30話 初めての死に戻り
エルフちゃんの種族特性説明の最後のピースです。
4/28 15:00 最後に約1000文字の大幅加筆しました。次話の中身がうまくつながらなかったのでこちらに持ってくることになってしまい、すいませんです。
動画が終了した後、感応石は砕け散った。メールから取り出していないメンバーも取り出せなくなっている時点で、どうも一度きりのアイテムらしかった。
公式では先の動画が常に閲覧できるようになっているからこその対応なのだろうね。アップデートが0時から始まるというので、みんな明日の予定を宣言して解散することになった。
次の日、延長を重ねていたアップデートが朝8時に終わったようなので、いそいそとログインする。他のメンバーの昨日の話では、ゲーム内時間で明日にならないとみんな来ないだろうし、一人で出来ることをこなして行こっと。
ミィンの町並みを爽やかな朝日が照らす中、昨日の宣言通り行動を開始する。いつものごとくエフィを喚んで食べ歩きを行いながら、昨日目を付けておいたお店に駆け込む。お目当てはもちろん燻製肉と料理用焼酎などの食材である。
ついでにこの町の冒険者ギルドにも寄る。
冒険者ギルドで昨日レントから頼まれたドワーフの坑道への地図を購入する為、受付に座っていた受付嬢に申請書を提出する。
この世界では地図は価値が高いためか特定の許可がないと販売できないそうで、必ず冒険者ギルドを通さないと購入できない。勿論プレイヤーは証明書を取れば購入できる為、1枚購入してクランタブの中のワールドマップへ登録しておく。1枚あればこのタブから、本人が行ったことがある場所のみ共有登録出来るらしい。
これらは昨日レントに頼まれていたもので、アップデート後一番にログインした人が行う事になっていた。ボクの場合、色々と慣れていない事だらけなので、教えて貰いながら率先してこなして行こうかと思ってる。いつまでもおんぶに抱っこじゃ、情けないし。
ただ一番必要だったドワーフの坑道内の地図は、すでに廃棄されているらしく購入できなかった。そっちはマッピングに頑張ってもらうしかなさそう。
地図をクランタブに登録した事、〔ドワーフの坑道〕の地図は存在しない事などを、クラン伝言板に書き込んでおく。その後は全く用事がなくなった。「さてどうするかな?」と独りごちる。
ボクのとれる選択肢は二つ。みんなが集まった時用に保存用の料理を作っておく事か、次の目的地の偵察。
「どうするのかな?」
「……ちょっと先行して見に行こうかと」
明日の朝(現実で14時)から攻略に乗り出そうという約束ではあるけども、前もって見に行っておいて情報を集めておけば、少しは楽になるよね?
行ってもボクは採掘出来ないけど。
大狼も一人で何とかなったし……何かあってもエフィと二人なら何とかなるかなと思い、そのための準備を始める。
流石に本格的な攻略をする気はないので、いくつかの薬と食糧の在庫確認を行っただけで出発した。
その場所は昔のメイン坑道でもあった場所だから、この町からそんなに離れていない。街道もしっかり存在していたけれど、使われなくなってかなりの年月が経っているせいか、所々路面がガタガタになっていた。
出てくる敵も今までとは違いハゲワシやトカゲのような生物に変わり、最初は敵の攻撃パターンの変化に戸惑ったけれど、少しずつ慣れてきた。
……これなら問題なく行けるかな?
調子に乗った……いや慢心が顔を覗かせてしまったのも、今までの状況を思えば仕方のなかったことかもしれないね。
たどり着いたその場所は、こじんまりとした廃村のような場所だった。ドワーフ達が鉱石を掘るのに便利なように村を作ったのがここの始まりで、これが昔のミィンの村だったらしい。
これまで通り〔気配察知〕のスキルを全開で展開しながら、閑散とした廃村の中を歩く。当然ながら人一人いない、それどころか何の気配も感じなかった。
本来なら同じプレイヤーの姿もあるのだろうけど、アップデート直後というのもあって、ボク達二人だけの影が村の通りに伸びていた。
「……へんね。モンスターすらいないなんて」
ボクもエフィも何故か、かなりの緊張を強いられている。
二人とも初めてのダンジョンだから、これが異常なのか、それともこれで普通なのかどうかすらわからない。しかもここはまだ入り口にすら到達していない。
この時点でもう帰ろうかと弱気な発想が首をもたげるが、軽く首を振って否定する。どうしてここまで弱気な心が表に出てくるのだろう?
