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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
初イベに燃ゆる懐刀
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27話 幼馴染として

2017/11/14 加筆修正(2000文字くらい?)しました。




 今日の生産作業はひとまず終了との事で、部屋を引き払い、源さんと共にマツリさんが借りている部屋に戻ってくる。

 ここの生産部屋のベッドは、あくまでログアウト用とか一時仮眠用であって、宿がわりにするのは色々と不便だからね。


 ノックをして了承を取った後、中に入るとそこにはエフィとマツリさんだけがいた。


 あれ?

 ユイカはどこへ?


「ユイカはまだ着替え中なの?」


 エフィとマツリさんに聞くと、二人は意地の悪そうな笑みを見せてから、ボクの背後を指さした。


「セ、セイ君。お帰りなさい」


 と、背後からユイカが声がかけてきたのがわかった。

 所用で外にいたのかと何気なく振り向いたら、巫女服に着替え終わって、恥ずかしそうに照れまくっているユイカの姿が目に入った。


「セイ君。ど、どうかな?」


 あー。


 おずおずと問いかけてきたユイカ。なんだか普段の元気印花丸を上げたいくらいの活動的な彼女とは違うその姿に、思わず言葉が出なくなった。


 亜麻色の髪の中から飛び出している狐耳はしんなり垂れていて、腰から生えている尻尾も不安そうに少し揺れているが、その瞳はボクの回答を心待ちにしているようだった。


 感想を言わなきゃいけないとは思うけど、いつものようにすんなり出てこない。


 あれ、なんでだろ?

 どうしよう。


「うん……似合ってると思うよ」


 結局当たり障りのない言葉になっちゃった。


「ありがとっ」


 ボクの様子を見て嬉しそうに笑うユイカを見て、ボクは更に照れた顔を隠すために横を向いた。そこで、いたずらが成功したみたいにニンマリ笑っている二人を見つけてしまい、内心大きなため息を吐くのであった。




 そして冒険者ギルドを出たボク達は、同じ東区にあるこじんまりとした小さな宿屋にいた。

 4人部屋は空いていなかったので、2人部屋を2つ確保してある。その中の一室。


 あの後旅立つ前にと、これからの移動に使用するいくつかの必要道具を取り揃える為、みんなと打ち合わせを行っている。


 現身アバターごとこの世界から退場ログアウトしていたレントからは、明日の朝……ゲーム内こちらの時間で遅くとも朝八時には噴水広場に来るとの連絡がメールで着ていた。


 ボク達の次の目的地は、北の森を超えた先にある鉱夫達の町ミィンだ。

 その町で常駐して、レベル上げと装備の充実を図るのが目的である。


 北の森を抜けてからミィンの町までは徒歩で約1日程度離れているらしく、途中のセーフティエリアでログアウト等の休憩を取ることになりそうだった。


 こういう時の機動力は、従獣士テイマー召喚士サモナーが便利そうだよね。実際人気職の一つだし。

 ボク自身も古代森精種エンシェントエルフの種族になっていなければ、精霊魔法士を選ばずにそのどちらかを選んでいた可能性が非常に高い。


 ほら、普通エルフって聞くと、自然と森と生きるというイメージがあるじゃない?

 モフモフな子を抱きしめるのも捨てがたかったんだけどな。


「必要な買い物は各自のテントと食材、んで食器くれぇか?」


「調理済みの食糧と食材はボクが既に必要量買い込んでるから大丈夫です。食器は……北の森を抜ける時に、伐採した木材で源さんがサクッと作れないですか?」


「あーそうだな。その方がレベル上げにもなるし、経費も節減できる。今回俺らで使うモンそれでいいか」


「この先どれくらいお金要るか分からないから、節約していかないとだね」


「今から買い出し?」


 ボクが聞くと、源さんは首を振った。


「時間的にもう無理だろ。明日の朝、あいつを迎えいく奴と買い出し組で二手に分かれたほうがいいだろうな」


 確かにすでに20時を回っている。

 日が落ちてしまったら、住民経営のアイテム屋とかのお店って大概閉まってるんだよね。開いているのは宿屋、そして酒場とか夜がメインのお店だけだ。


「ユイカはテントって買ったの?」


「お兄に言われて最初に買ってるよ。

 んじゃ、あたしとセイ君で迎えに行くから、お二人は買い出しお願いです」


「おけ、任された」


 後は合流とか細かなことを話し合って、その日は解散ってことになった。

 なったんだけど……。




「……普通、ボクと源さんが同じ部屋になるんじゃないのかな?」


「あの二人は夫婦なんだし、同じ部屋がいいんじゃないかな。邪魔したらダメだよ。

 というわけで、こっちの部屋は幼馴染部屋ね」


 ニコニコと満面の笑みのユイカ。

 それはいんだけど、何故ベッドを寄せてくるのさ!?


