183話 これからの方針(裏)
連日更新中~
──???──
「──以上で報告を終わる」
御陵郡司がそう締め括ったのを最後に、残る三人から吐息が漏れた。
「ありがとう郡司さん。これで色々と繋がったわ」
三山木幸治が自身の影からティーポットを取り出し紅茶を準備し始めるのを横目で見つつ、光凰院春花はお礼を述べる。
「そう言って戴けると、こちらとしても助かります」
「しかし……本当に良い子達に育ったわね」
「えぇ、ホントに」
春花のしみじみとした呟きを拾い、御陵紬姫はそう答える。
エストラルド対策会議と銘打って開いたこの会議は無事終わり、今は御陵夫妻と光凰院春花、三山木幸治の四人のみ。
石蕗清美は他のメンバーを地上へ送る為にここにはいない。むしろこれから内緒話をする関係上、他のメンバーがいてもらっては困る為に、彼女が送迎するという名目で帰ってもらった形だ。
それに彼女は第四陣としてのエストラルド出撃メンバーとして組み込まれている。そちらの準備も忙しいとあって、このまま海人の車で帰る流れになっていた。
「清美さんの異能強度は?」
「前よりも上がってはいるがまだまだだな。今後に期待といったところだ」
「本人はあれでも焦っているけどね。こればかりはすぐには無理よ」
「仕方ないわ。彼女にしてみれば祖母の故郷の事だもの」
「それに内心海人へと付いていきたいと願っているのは間違いないけど。あの子も特殊過ぎるから、どうすれば良いものやら」
「なるようにしかならない、かと」
恐らく最初は【円卓】か【懐刀】で面倒をみる事になるだろう。
だだその後に海人に付けるとなると、逆に海人の持ち味を殺しかねない。それが頭の悩みどころだった。
「けど……ほんと最後まで騒がしかったわね。途中から議題が『大好きな理玖ちゃんとどこまで一緒に居られるか』になっちゃったけど」
「若いって良いわね」
しみじみと述べる女性二人に、苦笑する郡司と穏やかな笑みを浮かべる幸治。
理玖が寿命で死ぬ事がないと分かった途端、今度はいかに自分達が長生き出来るかに話がシフトしたあの三人娘。
結依がこっちでも異能で霊狐になれるから長生き出来るかもと言えば、美琴と弥生がズルいと言い、今度はまだ目覚めていない美琴が「エルフになりたい」とか言い出した。
もう異能に目覚めてしまっている弥生がズルいを連発して場が混沌とし始め、挙げ句の果てに「精霊である理玖ちゃんの寵愛を貰えれば永遠に生きられるのでは?」と言い出して騒ぎ始め、会議が続けられる雰囲気ではなくなった為に、「それ以降の話は向こうで理玖ちゃん交えてやりなさい」と紬姫がお開きにしたのだった。
「騒がしい孫で申し訳ない。後で叱って言い聞かせますので」
「構いませんよ三山木さん。あの程度で目くじらを立てる者はあの場に居なかったでしょう?」
騒ぐ三人娘達に煽る猫娘、面白がって眺める美空もいたが、その様子に頭痛を堪えるように呆れた顔をしていた樹の表情を思い出し、ころころと笑いながら春花は言う。
なお慎吾は妻が楽しそうにしているのを見ているだけだったし、海人はとばっちりを恐れて一切の口をつぐんでいた。
「樹君にはいつも気苦労をかけるな」
「まあ彼なら大丈夫でしょうが。
だだ、あの件の影響は気になりますな」
樹の記憶紛失の謎。
あの場ではあのように伝えたが、大方の想定と共通認識は既に済ませていた。
「恐らく理玖の魂の欠片が彼に潜り込んだ影響で混乱している。その影響もあってか彼の覚醒、古の記憶の復活が阻害されていると?」
「あくまでも彼の魂に揺さぶりを掛けて視た状態からの想定よ。滑稽な予想ですけども」
パチリと扇子を閉じ、
「そうでなければ、あれだけ彼と近しい距離にいて異能だけでなく古の記憶が戻る兆候がみられない、しかも向こうで本来の自分である霊狐族を選ばなかった理由の説明がつかないわ」
その指摘に重い空気が流れる。
最初のキャラメイキング。
その時に出た種族の聞き取りを、先程の会議の中で春花は行っている。
犬族──春花の兄である聖と金狼族の少女の孫である弥生は、無意識にも同じ種族(本人は狼よりも犬が好きだった為に、耳を改造した上で犬族と言い張っていたが)を選んでいたし、瑠美も本人の性格が色濃く出る黒猫族を選んでいた。
美琴も自身の前世に引っ張られて無事森精族、結依に至ってはきちんと霊狐族を選び、かつ記憶を取り戻し始めているのを確認できた。
そして樹の場合は……。
「しっかりと選択肢に出ていたのにも関わらず、魔法系統の霊狐よりも物理系統の虎の方が自分に合って強くなりそうだったから、と。
本来笑い事ではないのだけど」
それを聞いた結依があんぐりと口を開けていたのを見てしまった春花は、先程の状況を思い出しくつくつと笑う。