坑道の入り口に到達する。入り口は南側に接している為、普通に灌木の中に埋もれかけていた。後で来ることも考えて、風の刃で入り口の木々を剪定する。したのだけど、
「ちょっと違和感というか抵抗が?」
「これは……迂闊だった……ここまで彼女の侵食が進んでるなんて……あの子サボり過ぎよ」
「彼女?」
珍しく硬い表情のまま、それ以上黙して語らない。『彼女』とは、雷鳴の精霊……の事じゃないよね? どういう事だろう?
「私達だけじゃマズいわ。今日は引き上げま……」
その時、凄まじい悪寒が全身を貫いた。誰かに心の奥底まで見られたような感覚。何かに侵食されるような痺れ。そして……。
「〔気配察知〕にっ!? さっきまで何もっ!」
ボク達の周囲に突如複数の気配が現れる。茂みをかき分け現れたのは、7つの小さな人影。洞窟前にいるこちらの往く手を塞ぐようにして、廃村方向に逃がさないように半円形に包囲してくる。
名 称:ゴブリン(邪人)
状 態:邪悪なる精霊の使徒
スキル:短剣術
弱 点:特になし
名 称:ゴブリン(邪人)
状 態:邪悪なる精霊の使徒
スキル:棍棒術
弱 点:特になし
名 称:ゴブリン(邪人)x2
状 態:邪悪なる精霊の使徒
スキル:弓術
弱 点:特になし
名 称:ゴブリン(邪人)x2
状 態:邪悪なる精霊の使徒
スキル:剣術
弱 点:特になし
名 称:ゴブリンリーダー(邪人)
状 態:邪悪なる精霊の加護
スキル:剣術 指揮 鼓舞
弱 点:特になし
「これがレント達が言ってたゴブリン?」
咄嗟に行った鑑定結果を見て呟く。
レントが言う最弱の1メートル弱の人型の魔物。なのに感じるプレッシャーは今までの魔物と段違い。鑑定の状態の欄に邪悪なる精霊の……。
「邪悪なる精霊の加護持ちっ!?」
前に見た種族ステータス説明の一文が頭に浮かび、この場所、そして状況の悪さにようやく気付く。
邪悪なる精霊の悪意の波動まで受け入れてしまう為、呪いへの抵抗力が非常に弱い。波動の抵抗に失敗すると、ステータスが大幅ダウン。更にファンブルすると、ランダムに状態異常付与(抵抗不可)……。
思わずステータスを開く。そこには、見慣れないアイコンがあった。
〔呪いの侵食/10%〕精霊の眷属特有のステータス異常のひとつ。MNDの抵抗に失敗し、邪悪なる精霊の悪意の波動に侵食された状態。侵食率と同様のステータスダウン。回復には清浄な場所での休息又は特殊な方法が必要。100%で意識喪失し堕ちることとなる。受け止めきれなければそのまま死亡する。
「堕ちるって……」
「彼女の眷属になるという事よ。言わばあいつらと同類ね」
厳しい目で目の前を見つめるエフィ。「本来の力が出せれば、この程度ものともしないのに」とボヤいていたが、一転厳しい声を発した。
「来るわよっ!」
エフィの突き出す手に装飾華美な硬質の石槍が出現し、その姿が白銀の戦装束と変化する。飛来した矢を薙ぎ払い、ボクの前に立つ。
少し慌てながらも魔法で援護する為、彼女の邪魔にならないように数歩後ろに下がり……背後から何かに横薙ぎの攻撃を受けた。
「セイっ!?」
叫んでるだろう彼女の声が何故か遠い。一瞬意識を失いかけ、地面に叩きつけられた痛みで取り戻す。転がっていった先で自分を蹴りつけた相手の姿が瞳に映る。
名 称:オーク(邪人)
状 態:邪悪なる精霊の加護
スキル:体術 武闘術 狂化
弱 点:特になし
恐らく洞窟から出てきたのだろう2メートル弱の豚面の邪人、オークはそのままこちらに向かって突進してきた。エフィはゴブリンに牽制され、こちらに駆けつけることが出来ずにいる。
