28話 鉱山の町ミィンとアップデート
お披露目回です。
ようやくゲーム内容に集中できそう?
鉱山の町ミィン。
別世界の旅人達が勝手に北方第2エリアと呼んでいるフィールドにある、鉱夫達の町である。
ボク達一行はあっさり蜘蛛を倒して森を脱出した後、王都方面とつながっているらしい街道に合流。1日かけて更に北へ街道を歩き旅をしてきた。そしてついさっき町の入り口の門にたどり着いたところである。
フィールドも普通に広大で、矛盾のあるようなマップになっていない所に好感が持てるとレントが言っていた。ボクも同感である。
なんかこう……旅をしている、って感覚がいいよね。現実日常とは違い、ステータスからくる身体的な強化がされているのか、疲労感が少ない点も、周りの風景を楽しんでいられる要因になっている。
まあ魔物はそこそこ襲っては来たんだけど、街道だからか大して強くなかった。
この町の入り口でも、ビギンの街でしたように門番達の検査を受ける。ビギンの街ではなかった別世界の旅人用の入門料(初回だけらしい)を払い、ようやく町の中に入る。
新しい町に着いたという事で、まずは忘れないように中央ポータルに触れて、自分のステータスをポータルに登録をしておく。こうすることで、世界間転送移動が可能になるそうだ。
この町については、鉱山の町という以外なんの情報も聞いていない。
……何の食べ物がおいしいんだろうか?
「なんで鉱山の町に来て、真っ先に食べ物の話が出てくるのよ?」
「セイ君だからね」
町に入った後に実体化させておいたエフィに食品特産品の事を訊ねると、大いに呆れられた。別にいいじゃない。美味しいものが食べたいんだよ。
「ここは酒だな。ドワーフ殺しと言われる蒸留酒とかそっち方面だぞ」
うっ。
「そら、荒くれ者が多い鉱夫達の町だぞ。普通の飯なんてねぇよ。そういや燻製肉はあったか?」
「お酒のお供でソーセージとか?」
「そうそう」
じゃ後で買い込んでおこう。ポトフとか作ったら美味しそうだなぁ。
メインストリートから少し外れたこじんまりとした宿屋に、6人部屋を借りて拠点を設定することになった。店主であるドワーフ夫妻の料理もおいしいし、ボクからはいう事は全くない。
ここの町の坑道……洞窟型ダンジョンには最初期の鉱石を掘りに行ける。また蝙蝠とか蛇とかの魔物も登場する。だがボク達の第一の目的はそちらではなく、廃棄された坑道、別名〔ドワーフの坑道〕に用がある。
ゴブリンやオークと呼ばれる邪人の住処になってしまっているこの洞窟には、レントの守護精霊 雷鳴の精霊の打ち捨てられた祭壇が存在し、そこで加護解放の設置型試練がスタートできる。そのうえで試練をクリアして加護を解放出来れば、PTの戦力は強化できるはずだ。
それに、源さんとマツリさんもすでに守護精霊イベを開始できている。試練の内容は詳しく教えて貰ってないけど、生産系らしくそのうちクリアできると聞いているから、多分イベントには間に合うはず。
ちなみに源さんが地の精霊で、マツリさんが風の精霊。
ユイカの守護精霊である太陽の精霊の場所は分かっていないため、彼女だけお預けであるけれどそれは仕方なかった。
ちなみにレントがエフィに聞いたところ、「太陽の精霊相手にズルはダメよ。そういう事には厳しい子なの」と返されたらしい。
……会いに来てくれたボクのクリアはズルじゃないのか? と言われれば心苦しいけど。そういう意味でも、チュートリアルでエフィみたいな精霊と出会えた事は幸運だったと思っている。
借りている部屋の中で寛ぎながらインベントリーの整理や移動をしていると、動画配信時間5分前になったのか運営メールがみんなに届いた。
そのメールに添付されていたアイテム……〔精霊念話感応石〕という名前……を実体化すると、丸い水晶球みたいなアイテムがボクの手のひらに現れる。
それをボクから受け取ったレントが、メールで指示された手順を実行し机の上に置くと、そこから光が溢れ出し、60センチくらいの大きさのオオカミがお座りしている立体画像が浮かび上がった。
白銀の精悍な顔付きをしたオオカミなのだけど、首に『もう少し待ってね♪』という丸文字で書かれたプラカードがかかっていて、格好良さよりもコミカルな可愛さのイメージになってしまっていた。
「あら、この子フェンリルじゃない」
エフィが机の上に展開している立体画像を覗き込むと、
「月の精霊の所の子よ。小さいと可愛らしいわね」
「ルナ?」
「ええ、私のいとこ筋にあたる精霊で太陽の精霊の妹よ」
「もしかして精霊って血縁があるのか?」
「一応概念としてあるわよ。創造神様の御力より、『調和』『永遠』『運命』の概念を持つ三姉妹が誕生したわ。その中の一柱、永遠の精霊様の妹にあたる方が運命の精霊様で、太陽の精霊と月の精霊は娘になるわ。私達娘はそれぞれのお母様の力の一欠片から産まれた存在と聞いているわ」
「三姉妹? もう一柱いるのか」
「いえ、他にも……っと。これ以上はごめんなさい。自分達で見つけてちょうだいね」
「……んだな。訊いてばかりじゃ面白くねぇ」
「まあそういう訳だから、私の統括している精霊達ならともかく、あちら側にはあまり関われないの。ごめんなさいね」
ユイカの加護の事を言っているのだろう。今でも十分すぎる程なんだから、気にしないでいいのにね。
『はーい、皆様ごきげんよう! お知らせの時間ですわよ』
『……始まります』
時間が来たと同時にフェンリルが端に移動したのか画面から消えると、やたらとテンションの高い真っ赤なドレスを着た金髪縦ロールなお姉様タイプの女性と、金色の髪を兎の耳のように結った長いツインテールの小さな女の子が登場する。
横から「げっ……お母様」というエフィの声が漏れ聞こえたところを見ると、一柱はどうも精霊女王様らしかった。
ええと、やっぱ赤いドレスの方の女性?
