31話 緊急クエストと新たな力
前話に 4/28 15:00に1000文字程度の追加があります。まだの方がおられましたら、そちらからお願いいたします。
「あなた達に協力をお願いしたいの」
翌日の早朝というか夜が明ける前、レントのメールにて早めにみんなが集まったところで、突然エフィがそうみんなに切り出した。その表情は硬い。
「お願い?」
レントの、みんなを代表しての質問に、エフィは厳しい表情を崩さず続ける。
「昨日の私達の坑道での出来事について聞いてるわね?」
「ああ。なんでも邪悪なる精霊の加護者と戦闘になったとか」
「ええ、複数の彼女の使徒と戦闘になる時点で問題よ。特に加護持ちが2人も確認されたこともね。
何よりも……あの子、雷鳴の精霊と連絡が取れないのよ」
「ちょっと待て。連絡が取れないってどういう事だ?」
「言葉通りよ。あの子を統括しているのは私だからね。あの場所の浄化と維持をあの子にお願いしていたのだけど……」
エフィが語るには、昔あの場所でドワーフ達と邪悪なる精霊の使徒達の間で大規模な争いがあったらしく、ドワーフ達が勝利したものの雷鳴の精霊の聖域の一つだった坑道内が汚染され、人や精霊が住めない状態になってしまったらしい。
その為雷鳴の精霊とその眷属、その土地の下級精霊達へその場所を浄化し正常に戻すように命令を与えていたという。
「あの場所に祭壇を持っていたから、それを起点に浄化を行いなさいと命令していたのよ。
……ただあの子、放っておくとすぐ寝てサボるからね。定期的に連絡を入れるようにって言っておいたことを、昨日思い出して……ずっと連絡がなかったことに気が付いたのよ。
雷鳴の精霊に最後に会った時、『ちょっと祭壇の状態を見に行く』って言ってたから、いるとしたらあそこしか可能性がないのよ。再び汚染が始まったあの場所しか」
「それってヤバくないか?」
「ヤバいわよ。特に分体じゃなく、本体自らあの場所に行ったのが拙かったわね。
……まあ一応あの子も上級精霊だから。それなりに戦えるし、あの程度の使徒相手だけなら祭壇を拠点に防衛すれば、長期戦でも消滅することはないとは思う」
「ヴォルティスが祭壇に行っている間に、使徒が活性化した……という事は、封じ込められたとみていいのか?」
「その通りよ。身動きが取れなくなってる可能性は高いわね。弱まってるけど、あの子の力は何とか感じ取れてるから」
「もしヴォルティスに何かあったら?」
「別の存在が雷鳴の精霊の名と力を継承する事になるわね」
「えっ……今のヴォルティスは?」
「……消えるわ」
みんなの顔色が一瞬で変わったのが見て取れた。
「エフィの嬢ちゃん。それは俺らだけで何とかできる問題か?」
「……昨夜残りの直属上級精霊を通じて、各神殿へ託宣を行ったわ。依頼は活性化した坑道エリアの彼女の使徒の殲滅。直に冒険者ギルドで緊急クエストが発令される筈よ。
……ただそれとは別にあなた達へお願いがあるの」
「それは?」
「……昨日の出来事を承知で言うわ。私とセイを祭壇まで護衛して欲しい」
「護衛だと?」
「ええ。あの子の安否、そして祭壇の状態を確めないと。詳しい経緯を知っていて、尚且つ信頼の出来る人にしか頼めないのよ」
「……正直に言うぞ。足手まといになりかねないセイを連れて行けという真意は何だ?」
「っ!お兄っ!」
噛みつく勢いでユイカが抗議の声を上げたが、レントは片手を向けて制止する。
やっぱり足手まといになるよね。でも、エフィと相談した結果だし、話を聞いて引けない理由もできたんだ。
「いざという時、セイにしか出来ない事があるからよ。今はそれしか言えない」
「他の人間では代用出来ないと?」
「今この国に、いえこの世界に資格を持ち得る人物がセイしか居ないからよ」
