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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
変わりゆく日常の風景
183/190

178話 異能


すいません、ちょっと短いです。

2020/5/1 06:10 サブタイを差し替えました。



──高辻結依──



「結依、遅いぞ。何をやってい……」


 トラムの到着はやっぱりあたしが一番最後だったみたい。既にお兄ちゃん達は廊下で待っていた。


 あたしが姿を見せるなりそう声を掛けてきたお兄ちゃんだけど、途中で訝しげに言葉を止めた。


 やば。

 いきなりバレたかな?


「ちょっとトラムの中で寝こけちゃって……椅子から落ちて頭打っちゃって。そしたらトラムがスピードダウンしちゃった」


「……何やってるんだよ、お前」


 変に誤解されるよりましと先手で正直に白状したら、生温かい視線を戴いた。


 普通可愛い妹が頭打ったとか言ったら、もっと心配してもいいんじゃないの?


「うるさいやい。お父さんのせいで寝不足なのが悪い」


「結依様。頭は大丈夫ですか?」


「うん、だいぶん痛みは引いてきたけど。でも清美さん、その言い方はちょっと」


 いや、きっと悪気はないと思うんだけど。

 頭の足りない子みたいな言い方しないで欲しい。


 あたしの言葉にちょっと困った顔をした彼女は一息吐くと、そっと後頭部に触れてきた。


「……やっぱりたんこぶが出来ていますね。ちょっと失礼します」


 ん?

 周囲と彼女のマナが活性化する気配が生まれて?


「──癒しよ。この者に……」


 え? まさか?

 清美さんって魔法使えるの!?


「治癒魔法!?」


「……はい。院瀬見いせみ家の術師の方々が使うモノより格段に劣りますが。こんな私でも初級程度なら使えます」


 やっぱり地球にもマナがあって、普通に魔法も使えるんだね。


 そういやりっ君が平然と精霊化してたし。使おうと思った事なかったけど、変化していない状態のあたしでも使えるかな?


「それが回復系の異能か。まんまあの世界の『魔法』だな」


 海人さんがそんな事を呟くのを見て、あたしの中に疑問符が浮かぶ。


 御陵家の直系、しかも長男である海人さんが何も知らされていない? 異能も年齢的に目覚めている筈なのに?


「ん? ああ、違うぞ。異能の一種に『魔法』があるのは知っているけど、目の当たりにしたのが初めてなだけだ」


 あたしの顔を見て、海人さんがそう言い訳する。


「円卓議会が設定している能力の分類上でいえば、私の異能は『超常型』です。石蕗つわぶき家出身者としては比較的珍しいタイプになります。ただ『盾』の役割を持つ我が家の者達と同じく、私が向いているのは防御を主とする結界系統であり、回復系統は発動が何とか可能だというレベルでしかありません」




 そう言って清美さんが説明した異能の分類は三つ。

 それぞれ『身体強化型』『超常型』そして『特殊型』と分けられている。



 まずは『身体強化型』。


 その言葉のまんまで、肉体そのものを強化する。知覚を強化する類も神経系を強化しているとされている為に、こちらの型に分類されているらしい。

 エストラルドで言えば、闘気オドを駆使して戦う近接職。三山木先輩とか加藤先輩がこちらにあたる。



 次に清美さんが分類されている『超常型』。


 こちらに関しても話は簡単で、何もない所から火を出したり、物を凍らせたり、電撃を身体に纏ったり、空を駆けたりする能力の事だ。


 つまり魔力マナへと変換して戦う魔法使いといった方が早い。



 最後に『特殊型』はというと。

 

 前出の二つには分類する事が出来ない能力をひっくるめてこう呼んでいるそうで。


 身体の一部を別の何かへと変化させたり、『身体強化型』と『超常型』の複合能力者であったり。またりっ君やあたしのように自身の存在そのものを別の存在へと変質させたりするのは、当然こちらになる。




「──そうか。その力を使っても杠葉ゆずりはは……」


「海人。回復系統特化の院瀬見家の者がそれを試していないとでも?」


「そりゃそうだが……。

 まあ俺には関係ない事だったな。あのクソじじいども、俺の異能を異能と認めずに化け物扱いした上、挙句の果てに異能を発現させる事が出来ない無能者のレッテルを貼ってきたからな。俺を他の十二家から隔離させたがっている事ぐらい察しているさ」


