21話 あいつの特殊な精霊事情
シリアス回です。
前話の別視点になります。
7/15 読みやすいよう段落等修正しました。
──レント──
――ったく。
こいつはいつもとんでもない事を無意識でやらかしやがる。
長くため息を吐きながら、俺は椅子に座りこんだ。
まさかユイカからあんな言い方されるとは思わなかった。
確かに傍から見たらそういう情景に見えたかもしれんが、あの言い方はないだろうよ。
特にユイカ、お前も知っての通り、あの出来事以来そういうのはNGだろうが。
いや、妹の口からその言葉が出せるなら、随分マシになったという事か?
わたわたと、所々つっかえながら、一生懸命説明をしようとしている親友の方を見やる。
……正直に言おう。
こいつは同じ男にしておくのが勿体ないくらい可愛い。
見た目だけでなく、動作のひとつひとつまでもが、狙ってやってるかのように。
いや、可愛く育ってしまったというべきなのだろうか?
今のセイのアバターはサラサラの銀色の長髪に変化し、傷跡を隠すために伸ばしていた前髪を少し短くしてサイドに流している。
いつもは隠れている大きくぱっちりとした瞳も相まって、とてもかわいらしい容姿になっていた。
低身長で小柄な体格なのもそれを助長している。
今も俺の問いかけの中で何か分からなかったのか、コテンと可愛らしく首を傾げてるあいつを見やり、頭が痛くなってきた。
全く……15の男がやる動作じゃねぇぞ。
……ホントに今みたいに「わざとやってるんじゃないだろうか?」と疑いたくなることが多い。
それに乗じて、俺もとぼけたフリして色々弄ったりしてるから同類ではあるんだが。
それに本人は否定の言葉をよく口にはするが、それほど強くいやだと言わないし、結局最後には受け入れているかのような言動を見せる。
その上、やる事なす事どちらかというと女性的な行動の方が多いんだよな。
現実の髪も男としては長いし。
別に世間でよく言われる『おネエ』的な作って狙った言動は全くないが、だからこそ無意識で行われるあいつの言動にドキリとさせられる。
クラスメイトの中でそうなった理由を知ってる連中でも、それは感じているはずだ。
……そういえば、前にあいつに誘われて家に飯食いに行った時、やたら可愛いヒヨコのエプロン付けて鼻歌歌いながら鍋をかき回している姿を見た時は、思わず突っ込み入れてしまったっけ。
あいつの兄であり、医師を目指している海人さんが『心的外傷後ストレス障害』いわゆる『Post Traumatic Stress Disorder(PTSD)』から来る、自己嗜虐行動の一部、もしくは性同一性障害に近いモノを引き起こしてるんじゃないかと予測を立てていたな。
実際こいつがこうなったのは、一部の記憶を無くす事になったあの出来事以降だ。
それまでは似合わないと言われながらも、『俺』って言ってたし。
あの出来事。
6年半前のあの日以来、俺達を取り巻く生活は一変している。
語りたくもない。もう正直かかわりたくもない。
早く忘れたい。それか、早く終わって楽になりたい。
すべてを放り出せたらどんなに幸せなのだろうかと考えたことはあったが、それをすると自分が自分を許せなくなる。
きっかけを作ったのは、俺なのだから。
だが、実際あの時あの場所へ駆けつける事が出来たとしても、俺が何かを出来ただろうか?
高々8歳のガキだった自分に。
結衣もそうだ。
当時の様子を頑として語らないが、何があって何を思ったのかは想像に難くない。
あいつは昔から親友にべた惚れしていたから、余計にショックが大きかったんだろう。
前にもまして、異常なくらいあいつに対する身体的接触や執着する事が多くなった。
……まるで。
あたしの事まで忘れないで、と言っているかのように。
そもそもゲーム自体、俺達がやってるからという理由がなければ、ほとんどしないあいつ。
コレにしつこく誘った理由は、少しでもあいつの心が癒されるようにとの想いからだった。
自然を眺めながらその空気に溶け込むように佇むことが、昔から好きなやつだったから。
リアルな五感を再現し、雄大な大自然の中で自由に旅が出来るこのゲームを、あいつも楽しみにしていたようだしな。
その点は良かったと言える。
なのに現実は残酷だ。
忘れるなと言わんばかりに、いつもその魔の手を伸ばしてくる。
この世に神がいるのならば、どうしてこうも俺達に試練を与えてくるのだろうか?
セイが後ろを振り向いて手を差し出し、その手を取るようにして光と共に現れた精霊。
黄金色の髪をツーサイドアップに結った、幼さが混じりつつも凛とした華のある美しい少女。
精霊王女の異名を持つ、元素を司る元素の精霊。
髪色とか微妙なところは違うが、俺が、俺と結衣が、毎日見ている俺達が見間違えるはずもない。
あの時の杠葉姉さんと瓜二つだった。
訳が分からなかった。
顔が、口元が強張り引き攣っていくのを止められない。
幸いなことに……幸いだったのは、親友が全く気付いていない事だった。
思い出さないでいてくれて助かった事だった。
彼女と顔を見合わせたセイが声を掛けてきたところで、呪いのような硬直が解けた。
「マジか?」
思わず呟きが漏れる。
二人の顔色が訝しげに変わっていくのを見て、慌てて隣で同じように固まっているユイカの頭を上からおさえつけ、誤魔化し始める。
「んぎゅっ」
それで硬直が解けたのか、こちらを見やるユイカ。
その瞳にあるのは不安、そしてまたなにかを失うかもしれないという恐怖の色。
「ユイカ。いつまで固まっている?吃驚したのは分かるが、そろそろ失礼だぞ?」
「……お兄。だって……」
それ以上言うな。
言わないでくれ。頼む。
お前も分かってる筈だ。
「あとだ。切り替えろ」
「……うん」
その後俺は矢継ぎ早に、『エフィ』に質問を繰り返し行う。
今さっき感じた想いを誤魔化すかのように。
親友はいい意味で単純だ。無垢で純粋と言ってもいい。
あの時から時が止まっているかのように。
内心心が痛むが、これで誤魔化されてくれるはずだ。
あわよくば、ずっと気付かないで欲しい。
あんな想いはもうたくさんだ。
もし世界の神々がこの情景を見ているならば。
もしあの日で止まった刻が動き出すならば。
今度はみんなが幸せな結末を迎えますように。
今話は前話についての樹君のモノローグになりました。
最初閑話タイトルにしようと思ったのですが、ストーリーの大事な部分をおまけ扱いするのはよろしくない気がしたので。
ごくたまに現実系のストーリーが進む時はシリアスになりますがご了承をば。
あくまで基本はほのぼのです。てか、私自身のんびりほのぼのとか砂糖話が大好きなんで。




