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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
世界樹と交錯する思惑
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146話 真実と覚悟と決意(前編)

時間が殆ど取れず、今回遅くなりました。

そのせいで、あまりしたくなかったのですが前後編になってます。

(校正も足りない気が……)



──レント──



「──馬鹿な……そんな事が現実に……!?」


「そう言いたくなる気持ちは分かります。が、これは真実です。こちらの事情と騒動に巻き込んでしまった別世界の貴方あなた方には申し訳ありませんが……」


 クラティスさんが語る、耳を疑うような突拍子もない荒唐無稽こうとうむけいな話。


 だがその話に驚いているのは俺だけで、この場にいるユイカもソルも、そして飛び入りよろしく急遽きゅうきょ参加を決めたティリルやレトさんまでもが、大して驚かず真剣な様子で普通に受け止めていた。


 ──てかお前ら何で……。


「三人とも何でそんな冷静なんだよ!?」


 電脳世界でもなく。

 地球でもなく。


 異世界だぞ、異世界!

 地球じゃないと言われたんだぞ!


 今まで接してきた人々や生物、そして……敵対した人物や斬り倒してきた生物モンスターは、皆普通に生きて……いや、神殿長救出の際斬り倒したプレイヤー達も……こちらでは普通に血の通った生身の人間だったと……っ!?


「──お兄。今まで一度も考えた事なかったの?

 ゲーマー目線で見たら、この世界はあまりにも不自然なのを。特にアップデートが完全に終わったあのイベント後から」


 こちらの様子を静かに見上げていたと思ったら、やけに落ち着いた声色こわいろで、ユイカはそう指摘してきた。


「それは……」


 それは百も承知だ。

 今まで考えた事がなかったのかと問われれば、答えは当然ノーだ。確かにその可能性は何度も考えた。


「ま、殆どの設定をリアルにしなきゃ、多分気付かないとは思うけどね。後、私もミアもとっくの昔に気付いているわよ」


「うん。そうだよね」


「最初からいるレトさんはともかくとしてだ。ティリルも……なのか?」


「ええ、もちろん気付いていましたよ。だってわたしは治癒師ヒーラーですから。人の生死に関わる者として当然知ってます。リアル設定のまま人の手当てをしていれば……特に瀕死の方を見れば、ゲームらしくないくらいすぐに分かります」


 俺の問い掛けに、彼女はきっぱりとそう断言する。


 将来看護師になる為に初期勉強を始めているティリルにとって、あまりにリアル過ぎる傷口はゲームとしての作り込みを感嘆するよりも、現実めいた何かを連想してしまうくらいはっきりと異常と映ったのだろう。

 それに空想小説なども読みふけっているそうだから、すぐにそれらを結び付けたんだと言う。


「それにアーサーさん達もきっちりと認識しています。この国の大臣にも言われた事ですから」


 言われるまでもなく、俺もおかしいとは思っていた。

 が、それらを信じたくなくて必死に否定し、また否定できる材料を探していたのは確かだ。


 そう、命を。

 人の命をこの手で摘み取った事から目を逸らす為に……。


「──お兄、今考えてる犯罪者それは単なる魔物モンスターだから」


「ユイカ?」


「りっ君とお姉ちゃんをあんな目に合わせた犯罪者アレは、もう人の形をしているだけの魔物。もう人間じゃない。ユーネという魔物に賛同し、そして操られた愚かな操り人形。もちろんこの世界で奴らに手助けしているプレイヤーも同様なの。

 あたしから……あたし達からセイ君を奪おうとする奴らを潰し、その息の根を止めるのに手加減なんて全くしない」


「ユイカ……お前……」


 ──なんて冷たい目をして……。 


「そもそもお兄だけじゃないよ。あたしもセイ君も既にってる。

 まあ、バライスの街のPvsP戦が最初だったけどね。もとより手を汚す覚悟を……この世界にやって来て、ソルちゃんから真実を聞いたその時から覚悟を決めてる」


「レントさん。わたしも経験者です。【円卓の騎士】にいた頃なんて、壊滅した村や盗賊に襲われた人々の救済に当たっていました。そして当時は……実力不足で助けられなかった方を、手が足りず見捨てる事になった者達を、少なからず見送って来ました。もう助からないと判断した彼らを……他の人を助ける余裕を作る為に、ただこれ以上苦しまないようにと介錯かいしゃくした事もあります……」


