24話 露店巡りは楽しいよね?
/)`・ω・´)大まかな章を設定しました。
8/16 加筆修正しました。
洗濯物とか干していたら八時を回ってしまったけど、向こうの世界の時間換算でいうと朝の八時になる。時差ボケしないから、ちょうどいい感じかな。
いそいそとVRヘッドギアを被って、精霊世界へと旅立つ。
昨日は現身ごとログアウトしていたから、ログイン場所は中央区の噴水広場になった。
周りにいた人々からの値踏みするような視線が瞬時に突き刺さってきて、ボクは一瞬怯んでしまう。
ボクの初心者装備を見て納得したのか、或いは怯んだボクに罪悪感を感じたのか、一斉に目を反らす彼ら。
その様子を見て、昨日のレントの言葉を思い出す。
『どうしても猶予がない場合を除いて、街では宿屋やホームの中からログアウトした方がいい。
魔法陣が出現して移動する世界間転送移動と違って、ポータルログインは光の柱が立つせいで悪目立ちするからな』
唐突だけど、この世界には安全にログアウトする方法として二通りがある。
一つはポータルエリア(街中とか)での現身ごとログアウトする方法。
もう一つは、宿屋やマイホーム、テントなどのパーソナルセイフティ―エリアと言われる場所でのログアウトする方法だ。
現身ごとログアウトすると、必ずスタート地点が最後にいたエリアのポータルの場所からログインすることになる。
この方法だとしっかりと安全は確保されるので、長期間ログアウトする時に向いている。
もちろんスタートはその街のポータル周辺からになる。当然ながら野外フィールドとかでは、この方法を選択できない。
ただ可能エリアならば、いつでも好きなところでログアウト出来るのが強みだ。
ただやられて『死に戻り』をした場合は強制ログアウトされてしまう為、再インしなければならず、状況的にそれと勘違いされやすい。その為、さっきのボクみたいな視線を浴びてしまうわけだ。
もう一つは、宿屋やテントの中でログアウトする方法。
こちらだと、現身がその場所に残り続ける。短時間で戻ってくる時とかでは便利である。夜中だと、そのまま寝れるし。
ただ注意していないといけないのは、宿屋でこのログアウトをした場合。
もちろん日数は普通に過ぎていくわけで。何日もログインしていないと、膨大な宿泊料金を取られることになってしまう。
もし払えないと、当然前科一犯の称号が付いた上、衛兵に連れられてブタ箱行きか強制労働である。
あと注意点として、こちらの方法では現身が残っている為、しっかり安全を確保していないと色々と被害にあう。冒険中の森の中でトイレ休憩のログアウトをした後、戻ったら魔物に襲われていて死に戻っていた、とかも普通にある。
その為、登録されていない人が勝手に入ってこられない宿屋の部屋やマイホーム、セーフティエリアでたてられるテントの中でログアウトすることが推奨されている。
ボクはコソコソとその場を離れ、中央区と西区の移動門の近くにあったベンチに座って、現在の状況を確認する事にした。
今ボクの傍にはエフィはいない。
昨日の宴会の途中で「少し出掛けてくるわね」と何処かに消えていったままだ。
もちろん契約しているからと言って、彼女を束縛するつもりなんか全く考えていない。
精霊としての仕事もあるんだろうし、そこは彼女の意思を尊重するつもり。
まずは〔クラン〕のタブをチェック。
昨日からレントに口すっぱく言われた直後だし、流石にきちんと覚えている。
メンバーのログイン欄を見て、源さんとマツリさんだけがいるのを確認。
昨日宣言していた通り、多分ギルドの生産部屋にこもっているんだろうね。
その後、クラン専用掲示板を確認する。
この掲示板はゲーム内掲示板と違って一つしかないし、クランメンバーしか書き込めない。
だけど、ログイン時に他のメンバーへ自分の予定を知らせるために書き込んだり、離れたメンバー相手のチャットルーム代わりに使えたりと色々便利なのだ。
そこにはマツリさんの書き込みがあり、ギルド二階二三八号室にこもっていること、装備品作成の進捗、現在不足している素材と取れる場所が羅列してあった。
こちらにわかりやすく丁寧に書かれてある上に、使用目的や所在場所等、詳しく記載されているところを見ると、彼女も源さんの陰で、ただおっとりしているだけの人じゃないのが良くわかる。
その書き込みの中に北の森で取れるものがあったので、ログインの挨拶と北の森へ素材集めに行ってくる旨を鼻唄混じりに書き込んでいく。
同時にボクの予定として、ユイカとレベル上げを利用した北の森の素材回収、そして二人の〔ドワーフの坑道〕への護衛の件はゲーム内の明日の朝に迎えに行く事を伝えておこう。
ボク宛のレントのメールもあった。
それは『現実時間で恐らく昼過ぎからしかインできないので、ユイカをよろしく頼む』という一文。
ユイカはまだこちらに来ていないので、この世界に降り立ったら着信音が鳴るよう設定しておく。
あと、ユイカ宛に予定メールを入れとこう。
さて出発、と思ったらお腹が「くぅー」となった。
咄嗟にお腹を押さえて周囲を見回せば。どうやらその音が聞こえたみたいで、周囲の視線を集めてしまった事に、思わず顔が赤くなるのを感じる。
もしかして、ログアウト中でも満腹度減るのかな?
