25話 ユイカとマラソンです
4/18 結局今回の採取は~の下りで、一部文章の順番がおかしかったのを修正。耐性系のスキル説明文の一部が抜けていたのを修正。
8/27 加筆修正しました。
「おっはよー♪ 今日もこちらはいい天気だね」
挨拶と共に、こちらに跳び込んでくるユイカ。
いつも通り元気なユイカだった。
どうやら昨日の影響はなさそうなので、なんかほっとした。ユイカが明るく元気じゃないと、何だかこっちまで調子が狂う。
「お兄からは二人で動けと言われてるんだけど、今日は何をどうするの?」
「とりあえず源さんとマツリさんが作ってる装備品の素材集めだね。目的の素材は北の森にあるからこれから向かうところだよ」
北門を守護している門番へと挨拶しながら、ユイカの問いに答える。
狙うは例の蜘蛛の魔物。
裁縫用の糸が足りないのと、後は染色草と呼ばれる染料用素材だ。
この染色草っていう素材は、各色ごとに別アイテムとして分かれている上、育つ環境によって色が変わるそうだ。
染色草は使用頻度が高いので、普段から集めておいて欲しいと言われている。ちなみに北の森で見つかる色は緑とたまに黒。
持ってさえいれば、ギルドで別色に交換する事も可能なので、目当ての色を探して目くじらたてる必要がないのは助かるね。
そうそう。
エフィは今は顕現化を解いてもらっている。
顕現化をすると、自動的に編成でパーティーに入ってしまう。三人PTになると、色々とマズい。
エフィの稼いだ戦闘貢献度はボクの貢献度としてカウントされてしまうらしく、ユイカのレベル上げに向かないのである。
精霊顕現は、従獣士職や召喚士職の従者と同じ扱いになっているようだ。
エフィとも一緒に戦いたいと思っていたから、ちょっと残念だな。
彼女も一緒に闘いたそうにしてたんだけど、今回は涙を呑んで諦めてもらった。こんな仕様じゃなければなぁ。
染色草が生えている場所を見つけ、ユイカに周りを警戒してもらいながら草引きしてた時、そう言えばユイカに今の現状ステータスを聞くのを忘れていたことに気が付いた。
「そういえば、ユイカのステータス、今どうなってるの?」
「見たい? セイ君ならいつでもいいよ」
と、こちらに可視化して見せてくるユイカ。
名前:ユイカ
種族:獣人種・狐(多尾種) 種族レベル:12
職業:元素魔法士 職業レベル:12
HP:305/270 〔+20〕(+15)
MP:364/325 〔+15〕(+24)
STR:8 〔+1〕
VIT:15 〔+2〕
AGI:20
INT:33 〔+2〕(+4)
MND:20 〔+1〕(+2)
DEX:12
BP:0
SP:4
所有スキル
種族系:〔始祖返り〕
職業系:〔元素魔法〕〔魔法陣・火Lv10〕〔魔法陣・光Lv2〕〔魔法陣・闇Lv4〕
攻撃系:〔杖術Lv7〕
補佐系:〔HPアップLv3〕〔MPアップLv12〕〔INTアップLv11〕〔MNDアップLv6〕〔鑑定Lv8〕〔詠唱短縮Lv6〕〔術式待機Lv3〕〔消費MP減少Lv3〕
生産系:なし
装備:初心者の杖 初心者のローブ 初心者のブーツ
称号:太陽の精霊の加護(特殊制限中)
いくつか持ってないスキルがあるので、参考までにそちらも見せて貰う。
〔始祖返り〕
獣人種・狐族の変異スキル。先祖に妖狐九尾の血が混じっており、隔世遺伝にて発現したとされているがその実態は謎。
先天性と後天性があり、今発現していない狐族でも発現する可能性がある。
肉体と精神の成長に従い、尾が増える。
尾に蓄えられた力を解放するごとに魔力系ステータスが上昇し、解放する尾が増えるごとにその尾に対応した力を解放していくが、連続して使うことは出来ない。
