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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
世界樹と交錯する思惑
153/190

153話 呼ばれて精霊島


2019/2/15 すいません。感想で指摘のあった通り、サレスさんの真名からのセイ君の名付けを、『レン』→『ティーネ』に変更しています。





「──よく来てくださいましたわ。助かります」


「ふぇっ!?」


 キリアの能力を利用して、精霊島にある精霊殿の入口にあたるエントランスへと、直接転移してきたボク達。

 そこには既に、ディスティア様がボク達の到着を今か今かと待ち構えていた。


 しかも彼女はボクの顔を見るなり、ホッとした表情を浮かべて頭を下げてきたもんだから、泡を食って狼狽うろたえてしまった。


「い、いえ。その、あ、頭を上げて下さいぃ!」


 裏返った自分の声に、更に赤面してしまったけど、これは仕方無いよね?

 この状況、普通じゃあり得ないし。


 だいたい世界を支えている始祖精霊の一柱ひとりが、何でボクなんかに頭を下げてくるんだよ!


「──いえ、これはケジメですわ。貴方を呼び出さないといけない事情が出来てしまって。

 こちらの我が儘で呼びつけてしまって、申し訳なく思っています」


「あれ? ねぇねぇ、お母様。ご主人様とルアの精霊体の治療と、エフィ姉様の話じゃないの?」 


「母様、我が儘ってなんなのだ? 治療という割には、島の何処にもアニマの気配が感じ取れないのだよ」


 カグヤとシュリが首を傾げながら問い返すと、ディスティア様は嫌なことを思い出したとばかりに眉を寄せた。


「そちらの件はちょっとばかりおかしな事になっておりまして……」


 何だか奥歯に物が挟まったような言い方だなぁ。


 疑問符を浮かべたボクやみんなの顔を見回して、やっぱり説明しないと駄目かと思ったのか、彼女は大きく嘆息し、


「『わざわざ王都で忙しいアニマを呼び出したりするのは可哀想だから、先に私が何とかする』と言い出して、何を言っても聞く耳持たなくなりまして」


 はい?


「「……はぁ」」


 シュリとカグヤの溜め息がハモる。


 え? え?

 一体何? 何の話?


「身内の恥を晒すようで誠に遺憾いかんではあるのですが、そういった理由でアニマを呼び戻してはいませんわ。どうせ失敗した所で命の危険がある訳でもなし、この後王都プレスへ行けばあの子と会えるのですし、姉様もあれだけ豪語してみせたのですから、頑張って何とかしてもらいましょう」


 え? 姉様って、もしかしなくともエターニア様のこと……だよね?

 何やっちゃったの? あの女王様ひと


「アニマとの契約も調査も同時に済ますつもりでしたが、『強いては事を仕損じる』ですわね。そちらは王都でゆるりと行う事としましょう。

 さて少々歩きますが、これより姉様の元へと案内しますわ」


 と、ディスティア様はそれ以上何も言わずにきびすを返し、ボク達を精霊殿へと向けていざなった。

 




 ──精霊島。


 この世界に生きとし生ける存在モノが必要とするマナを浄化し、世界に循環させている世界樹の本体が存在する島であり、精霊の女王エターニア様の力により空の上に漂い続けることになった、マナに満ち溢れた大地。

 

 特別な『名』もなく、単に一言で『島』とも呼ばれる空に浮いたこの大地は、かなりの面積を誇っていた。


 そして目の前にそびえ立つ世界樹も、全容が掴めないほど巨大だ。


 下から見上げても、広葉樹のようなこの大樹の下枝が微かに見えるレベル。幹の太さだけで小さな町がすっぽりと入るのではなかろうか? 何から何までスケールが違い過ぎる。


 そしてこんな巨大な島を一柱ひとりで空に支え続けているエターニア様の精霊力ちからに、ただただ驚くばかり。

 あんなナリでも(失礼)精霊の女王の名は伊達じゃない。


「──ほんと地球じゃあり得ない光景だもんね」


 転移してきたエントランスから世界樹の丘へと曲がりくねりながら伸びる、このパルテノン神殿のような様式の緩やかな登り階段状の渡り廊下から見えるこの景色に、ボクはふと立ち止まり思わず呟く。


 大きく開いた柱と柱の間から草花の生える大地へと降り立って行き先を見上げてみれば、もう少し行ったところにこじんまりとした神殿のような建屋があった。


 ただその先からは何処へもこの渡り廊下は繋がっておらず、しかしながら、更に上の方に巨大な宮殿型のお城が存在した。


 あのお城がエターニア様が居られるお城かな?

