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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
世界樹と交錯する思惑
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151話 紡がれし絆(後編)

 やっぱりサブタイ変わりました……。




「──大丈……かな?」



 声が聴こえる。



「ちょっ……認してみ……ら待っ……」



 どこか懐かしい声。

 でもつい最近まで聞いていたような声。



 ──ここは……どこ?



 かすみがかった意識が次第に晴れてくるに従って、その声が明瞭になってくる。


 女性の声。


 それも……ふたり?


 いったい何の話をしているんだろう?


 聞き耳を立ててみれば、どうやらボクのことを心配しているらしい。

 しかもその声の主である彼女達は、ボクの身体に触れて何やら調べているみたいだ。


 額や胸の辺りに手が、壊れモノを扱うような優しげな手つきで触れられる感触。


 ちょっぴりくすぐったくて……。

 そして、強張こわばっていた身体と心がほぐされ、温もりが広がっていく。


「……うん、安定し出しているわね。これならもう大丈夫かも?」


「本当に? ほんと良かったぁ。もう……この子ったら、いっつもムチャばかりするんだから」


 うぐっ……ご、ごめんなさい。

 いつも迷惑かけちゃって、すいません。


「今回の出来事に関しては、色々と不幸が重なって起こってしまった事なのよ。誰のせいでもないわ」


 そういえば……倒れたんだっけ?

 確か、一度に複数の上級精霊と契約したことによる、ボクの精霊核の混乱と不調が原因とか言っていた気がする。


 うん、だんだんと記憶が甦ってきた。

 昨夜からお昼にかけて、彼女達五柱ごにんと契約を交わしたんだっけ。


 教えてもらった彼女達の真名を心に刻んでいく。



 樹木の精霊(ルアル)


 光の精霊(ミクシャナ)


 静寂の精霊(レンティーア)


 闇の精霊(キュリア)


 そして……太陽の精霊(シュリナ)

 


 激闘後の疲労困憊の身体で、よくもまあ契約出来たもんだ。そりゃあこれだけ一度に契約したら、体調も悪化するよね。


 凄く納得のいく話だと内心頷いていると、ボクの身体に触れていた彼女達の手が離れていく。


「精霊核の不調がこれだけ回復したのなら、そろそろ目覚めてもいい筈だよね?

 私も久し振りにりっ君の声が聞きたいんだけどなぁ。大丈夫そう?」


「多分……いける筈よ。起こしてみましょ」


 優しく揺り動かされる。


 あ、いや。自分一人で起きれるって。


 さっきから意識があるのに、寝たフリをしているみたいな状態だ。何とか起きようと思い、慌てて身体に力を入れてみるも、ピクリとも動かない。


 身体を動かそうとしても鉛のように重くて動かず、目を開こうとしても瞼が引っ付いたように動かないのだ。


 これって金縛りに?


 焦る。


「う~ん……あ、暴露大会いってみようか。

 ねぇねぇ、エフェメラ。そう言えばね、りっ君って昔からなかなか起きてくれなかったのよね。結衣ゆいと一緒に起こしに行っても、毛布被って『あと五分』ってね。何度二人でひっぺがしたか」


 ──はい?


「あらら、意外な事実。甘えん坊で寝坊助さんなのね」


 ちょっ!? そんなこと絶対にないって! ない……はず?

 あれ? 結衣って……何でそれを?


「そうなのよね~。

 あとね、あとね。何かあると『ゆずねぇ、ゆずねぇ』ってパタパタ走ってきて、ぎゅーって甘えて寄ってきてたし、ほんと可愛かったなぁ」


「ちょっと待って。それいくつの頃の話よ? あなたの中で私が見てきた時もこちらでも、それと全く正反対なのだけど?

 ユズハ、それ何年前?」


「ええっと、その……あれよ、あれ。こんなちっちゃい時の……」


「それって当たり前なんじゃ?」


「……」


「……」


「……あはっ♪」


「こら! もう、すぐにそうやって誤魔化そうとする!」


「やぁーん。エフェメラが苛める~」


 ボクのすぐ傍で、ドタバタとじゃれ合う気配が。そして、彼女達がお互いを呼び合う『名前』に混乱する。


 エフェメラとユズハ。


 この世界にやって来たボクを狭間で迎え、そして御子へといざなった精霊王女エレメンティア。


 そのエレメンティアに仕えていた、ボクの先輩にあたる先代の神御子かみのみこユズハ。


 い、いったい何がどうなって?


