19話 頼もしい仲間が増えました
7/14 加筆修正しました。
「さぁキリキリ吐くんだ。今度は何をやらかした?」
真顔で近付いてくるレントのその言葉と表情に、ちょっぴりビビる。
表情の抜けた顔が何だか怖いよ。
虎の瞳の虹彩を見開いて迫られると流石におっかない。
「ちょっとお兄。
怯えるいたいけな少女へ強引に詰め寄るナンパ男の事案にしか見えないんだけど?」
「ユイカ、おまえなぁ。
……あ、こら、セイも怯えたフリするな」
ジト目であんまりな台詞を言うユイカにショックを受けたのか、肩を落として俯き、表情を隠して呟くレント。
いや、フリじゃなくて本当にちょっと怖かったんだよ。
自分を狙っている猛獣の目を至近距離で見た感じに近かったし。
レントは長くため息を吐いた後、傍の椅子に座り直した。
一旦落ち着こうとしたのだろう。
立ったままだったボク達4人に椅子を勧めてくる。
全員が座ったのを見回して確認したのち、レントが切り出した。
「まぁそのステから察するに、昼間のアナウンスはお前だろ?」
『エフィ?』
呼び掛けると背後から手を回して、そっと抱きしめてくる気配。
『こうなったら変に白を切って黙っているのも良くないわね。
この人達がセイの大事な、大切な人でしょ?』
そうだね。
二人は、レントとユイカはかけがいのない家族みたいな仲間だ。
それに新しく知り合った『おやっさん』こと源さんとマツリさんの二人。
接していた時間は短くほとんどないけど、その言動は信頼に足る人物と感じた。
何よりレントが信頼し、紹介までしてくる人物である。
昼間会った時とは違い、彼らにも話そうという気になっていた。
『じゃ、話すけどいいかな?』
『構わないわ。じゃ、MPを貰うわね』
『待って。森に入ったところから順番に説明するから、一番最後に声を掛けるよ。それまで待ってて』
エフィに許可を貰ったし、これで全部話せそうだね。
そう思うと、なんだか気が楽になったのを感じる。
自分が思っていたより、精神的な負担になっていたようだった。
こちらが口を開くのを待っていたのだろう。
4人は何も言わずにこちらを見つめていた。
「――そうだよ。全ては昼間、森でチュートリアルをしてくれた元素の精霊に出会った時に起こった事なんだ」
ボクは森に入ってからの出来事を順番に説明した。
深夜に精霊魔法のテストと称して狼や梟を長時間討伐しまくっていたことにみんなは驚いていたが、〔ジャイアントウルフ〕の話に差し掛かると、大きなため息が全員から漏れた。
「わ。セイ君やっぱすごいね」
「セイ。戦ってみてどう感じた?」
「強かったよ。レベルアップBP振り忘れてて、初期値のままボス戦入っちゃったからね。流石に死に戻りを覚悟したよ」
「出会った時に色々ぶっ飛んだ嬢ちゃんだと感じたんだが、やっぱやらかしてやがるなぁ」
「そもそも夜の北の森は、推奨レベル18だ。6人フルパーティー前提でな」
「ええっ?」
兄さんに言われて行った北の森。
レベル5程度の難易度って聞いたけど、それは昼間限定の話だったらしい。
てか、レベル5程度としか言わなかったじゃないか。
夜は違うとか、そんな大事な話があるなら、きっちり説明して欲しかったよ。
そもそも大狼はクラスチェンジした後の2次職6人プレイ前提の難易度だそうで。
波状攻撃を仕掛けてくる狂犬化した狼達に独りで挑むような事など、今の最前線のプレイヤーでも恐ろしくて、よっぽどの人以外挑戦すらしないんじゃないか、という話も聞けた。
うそん。
「なるほどな。戦闘や生産問わず、現実でも、ある程度要領よく立ち回れる奴の方がやっぱり有利か。
それにエルフの魔法特化特性補正、ね。そんなものがあるのは分かるが、それにしてもなんか精霊魔法の威力が強すぎないか?」
「エルフは植物系フィールドでの戦闘にプラス補正が入るって噂もあったな。
スレの検証組の奴らが、エルフになりたがるプレイヤーが少なくて思うように検証出来ないって、嘆いていたのを覚えてっぞ」
「よく漫画や小説等で話題になるエルフの戦士をなりきりプレイするには、デメリットと現状の最前線装備が合わないからな。
彼らの報告文章は読んだが、元素魔法の使い手での検証結果ではここまでの威力の差はなかったはず」
「アレだ。エルフが進化して精霊に近づくって文言あっただろ?
