い、レントと源さんのコンビで確実に処理していく。



 けど。

 近付いているのに、徐々に小さくなっていく雷鳴の精霊ヴォルティスの気配。

 逆に膨らんでいく邪気の塊。


 これ以上は(まず)い。もはや一刻の猶予もないみたい。


 いつしかボクは先頭を追い抜かし、焦って呼び止めようとするレントの声を尻目にして、風の精霊の力を借りて全開で駆け出し、気付けばみんなを置き去りにしていた。




 30分は走り続けただろうか、ようやく通路を抜けると、そこは大広間のように巨大な空間だった。野球場くらいの広さがあるし、天井がはるか上にあった。


 地面や壁、天井などいたる所から突き出た水晶の結晶がほのかに光り輝き、本来なら幻想的な空間となっていただろうその場所には、濃密な死を予感させる邪気の塊がうごめいていた。


 その邪気の向こうに祭壇。

 最奥にあるその祭壇は、蜃気楼のように揺らめく光の膜に覆われ。


 その中で白を基調とした大きな虎が、何かを守るように唸り声をあげている。

 そのトラにしがみついている幼い少女の姿が遠目に見え……。


『……いたわ! 間に合った』


 歓喜を上げる内なるエフィの声に呼応するように、えも知れぬ怒りが湧く。


「その子から……離れろっ!」


 全くボクらしくない、あり得ない咆哮じみた怒声が出る。

 駆けながらも、引きちぎるかのような勢いで刀袋の房紐を解き、抜く。


 イメージをっ!


 どこか冷静なボクの一部が叫ぶ。


 MPが一気に消耗していく感覚。だけど、それと共に右手に握る懐剣から伝わってくる力強い波動。

 

 エフィが昨日見せた物質生成。でも、槍は今はそぐわない。


 ならば……。


 断ち割る!


 大太刀と化した狼牙を手に。

 風の精霊を刀身に纏いて、暴風のごとく。


 今にも圧し潰さんとする粘性の塊を薙ぎ散らし、そのまま突き抜けた。




 祭壇に辿り着くと、白き虎が突然の事に戸惑った様子で、こちらに視線を向けてくる。咄嗟に身構えて四肢に力が入ったのを見やり、


「大丈夫。ボクは敵じゃない」


 再び集まろうとしている邪気の塊を視界に入れつつ、に呼び掛ける。


「その子は無事っ!?」


 彼女の惨状に、途中で声が震える。


 薄藤色うすふじいろをした髪色の、ワンピースを着た少女。すでに明瞭な意識がなく、青褪めて震えるその子の腰のあたりまでがどす黒いオーラに纏わり憑かれ、変色していたからだった。