 エフィはまだ分かる。でもどうしてユズハさんがボクの夢……いや、意識の中に?


「──ぅくっ」


「「あっ!?」」


 わずかながら声が出た。


「セイ」


「りっ君」


 その漏れ出たボクの声に彼女達はすばやく反応し、名前を呼びながらボクの身体を大きく揺さぶり始める。


 ゆっさ、ゆっさ、ゆっさゆっさゆさ……ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ……っ!?


 ──って、揺らし過ぎ!?


「ちょっ、ちょっとユズハ?」


「早く起きなさいよ! 寝たら死ぬわよ!」


 えっ!?


「何それ?」


「いやぁ~、ほら雪山で遭難した人がよくやるヤツを……お約束ってやつ?」


「あのねぇ」


 思わず突っ込みが出る。


 脱力したことが逆に良かったみたいで、あっさりと目が開いた。


「あ、ホントに起きたわね」


 目の前には、輝くような黄金色の髪をした懐かしさすら感じさせるエフィが、ホッとした様子でボクを覗き込んでいた。


「ほら、起きたじゃない」


 と、そこへ同じようにボクを覗き込んできた栗毛色を髪をしたエフィ……って、ええっ!?

 

 ふ、双子!? 分裂……いや、そんなわけないし!?


 完全にパニクって口をパクパクしているボクに、栗毛色の方のエフィ(?)が胸を反らしながら、


「ほら見なさい。私の渾身のギャグが効果を発揮……」


「「いや、関係ないから」」


 と、綺麗にボクとエフィの突っ込みがハモった。





「じゃあさ。りっ君も起きた事だし、ちゃっちゃと説明タイムといこうよ」


 さっきまでいじけていた栗毛髪のエフィ。

 黄金髪のエフィが彼女の耳に何かを呟いたかと思うと、一転してニコニコ顔になり、ずずいっとこちらに身を乗り出してきた。


「相変わらず切り替えが早いわね。単純」


「うっさいよ」


 ぷくーと頬を膨らませる栗毛エフィ。


 パッと見、背格好も顔も声も殆どそっくりで、違いは髪の色だけ。実際問題、よくよく見たら顔立ちが微妙に違うような気がするんだけど、こんなの分かりっこない。


 ただ、黄金髪のエフィと違って、栗毛髪のエフィは喋り方が随分と子供っぽい印象が。


 ただ、二人とも全く同じデザインのゴシックドレスを着ているものだから、対比的に余計際立ってそう感じてしまう。


 恐らくだけど、こっちの栗毛色の女性がユズハさんなんだろう。


 なんでエフィとそっくりな顔をしていて、しかもこんなところにいるのか不思議で仕方ないけど。


「むむっ? りっ……じゃなくてセイ君。今、私の事を子供っぽいと思ったね? 図星でしょ?」


「え? あ、いや、その……」


 ビシッと指差ししてのたまう彼女に、ボクは戸惑いの声を上げる。


 言っちゃ悪いけど、その通り。更に言えば、ボクの先輩達──つまり今時の女子高生みたいな印象を受けたんだけど、何でバレたの?


「こう見えても私はセイ君の……」


「はいはい、ストップストップ。セイが混乱しているでしょ。ユズハも最初からちゃんと説明しなさい」


「ぶー、ぶーぶー」


「もう……セイ、ごめんなさいね。この子久し振りに私以外の人とまともに会話出来たものだから、テンション上がっちゃったみたいで。そういう所、いつまで経っても子供っぽいんだから」


「は、はぁ……」


「だってだってエフェメラとだって~。こうして顔を合わせたのもすごーくすごーく久し振りだし」


「そりゃね。私は身体を失って、しかもあなたと完全同化していたし……でも、あれからどのくらいっているのかしら?」


「どうだろ? 覚えてないなぁ?

