2話 帰宅中
2017/4/5 樹と理玖のゲーム内レクチャーのやり取りを追加しました。
2017/5/13 全体的に1000文字ほど加筆しました。
結衣はどうやら帰り際に先生に捕まったらしい。「先に帰ってね」とメールが可愛らしい絵文字と共に入っていたので、待たずに樹と共に帰る。
まだやってもいないのに事前に色々と調べたかったのか、普段から外部掲示板や情報サイトを見ているらしい樹。やたらと詳しい説明を適当に聞き流しつつも、肝心な部分だけ質問を返していく。
それによると。
まずキャラメイクをする前にかなりの質問があるとの事。その質問は基本的な趣味趣向から、最近や過去の時世ネタの感想など多岐にわたるそうだ。そしてその回答によって、チュートリアル担当精霊と種族スロットの当選する種族がほぼ確定するらしい。
ランダムスロットを回さない場合、最初に選べる種族は、基本タイプの普人種のみ。
それ以外の種族を選びたければ、種族スロットというのを回すことによって、選択できる種族が5種類増える。そこで出た種族5タイプ+普人種の中から最終的に選ぶそうだ。
と言われても、あまりゲームをしたことがなかったボクにはちんぷんかんぷんなので、担当精霊に質問したらいいか、と割り切る。
「作成後気に入らなければ、課金すりゃキャラメイクやり直しできるみたいだけど、結局種族スロットからはほぼ同じ種族しか出ないらしいぜ。
最初の質疑応答が心理テストのようなものに近いらしいし、誤魔化そうにも結局同じになる事から、脳波チェック測定もついてるんじゃないかという噂もあるしな」
「追加課金が強さに直結するゲームなの?」
「いや……初心者パックという序盤のお得アイテム詰め合わせとか、マイホームの飾りとかそっち方面しかない、って聞いてるなぁ。
それすら生産職の腕次第でゲーム内で作れるって聞いたし。まあこのゲーム専用機もバカ高いし月額料金も高いからなぁ。でも元取れてるのかわからんが」
樹の説明は続いていく。
ランダム5種と普人種しか選べないらしいけど、そこには必ず1種類はレア種族が出てくるそうだ。もちろんレア種族が出たからと言って、必ずそれを選ばなければならないという事もない。
実際、普通に普人種でプレイを開始する人もかなり多いと聞いた。それは別に種族スロットに恵まれなかったわけではなく、普人種が一番癖もなく使いやすい上に無限の可能性を秘めた種族と言われているからだという。
また、全部で6種族の中からしか選べないと聞くと少ないように思えるけど、前述の心理テストの中に含まれているのか、自分がやってみたい種族、もしくは自分の中でこれだ、という種族が必ず当選すると言われている。
嘘みたいな冗談みたいな話だけど、実際体験してきた先行ユーザーの誰もが口をそろえて言っている事だし、間違いなくホントの事だろうね。
ちなみに一番回答の多い感想コメントは、「心理テストを受けているみたいだった」だった。
ボクはテストは苦手だけど、やってて楽しい種族が当たるといいな、と思う。
それに……樹が続ける。
「……あと、性別と身長はいじれないらしい。リアルとの齟齬が生まれるからと言って、ほとんど変えられない」
なん……だって……。
「……終わった」
「なんでだ?」
いや、察して。
わざと顔を半分ほど隠している前髪をいじりながら、ため息をつく。選べる種族数が少ないって話より、そっちの方がショックがでかいよ。
え? 前髪を伸ばしてる理由?
額の傷跡を隠すためである。他人が見て気持ちのいいものでもないし。それプラス、声変わりしてないような少し高い声と低身長もあいまって、知らない人には必ずと言っていいほど女の子に間違えてられるんだけど……。
それに関しても既に諦めている。
「身長低いの、ボクが気にしてるの知ってるくせに」
「ああ……ま、いいじゃねぇか。
それも含めて全部それが『お前』だろ?」
「それはそうだけどさ……」
拗ねたボクを見て、笑いながらボクの頭をぺしぺしと叩く。
「だいたい人の事をイケメンだの、モテ男だの言うが、お前の方がバレンタインや誕生日とかに先輩達からいろんなモン貰っているじゃねぇか。それに毎年結衣達にも気合入ったやつ貰えてるだろう?