「エフィ!? どうすれば?」


『あの邪気が実体化しだしたこの状態じゃ、今浄化を行うのは無理よ』


 目の前の塊が震え出し、ぬるりと巨大な手が現れ始めるのを見て、焦った思念が届く。


「邪人の実体化が……」


 何か巨大なモノ(・・)が産まれ落ちようとしているのか、かなりゆっくり現れてくる。邪気が周囲に渦巻き始め、これじゃ近寄れない。かなりの難敵になりそうだった。


 仕方がなかったとはいえレント達を置いてきてしまった以上、邪人との戦闘はボクが担当しなければならず、時間を掛ければこの子の容態が間に合わなくなりそうだった。


 少し考え、思いつき……すぐに覚悟を決めた・・・・・・



『その子はボクが預かってもいいですか? そしてあいつを倒すための戦闘に協力して欲しいです』


 白き虎と視線を合わせ、念話で懇願する。ボクの想像通りならこの虎は……。


『……どうするつもりだ? 森精種エルフの少女よ』


 落ち着いた渋めの声が頭に響く。


 やはり雷鳴の精霊ヴォルティスの眷属精霊。


『この子を……雷鳴の精霊ヴォルティスを助けます。そして原因となったあの木偶でくを倒す。それだけですよ』


 震える塊から生まれ出でつつある巨人の方を見やりながら、彼の問いに答える。


 どうしていいのか、かなり迷ったのだろう。

 揺れる瞳が荒い呼吸を繰り返し始めた少女の方へと止まり、悲し気な色を見せた後、決意に満ちた顔付きに変わる。


『了承した。主をそなたに任せよう。……頼む』


『……どうするの?』


 エフィの思念に答えず、ボクは雷鳴の精霊ヴォルティスをそっと優しく抱き上げる。


 軽いなぁ……。


 小柄で10歳くらいに見える少女。この少女を苦しめている原因を……呪いを、ボクに、ボクだけに移植させる。


『正気っ!? これから戦うのにも支障がっ!?』


 エフィがボクの思念を察知したのかビックリして慌ててるけど、彼女を強く抱きしめていく。


『エフィ、ごめん。少し狭くなるかもしれないけど』


 そして〔依り代〕のスキルを発動させた。



 ボクは当然ながら雷鳴の精霊ヴォルティスと盟約を結んでいない。だから本来は依り代と成れないと思っていた。


 けど、見方を変えれば。


 エフィの・・・・眷属精霊としての・・・・・・・・ヴォルティスならば・・・・・・・・・


 依り代のスキルは未だ低レベルで1枠のみ。


 でも。


 エフィはあくまで精霊化スピリチュアルの状態であって依り代状態じゃない・・・・・・・・・と解釈すれば。

 


 彼女がスッとボクの中に吸い込まれていく。成功したと思った瞬間、


「ぐぅっ……ぁああっ」


 まだ狭く小さい容器に無理矢理モノを詰め込んだように、ボクの内側・・が、心の何かが軋む感覚。


 更に受け継いだ呪いの影響。


 同時にやってきたその衝撃に、一気に意識が混濁し始める。



 けど。


 雷鳴の精霊ヴォルティスの弱り切ったその姿が脳裏によみがえる。


『何考えてるの』とか『バカ』だの、混乱しているエフィの思念。

 でもその言葉と裏腹に、繋がっている故にダイレクトに伝わってくるその思念が、今にも泣きそうに震えているのを感じ取り、薄れゆく意識を強引に持ち直す。


 守ると決めたんだ!


 精霊化(スピリチュアル)の身体なら、意思の力(イメージ)で出来るはずなんだ。押さえてみせる。負けてたまるか。


 纏わりつく黒いオーラに抵抗するかのように、ボクの声なき意志が、金色の燐光が激しく吹き荒れる。


『……そなた御子かっ!? しかもその精霊光はあのお方のっ!?』


「うぐっぅ……あはっ。あはは」


 耐えきった。

 無限に感じた軋みが軽くなるような感覚を受け、ボクは力が抜けたかのように祭壇にへたり込んでしまう。


 視界の端に点灯するようにしておいた〔呪いの侵食〕の状態異常のパーセントは75%。少し……いやかなり気持ち悪いけど、耐えられないほどじゃない。


 脂汗をかきながらも、にへらと笑う。


『ほら、何とかなったでしょ』


『そなた、侵食は大丈夫か!?』


『……もう、ばかぁ』


 みんなに心配されたけど、もう大丈夫。これで目の前の邪気(てき)に集中出来る。




 完全に産まれ落ち、準備が完了したのだろう。立ち上がり咆哮を始める巨人の方をやる。



名 称:トロール(邪人)レイド級

状 態:邪悪なる精霊ネフィリムの祝福

スキル:怪力 剛力 棍術 暴走 狂化 鈍足 超回復(限定)

弱 点:特になし



 身長5メートルはあるのだろうか?

 でっぷりとした体形ではあるけど、筋肉質のその肉体を見る限り、かなりのパワーファイターなのだろう。スキルもそれを証明している。それに初めて見たレイド級の文字と祝福持ち。


 だけどどう考えても、振り回すだけのパワー馬鹿のような気がする。警戒はもちろん怠らないけど、これなら何とかなるかもしれない。


 激減していたMPを補給しながら、白き虎にお願いをする。


『虎さん、ボクが支援します。出来る限り時間を稼いで下さい』


『了解した。あと我の名は『ハク』だ。以後よろしく頼む』


 ハクと名乗った雷虎の身体が紫電を纏って膨らみ始める。


『御子よ。時間を稼げと言ったが、当てはあるのか?』


『ボクはセイです。ええ、もう少しで援軍が。頼もしい仲間達が来るんですよ』


 ステータスメニューを開く。そこに踊るメール着信のマーク。


 クスッと笑う。


 内容など見なくても分かる。察しのいいあのハイスペック幼なじみが、人を助ける事に躊躇したことがない親友が、この状態を放置するはずがないんだよ。



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