 ほら、行き来している間に時間飛んじゃってるし、殆どぐーすか寝てたし」


「そうね……って、ごめんなさい。またほったらかして。そろそろ立てる?」


 柔らかな笑みを浮かべながら、エフィはボクに手を差し伸べる。


 そんな彼女の手を掴んでボクは起き上がると、身体が満足に動くことを確認してようやく一息つく。


 まあ、精神世界の身体だからあまり意味はないとは思うけど、これはもう気分の問題だ。


「もう流石に分かっているとは思うけど、私の方がエフェメラよ。で、こっちがユズハ。

 本来の精霊体からだを喪失した私の身体からだの代わりになってくれている元私の神御子かみのみこよ」


「はーい、ユズハでーす。私の後輩ちゃんよろしくでーす! そだ、『ユズお姉ちゃん』って呼んでくれていいよ」


 イエーイとばかりに崩した敬礼のようなポーズを取って、ユズハさんはにぱっと笑う。


「……いや、ないから」


 なんか恥ずかしいし。


「ががーん!?」


 ショックを受けましたとばかりに、大袈裟なリアクションをするユズハさん。


「ふぇ~ん、エフェメラどうしよ~? セイ君が私になついてくれなぃ~」


「こらこら……」


 ユズハさんに抱きつかれ、困りつつも呆れた様子のエフィが天をあおいだ。


 例え砕けた喋り方をしていても、どことなく気品が滲み出ていたエフィと接していただけに、そっくりな顔でこんな言動を取られると、物凄い違和感があるな。


「なんか二重人格の人の精神を分離させて、それぞれに元の身体を与えて並べたみたい」


「言い得て妙ね」


 口に手を当ててクスッと笑ったエフィは、自分の腰に抱きついているユズハさんの頭をぽんと軽く撫でる。


「こんな彼女でも、やるべき仕事はちゃんとこなすのよ。私の代理もやっていたんだから」

 

「真面目モードの時ね。エフェメラと運命共同体だし、そりゃ必要な時はきっちりと『精霊王女様』の役を演じるわよ」


「役って、元々あなたは……まあいいわ。今言っても詮無(せんな)い事だし。

 ()()()()以来、調子が悪くて殆ど表に出られなくなったユズハだけど、彼女が元気な時はたまに代わってあげていたのよ」


「……え?」


「例えばね。狭間の時とか、セイのテントの結界を分解して中に侵入した時とか」


「あー」


 あの時ね。

 確かに言動やテンションが前後で微妙に変わったりしていたなぁ。


 意外とお茶目な精霊ひとなんだなと思っていたんだけど、中の人格ひとが違っていたのなら、そりゃあ当たり前か。


「でも私がやったのは膝枕までなんだよねぇ。今はに出るだけでとんでもなく疲れるし、その後はバトンタッチしちゃった。だからセイ君に寵愛上げたのも、ミィンで夕日を背景に壁ドンしたのも私じゃないし」

 

「ちょっと!? 何でバラすのよ!」


「にひひ。結局私達は似た者同士ってな訳で。それに私はセイ君の先輩にあたるけど、あの同化した日に()()()()()()によれば、私ってばエフェメラの先輩でもあるんだよねぇ」


「もう……先輩とか言うなら、もうちょっとシャキっとして。ほら、さっきからセイが呆気に取られているわよ」


 そうエフィがボクの気持ちを代弁してくれたけど、ほんともう何が何やら分からない。


 ただ一つ分かったことは。


 どうしてこうなったか分からないものの、あの日以来依り代の中で眠りについてしまったエフィ(とユズハさん)に、こうして再会出来たことだった。





「──よし! じゃ時間もなくなってきた事だし、必要なことお話しましょ」


「相変わらず立ち直り早いわね」


「それが一番の取り柄ですから。さて、どれから話そっか……?」


 うーん、と背筋を伸ばしながら、


「──まずは、っと。どうして君が私達と同じこの場所にいるかなんだけど……」


 そう前置きして、ユズハさんが話してくれた。



 あの日ボクが意識を失ったと同時に、エフィははっきりと目覚めた。


 だけどそれはあくまでも限定的で、ボクの意識がない時だけ。


 しかも命の危険が差し迫ったという条件を満たした時だけで、それも夢として、僅かにボクに干渉出来るレベルでしかないようだ。


 そこでエフィは同じように目覚めていたユズハさんと示し合わせ、ボクの精神体を自分達のいる依り代の中に無理やり引っ張り込んだとのこと。


 引っ張り込むことに成功したエフィ達だけど、最初はこんなことが出来るとは思っていなかったそうだ。


 ならば何故こんなことが出来たかというと、あの坑道の戦闘の際に、ボクがティアの様子を見に自分の依り代の中にあっさりと潜ってきたのをみて、もしかしたらと思ってやってみたら出来たんだって。