「そこはお父様が彼を鍛え過ぎた結果かもね。
いえ、もし本当にあの時に飛び散った欠片を偶然にも彼が取り込んでしまったならば、こうなった理由も説明がつくかしら?」
それを見越して『護身術』として素手での武術を教えていたが、あの事件以降に突如刀剣での修行に変更したのは、妻である星の始祖精霊に抱かれて眠る神の影響だと紬姫はみている。
春花の見立てと紬姫の『夢見』が合っているのなら、ではあるが。
「しかし創造神様は困ったものね。この状況下も面白がって……しかも十二家以外の人間も巻き込んでゲームとして送るとは」
「恐らく最終決戦に備えて一つでも戦える駒が欲しいのだろう」
「ま、向こうで『死亡』しても『無限復活』出来るからね」
「文字通り、まさしくゲームの『駒』だな」
「全くよくそんな『悪知恵』が働くこと」
郡司の指摘に、全員が同意する。
郡司が神の真名をはっきりと発音しているのも、ここにいる四人ともがかの神の祝福を受けてしまっている証拠だ。
ただ彼らは知らない。
エストラルドにいるクラティスは妻である運命の始祖精霊フォルトゥナ経由で何度もかの神に出会い、かつ、祝福に囚われていること。
そして樹がそんなクラティスから本来聞き取れない筈の神の真名をしっかりと聞き取り把握した上で、その束縛を跳ね返し続けていることなど。
神の真名など他の人に聞こえていないと思っている彼らは知るよしもなかった。
「──で、だ。その一般人の闘技場イベントについての話だ。
こちらではゴールデンウィーク、向こうでは……十三月の月あたりだったか?」
「確か二月十一日が一月の月で生誕祭が行われていたから……。
──そうね、ちょうどそのあたりだと思うわ」
「闘技場イベント一般参加者はどんな塩梅だ?」
「掲示板の監視状況によると、戦士部門の希望者が多い割に魔法師部門が少ないわね」
「まあ無理もない。理玖とか結依君が出ると思われているからな」
「理玖ちゃんは出ないと思うわ。あの子、不特定多数を相手どった腕試し目的の対人戦は好きじゃないもの」
善良な人達に拳を向けるのを極端に嫌がる息子の事を思い出し、そう断言する。
「理玖様が出ないとなると、結依ちゃんもきっと出ないわね。あの子も自身の力をこれ見よがしに見せびらかすような性格ではないものね」
「むしろ戦士部門の方に樹君が出ると思うわよ。あの子は理玖ちゃんと違って、自分の力がどこまで通用するかを探求し続けているから」
「戦士部門といえば……」
郡司がふと思い出した感じで春花の方を見る。
「春花殿、彼は──隼斗殿は出るのか?」
「本人も出場する気はあるみたいだし、最終的にはどうせ王家から依頼が来ると思うわ」
「他には何か聞いていたり?」
「そうそう、これも隼斗と巫の翔君から訊かれたわ。
御陵家に秘密裏に隠された令嬢はいたりするのかと。それとも理玖様が実は男装の令嬢だった可能性も疑っていたわね。本人達には『直接訊いたら?』と言っておいたわ」
「やはりそうなっていたか」
「理玖ちゃんと結依ちゃんも罪作りねぇ」
あのファルナダルムの里での戦い──樹皇の間にて、キエル──桐生聡輝が口走った名の意味を知らない者はあの場には居なかった。
それに三山木弥生もその名をそこで聞いたからこそ、地球に戻ってすぐ転校と次期当主交代に動き出したのであるし、その場にいたメディーナとファルマンも例外ではない。
「東雲家をはじめとして、各方面からこちらに問い合わせが来ている。性別を変えられないこの転移システムで『女性』であるのは何故なのか、とな」
「案外早かったわね。残念だわ」
溜め息をつく紬姫。
本人はもっと引っ張りたかったらしい。
「宗主着任の儀まで引っ張ってビックリさせようと思っていたのに。今行うのは時期尚早だし、公表程度で収まるかしら?」
「紬姫。あまりこの件を引っ張ると狸爺と狐爺が動き始めて引っかき回し始めるわよ。注意しなさい」
「やっぱりそうなるわよねぇ。これだから権力欲に取り憑かれたクソジジイどもは嫌いなのよ」
「深草か……。むしろ巻き込まれる麗華君が可哀想ではあるな」
「あー」
その名が出た瞬間、遠い目をする春花。
「む、すまない春花殿」
「いえ、大丈夫よ。放置している隼斗が悪いのだから。あの子は良いのよ。ちょっと思い込みは激しいけど、素直で良い子だから。ただ、それに当て込んで……。
あ、いや。この問題は聞かなかった事に……」
「う、うむ」
「大丈夫、大丈夫、何かあったら糞爺の邸宅一つ吹き飛ばす程度で済ますから」
「それ全っ然大丈夫じゃないわよね!?」
「春花様……ご自重なさって下さい」
呆れた口調で幸治までもが突っ込みをいれたのであった。
後二回ほど行きます。