 ということは、先に見える神殿からまた転移するのかな?

 

 そんなことを考えながら、次いで眼下の街並みを見渡した。


 世界樹が立つ丘の裾野に広がる街。

 スピルナム。


 かなり広範囲に渡って広がるこの街が、あの日クラティスさんが話してくれた守護者達の街。

 まるで世界樹をお城と見立てて発展している城下町のような構図だ。


 そして視線を並行方向に持って行き、どこまでも続く地平線を見やる。


 今ボクは世界樹が根付いている丘の中腹辺りにいるんだけど、ここから見ても島の外周は全く見えない。この丘の中腹辺りから何処ともなく滾々(こんこん)と溢れる湧水が裾野で湖を形成し、そこから流れ出る川の水が街の中央を通って地平線にある森へと消えていく。


 当然ながら、流れていく川の水の水源と処理はどうなっているのだろうかと疑問が湧くけど、そもそも空飛ぶ島自体あり得ないので、それも精霊の力でどうにか処理しているんだろう。


 そうじゃないと、精霊島が飛んでいる場所の地上では、空から滝のように水が落ちてくることになるし。 


「セイさん。そろそろよろしいかしら?」


「あ、すいません」


 思いの外長く見過ぎてしまったようだ。慌てて元の通路へと飛び上がる。


 そんなボクを見付けて寄って来る下級精霊の子。

 その子以外にも、多くの下級精霊達がボクの周囲に続々と集まってきていた。


 妖精や天使のような姿の子もいれば、獣や爬虫類の姿をとっている子もいる。


 そんな彼女達の表情や態度から、ボクに対する好奇心が感じ取れる。でも遠巻きにして一定距離を保ったままついてくるだけで、それ以上は近寄ってこない。


 まあボク一人ならともかくとして、ディスティア様や上級精霊である太陽(シュリ)(カグヤ)(キリア)が傍にいるからだろう。


 彼女達下級精霊の立場じゃ上級精霊がいる場に無遠慮に近付くなんて出来ないだろうし、かといって許可した挙句に移動が困るくらい群がられても困る。


 でもこのままじゃ、なんか可哀想だなぁ。

 どうしたもんかな?


「──やはりお優しいですね」


「なんのことかさっぱりですが?」


 ボクの視線に気付いたディスティア様が微笑む。

 考えていたことをあっさりと見抜かれてしまい、何だか恥ずかしくなって目を逸らした。


「姉様との話が終わった後で構いません。地上へと戻られる前に、もう一度あの子達と会って下さいまし」


「……出来たらそうします」


 ディスティア様のその言葉に頷く。



 そうして……。

 更に歩くこと三十分あまり。


 突き当たりにある開かれた神殿の中へと入ると、そこは大きな広間になっていた。


 部屋の中央には祭壇があり、上段には男性をかたどった立像、そして下段にはひざまずいてその男性に祈りを捧げる三人の女性像があった。


 そしてその祭壇の下には祭儀服を着た小さな女の子の石像が舞を奉納するかのポーズをとり、それを半円形に取り囲むように十二柱の石碑が設置されている。


 この先には廊下も扉もなく、ここで行き止まりになっていた。


「これはこの世界の精霊達とその在り方を示しているんですか?」


「ええ、そうですわ」


 トンッと床を蹴って宙を舞い、ふわりと祭壇へと降り立ったディスティア様は、祈りを捧げる女性のうちの一人──自分を象った女性像に触れながら、そうのたまう。


「セイさん、ここの転移装置を使用するには、貴方のマナ波形を登録しないといけませんの」


「マナの登録?」


「ええ、それがゲートの鍵となります。それを得るには、また試練を乗り越えないといけません。試練ばかりで申し訳なく思いますし、貴方なら試練を不要にしても宜しいのですけど、(とう)様が制定された規則なのでよろしくお願いしますわ」


「それも構いません」


「ありがとうございますわ。

 ──では、開始します。まずはマナ波形を登録をしたいので、そちらの舞い踊る少女の像の紋様に触れて下さいまし」


「これはエフィの……いえ、精霊王女(エレメンティア)を象徴しているんですね」


「その通りです。貴方はエレメンティアの使徒……いえ、御子となりますので、その少女の像が対象となりますわ。その後、試練の説明を致します」


 他の石碑は、他の上級精霊達を示しているんだろうな。

 よく見れば、ひとつひとつ形が微妙に違うし、彫られている紋章も違う。


 そう思いながら、その少女の石像の背にある紋様に手のひらを当てようとして、ふと気付く。


 あれ?