 あの後もう一つの宿泊部屋へと行こうとした源さんとボク。その際ボクを引き留め、代わりにマツリさんに一緒に行くようユイカが言い出した。

 そうユイカが言い出す事を予想していたんだろう。マツリさんは二つ返事でそれを引き受け、源さんと一緒にもう一つの部屋に移っていった。


 親同士が親友でお隣同士、そして色々あって……。

 ユイカとは兄妹同然の扱いとして一緒に育ったようなものだとはいえ、今はもう一人でも大丈夫になってたんじゃなかったっけ?


「どうせこっちでは寝て、ログアウトするんでしょ? 向こうじゃお昼ご飯だしね」


元の世界に戻るログアウトするのに、ベッドを寄せる理由にならないんだけど?」

 

「んもぅ、気が利かないなぁ。まあいいや」


 ボクへの説得を諦めたのか、取り敢えず同じ部屋という現状に満足したのか分からないけど、ユイカは素直に引き下がった。

 ボクの目の前でも気にせず初心者ローブを脱いで虚空の穴インベントリーに放り込むと、インナーウェア──白色のTシャツとホットパンツ姿になり、ベッドに飛び乗った。毛布を被りながら何やら操作をする。


「んじゃ、セイ君。また向こう・・・でね♪」


 現実に帰還ログアウトしたのだろう。僅かに発光した後、ユイカから感じていた存在感が希薄になり、かすかに寝息が聞こえてくる。

 現身アバター残しの他人ひとのログアウト中の姿を見るのは初めてだけど、こうなるのね。


「この子って、セイに無条件で気を許しているのね」


 ボクの背後にいて、さっきまでずっと黙って事の次第を眺めていたエフィが顕現化を行い、穏やかに眠るユイカを見下ろしながら口を開いてきた。


「……そうだね。昔からボクに対してべったりだったよ」


 あの事が起こる前から、ボクの後を常に追いかけてきて引っ付きたがる子だったからなぁ。


「ボクも落ちよう」


 彼女を見ていると、さっきの巫女姿が浮かびかけ慌てて振り払う。


「普段のユイカとのギャップが衝撃的だったのかな?」


 独りごち、少し出かけてくるというエフィに「また明日」と挨拶を交わし、この世界からログアウトを行うのであった。




 お昼ご飯を作っている最中、結衣がボクの家に転がり込んできた。


 両親も樹も出掛けていて、家に誰もいないらしい。

 実際、それはある程度想定していた事だったので、実はしっかりと焼うどんを二人分作っていた。来なかったら来なかったで、海人兄さんのお昼ご飯にしたらいいだけだし。


 え? 結衣に上げたら、兄さんの分が無くなるじゃないかって?

 その時はどっかに食べに行くでしょ。子供じゃないんだし。


 二人で談笑しながら食べ、一緒に皿洗い等を手伝ってくれた後、結衣は手を振りながら先に帰っていった。

 多分すぐにASにログインする気なんだろう。少し欠伸混じりだったから、向こうで寝るつもりなのかもしれない。


 ボクもすぐにログイン……という訳にはいかない。まだ家事が、朝に干した洗濯物や布団を、今のうちに取り込んでおく作業が残っている。

 昨日に買い物を済ませているから、今日は家を出る必要がない点は楽である。


 今日は良く晴れているから、洗濯物は既にしっかりと乾いているようだ。踏み台の上に乗りつつ、全て取り込む。持ち主別に分けて、それぞれの部屋へ。

 干していたボクと兄さんの布団はしっかりとはたいて、ベッドの上に戻し、さらなシーツを被せる。


 ちゃっちゃと手抜きしながら片付けたつもりだったけど、そこそこの時間が経ってしまっていた。


 大きな欠伸が出る。ボクも結衣の事を言えない。

 現実世界こっちではまだ起きてから六時間くらいしか経っていないけど、精霊世界むこうで活動していた時間と合わせれば、ほぼ丸一日動きづめ。体感的に既に深夜だ。


 このASって時間がリンクしていないせいで、時差ボケしちゃう点だけはいただけないな。

 まあもっともログイン中は現実リアルの身体は寝ている状態にあるし、向こうで寝れば精神的にも寝れるから、上手く調整さえできれば利便性が高まりそう。


 常にそんな事していると、身体壊しそうだけど。



 用事を全て終わらせると、睡眠スリープモードでのログインを行う。


 これは現身アバターを残してログアウトした時のみ選べる、時差を緩和するログイン時専用機能。さっきのボクや結衣みたいな時差ボケを修正する機能だ。


 現実とこの世界ゲームの時差スピードを変えている為このモードが搭載されているらしく、睡眠導入みたいな感じで、ログイン後数秒で時差緩和を行う眠りに強制的につくことが出来る。


 その性質上、当然ながら宿屋やテント内など、特定の条件がそろわなければこの機能を使うことは出来ない。どういう仕組みになっているのか全く分からないけど、ログイン時に眠りの魔法をかけられた感じと思えばいいのかな? 