アレのせいじゃねぇか?」
「セイに協力してもらえれば、わかるんじゃないかな?」
「もう一人精霊魔法を習得した普通のエルフ探してこにゃならんぞ?
そっちの方が難易度たけぇだろ」
話の途中で二人があーだこーだと議論し始めたのを見て、今まで黙っていたマツリさんが横から話しかけてきた。
「ねぇ、セイちゃん。その素材見せてくれる?」
「あたしにも見せて」
「いいですよ」
と、机の上に〔大狼の鋭爪〕〔大狼の大牙〕〔大狼の毛皮〕〔大狼の尾〕を出す。
「綺麗な黒つやの毛ねぇ」
「うわぁふわっふわ」
手触りを楽しんでるユイカとマツリさんをチラッと見た二人だったが、再びガン見しだした。
「おまっ!? 最高品質だとっ!?」
「どうやったらこんな品質取れるんだっ!
なにをした!?」
ちょ、二人とも落ち着いて!
こっちに飛び掛からんと身を乗り出してくるレントと源さんの様子に引きながらも、ボクは説明を始める。
「跳びかかってきた所を頭を地面に叩きつけたら、脳震盪らしきものをおこしたみたいなんだよ。その間に出来た隙に、首を風の刃で斬り落としただけ」
「マジかよ……」
普通のボス素材は倒す際に武器で傷付けていく為、手間取れば手間取るほど品質が落ちる。
普通なら良くて〔品質:並〕らしい。
「このゲームは、HPはある意味飾りだと書いてあったのはこの事か?
首とか心臓とか急所に致命ダメージ入ったら、HPが一撃で吹き飛ぶんだったな?」
「やはり高品質素材を集めるためには、それしかないのか?」
「きちぃな。
……だが、これは最高の素材だ。こりゃ気合い入れねぇと、素材の品質に負けるな」
牙や爪を手に取り、そっと撫でる源さん。
軽く触っただけなのに、源さんの指が薄っすらと割けて血が滲んでくる。
「燃えてきたぞ。こんな感動は久方ぶりだ!
レント、あの言ってた『専属契約』の話、正式に受けるぞ。お前らの装備品全部無料で作ってやる。だから色々協力してくれ。マツリもそれでいいな?」
「ええ。楽しそうなクランになりそうね」
恐らく事前にオファーを入れていたのだろうね。
レントは自分がリーダーになってアットホームな小規模クランを作ると、昔から宣言していた。
その為の前準備で、こうしてボクとユイカを彼らに引き合わせたと思う。
レントと源さんががっちり握手しているのを見て、なんだか嬉しく感じたのだった。
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《ASの知識の何故?何?TIPS》
●精霊の役割と使命
(ヘルプガイド:『世界の仕組み』より抜粋)
精霊は世界中を巡り、問題のおこっている地域や状況を託宣にて神殿の巫女に告げる役割を持つ。
その結果、各神殿より依頼書が発行され、冒険者ギルドにて緊急クエストが発令されることになる。
各精霊のネットワーク体系はきちんと整備されており、下位精霊より上がった報告は、彼女らを統括する上級精霊に伝達。精霊のみで対応できない状況なら、託宣やさらに上位の存在へと伝達されることになる。
更に各々が持つ精霊特性や祝福は、基本的に同一のものが存在せず(内包しているものはあるが)、うまく役割を分担しているようだ。
また上級精霊の一部に概念や理念を表した『体現精霊』、上級精霊を統括する『統括精霊』と呼ばれる存在がおり、その精霊には下級精霊が存在しない。
精霊魔法にて行使される精霊は、基本下級精霊となる。
本作のメイン語り部である主人公のセイ君は『ど』がつくレベルの『ネットゲーム初心者』なので、色々と理解してません。
見ての通り、勢いや感性で行動する子なので、説明とか指南書を読まなかったりします。樹がいつも苦労してます。