「どうしました?」


「この紋様……」


 二重円の中で交差し絡み付く二つの楕円形を背景にした大樹の紋様。


 見覚えがあるどころじゃない。

 これ、なんかうちの家紋にそっくりなんだけど?


 首を傾げながら訊いてきたディスティア様にかぶりを振りつつ、


「──いえ、何でもないです」


 いや、気にしないでも良いか。

 草木を簡素化した家紋や紋章なんて、異世界まで含めたら世界中にいくらでもありそうだし。


 これも単に似てるだけだと思い直し、星と世界樹の関係、輪廻と無限をかたどったと説明されたその紋章に、ボクは右の手のひらを押し付けた。


 ボクのマナが勝手に少女の像へと吸われて輝き始める。


 そして次の瞬間、少女像の前から祭壇へと至る光の階段が伸び、祈る三柱さんにんの始祖精霊の目の前の壁に光輝く楕円形の鏡状の光のゲートが現れた。


「「「えっ!?」」」


 ボクとキリア以外の声がハモる。


 そして彼女達の驚愕を理解する間も無く、ボクの頭の中に女性の声(アナウンス)が響き渡った。




『試練クエスト『精霊島へと至る道』がクリアされました。貢献度により以下の褒賞が付与されます。


 精霊島へのポータルが解放されました。

 称号〔到達者〕を獲得しました。


 詳細はメニュー及びメールにてご確認ください』




《プレイヤーの皆様。試練クエスト『精霊島へと至る道』が、とあるプレーヤーによりクリアされました。


 これにより精霊の〔祝福〕以上を持ち、かつ、特定の条件を満たして〔使徒〕への試練に合格した者は、『精霊島へと至る道』への試練を受けられるようになります。


 詳細はメール及びヘルプガイドをご確認ください》




「ふぁっ!?」


 みんなの驚きの理由とこの現象の意味を理解した瞬間、思わず変な声が出た。


「……触れただけで何故?」


 彼女は呆れた表情でこちらに訊いてきたけど、こっちはそれどころじゃない。


 あの日気絶から目覚めた後に見た、精霊かのじょ達との契約で大量に来ていた褒賞のアナウンスログにもびびったけど、こっちも大概ヤバい。


 しかもこっちはワールドアナウンスまで流れるオマケ付きだ。きっと荒れるんだろうなぁ、掲示板。

 誰が何と言おうとも、精神の平穏の為に絶対見ないけど。


「あの、今ワールドアナウンスが。ボク達異邦人に精霊島への道の試練が解放されたとかいう通知が……」


「通知? あぁ、向こうにいる告知精霊ティティア仕業しわざね……。

 ──はぁ。もう何を考えておられるのでしょうか、(とう)様とあの子は」


 間違いなくボクの仕業と断定されて、この後の始末で絶対レント達に迷惑掛けそうなこの事案を目の当たりにし、つい現実逃避気味に遠い目をしたボクの発言ボヤきに、ディスティア様までもが頭痛が振り返したように額を押さえた。


 ディスティア様もこれは想定外だったようだ。

 ほんとご迷惑お掛けします。


(とう)様が命じたのかしら?

 まああの子も出来るだけ多くの支持者をこの精霊島へと集めたいのでしょうけど、判断を急ぎ過ぎですわ。まだ早すぎますと思うのですけど……」


(とう)様とあの子って?」


 (とう)様は何となく分かるけど、あの子って誰だろう?


 それ、エターニア様……のことじゃないよね?

 さっき『姉様』と呼んでいたし。


(とう)様──この世界を創造して私達精霊をはじめとする、生けとし生ける存在モノの『父』でもらせられるティスカトール様ですわ」


「創造……神様? もしかしてボク達の地球も?」


「ええ。偉大なお方なのですけど、少々悪ふざ……お茶目な所がおありなようで……」


「なるほど……神様の仕業かぁ」


「で、あの子とは地球にいる『妹』ですわ。五番目である私の一つ下になります」


「妹!?」


 ディスティア様が五番目!?