『今までは文章で告知していた創造神様のお言葉でしたけども、それじゃ味気ないというご意見がございまして』
『……白羽の矢刺さった。ぶっすり』
『ええ、主様はわたくし達が広報しなさいとおっしゃられました』
『私達のお披露目も兼ねてる』
『という事でして、今回からわたくし達、運命を司り女王を補佐しているディスティアと……』
『永遠のエターニア……精霊女王やってます』
『……がお送りさせていただきますわっ!』
『わーぱちぱちぱち』
なんていうか……。
「エフィ嬢ちゃんの母親って、ちんまい方かよ」
「なんか……独特な方ですね」
「あの棒読み、わざとやってるのかな?」
「……絶対に言われると思ったわ」
額を押さえながらボヤくエフィ。
立体映像の中の精霊女王様は、エフィと並んで立ったら姉妹の妹に見えてしまうよね。
しかも今着てるようなフリルだらけのドレスがよく似合うような……威厳というよりは、保護欲全開でつい頭を撫でたくなるような方だった。
……ちなみにアレ、演技じゃなく。
極度に緊張しちゃうとああなるらしいです。
『さて始めに。主様からお言葉を賜っておりますわ。ご紹介しますわね』
運命の精霊がよくある祝辞を述べていき、更に現プレイヤーの気になるデータを発表していった。
それによると。
今のトッププレイヤーの最高レベルは、種族レベル54。更に今発見されている特異職が5種類と公表された。つまり掲示板に出ていない特異職は、ボクの〔御子〕を入れて3種類。
彼女らが言うには、特異職は他の職とは違い、レベルアップだけではクラスチェンジできないとの事。クラスアップがないわけではない。クラスチェンジ条件に特異職独特の解放条件を満たす必要があるらしい。
『種族進化の試練クエストも、多くの方が挑戦し始めていますわ』
『みんな頑張ってる』
『それにいつになるかなと思っていましたけども。ようやくわたくし達の加護を受けていただけるようになりまして、嬉しい限りですわ』
『寵愛まで至った子もいた。……んっ、おめでとう』
ぇ?
初めてニコリと笑うエターニア。
「あ、セイ君の事も言われてる」
ドキッとしたよ、もう。なぜか映像越しにエターニアと目が合ったような気がしたし。
『わたくし達は気軽に加護を与えることは出来ませんけど』
『試練てんこ盛り出すよ?』
『わたくし達より娘達の方が、普通に加護を得やすいですわよ。是非探し出して迫ってくれてかまいませんわ』
『でも強引はダメ』
『嫌われないようにしないといけないですわね。身持ちの堅いコもいますわ』
『自己責任』
「エフィの嬢ちゃんはどっちのタイプだ?」
「心底気に入った人じゃないとあげたくないわね。今の所見てきた中ではセイしかいないわ」
「だってよ。よかったな」
うん、エフィありがとう。こういうの面と向かって言われるのって恥ずかしいけど嬉しいね。
『続いて主様が新しく組み込んだ情報の詳細ですわ』
『ぱちぱちぱち』
新しく組み込んだ? アップデートの事かな?
『まずは皆様が呼称している〔東方第4エリア〕などに真っ向から対抗するようで悪いのですけど……』
うん?
『これがエストラルドの地図……の一部。これがみんながいる大陸で国家は3つ』
エターニアがフリップボードに描かれた地図を掲げる……って、どこから出したのっ?