出来る対処を模索し……思ったより身体が動かないことに気付く。
開きっぱなしのステータス画面には、恐らく攻撃を食らったときに強制失敗が発生したのだろう、新たに麻痺(弱)が追加されたことを示すアイコンが点灯していた。しかも加護持ちオークと接触したせいか、現在の侵食率は50%まで跳ね上がっている。
状況はさらに悪化の一途を辿っていた。
倒れたままのこちらを踏みつぶそうと飛び蹴りを放ってくるオークから、不格好ながらも転がって躱す。麻痺しているとはいえ、まだ『弱』。身体を何とか無理やりに動かす。
しかも状態異常回復系のポーションは何一つ持ってきていないので、時間経過でしか回復は見込めない。頼みの綱は精霊魔法のみ……。
「お願いっ!」
オークの足元の地面を陥没させ泥沼にする。体勢を崩させ両手を付いたところで更に行使。今度は硬化させる。
魔法は行使できているけど、違和感や抵抗感がすごい。ステータスダウンのせいなのか、邪悪なる精霊の影響下に置かれつつある場所での行使のせいなのか。それとも侵食されているボクに対しての精霊の抵抗なのだろうか?
いずれにしても、MPの消費が高い。
エフィの姿を探す。
ゴブリンリーダーの指揮の元、統率のとれた連携を取ってくるゴブリン達に、彼女は防御中心の立ち回りをせざるを得ないせいか、2体のゴブリンを討伐するにとどまっていた。
更に、こちらに強引に来ようとして失敗したのか、その装束に若干の破れや切り裂かれた部分があるのを見て取れる。
呪いの侵食は当然精霊である彼女に対しても起こってる筈で、その状況下でゴブリンに囲まれたままの彼女を援護できない事と、この状況を招いた事に歯噛みする。
お決まりの風の刃にて、オークの首を刎ねようとした。だけど、力の練り込みが足りなかったのか抵抗されたのか、浅く切り裂いただけ。もう一度しっかりと時間をかけ練り込みをして放ったが、オークは地面からようやく引き抜いた右腕で首をガードし、その右腕を跳ね飛ばすのみに終わる。
オークが怒号を発する。
瞬間、どす黒いオーラを身にまとったのを感じた。残りの手足を拘束していた大地の枷が放射状に吹き飛ぶ。
「まっ……」
まずい、と認識した時にはオークのタックルをその身にくらっていた。宙に吹き飛ばされるボクの身体の中心から嫌な音が鳴り響いたのが聞こえ……。
エフィの悲痛な叫びを遠くに、ボクの意識は闇に落ちた……。
「……あ」
目の前のバイザーに映る『現身が戦闘不能になりました。休憩して気分をリラックスしましょう』との文字を見て、あの攻撃でHPがあっさり消し飛んだと今更実感する。そして最後の……。
「ごめん、エフィ」
彼女のボクを呼ぶ声が耳に残っていた。とっくの昔から、エフィの事はデータなどと思っていない。ボク達プレイヤーは復活するとはいえ、悲しい思いをさせてしまった事には変わりはなく、早く謝りたかった。
すぐにインしたかったが、ふと思い立ち、『ドワーフの坑道へ偵察しに行った事』『入り口で邪悪なる精霊の加護持ちと戦闘になり死に戻った事』『坑道の状態がおかしい事』の3点を、樹の携帯端末にメールで送りつけた。樹ならログインするまでに何かいい対応を考えておいてくれる筈だし、僕一人で思い悩むよりはいいと思う。
そうして、ボクは再びあの世界に舞い戻った。
目を開けると綺麗な夕暮れが飛び込んできた。
ミィンの町のポータルは石の石碑であり、その周囲に小さな公園が展開されている。その石碑の前にボクは舞い降りた。と同時にボクの目の前に金色の光が躍る。そのままボクは抱きしめられ、そのままトサリッと後ろの石碑に背を預けることとなった。