 エターニア様とシンフォニア様以外にまだ二柱(ふたり)もいるの!?


「あの子は今権能制限(おしおき)中ですし、やはり(とう)様の仕業で間違いないでしょう。それしか考えられません。

 最初、少しでも早く会いたいからと暴走した姉様が試練免除にしてきたのかと思いましたが、流石に姉様一柱ひとりではこの設備の魔法式に手を加えられませんし、そもそもあの脳筋……もとい絶賛お花畑娘は式の構築や解除を大の苦手としていましたわ」


「そ、そう?」


 の、脳筋とかお花畑娘って……。

 コメントに迷うようなこと言わないで欲しい。 

 

 けど、神様か。

 やっぱり存在するんだ。


 このティスカトールって神様がこのエストラルドと地球を創って、相互交流を始めたのかな?

 しかも父ということは男の神様か。


 まあ、ボクが聞いたりして知っていることはあまりにも断片過ぎて判断しにくいんだけど、エフィやユズハさん、クラティスさんやルアなど、みんなの意見を寄せ集めていくと、どうもボクがこの世界において重要な鍵にされてしまったという結論に辿り着いてしまうんだよね。



 世界を救うため、神に選ばれた。



 これだけ聞けば、人によっては名誉だとも光栄だとも言いそうだし、選ばれた本人も自惚うぬぼれたりしそうだけど。


 ボクはどっちかというと、そのどちらでもない。むしろ「なんでボクなんかが?」と困惑してしまっている。


 それにボク自身、こういう大役はレントの方が適任だという思いの方が強い。


 本当にどうしてこんなことになってしまったんだろう? ボクはどこにでもいる一般市民だったはずなのに。


 何で神様に目をつけられてしまったのだろうと不思議に思いながら、気を取り直して説明を再開したディスティア様の言葉に耳を傾ける。

 

 彼女の話によれば、本来はここから更に精霊殿へと入る資格があるのかどうかの試練が始まるのだけど、自分の使徒に対応する石像に触れただけで、何もせずにあっさりと突破スルーしたことに、毎度のことながら頭が痛くなってくる。


 ディスティア様も「今更ですわ」と言い放ち、気にしない方向に舵を切ったようだ。


 ボクとしては特別扱いされているようでむしろ気に食わないけど、だからと言って無理やり試練を受けなおせる訳でもなし、こればっかりはどうしようもない。


 そんな諦めの境地で、転移装置の詳しく使い方を教わっていく。


 ここの転移装置は精霊殿の本殿内部へと行けるだけでなく、精霊島の各所や地上の全てのポータルに無料で繋がってるそうだ。


 これは所謂いわゆるハブ空港みたいな役割かな? ただし精霊殿内部以外へは魔力マナ登録の終わったポータルにしか跳べないそうだ。


 普通の人には便利な施設になりそうだけど、ボクには微妙な施設になりそうなんだよね。

 

 なんせボクには、キリアと契約することで使えるようになった影と闇を利用した転移魔法があるからだ。


 本人キリア曰く、エターニア様が扱う時空間魔法の下位互換であるらしいんだけど、この転移魔法をボクが自由に使えるようになればもうポータルに頼る必要なんてなくなる。


 距離に応じたマナを馬鹿食いするとはいえ、ポータル設置場所を無視して跳べるし、知らない場所でも魔力マナ登録マーキングした相手がその場にいたら転移可能となる点も考えると、状況次第ではこちらの方が優秀ですらある。