満腹度100%超えても、何故か食べ続けられる仕様だったし、ログアウト前の宴会でたらふく食べたのに、意味無かったみたい。
その視線──何故かほっこりした視線が多かった──から逃れるように、慌ててその場を離れる。
仕方ない。
エフィと念話で連絡がついたら、彼女と食事にしよう。
あ、そうそう食材と調味料も。
今度は忘れずに買いだめしよっと。
相変わらず人だらけの中央区の噴水前広場から抜け出し、東区の一角にあるバザー広場に移動した。
建物の物陰でエフィを喚び出した後、二人でおしゃべりしながら買い食いを敢行。
更に手持ちのポーション類や余ったモンスター素材を売り捌いていき、ここで買えるだけの食料と調味料を買っていく。
当然ながら、お腹を空かしてやってくるだろうユイカの食事も用意しておいた。
あと本当に偶然だが、バザー広場で料理系生産職の同郷の方とも知り合う事が出来た。
バザーの店先に座っていた『キュジニ』と名乗る、見た目ロマンス・グレーな普人種の彼。
彼が露天商用のカーペットの上に並べていた乾物等の食材が目に入ったのが切っ掛けだった。
話を聞けば、お使い系ギルドクエストで王都から始まりの街に戻ってきたらしく、ついでに第3陣プレイヤー向けに自分の使わないアイテムを売る為、ここで露店を開いていたらしい。
そんな彼と料理スキルとリアル技能の補正について雑談している中で、今まだこの世界にない醤油と味噌を再現しようと、まずは試作型で魚醤と豆味噌を作り始めた事を聞いた。
ただ試作を作るための材料集めの散財と、満足いくものが中々出来ず失敗を繰り返したせいで、手持ちのお金が厳しいらしく、持ち込んだ過去のアイテムや素材を露店で販売しようとしたのが理由らしい。
魚醤と豆味噌は売り物として並んでなかったので、渡りに舟とばかりに、お願いして見せてもらう。
たとえ彼的には失敗でも、味見させてもらったそれは十分使えるレベルだった。自身の料理のバリエーションを拡げる為にも、是非ともこちらを売っていただけないか交渉する事にする。
もちろんそれらを買えるだけのお金をボクは持ってないので、例の最高品質の霜降り肉が交渉材料。
キュジニさんはこの素材自体は知っていたんだけど、その肉の品質に目を見開いていた。
ここまでの品質は今まで見たことがなかったそうだ。
それでも最初は「魚醤と豆味噌はあくまで試作でまだ納得がいっていないから、売り物と扱うのは……」とやんわり断られたが、再度交渉をして何とかOKをいただく事が出来た。
ただ相場的に問題があったのか、値段が釣り合わないらしくお互いに困ってしまった。
彼が言うには、品質の影響でボクの方が高いそうだ。
自分はまだ始めたばかりのプレイヤーなので、色んな素材が足りていないことを伝えた上で、「差額はあなたの要らない素材のうち、売り物にならないもので適当に埋めてください」とお願いした。
そのボクの提案にそれならばと、この近辺で取れないいくつかの鉱石と木材、更に王都付近で出現するモンスター素材とか色々おまけまで付けて貰っちゃった。
源さん達にいいお土産ができたと、ホクホク顔で感謝の言葉を伝える。
初心者のボク相手にぼったくろうと思えば出来るのに、いろいろ教えてくださった上、きちんと相場通りの取引提案をしてくれた事からかなりいい人っぽい。
次回の購入のためにもフレンドコードの交換をこちらからお願いし、お互い笑顔で握手を交わしその場を後にした。
そんな感じで色んな所を見て回っていたら、思ったよりも時間が経ち過ぎていた。
あれこれと目移りしながら買い物をしていると、やっぱり時間が経つのがはやいね。
ユイカからログインしたとの連絡も来たので、『待ち合わせ場所は北区の簡易ポータル前で』とメールを返信し、東区の簡易ポータルから北区へと跳んだのだった。
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《ASの知識の何故?何?TIPS》
●ポータルと世界間転送移動
必ず人種が住んでいる地域(王都/街/村/洞窟等)には、ポータルと呼ばれるモニュメントが存在し、別世界の旅人がそのモニュメントに触れることによって、〔ログイン〕や〔死に戻り〕した際の指標として登録される。
またすべてではないが、各モニュメント間の空間跳躍としての機能も持っており、行き先を設定すれば一瞬でワープ移動が可能。
ただし街によっても違うが、、使用に際してお金が必要。
更に距離が離れる程かなりのお布施を取られることになる為、緊急時等の時間短縮以外は使うのを控えるプレイヤーが多いようだ。
なお、空間跳躍の機能は住民も使える。
ポータルモニュメントの管理機能は、永遠の精霊(別名:精霊女王)の権能の一つであり、お布施として捧げられたお金がどこに消えていくかは、プレイヤー達の謎の一つになっている。
次回ようやく狐ちゃんが本格出演です。