ま、隣の芝生は青く見えるって奴だって」
「それはボクの誕生日が2月14日なだけだよ。それにバレンタインの数とかあんまり興味ないしなぁ」
「子供みたいにむくれるなって。可愛い顔が台無しだぞ」
全くもう。
いっつもこのパターンでからかってくるけど、何故か憎めないんだよね。
途中でかなり話が脱線したけど、話を戻す。
「理屈は全く分からないけどな、思考速度倍化とかそういうのがついてるらしくて、現実の6時間が向こうの1日換算らしい」
これは単純に嬉しい。
例えば社会人さんとか、特定の時間帯しかできない人はいっつも決まったタイミング──例えば毎日ゲーム内が夜ばかりとかだったら、進行等に有利不利がうまれちゃうしね。
もちろんこのシステムのおかげで廃人と言われる重ゲーマーが更に有利になるのは間違いないけど、そちらに関してもきちんと対策が取られている。
例えば連続ログインを長時間続けていると、リアル自分の体調の変化──空腹や生理現象等でアラームが鳴ったり、ゲーム内でずっと寝ずに行動していたりすると睡眠不足という状態異常が付いたりといった制限がついているとか。
このシステムのおかげで、長時間ログインの場合はゲーム内でもきちんと睡眠をとらないと、活動に影響が出るんだよね。
まあ運営にとっては、寝食忘れてゲームした挙句、体調不良で社会問題になられても困るからなのだろう。
そしてこの時差を考えると、第3陣は約二ヶ月遅れスタートだから、第1陣プレーヤー達とは最大八ヶ月の差があるのが確定している。
元々遅れて開始するから、トッププレイヤーになりたいとかそんなことは全く考えていない。
のんびりVRの世界を楽しめればいいな、とそれだけを考えているつもり。
ただ、どんな出会いがあるんだろうとワクワクもしているけど。
「そういや理玖は、倫理コードどこまで解除するんだ?」
そうそう、倫理コード。
このASに搭載されている機能制限の事だ。
これがR15になった原因。
つまり、リアリティを追求しすぎたのが問題になった。
例えばフィールドで野生動物や魔物が出てくるのだが、倒すと光の粒子に変わり、インベントリーと言われる異空間のアイテムボックスに素材が収納されていく。
そうやって討伐クエストをこなしたりするのだが、そこで戦いの際ダメージ表示がどうなるか? という問題が浮上してくる。
当たり前だけど、剣で斬ったり突いたりするわけだから当然出血するよね?
ということで、流血表現がある。
ただし倫理コードを外さなければ、出血は虹色の光の奔流に変換され、部位欠損が生まれても傷口は淡く光るだけ。
もちろん外すと、ドバっと大量出血表現。
当然部位を切り落としたり、切り裂いたりしたら中身が見えるわけで。
意外とリアルすぎるので、グロ注意。
リアル志向も行き過ぎると困ったもんである。
また、PK(プレイヤーキラー)ができることも、R15になった原因の一つ。
更にダメージ時の痛覚のレベル設定や、敵描写のリアル表示設定(ゾンビも出てくるゲームと言えば、察してくれるはず)まで、細かいことを言えばかなりの数があるのだ。
「まあやってから考えるよ」
まあ幼い頃今は亡き祖父と一緒にイノシシ狩りとかしたことあるし、一応出血くらい慣れてるから多分外すと思う。
料理も好きでよくこなすし、ニワトリとかも捌いたことあるからね。その辺は大丈夫なはず。
ちなみにR18コードもあったりする。
そっちは外せるわけもないし、外す気もないけど。