 今後は長距離をこのポータルで移動し、短距離を闇魔法で移動するのがメインになりそう。


 まあまだまだ慣れていないせいか、ボク一人分しか跳べないし、使うマナの割には全く距離が出なくて、すぐ目の前に跳ぶのが精一杯。


 まあキリアにお願いすれば、この世界の何処にでも行けそうなんだけど、正直それは躊躇ちゅうちょするのよね。彼女を便利な道具扱いみたいなことしたくないし。


 今回の精霊島への呼び出しも、本当はキリアにお願いしたくなかった。


 今のキリアの状態を考えると、負担をかけたくなかったのだけど、そもそもボクはこの精霊島に来たことないんだから、慣れ不慣れ関係なく、頼らざるをえなかったのだ。


 そこでボクの傍に立つキリアに目がいく。


 ボクの服を指先でちょんと摘まんだように持ちながら、伏し目がちに静かに寄り添っているキリアを見れば、おっかなびっくりという言葉が似合ってしまう。


 しかも()()()からずっとキリアは声を出していない。


 彼女がこんな状態になってしまった原因を、そう転移魔法を教わった時のことを思い出す。


 キリアにお願いしてコツを教えて貰いながら、時間を作っては練習していたんだけど、訳の分からない単語や言い回しに擬音が満載だから、覚えが悪くて苦戦していたんだよ。


 しかも本人は何となくの感覚で転移していたもんだから、上手く説明が出来ないみたいで、だんだんと落ち込んでいった。


 そこで苦肉の策として、彼女と〔精霊化スピリチュアル〕することで感覚を掴もうと考えたんだけど、ボクが自力精霊化をしていたことを何故かすっかり忘れていてね。


 やっぱりそれが邪魔をしたのか、キリアと上手く同化出来なかった。


 しかもそのせいでボクに教えることも出来ない奴と判断されて精霊化を拒絶されてられたと思い込んだらしいキリアが、この世の終わりみたいな表情かおをして泣き出すというハプニングがあって……。


 ──ボクがそんなことするわけないでしょうが。全く冗談じゃない。


 また、一度に同時契約をしたことによって、ボクが死にかけた件も大きく影響していた。


 それらのせいで、自虐的になりかけた彼女を宥めるのに苦労したけど、何とか落ち着かせることに成功した。でも今度はこんな風に無言のままボクから離れなくなっちゃった。


 キリアが傍で眠っている隙に、長年同じ眷属として彼女と共にいたカグヤやティーネさんへ、彼女が持つトラウマへの相談を行うも、結論は出ず。


 キリアはティーネさんよりも『先輩』らしく解らないそうだし、カグヤに至っては『覚えていない』らしい。


 最後には「自分達のことはいいから、今はキリアの傍にいて好きにさせてあげて欲しい」と言われた。


 それに過去何度か似たようなことがあったそうで、そのうち落ち着いて元に戻るはずと言ってはくれてはいるんだけど、このまま何もせず放置するのは、ね。


 けどだからと言って、キリアの過去に何があったのかは怖くて聞けていない。下手をすると古傷を抉ることにも繋がりかねない。


 今は問題を先伸ばしにするしか……それしかないんだろうな。


 そして彼女のトラウマは、今も癒されることなく大きな影を落としているんだと再認識した出来事だった。


 こういうのって、本当に難しいね。

 どうしたもんかなぁ?

 

 



「──で、エレメンティアの御子である貴方は、他の使徒よりもこの精霊殿にある施設移動における権限制限がないですわ。把握出来るかは別問題として、機密事項への接触も全て許可されていますの。だからこそ、その分同行者の選定にも気を付けて下さい。

 まだ質問はあります?」


 今後のことも交えながら色々と質問したところ、ディスティア様は必要以上に丁寧に説明してくれたおかげで、とても分かりやすかった。


「もう特にはないです」


 御子としての儀礼の場としても使えるそうだけど、問題が起こっている現地に跳んだ方が早いらしいし、多分転移以外これを使うことないだろうな。


 うん、訊きたいことや注意事項も全て聞いた。


 それに転移の方法も簡単だ。

 行き先を念じながら紋章に触れ、現れたあの鏡のようなゲートをくぐり抜けるだけなんだから、何も難しいことはない。


「では、行きますよ。ついてきて下さい」


「はい。ほら、キリア。手を」


「……うん」


 ボクの服を持ったままだったキリアの右手をそっと取り上げ、優しく包み込んで握ると、小さな声ながらようやく返事をしてくれた。


 あと何日いるか分からないけど、このファルナダルムの里を出立するまでに、元の元気な彼女に戻ってくれれば良いんだけどなぁ。


「じゃ行こう」


 先頭を切ってゲートをくぐり抜けていったディスティア様を追いかけ、ボク達も次々にゲートへと飛び込んでいった。




 次の更新も少し遅れそうかな?

 遅れ気味ですいません。通院と年末進行のせいです。

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