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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
変わりゆく日常の風景
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169話 悔恨と改悛(1)

 お待たせしました。

 遅くなってすみません。


 悔恨かいこん改悛かいしゅんというタイトルからも分かるように、セイ君の反省・立ち直り回です。クリスマスの夜にあまりふさわしい話ではありませんが。


 長くなるので続きものになりましたが、(2)の原文は書けていますし、次は早めに更新できる予定です。


 ──キィ……。


 微かに聞こえた扉のきしみ音に、ボクの意識が瞬時に覚醒する。


「……誰?」


 ルアを寝かしつけているうちに、知らず知らずボクもうつらうつらとしていたらしい。


 ボクにしがみついて寝ているルアを起こさないよう身を起こしながら、小声で誰何すいかしつつ扉を開けた人物を見極めようとして……引き付けを起こしたように息をのむ。


 開いた扉の隙間から覗く、陰影の付いた眼窩がんかのない女の……!?


「あ、すいません。起こしちゃいましたか?」


 身を強張らせて固まったボクを見て、声の主は囁くような小声で謝った。


 よくよく見れば、申し訳なさそうな顔をしたフェーヤの姿が。


 ただ単に、明るさの過ぎるカンテラの光量を落とすために取り付けられていたカバーのせいで、彼女の顔を懐中電灯で下から照らしたような形になってしまっていただけだった。


 今の時刻は草木も眠る丑三つ時。

 深夜の物音に目を覚まして顔を向けると、宙に浮いた(ように見える)陰影の濃い顔が目の前にあったら、誰だってビックリすると思う。


 だから、その……。

 思わず漏ら……じゃなくて、悲鳴を上げかけたのも仕方がないよね。




 前にも言ったと思うけど、このボクの馬車は空間拡張の秘術によって生活空間を最大限に広げている影響により、今の源さん達の技術では窓を作ることが出来なかった。


 が、そもそもボクは周りや外の様子を下級精霊やハク達を媒介にして視る事が出来るようになっていたから、外の様子を探る用途としての窓は必要ないんだけど、逆にそれがないせいで内部空間が真っ暗闇に。


 そう、採光用の窓すらないのよね。


 そこで考え出されたのが、精霊石を利用したあかり──所謂いわゆる蛍光灯だ。


 各部屋や廊下に設置した精霊石に、ボクが光の精霊の力を込めることによって対処が可能になった。


 ある程度使用したら石に蓄積された力は切れてしまうけど、ボクに引っ付いて来た下級精霊の何柱なんにんかが切れかかっている力の補充を自ら進んでしてくれているようだ。

 

 そんな協力的な精霊かのじょ達にお礼としてマナを分け与えているから、これはもう一種の雇用契約みたいなモノかな。


 そんな精霊照明も、夜間は仄かに光る程度まで光量を落とす。だから夜目の効かないフェーヤがボクの部屋を訪ねて来るのに、足元を照らすカンテラを持ってくるのは当然と言えた。


 で、闇に浮かび上がるフェーヤの顔に悲鳴を上げかけたと言うのが、冒頭に起こった流れである。




「……うーみゅ?」


「「あっ」」


「……お母しゃま?」


 あらら、やっちゃったか。


「ごめんね、ルア。起こしちゃって」


 ボクにしがみつくように眠っていたルアが寝ぼけまなここすりながら起き出してきたのを見て、小さな声で謝る。


「いえ、お姉様が悪い訳ではなくて、私が……」


「いや、ボクが起き上がったせいだよ」


 自分を悪く言いかけたフェーヤを遮る。


「あれ? 

 ……んー……にゅぅ……お母しゃまぁ」


 ルアはボクが動いているのを見て起き上がろうとしたものの、まだ半分以上夢の中なのか頭が左右にフラフラ揺れており、そのうちボクにもたれ掛かるように倒れてくる。


「ほら、ルア。今はまだ寝ていていいんだよ。いい子だからゆっくり眠りなさい。どこにも行かないから」


「……うにゅ。えへへ……」


 足を崩したままルアに膝を貸す。


 何故か脳裏に浮かんできた、どっかで聞き馴染んでいたようなメロディーを口ずさみながら、太ももの上にある彼女の頭をゆっくりと撫でていると、やがて静かな寝息が聞こえ始めてきた。