『今最前線クランがたむろってるのがこの場所』
たむろってるって。確かに次のマップに苦戦してるって兄さんから聞いてるけど。
エターニアが指差すところ、ちょうど〔プレシニア王国〕と手書きで書いてあった横長の国。指の位置が王都プレスとして……。
そこの東側は丘みたいな絵の先に別の国が広がってるけど、他の方角は海になっていた。
「東側以外海に囲まれてるじゃねぇか」
「この大陸と言ったな? ってことはいつか海渡るのか?」
「どっかで見たことある形だと思ったら、ヨーロッパのスペインポルトガル地方に似ているわね。東の境界線の南北に別々の国があるのかしら?」
この大陸って世界でどの辺なのかな?
『あなた方を東の峠で阻んでいた炎龍皇は移動しましたから、この大陸全土色々行けるようになりましたわよ』
『王都の東で遊んでいたドラゴンさんは移動させたから。もーまんたい』
『姉様が炎龍皇を説得して下さったおかげですわ』
え、炎龍皇って!?
「物理で通行止めしてやがったのかよ」
そりゃ無理だよね。
『炎龍皇は話せばわかる子。賢いから。でもあの子は強い子が好き。あなた達旅人がどんな強さを持ってるか、どんな発想を持ってくるか見たかった、って言ってた』
『出会った方々から色んな対応が見れて楽しかった、と聞いてますわ。力で挑んできた方もいたそうですが』
『力を抑えて人型になってたから、いい闘いが出来たと喜んでた』
『東以外でもまだまだいけるところはあったのだけど、何故か東ばかりに皆様進出されてきましたわ。お次は、万遍なく行かれるといいことありますわよ』
『船……交易品……新大陸?』
『おっと、そこまでですわ。後は事前に主様がお伝えになっていた〔防具破損〕と〔防具可変〕が適応されますわ。そしていくつかの追加事項がありましてよ』
『コードを弄ると、時間で髪や髯が伸びたり髪型変更も。季節や地域の気候での体感の変化を、よりあなたたちの世界と同じになるように。あとちょっと遅くなるけど、イベント後にお風呂でリラックス。ぬくぬく』
お風呂っ、入れるようになるの?
『でもお風呂……水着着用だから気を付けて。インナーウェアに水着機能がつく。18歳の子はそれも脱げるけど、公共の場だと衛兵に「御用だ御用だ」ってされるよ?』
『成人の方々は個人で楽しむ分にはいいですわ。主様のお言葉には「謎の光と湯気が大活躍」とありましたの。ただ、混浴等は普通に双方の同意が必要でしてよ。当然通報で何度も捕まってると、この世界に来れなくなりますから注意して下さいませ』
『最後にイベント情報。ぱふぱふどんどん』
『まずは現在もこっそり行われている新人さん応援期間についてですわ』
『種族レベル20以下の子達。経験値倍増。レベルアップ祭り?』
あーそれでこんなにみんな早く上がっていくのね。ボクもあっという間に20になったのは、そのせいだったか。
『気になるワールドイベントは、ハイキングイベントを開催しますわ』
『参加者は当日の朝8時にビギンの噴水広場まで集合』
『噴水広場の敷地内にいる別世界の旅人は全て参加の意思があると見なしますので、参加をされない方は入らないようにお願いしますわ』
『当日も確認するけど、注意』
『イベント場所は、とある山の麓にある村よ。ここから山を越えて、別の街に向かって移動することになるわ』
『街も村も実際にこの世界に存在する。だから村のポータルに触れるのは禁止。触れたらそこでリタイアと見做す』
『街のポータルがゴールよ。こちらに触れた時点で順位が決まりますが、ポータル登録はされませんわ。……ポータルに触れた後でも、制限時間一杯まで、街の探索や買い物、道中の寄り道等色々できますわよ?』
『途中で力尽きた場合は、個人、パーティーごとに距離と時間等で順位決定。もちろん早い順位だけがいいわけじゃない』
『未だかつて誰も行ったことがないエリアでの開催ですわ。だから、見たことのない素材があるかもしれませんことよ』
『出てくる魔物は、正規ルートで王都の雑魚レベル。2次職フルPTだと余裕。
また、何かの緊急に備えての現身残しのログアウト可能。ただし今回は異空間に連れていくから、30分の離席が1日の遅れになる事注意』
『イベント中は6日間よ。つまりあなた方の世界でいうと、3時間を予定していますわ。それまでにゴールしてくださいな』
『気になるイベントタイトルはこっち』
と、エターニアが新しいフリップを持ち上げる。そこにタイトルが書いてあるんだけど。
「おいおい、字がちげぇぞ。誤植かっ!?」
「ネタブッこんで来るとか」
「『逝こう』の文字が不安なんだけど……」
「だ、大丈夫かしら?」
そこには〔あの山を越えて逝こう〕と書かれていて、なんか不安しか感じないのであった。
(多分)次回は掲示板になる予定です。
なぜか休日マークの所に勤務が増えていくのですが…GW?知らない子ですね