「それはどういう……ああ、なるほど。御子か」
「……ノーコメントよ」
苦々しい表情のままでエフィ。『相変わらず察しが良すぎるわね』と念話の呟きがボクに響く。
「ちなみに断ったら?」
「私とセイだけでも行くわ。昨日二人で話し合って了解済みよ」
「セイ、お前……」
「困ってる人がいるのに、知らない振りなんて出来ないよ。だから行く。止めても無駄だからね」
ボクの言葉に頭をガリガリとかきながら、レントは諦めたようにため息を吐いた。
「まぁ元々否定する気なんてないが……お前がこういう事に頑固なのはいつもの事だしな」
「じゃあ……」
逸るボクを手で制止しながら、顎に手を当てながら考え始める。
「おやっさん、マツリさん。俺達のも含めて出来てる装備だけ付与をお願いする」
「おぅ」
「分かったわ」
「あと、うちのクランにMPポーションの在庫はいくつある?」
「あんまりねぇが……冒険者ギルド行きゃある分は買えるはずだぞ」
「有り金全部でありったけ買うぞ。それを全てセイの精霊化に使う」
へっ?
「どういう事?」
「坑道内でヤバいと感じたらすぐ精霊化。その後は常に維持しろ。それで乗り切る」
「うわぁ、強引」
確かに現状それが一番いいかも? パッと思いつくなんて流石だなぁ。
「あと、精霊化のステータスや攻撃と防御の性能は確認したのか?」
「……あ」
「やっぱりしてないんだな。そんな事だろうと思った」
そんなこと言ったって、前回そんなことしてる暇なかったし。
言われてスキルのタブを開いてみる。と精霊化スキルの下に前にはなかった項目が追加されていた。
現在可能形態
〔元精の戦巫女〕
元素の理その力を体現せしむる戦巫女と成せ。
全ステータスの基礎値にプラス補正、全状態異常耐性アップ。
魔法媒体を軸に物質変換及び物質生成の力を操るが、精霊化解除と共に生成したものは消滅する。
物質生成って、ゴブリン相手にエフィが使ってた奴なんじゃ?
てか、巫女って何っ!?
「うおっ、基礎値が全ステアップとかでけぇな」
「物質生成? どう使うのかな?」
「エフィが使ってるの見たから、多分出来ると思う。それにアシストしてくれるし」
「精霊化しながら、MPポーション飲めたらいいんだがなぁ」
「多分飲めるんじゃない? ただ、伸ばせば伸ばすほどクールタイムのペナルティー時間が伸びるけど」
「とにかくだ。スキルレベルが低いから話にならん。これからはログアウトする前に必ず残ってるMP分だけ精霊化して、スキルレベル上げしろよ」
「えっ!?」
レントの提案にボクは思わず引き攣った。
「ごめんもう一度言ってくれる?」
「……普段から常に精霊化してレベル上げしろよな?」
ああ……やっぱそうなるよね。
今回の話の流れに何かと思う所はあったものの、緊急クエストが発令される前に準備を終わらせようと、行動を開始する事となった。
レントに言われた通り、素直に今から精霊化を行う。Lv2でMP1あたり2秒に変わったところを見ると、どうやらレベルが上がるごとに加速度的に維持出来るようになるみたい。ただしMPを使わなければ、の前提だけどね。
ただ前回もそうだったけど、精霊という全く別の種族に変わってるせいか、はたまた、その……女の子になっちゃってるせいかわからないんだけど、何だか妙に落ち着かない。
体感というか身体のバランスが全く違う気がする。
その事をレントに愚痴ったら、「慣れろ」とバッサリ。
ねぇ酷くない? 誰のせいで……って自分か。
あははは……はぁ。
ホントどうしてこうなってしまったのか、正直涙目である。
そんなボクの顔を見て、レントが呻きながら顔をそらして手で隠していたけど、そんなに情けない顔をしていたのだろうか?