 で、今回のこれは何と二回目らしい。


 一回目はあのワールドイベントの時だと聞いたんだけど、全く記憶がないんだよね。もちろん何を話したのかも覚えてない。


 ということは、今回のこれも起きたら全て忘れちゃう可能性が高いわけで。


 出来る限り覚えておく方法はないものかと、彼女達に聞いたら、今回は前とは違って少しは覚えているんじゃないかなという返事をもらえた。


 ユズハさん曰く、前よりも契約した精霊との絆の力が増えたおかげで、ボクと二柱ふたりとの絆も強化されているからと言うんだけど、いまいち実感がない。


 確かにあの時の契約数は、エフィを除くとティアとカグヤ、サレスさんの三柱だけだった。

 それが今は倍以上の七柱と、契約数が増えている。しかも全部寵愛以上のおまけ付きだし。

 

 まあ、精霊核の限界を無視して酷使した挙げ句、拒絶反応を起こしてぶっ倒れたボクが言える台詞じゃないけどさ。



「──その拒絶反応なんだけどね。精霊契約を拒絶したんじゃなくて、複数の新規精霊力マナの波形がぶつかり合ったせいで、セイ君が持つ精霊核が入力された情報を誤認識して不調エラー)を起こした訳よ」


 ようするに身体の中で複数の異なる血液が混ざったようなモノねと、ユズハさんは笑いながら言うけど、その例えだと普通に命の危機だったんじゃないかな? よく助かったものだ。


「ユズハ、笑い事じゃないわよ。私達だけじゃなくドリアド──ルアルの治療も行っている最中に、追加で四柱(よにん)同時は多過ぎよ。

 その……セイの魂の許容力というか、包容力というか……その器である『揺り篭』の限界量が想像以上に大きかったおかげで助かっただけ。それでも二柱(ふたり)で全力介入してギリギリだった……。

 だから、次からはこんな無茶しないで頂戴。本当に心臓が止まるかと思ったわ」


「ごめんなさい」


 ぎゅっと強く抱きしめてきたエフィへ、ボクは素直に謝る。


「まあ今回の原因はあの子達が浮かれていたせいで、連続契約の厳しさをすっかり忘れていた事なんだけどね。少しはこのままにして反省して欲しいところだけど、全く身動きすらしないセイを見て青ざめていると思うから、早く戻って皆を安心させてあげなさい」