『……エフィ?』
『心配……したんだから』
『ごめんなさい』
『ううん。異変に気付くのが遅れた私も悪いの……それに、歴代の古代森精種と違って、セイは生まれながらの古代森精種なのを失念してた事も』
『もしかして普通なら?』
『森精種ならまだ普人種と変わりがないから、あの程度全く問題ないわ。そして彼らが老練し、卓越した知識と技能を持つようになり、精霊に認められて道が開けるのが古代森精種と呼ばれる存在だもの。レベルが違いすぎるわ』
でも、と彼女は続ける。
『セイならきっとそのレベルまで辿り着ける。私も協力する。だからこの世界を……』
そっと彼女のセリフを遮るように人差し指を当てる。その先を言わせたくなかった。
『大丈夫。覚悟はとうに決めてるし、この世界を旅するって決めた。だからこれからもよろしくね、エフィ』
『……うん。ありがとうセイ』
ようやくニコリと笑ってくれたエフィにボクはホッとする。
……けど、同時に、その……急に恥ずかしくなった。よくドラマである壁ドンみたいな体勢だし……。逆だけど。
『そのエフィ? 他の人からは見えてないとは言え、そろそろ恥ずかしいんだけど?』
『? ……あ』
気づいて朱に染まったエフィだけど、『このまま宿にお持ち帰りしようかしら』とからかい気味に言い出したのを見て、二人で笑いあったのだった。
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《ASの知識の何故?なに?TIPS》
●ユニット死亡時
・プレイヤーの場合
HPがなくなると仮死状態となり、それと共に蘇生可能時間が減少していく。その時の身体の損壊状態によって、制限時間が違う(急所にダメージを負っているとかなり短くなる)。蘇生アイテムを持っている場合以外は、意識は一時的になくなる。
その間に蘇生できなかったら死亡確定となる。その際、所持金の半分を失って強制ログアウト。死亡した時間から換算して4時間(現実時間で1時間)のステータス半減ペナルティーがつく。アイテムや装備、稼いだ経験値をロストすることはない。
呪いの侵食100%によって意識喪失した場合は、『闇に堕ちて生まれ変わる』か『死に戻る』のかどちらかの選択をすることになる。
・住民及び使役獣(騎乗生物含む)の場合
HPがなくなると仮死状態となり蘇生時間があるのも同じだが、死亡すると二度とその住民や使役獣は復活しない。
呪いの侵食の場合はその住民の人柄次第で選択決定される。
・召喚獣の場合
顕現化している召喚獣のHPは、仮初の肉体を維持するための指標であり、0になった時点で顕現化が解除されるだけである。ただし、その際にしばらく顕現できない等のペナルティーを負う。
呪いの侵食にはそこそこ弱いが基本的に分体であり、絶対に本体には届かないようにしている為か闇堕ちすることはない。
・精霊の場合
顕現化している状態に関しては、召喚獣と同じ。
呪いの侵食の耐性は個体差があるが、一度侵食されてしまうとかなり弱く、状況次第では勝手に悪化していく。侵食されたのが分体であればそれが解除されるだけで問題はないが、それが本体であれば精霊としての死、すなわちそのまま消滅するか、邪精霊となる。
住民のパターンで言えば、老練卓越した高レベル高ステータスの森精種がようやく進化するのが、古代森精種です。
最初っから選んじゃったセイ君は、当然ながら抵抗するために必要なMNDを始め他のステータスが……。