 じゃあ時差作るの辞めろよと言われればそれまでだけど、正直時差がないとあれだけの広大な世界を冒険出来ない。

 ボクは必須機能だと思う。


 この機能、実はついさっき食事中に結衣に教えて貰って、初めてこの機能があるのに気付いたのよね。

 昨日樹に言われて色んな説明を読んでいるつもりでいたけど、まだまだいっぱい抜けている自分にちょっぴりへこんでしまうよ、ホント。



 ログインを行った後、照明の消えた真っ暗の宿屋のベッドの上に、気付けばいた。


 すぐに眠気が襲い掛かってくる。

 夢うつつにも、傍にあった柔らかな感触のモノを引き寄せ、抱きしめながらそのまま眠る。ボクの頭の中の片隅で「あれ?」と疑問に思ったが、眠気に蕩けた思考がそれ以上考えるのを放棄する。


 なんだかいい夢を見られそうな気がした。

 優しく甘い匂いに包まれつつ、そのまま意識を落としていった。




 目覚めはすごぶる快適だった。

 丸まった毛布か何かだと思っていたモノが、ボクがこの世界に来る前にベッドに潜り込んできたと思われるユイカだとわかるまでは。


 一瞬狼狽ろうばいはしたけれど、ボクの胸元の服を握りしめて安心しきって眠るユイカの表情を見て、はたと思い出す。


 そういえばユイカは、結衣は一人で眠れない。

 必ず誰かが近くにいるか、もしくは誰かと一緒に寝ないと決して安眠する事はない。


 ボクが記憶の一部を無くす前はそんな事はなかったはずだから、ボクが無くした記憶に起因するモノなのだろう。


 気絶するように意識を失っては悪夢で飛び起きて……を繰り返してた結衣。


 当時理由を知らなかったボクは、子供心ながら彼女が寂しくないようにと。

 誰かのかわりになるようにと。


 ボクが結衣の為にと選んできた狐のぬいぐるみを送ってからは、ぐっすり眠れるようになったと聞いている。それでも朝起きたら、何故か結衣がボクのベッドの中に潜り込んでいたという事が、昔から何度もあったけど。

 樹が苦笑するくらい、ボクに対してべったりだったし。


 ここ最近は潜り込んでくるような事が全くなかったから、すっかり忘れていたよ。


 それに結衣が潜り込んできた日は、なぜか例の夢を見ない。確かにこれはこれで恥ずかしいのだけど、お互いがお互いを無意識で必要としているのだろうか?


 よくわからない。


 ボクは彼女にどう接するのが一番なのだろうか?



 ──答えはいまだ出ない。




 七時になったのを見て、ボクはユイカを軽く揺するようにして起こした。彼女はばつの悪そうな顔をしていたが、ボクが気にしていないことを知ると、いつもと同じく笑顔を取り戻してくれた。


 虚空の穴インベントリーに仕舞っていた初心者ローブの外套を羽織りながら、この部屋にいなかったエフィへと念話で呼び掛けると、すでに一階の源さん達の元に来ているという。


 慌てて二人とも身支度を整え、階下に向かう。宿屋の一階にある食堂へ降りると、エフィと源さん夫婦がいるテーブルへと向かった。


 そこには、すでにレントが来ていた。相変わらずの時間厳守。いつも先を見据えて、早目の行動を行う彼には、本当に感心する。


「おはよう、セイ。ユイカ。昨日はいい夢見れたか?」


「おはよう、レント。いつも通りの朝だよ」


「お兄、おはよー」


 なんとなく察しているのだろう、問いかけてくるレントにボク達は無難な答えを返す。


「昨日……っていうのも変な感覚だが。来れなくて悪かったな。今日の予定は源さん達からすでに聞いている」


「これからみんなで買い物かな?」


 こちらにやってきたこの宿の女中へと、朝食を二人分の追加を頼みながら、ボクはレントに問う。


「ああ、さっさと動くぞ」


「俺達もセイから提供される素材で生産してるだけで、結構な勢いでレベルアップしたからな。この近辺の高ランク素材が山ほどあったおかげで、失敗を気にせずガシガシ作業できた。生産職とはいえ、これでお前らの足は引っ張らずに済むと思うぞ」


「今から行けば、運営の動画公開が始まる前には、ミィンの町に着いているはずだ。町の宿でゆっくりとみんなで観るとするか」


 そうだね。色々楽しみだよ。



「じゃ行くかっ!」


 穏やかな太陽が降り注ぐ中、レントの号令でボク達はビギンの街を後にする。


 目指すは、鉱山の町「ミィン」だ。 





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