解放した尾の数x解放時間のクールタイムが発生し、その間は解放した尾の数x5%+5%のステータスダウン。(未覚醒)
兄さんが尻尾がどうとか言ってたのがこれかな。
未覚醒になってるのは、レア種族開始の制限で試練クエスト待ちの状態だね。
〔元素魔法〕
元素魔法を使えるようになる為の元素魔法系職業専用スキル。
このスキルがないと〔魔法陣〕スキルを会得できない上、魔法書を手に入れても絶対に開くことすらできない。
〔魔法陣・火〕
元素魔法の火魔法を扱う為のスキル。
レベルが条件を満たしている状態で対応する魔法書を見れば、新たな魔法陣を覚えることが出来る。
〔魔法陣・光〕
元素魔法の光魔法を扱う為のスキル。
レベルが条件を満たしている状態で対応する魔法書を見れば、新たな魔法陣を覚えることが出来る。基本4属性より必要SPは高いが、その分汎用性は高い。(SP7使用)
こっちは元素魔法士系の職業スキルだね。
闇は光と同様なので割愛。基本4属性魔法陣の消費SPは5だそうだ。
レベル100になれば分岐するそうで、SP消費で習得できるようになるってユイカが教えてくれた。
気の遠くなる話だなぁ。こういうものなの?
あとは……〔鑑定〕はその名の通り鑑定を行うスキルで必須スキル。SP消費は1。〔詠唱短縮〕はそのまんま魔法陣へのチャージや、魔法詠唱が短縮されるスキルでなんとSP10必要。〔術式待機〕は完成した魔法の発動を待機させることが出来るスキルで消費SPは5。〔消費MP減少〕はそのまんまでこれも消費SPは10だそうだ。
ユイカ曰く、この辺は魔法系職業の必須スキルになっているもので、成長派生させるためにも早めにとるべきらしい。
といってもボクは精霊魔法の発動速度に困ったことがないし、術式待機も精霊さんにお願いすると即対応してくれるから、まったく必要と感じないんだよね。
消費MPも強引に使わなければ、さほど減らないし……。
いや、前の大狼の時にMPがかつかつになった事を思い出し、やっぱり〔消費MP減少〕だけはとっておこうと思い直してSPを消費した。
元素魔法に有効な魔法補助スキルのほとんどは、精霊魔法には意味がないことが多いね。
素直にそう言ったら、「そんなのセイ君だけだよ」とユイカは言うけど、その分別のスキルを取る為のSPを確保しておくのは大切だと思う。
ボクの場合、状態異常耐性系を全て取るくらいじゃないと、安心出来ないしなぁ。
強制状態異常のアレで、今後ヤバいことになるのが確定してるからね。
耐性系のスキルはたんにかかりにくくなるだけの効果じゃない。状態異常になった後も回復力が早まったり軽度になったりするからだ。
ただ、耐性系はスキル取得可能状態にならないんだよ……何か条件があるのだろうか?
蜘蛛や芋虫型のモンスター相手にユイカが闇の矢を打ち込んでいるのを尻目に、こちらは採取活動を続ける。
ユイカのレベル上げのためにも、こっちはあまり手伝えないのがちょっと残念。
ユイカ自身も護身術程度ならボクの祖父に仕込まれていたので、突撃と糸を飛ばしてくる程度の蜘蛛や芋虫程度、全く問題はないだろう。実際軽くかわして立ち回ってる。
ただなんというか。
ちょっとずつだけど機嫌が悪くなっているような?
なんでだろう?
耳がいいせいか、なんかブツブツと呟いているのが、ちょっと聞こえるんだけど。
「──こうなんというか、二人の初の共同作業というか……弱すぎるここが悪いんだよ」
傍に浮いているエフィが軽くため息を吐くのがわかる。
ん?
どうしたのかな?
『もうちょっと構ってあげたら?