「海人、それは……」


「まあ御陵家始まって以来の無能は家で大人しくして、昏睡状態の人形(ゆずりは)と仲良くしておけって事……」


「海人!」


 声を荒げた清美さんに、海人さんが口を噤む。


「少しは考えなさい」


「あ……。すまない。樹君、結依ちゃん。無神経だった」



「「いえ……」」


 あたし達の声がハモる。


「海人さん。事情は詳しく知りませんが、あまり自分を卑下するのは……」


「言われてるわよ。海人。そういう自虐的な所は理玖君とそっくりね」


 お兄ちゃんの指摘に、揶揄やゆする清美さん。が、当人はそっぽを向いて膨れる。


「あの老害どもの言う事など無視すればいいのです」


「お前の立場でそんな事言っていいのかよ?」


「構いません。あのボケ老人どもには結構苛ついていますし、紬姫様も常日頃からボヤいていますから」


「あっそ」


「海人。貴方がその力に目覚めなければ。

 あの夜、あの化け物の魔の手から理玖様と杠葉様を護れなかった。その事実だけではいけませんか?」


「そりゃそうだが……。あれは人に見せられたもんじゃないし、出来るだけ海に出たが、監視カメラやその他もろもろに超常戦闘が映ってしまっていたしな。

 そのせいで多くの隠蔽いんぺい工作と立ち入り封鎖による修復、または口止めをしなくちゃならなかっただろ?」


「それでもです。それと……もうここで愚痴るのは止めておきましょう。誰が聞き耳を立てているか分かりませんよ?」


「そうだったな」


 一瞬ばつの悪そうな表情を見せた海人さんは「ちょっとトイレに行ってくる」と言い出し、そばにあった御手洗い場へと入っていった。


「ねぇ、清美さん。今の話は?」


「──結依ちゃん。それに樹君もちょっと聞いてちょうだい」


 今までのですます調ではなく、あたし達にとってなじみのある昔の優しいお姉ちゃんの頃の感じに戻った清美さんが、ちょっと困った顔で手招きした。


「今の海人の言葉は聞かなかった事にして、必要な時が来るまで絶対に黙っててもらえないかな?」


「分かりましたが……必要な時とは?」


 小声で話す清美さんに釣られて、お兄ちゃんも小声となる。


「それが来ないなら来ないでくれたら一番なのだけど。絶対首を突っ込むだろうし、あの女はきっとまた来る。

 それにあの子も意外と頑固でね。こうと決めたら曲げないし、間違いなく無茶するから」


 小さく嘆息すると、それ以降口を閉じてしまった。

 

 お兄ちゃんと顔を見合わせるけど、今はこれ以上は質問しても教えて貰えないだろう事くらい分かる。


 何かを話すような空気でもなかった為、所在なく立ったまま待つ事に。


 やがて御手洗い場から出てきた海人さんと合流したあたし達は、清美さんの案内に従って奥へと進み始めた。





 ここの研究員と思しき白衣を着た人物と何度かすれ違う。


 その度に彼らは立ち止まると廊下の端へと寄り、こちらへと頭を下げてきた。


 何度か彼らと目があった時があったけど、大きく分けて二種類の反応を示した。


 一瞬で目を逸らした者の瞳に映っていた感情は、未知なるものに対する怯え。


 形式的な形だけ頭を垂れる者の瞳に映っていた感情は、実験動物を見るかのような冷たい興味と好奇心。


 なんだか……ヤな空気。


「──彼らの大半は十二家が雇い入れ連れてきた一般人ですが、そんな彼らを統括する為に院瀬見家の従家が付いています」


 上の病院エリアと明らかに違う空気に居心地の悪さを感じていたら、前を向いたまま清美さんが口を開く。


「一般人も……ですか?」


「世界中から優秀な遺伝子工学者などを院瀬見家が引き抜きを掛けています。そんな彼らの仕事は我々が持つ特殊な力を科学的に解き明かし、能力の更なる開花や向上を手助けする為です」


 ──表向きは、ですが。


 漏れ出た微かな呟きが、敏感なあたしの耳に残る。


「だから研究施設か?」


「ええ。その過程で必要な宗家及び十二家本家の個人情報や生体情報バイタルデータを管理研究している彼らが、私達の顔を覚えていないと思いますか?

 そしてそんなデータに触れる彼らの……行動の自由が認められていると思いますか?」


 淡々と話す清美さんの押し殺した表情からは、何の感情も読み取れない。


「そもそもこの方舟アークは最高機密エリアです。私や招待された一部の例外を除き、宗家及び十二家の直系の人間しか立ち入る事を許されていませんから」


「……ああ。なるほど」


 悟ったようにお兄ちゃんが呟く。


「道理で俺達を人として見てない訳だ」


 溜め息交じりに吐き出したお兄ちゃんの辛辣な言葉。でも全面的に同意出来る。


 目覚めてしまったりっ君やあたし達はもう既に普通の人間と呼べない状態だけど、それでも今回の件が終わらせた後は、普通の人としてどこかでひっそりと生きたいと思っているんだけどなぁ。


「ヒトの形をした生物兵器とでも思わなきゃやってられないんだろうさ」


 お兄ちゃんの言葉に、海人さんも続く。


 確かにその気になってひと暴れするだけで、この街をあっさり破壊出来たり、相手に認識させずに命を狩れる存在がゴロゴロしているもんね。


 得体のしれない怪物相手に抱く感情としては正常だと思うな。恐れに近いモノが彼らの本能を刺激してやまないんだろう。


「とっとと行くぞ。こんな所に立ち止まっていたら、流石に精神を病む」


 蒼い顔をして逃げるように姿を消した女性研究員の後ろ姿を一瞥いちべつし嘆息してみせた海人さんは、再びあたし達を促す。


 歩き出したあたし達に絡み付く視線。

 本人達は気付かれていないつもりなのかもしれないけど、丸分かりなんだよね。確かにこれは気分が悪い。


 ここ最近、本気で斜め上な嫌な事ばっかり起こるなぁ。


 こんな事ならお兄ちゃん達に付いていかないで、りっ君の元へと向かっていればよかったよ。


 あーもう。


 そう考えればそう考えるほど、早くりっ君に会いたくなってくる。


 りっ君の声、体温、匂いまでもが恋しくなってくる。


 そしてりっ君のマナ……素敵なマナ……早く欲しい。

 またお腹いっぱいになるまで……満足するまで欲し……。


「結依行くぞ……結依?」


「ふえっ!?」


 いきなり肩を叩かれて飛び上がる。

 近寄ってきたお兄ちゃんに気付かないくらい、ぼぉーっとしてたみたい。


「あ。う、うん。今行くよ」


 ビックリして固まったお兄ちゃんに謝って、その横をすり抜ける。


 な、何考えてたんだろ、あたし。

 恥ずかしいなぁ、もう。


 さっきまで考えていた事に俯き加減になりながらひっそりと赤面しつつ、清美さん達の後をついていった。





次の結衣編を最後に、エストラルドへと移動する予定(にしたい)です。

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