 ほっと息を吐き、念の為ルアの周辺における音の伝播を減衰させる。これで多少大きな声で喋ってもルアには影響はない筈だ。


 ホッとして顔を上げれば、何かを必死で思い出そうとするフェーヤの姿が。


「どうしたの?」


「あの、お姉様。そのうたどこかで聞いたような……?」


「んー?」


 首を傾げる。


「いえ、何でもないです。

 ──それよりもお姉様、やけに手慣れていますね。やっぱり子守りの経験……ありありですか?」


「ないけど? でも、これくらい普通でしょ普通」


「でも……。あの、お姉様。ほんとに誤魔化してません? 私と同い年とは到底思えません」


「あのねぇ。ちゃんと同い年だってば」


 フェーヤのあんまりな言葉に呆れつつそう返すも、彼女のその台詞が引き金になったかのように、何だか変な記憶が甦ってくる。


 それは──やけに色褪いろあせた記憶で。


 安楽椅子に座ったボクが小さな赤子を抱き抱え、その腕の我が子に子守唄を聴かせているという……。


 ──って、なんでだよ。


 内心パニックになりながら慌てて首を振り、脳裏に浮かんだ偽りの記憶をふき飛ばす。


 だいたいさっきの絵面の中でのボクは、地球で精霊化したボクとそっくりな銀髪の女性だったし、隣にいた顔のよく分からないが微笑んでいると解るどこか馴染みのある男性は、どう見ても夫のポジション……。


 ということは、あの中でのボクの立ち位置はこの男性? まさかのつ、妻……!?

 どっちー!?


 だぁー!?

 違う違う! 絶対違う!


 どっちであっても考えるな、自分!


 きっとどこかで見たテレビドラマのシーンに、フェーヤのせいで今のボクの姿が投影されちゃっただけだ!


 つまりは錯覚!

 幻影のたぐい!


 うん、よし。


「……お、お姉様? どうしていきなり百面相を?」


 ……あ。


「──こほん。

 で、どうしたのフェーヤ? こんな夜更けに」


 恥ずかしさから赤く染まった顔を片手でパタパタとあおぎながら、気を取り直すように傍まで近寄ってきていたフェーヤを問いただす。


 というか、小脇に抱え込んでいるソレを見れば、何しに来たのか一目瞭然なのだけど。


「ごめんなさい。お姉様と一緒に寝ていいですか?」


 ……やっぱりか。


「実はその……ここ最近、一人きりではあまり眠れなくて。

 き、昨日まではルア様と一緒に寝ていたのですが、今夜は一人になってしまい……」


 ばつの悪そうな顔で、ぽつりぽつりと告白を始める。


 フェーヤが言うには。

 今日のボクの『護衛』という名の、実質ただの添い寝当番にルアが行ってしまった為、あてがわれた一人部屋で寝ることになってしまったとの事。

 で、いざ寝ようとしても中々寝付けずにいたらしい。


 長時間お布団の中でごろごろしていたら眠気が飛んでしまったらしく、ちょっとお手洗いにとごそごそと起き出したところで、同じく当番だったはずのキリアが『地球』に行っているはずのティアと共にリビングで話し込んでいるのを発見。


 その事からボクがこのエストラルドに戻って来ていることに気付き、居ても立っても居られずこうして会いに来た、ということだった。


 うん。確かにこの世界に戻ってきたらルアに抱き着かれる形で寝ていたし、キリアはベッドの側に設置しているテーブルで裁縫していたな。


 精霊達みんなが着ている服の大半がキリアの作った物であると聞いたし、彼女はそういった被服作業が好きなのだろう。だから学生服を着たままこちらに戻ってきたティアに過剰反応を示したのもよく分かる話である。


「淋しくなった?」


「……はい」


 ボクの言葉に、フェーヤは素直に認めた。


「精霊様方や神御子様方をはじめ、【懐刀】や【円卓】の皆様も……とても親切にして下さいます。だけど、その……。

 今まで何度も行き来していたこの旅路に、アルメリア大叔母おば様が傍におられないだけで、ここまで不安に感じるなんて思わなかったんです」


「……そっか」


 そりゃ長い年月を共に暮らした肉親以上に気を許せる存在なんてそうそういないからなぁ。


「でも……でもですね。前にも言ったと思いますが、お姉様が傍にいて下さるとすごく安心するんです」


「うん」


「その、ええっと、うまく言葉に出来ないのですけど……」


 うーんと、うーんと……。

 そんな擬音が似合いそうなくらい言葉に詰まりながら話そうとするフェーヤを静かに見守る。


「──んーと、そう、お姉様が纏っている雰囲気? その、なんというか空気? 匂い?