手分けするのもいいけど、一緒に遊ぶの楽しみにしてたんだろうし』
『ユイカのレベル上げ的にマズくない?』
『そういう問題じゃないと思うわ』
特定の事は鋭いくせに、こういうところは気が利かないわね。と手を頬に当ててボヤくエフィを見やり、少し考える。
確かにほったらかしだよね。連携とかの練習もしたいし、やっぱ敵の強い夜に行った方が……。
『夜の狼退治とか考えてるならダメよ?』
なぜわかったし?
結局今回の採取は必要数だけに留めて、北の森のボスを見に行くことになった。
ボス戦は何回でも再戦可能だし、そのドロップ品にも用があるからね。
源さんは戦士としてのスキルもある為、ある程度は戦えることは戦える。けど、マツリさんは生粋の生産職だから、戦闘力がほとんどない。
二人を確実に守れるように、連携パターンを把握しておきたい。
レントがいない場合の前衛はボクが担当して、敵を引き付ける役割をしている。
といっても、ボクはタンクと言われる役割なんかできないし、乱戦になることも多い。その辺はレントが抜群に上手いんだよね。
生産職の人達は、ボクやユイカのような戦闘職のように、火力へと自由にスキルを振りにくい。ステータスの振り分けにしてもDEXを優先しないといけない事が多く、STRに振り分けることが出来ずに低めだからね。
それでも源さんは豪快に殴り飛ばしに行きそうだけど。
北の森の出口の方向へと、地図を持っていたユイカの案内に従って行動する。
次の目的地である〔ドワーフの坑道〕があるエリアの唯一の町〔鉱山の町ミィン〕へのルート開拓をついでにして来てくれと、昨日レントが買っていたのを預かったという。
相変わらず、あいつは準備がいいな。
森の出口に近付くにつれ、辺りに張り巡らされている蜘蛛の巣が増えていく。
北の森のエリアボスは、クイーンスパイダーとキングスパイダーの2匹同時となるが、序盤だけあって個体自体は全く強くない。
怖いのは……。
「ユイカ、そっち行ったよ」
「みぎゃぁ!
気持ちワルッ。こっち来るなっ!」
ぶんぶんと杖を振り回しながら牽制しつつ逃げ回っている。
そりゃ、軽自動車くらいあるデカい蜘蛛なんて、ドアップで見たら気持ち悪いに決まっている。
2体の大蜘蛛が連携を取りながら、カサカサとにじり寄ってくる様はなかなか怖気が走る。
けど、落ち着いて対処すれば、苦戦する筈もない。
杖を日本刀に見立て、抜刀の動作で振り抜く事で、イメージの補完を行う。
ボクが打ち出した風の刃が、その先にいたクイーンスパイダーに襲い掛かり、背後に抜け、そして左半分の脚が斬れ飛ぶ。蜘蛛はその勢いのままバランスを崩し、転倒してひっくり返った。
正直、杖としての使い方が間違ってる気もするけど、これで杖術のレベルまでも上がっていくのだから、更に訳が分からない。
「ユイカ、早くトドメを。あ、素材の品質下がるから、お腹には攻撃しないで」
「ひーん」
あ、よく考えたら、これって女の子には辛そうだな。
でもまだまだ周回しなくちゃならない理由があって。
「並以上の〔スパイダーシルクの糸〕必要数まで、最低あと12個ね。ガンバ」
ってな感じで、絶賛素材マラソン中です。
必要な素材が集まるまで、延々と繰り返し狩り続けることを揶揄して、『マラソン』というらしい。
そう言って提案してきた本人が、思ったよりも蜘蛛が気持ち悪いせいで、心折れかけているけど。
そこは我慢してもらおうかな。
レベルアップも順調にしてるようだし、マツリさんへ渡す糸はいくらあっても問題ない。
「さぁさぁ次。サックサク行くよー」
「セ、セイ君のおにーあくまー!」
つらいマラソン周回も二人でじゃれ合いながらなら辛くない。ビギンの街に帰る時間を計算しつつ、ひたすら狩り続けた。
素材マラソンにはいい思い出が無いです。なぜか手伝ってくださった方ばっかりに出るんですよ、その方たちはもう必要ないのに。
セイ君もいつかその苦痛を味わうんでしょうか(ぇ?