……ヘコむぞ、ホント。ヘコむよー? いいの~?
その様子を見ながら妙にニヤニヤしていたユイカの手からMPポーションを引ったくったレントは、ボクの方へそれを放り渡すと「ギルドに行ってくる」と宣言して、ユイカの背中を押しながら出ていった。
二人とも何やってんだか。
最後の仕上げとしての装備の付与強化を行っているマツリさんの姿を眺めながら、スキルの取得を行っていく。
レントと源さんから、耐性系のスキルの取り方を教えて貰った。
それによると、一度はその状態異常を体験というか喰らわなければならないという事だった。勿論アイテムで無理やり状態異常になってもOKとの事。
偶然採取で持っていた毒草を使い、〔麻痺耐性〕と〔毒耐性〕の二つを取得しておく。必要SPは共に5だった。出来たら呪い耐性も取れたらよかったのだけど、そちらはまだ取得できない。また違った条件があるのだろうか?
本当はそちらの方が最優先で欲しかったんだけどなぁ、もう。
「……よし、出来たわよ!
……ところでセイちゃん、さっきからなに百面相してるの?」
ホントに可愛いわねぇ、と呟きながら、マツリさんは机の上に付与の終わった装備を並べていく。
「可愛いって言われても嬉しくないですよ~もうっ!」
「ほっぺを膨らましたり口をとがらせてそういう事言うから、可愛らしいって言われるのよ」
ニコニコ顔のマツリさんの追撃にダメージを受けながら、その装備の数々を視る。
名 称:大狼の外套
状 態:高品質
種 別:装備品(服)
耐 久:500
重 量:4
付与枠:2 〔頑強〕〔精神上昇(微)〕
効 果:大狼の強靭な外皮を丁寧に鞣し、魔法加工を施した外套。素材に秘められた力が引き出されている。
STR+5 AGI+3 VIT+10 INT+3 MND+3
名 称:絹蜘蛛の和袴
状 態:高品質
種 別:装備品(服)
耐 久:200
重 量:2
付与枠:0
効 果:スパイダーシルクの糸で編み上げた布で縫い上げられた和袴。魔法加工が施されている為、見た目よりは丈夫。
VIT+3 INT+3 MND+3
名 称:大狼の皮ブーツ
状 態:高品質
種 別:装備品(脚)
耐 久:400
重 量:2
付与枠:2 〔知力上昇(微)〕〔精神上昇(微)〕
効 果:大狼の強靭な外皮を丁寧に鞣し、魔法加工を施した編み上げ皮ブーツ。素材に秘められた力が引き出されている。
VIT+3 AGI+3 INT+1 MND+1
名 称:絹蜘蛛の髪留めリボン
状 態:高品質
種 別:装備品(頭)
耐 久:100
重 量:1
付与枠:0
効 果:スパイダーシルクの糸で編み上げた布で縫い上げられたレースのリボン。魔法加工が施されている為、見た目よりは丈夫。
INT+1 MND+1
「……まさかリボンも、なの?」
外套だけでなくブーツも出来てるとは思ってなかった。黒のレースのリボンは見なかったことにしたいけど、恐々(こわごわ)と確認する。
「もちろんよ。元レイヤーとしてはコーデに一切の妥協は許されないわ。
和のテイストでありながら銀糸の髪色が映えるよう、黒と白を基調としたゴスロ……じゃなくて、ゴシック風に仕立てたわっ」
「ちょっ!? 今何て!?」
「可愛いと見栄え良しは正義よ。似合いそうだからホントはフリフリにしたかったんだけど、そっちの方が良いなら今からでも超特急で作り変えるわよ?」
「……わー」
フリフリのドレスを着た自分を想像して、顔が思わず引き攣る。慌ててブンブンと首を振って否定する。
ムリムリ、似合わないって。マツリさんって服の事になると、性格変わりすぎないっ!?