「う、うん。分かったよ」


「よろしい。それと……セイ。この世界の真実、もう気が付いているわよね?」


 ボクの頭を撫でながらそう聞いてくるエフィに、ボクは答える。


「やっぱり……この『エストラルド』は別の独立した世界……だよね?」



 今、ボクの依り代の中で眠っているルアル。

 彼女が()だった。


 昨夜眠りについた後、依り代の中にいる彼女から『やっとお父様と再会出来た』という強い喜びの感情が、何度も繰り返しボクへと流れてきたんだ。


 限りなく断片に近い想いだったけど、ボクに関することだけははっきりと感じ取れた。


 そしてルアルのその強い想いに触発されたように、思い出した記憶の数々。


 ──それは幼いボクと小妖精ルアルが遊んだ記憶。


 いつ彼女と出会って、そしていつ別れたのか全く分からない上に、途中もかなり断片的で歯抜けになっている記憶だけど、これは一体どういうことなのか。


 この先あの子が目覚めたら聞いてみようと思うけど、もしエストラルドにいる精霊が以前からボクのことを知っているとなると、ボクのこの予想が現実味を帯びてくる。


「──そう、この『エストラルド』は『地球』と別の次元にある惑星よ」


「セイ君、その通り。とある神様が創造した特殊端末(ゲーム機)の力によって、肉体の安全を確保しつつ、魂と精神だけをこちらの世界に転送しているの」


 はっきりと明言する彼女達の言葉は、今まで薄々感じていたことを完全に裏付ける内容でもあった。


 この世界エストラルドと地球の相関関係。


「ルアルがボクをお父様と呼ぶのも? 小さい頃に出会って遊んでいたこの記憶は?」


「もうそこまで思い出したのね。

 そう、ルアルは元々地球で生まれた精霊よ。それ以上は後で本人ルアルに聞きなさい」


「分かったよ」


「そろそろ限界ね……。

 セイ君、早く戻ってあげて。みんな心配しているから……」


「──あ、待って!」


 ユズハさんの締めの言葉を遮って、エフィがボクの手を握る。


「最後に私からお願いがあるわ」


 ちらりとユズハさんの方を見たエフィは、少し言いにくそうにしながらもそう切り出す。


「今の『精霊王女エレメンティア』の精霊体からだは、本来ユズハの身体よ。居候し続けたのもこれで最後。良い機会だし、私はこの精霊体からだをユズハに返したい」


「ちょっとエフェメラ!? いきなり何を言って……」


「大丈夫。今すぐじゃないし、ユズハが今考えた事とは全く違うわよ」


 苦笑しつつ、エフィ。


「私達が目覚めた後でいい。時間が掛かってもいいわ。ルアルと同じように、私の新しい精霊体からだ復元(つく)()てくれないかしら」


「あっ!」


 その手があったとばかりに納得顔でポンッと手を打つユズハさんに、エフィは悪戯いたずらっぽく笑いながら、


「それに私がユズハの中にいつまでも残っていたら、ユズハはいつまで経っても愛するあの男性ひとの腕の中に飛び込めないでしょ」


「にゃ、にゃにぉ!?」


 え? 愛する?


 ボンッと音が出そうなくらい一瞬でだってしまい、語彙(ごい)がバグって怪しくなったユズハさん。


「だってねぇ、例えば今あの人に会いに行かれてイチャイチャでもされたら、私凄く困るのよねぇ。身体はユズハのモノではあるんだけど、感覚は共有しているし、()()()出歯亀デバガメした挙げ句、馬に蹴られたくないし」


「しょ、しょんなこと……」


 あ、もしかしてボクの知ってる人?

 やっぱり昔の同僚のクラティスさんとかオルタヌスさんとか?


 真っ赤になったままゴニョゴニョと口ごもるユズハさんだったが、突然エフィをキッと睨み付け、


「そ、それを言うなら、エフェメラもじゃない! 私の方だって気まずいわよ! だってあの人の弟な上に、妹の彼氏よ彼氏!」


「あっ!? ちょっ、待っ……」 


「それにエフィも私の身体のままじゃ気が引けるんでしょ! だからセイ君にいところ見せようとお姉ちゃんぶったままで、いつまで経っても色仕いろじかもががっ!?」


「それ以上だめぇええっ!!」


 反撃してきたユズハさんの口を押さえるべく、なりふり構わず彼女に飛びかかったエフィ。

 その勢いのままふたりして倒れ込み、そのままごろごろと転がっていく。


 それを唖然あぜんとして見送るボク。


 いきなり何してるの……?


 転がっていった先で、お互い真っ赤な顔を突き合わせて言い争いをしているふたりから、ボクは視線を反らし耳を塞ぐ。


 いきなりなんてこと言うのとか、ブーメランが刺さってるとか、こうなったら全部暴露してやるとか、背中越しに色々聞こえるけど、無視だ無視。


 溜め息が出る。


 さっきまでのシリアスな空気、いったいどこに消えたんだろう?


 それになんで、いつもいつもこんなドタバタに巻き込まれなきゃいけないんだろうか?


 前から思っていたんだけど、ボクの周りにいる女の人や女の子って、ちょっと変わった女性ひとが多くない?


 やっぱり『女難の相』でも出てるのかな?

 最近は特に酷いよ。どうなってるの?


 ふたりの間に割って入る勇気がなかった為、しばらく我慢して待っていたんだけど、一向に言い争いが終わる気配がない。


 これ、完全にボクのこと忘れているんじゃないかな?


 ふと気付いて手を見てみれば、段々と透け始めている。ここにいられる時間はもう殆どないみたい。


 ボクが気絶してからどれくらい経っているのか聞くの忘れていたなぁ。早く帰らないとヤバいかな?


 みんな物凄く心配しているだろうしね。

 でも、この状態を放置して帰るのは……。


 ……。


 …………。


「おーい」


 うん、駄目だな。聞こえてない。


 完全に半透明になって燐光と共に崩れていく身体を見て、これ以上粘るのを諦める。


 この世界の滞在時間も本当にもう限界だし、ボクの声が出ていないのか聞こえていないっぽいし、そもそもアレの仲裁に入りたくない。


 邪魔せず、素直に帰ろう。


 まあ、ずっと気掛かりだったエフィの様子もしっかり確認出来たことは良かった。

 最後にきちんと挨拶出来なかったのは残念だけどね。


「──必ず……約束通り……エフィを復活させるからね……」


 目覚めた後もこの出会いをしっかり覚えているようにと、何度も繰り返しがんをかけて。


 薄れゆくこの精神世界の身体と共に意識も遠退とおのいていき、ボクは現実へと帰っていったのだった。


 

 



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