 傍にいると、何故かもの凄く落ち着くんですよね。何だかお母様といるみたいで」


 お母様みたい、ね。


 同い年だとか、本当は男だとか。

 そんな無粋な言葉は飲み込む。


「それに前にも言いました通り、お姉様にはフェーヤのこと何でも知っていて欲しいんです。普通こんなのあり得ないと思うのですけど、そう思わせてくれる何かがお姉様にはあるんですよ」


「……フェーヤ」


 確かにフェーヤの生い立ちについては、アルメリアさんやラウシュさん、そして本人からも直接詳しく聞いている。


 この里に生を受けてから今までにあったこと、王都での仕事やアーサーさんとの出会いの物語を。


 そして継承の儀──フェーヤの巫女就任式前日に発生した襲撃事件についても。


 思い出すのも辛かっただろうに、彼女は時々言葉を詰まらせながらも語ってくれた。


 最後の方はボクの腕の中で泣きながらだったけど。


 そんな状態になりながらも、最後まで話してくれた。


 無理しなくてもいいよとは言ったんだけどね。


 それでもフェーヤは止めようとしなかった。自分の全てをお姉様に知っていて欲しいんですと言って。


 こうと決めたら突き進んでいく彼女の生来の性格も()ることながら、きちんと自分なりに受け止めていて。

 本当に芯を持つ『強い』だ。



 彼女の親族を虐殺した犯人も、既に特定されている。


 ルアを毒殺しようとし、世界樹の倒壊を目論み、生きとし生けるものに反逆した【死方屍維しほうしい】の幹部、カルネージスと共に去っていったキエル。


 そう、奴が犯人だ。


 過去にもファルナダルムの里に混乱をもたらし、フェーヤを庇った両親を目の前で殺し、彼女をも甚振いたぶった犯罪者。


 駆け付けたアーサーさんとマーリンさんの介入、そしてティリルの治療もあって何とか一命を取り留めたフェーヤは、その意識を失うその瞬間、アーサーさんの攻撃で一瞬覆面が外れた奴の顔を見たらしい。


 あの日樹皇(じゅこう)の間に現れたキエルの顔を、フェーヤは忘れてはいなかった。


 アーサーさん達は言われるまで忘れていたそうだけど、彼女はしっかりと覚えていたんだ。

 だから取り乱した。


 まあその時『表』に出ていたのがファルナダルムさんであり、彼の精神安定化の魔法で鎮静したそうだから表立って分からなかったが、その感情の波はファルナダルムさんへも影響したそうだ。


 彼女はそこまで説明してきた後、ボクの前で服をはだけた。慌てるボクをよそに、彼女はうっすらと残る脇腹や背中の傷痕きずあとを証拠にと見せてきた。


 彼女の綺麗な肌に刻まれた沢山の切創せっそう。そのあとを。


 これはキエルに殴られたり斬られたりと、甚振いたぶられた時に付けられた傷痕きずあとであり、当時救援を行った【円卓】のパーティーに在籍し、その応急処置にあたったティリルをはじめとする救護隊の実力では完全に消すことが出来ず。

 こうして未だ癒えずに残ってしまっているようだ。


 全て巫女服に隠れる部分で助かりましたと彼女は笑ったけど、その笑顔にボクは何とも言えない気分になった。



 キエルは。


 桐生きりゅう聡輝そうきは元同級生であり、ボクとも因縁のある相手だ。


 地球むこうではこちらに絡んでこない限り放置の方針だったけど、こちらではそうはいかない。


 あの男がこの世界エストラルドでやった事は、とうの昔にゆるせる限度を超えている。


 もちろん奴がこれを未だに『ゲーム』だと思い込んでいたとしても、ボク達とは完全に相容れない。


 今後奴と出会えば間違いなく戦いになるだろうし、確実に潰すつもりでいる。行いを悔いて謝るような奴ではないし、容赦するつもりもない。


 ボクとも因縁がある相手だと知ってフェーヤはびっくりしていたし、お手数をかけてすみませんとも謝ってきた。


 フェーヤに謝られる事ではないし、奴は明確な敵である。どっちかというと同郷の者が迷惑をかけたんだ。謝りたいのはこっちである。


 その事を口にすると、彼女も同じように返して謝り合戦に発展してしまったけど。


 それが何度か続いた後、急に可笑しくなってお互いに顔を見合わせて笑った。



 そう、この日以来。

 ボクへの呼び掛けが『お姉様』に変わった。


 そうして現在、こうして甘えてベッドに潜り込もうと考えてくるくらい仲良くなっている。


 そんなフェーヤに。

 ボクはずっと隠し事をしている。


 そう、幼馴染達にしてきた事と同じように。

 これからも秘め事を沢山たくさん増やしていくのだろう。


 ──だから。


 これからもずっと隠し続けて……自分を偽り続ける?


 幼馴染達にしてきたように。


 そうして。

 またバレちゃったら……。


 ──次も逃げれバいイ……。



 ……馬鹿な。

 なんでそんな不誠実な事を。


 じゃあ。


 今日母さんがみんなに暴露するまで内緒にしていたのは何故だ。


 それは。

 真実を話す事で。

 

 今の心地よい関係が……。





 ようやくPCが直りました。

 これでスピード上がりそうです。


 家に帰ることが出来たら、ですが……orz。

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