「……コホン。まあ今回の事を聞いて、付与は全て精神上昇の方へ切り替えたけど、元々の大狼の素材の優秀さで初制作としては想定以上よ。付与枠も二つもあったし。
あと、付与は後からも変更できるから、レベルが上がって上位の付与を覚えたら更新するわ」
「あ、お願いします」
「それとこちらが武器……というか魔法媒体よ」
と言って机に置いたのは、
「短刀?」
樫の金縁装飾が施された黒柄黒鞘の短刀を見て、思わず声が出る。
前に見せてもらった錫杖じゃないの?
名 称:懐剣・狼牙
状 態:高品質
種 別:装備品(武器/魔法具)
耐 久:200
重 量:3
付与枠:3 〔頑強〕〔知力上昇(微)〕〔精神上昇(微)〕
効 果:大狼の大牙を削り出し、懐剣として成形したモノに魔法媒体としての機能を施した骨刀。魔法具としての性能は高い。物理攻撃性能を封印することによって、魔法性能を高めてある。
INT+13 MND+6
「これは主人が大狼の大牙から削りだしたものに、私が魔法具としての加工を施したものよ」
「北の森でのお前さんの戦い方がな。居合の要領で風の刃を放っているのを見て、杖よりは刀タイプの方がよりイメージを補完しやすいと思って作ってみた。
元の牙のサイズ的に刃渡り3寸しか取れなかったが十分だろう。抜刀をイメージしやすいように、牙の形状に合わせた反りも入っている」
「主人にお願いして、柄と鞘も服飾に合わせて貰ったの。懐剣用刀袋も作っておいたからね。ささ、早く着替える」
「あ、あははは……」
やり過ぎじゃないかな、マツリさん。なんだかコスプレしてる感覚になってきちゃった。
もちろん精霊化を解除してから着替えました……。
マツリさんは何故か残念がってたけど、あのまま着替えるなんて出来ませんよっ!
名前:セイ
種族:古代森精種 種族レベル:21
職業:御子 職業レベル:2
HP:710/480〔+160〕(+70)
MP:741/475〔+175〕(+91)
STR:22〔+ 8〕(+ 3)
VIT:27〔+16〕(+ 3)
AGI:28〔+ 9〕(+ 3)
INT:42〔+21〕(+10)
MND:36〔+14〕(+ 3)
DEX:22 (+ 3)
BP:0
SP:20
所持スキル
種族系:〔精霊眼:森羅万象〕〔浮遊(精霊化時)〕new
職業系:〔精霊魔法Lv30〕〔精霊召喚〕〔精霊顕現Lv11〕〔精霊化Lv5〕〔念話(対精霊)Lv13〕〔依り代Lv1〕new
攻撃系:〔杖術Lv19〕〔体術Lv18〕
補佐系:〔HPアップLv8〕〔MPアップLv13〕〔STRアップLv8〕〔VITアップLv8〕〔AGIアップLv8〕〔INTアップLv29〕〔MNDアップLv9〕〔DEXアップLv7〕〔気配察知Lv29〕〔夜目Lv16〕〔消費MP減少Lv9〕
耐性系:〔毒耐性Lv1〕new〔麻痺耐性Lv1〕new
生産系:〔採取Lv7〕〔調合Lv10〕〔料理Lv15〕
精霊化形態:〔元素の精霊の戦巫女〕new
現在の装備:懐剣・狼牙
絹蜘蛛の髪留めリボン
大狼の外套
絹蜘蛛の和袴
大狼の皮ブーツ
大狼の勾玉
……初期プロット上は、セイ君が死に戻りした後、某国民漫画の『野球しようぜ』みたいなノリで、みんなで楽しくリベンジ殲滅作戦する予定がドウシテコウナッタ?
特に『祭壇』、いつの間に坑道内に移動したんだろうか?おかげで本来まだ出す予定のなかったあの子がピンチに……。
????「……ヒドイ」