 静かに胸に手を当てながら、ティリルも宣言する。


「──最初はこれでいいのか悩みました。

 けど正しい行いをしていると。そして自信を持って前を向いて歩いていけるなら、悩む必要はないと吹っ切っています」


「ティリル……」


「それに看護師になれば、嫌でも数多く経験していきますからね」


「──ま、今更言う事ではないけどね」


 人差し指と中指を伸ばし自身の首筋をとんとんと叩きながら、レトさんがティリルから言葉を継ぐ。


「私達は初期ジョブは違うけど忍者よ。犯罪者限定だけど何人も殺し(ヤっ)たわ。賞金首狩りや盗賊、犯罪組織壊滅に奔走したこともあるし、そんな拠点に潜り込んだ事もある。色々と酷いものも目の当たりにしたわ。

 そんなあまっちょろい考え方していると、この先辛いわよ?」


「そうそ、だいたいお兄は変に甘過ぎるよ。過保護な事をアーサーさんに頼んでたでしょ。そんなの必要ないからね。こういうのセイ君は敏感だから、とっくに気付いて覚悟決めてるよ。でなきゃあそこまで入れ込まないもの」


「……そうか。そうだよな。俺の認識も覚悟も甘いか」


 これからはしっかりと向き合わなくてはならないか……。


 俺達を見つめるように照らす半月を見上げながら深く息をつき、静かに目を閉じる。




 今までVR系のゲームは……特に身体を動かす系統のゲームは、時間の許す限り数多く触ってきた。


 もちろんその大きな理由は、自身の体幹を鍛えるのに役に立つと考えたからだ。


 作り込みの甘いゲームが多く現実と違うふわふわと頼りないものが殆どではあったが、それでもイメージ通り身体を動かせるようになり、体勢を崩されても慌てることなく立て直せるようにはなった。


 そして現実でも身体を鍛えているせいか、虚像(VR)現実リアルとの違いなんてはっきりと分かる。ずっと肌で感じてきたからな。

 その違いはしっかり区別出来ていた。


 が、このAS(アス)はあからさまに違う。いや、途中から完全に違和感が消え始めたと言うべきか。


 この世界にログイン──いや、来たばかりの時は新たな肉体アバターに精神が馴染んでいなかったのか、やけに制限が掛かっている感じで、身体を動かした際に違和感が凄かった。


 俺で言えば、特に虎の耳と尻尾だな。

 本来の肉体にない器官だから、取って付けたような変な感覚があった。


 それが馴染んできたと感じ始めたのが、雷鳴の坑道をクリアしてEX職(エクストラジョブ)に就いた頃。そして、運営が行ったアップデートの後だ。


 ワールドイベントをしている頃には完全に違和感がなかったし、最初からあったような感覚で自分で尻尾を動かし、戦闘時バランスを取ったりしていた。


 それは単なる慣れだとして処理していた。

 いや……感じ取る現実から目を逸らし、無理やりそう思いたかった。


 だが、アーサーさん達からの伝言や推測を聞き。

 椿玄斎さんからの警告に、レトさんとミアさんからの体験談を知り。


 彼ら第一陣プレイヤー達は口を揃えて言った言葉がある。

 それは……。


『ゲームとしてみるには、これは生々(なまなま)し過ぎる』


 そう。あまりにもリアル過ぎる。

 それにこの運営、プレイヤー間のトラブルならすぐに介入してくるが、それ以外の事に関しては完全に放置しているのだ。

 

 それこそ何してもいい。全ては自己責任。


 アーサーさんの話によれば、住民と結婚して家庭を持ち子を成した人もいれば、王に仕える兵士になった者、住民の鍛冶屋に弟子入りした者、はたまた、犯罪を繰り返し指名手配を受けている大罪人までいる。


 それにだ。俺達を縛っているこの『コード』という機能システムもなんだか変だ。


 成人指定系も含めた大量にある様々なこの『コード』の制限を一度でも軽減したり外したりすれば、それを二度と戻せないとか普通ではあり得ない。


 本来付け外しが可能なのが『設定コンフィグ』であり、ゲームとして当たり前だ。


 それなのにASは真逆を行っている。

 ワールドイベント直前のアップデートにて仕様が変更されたらしく、それが不可能になったのだ。


 その新しい仕様とは、一度『完全マニュアル』や『リアル』にすれば、『オート』や『セミオート』に戻せなくなるというもの。


 つまり二度と戻せない。


 実際に俺はリアル志向でプレイしていた為、出来る限り現実の状態と同等になるよう戦闘や感覚系の『コード』を全て『完全マニュアル』や『リアル』に切り替えていたからな。


 そのせいでログイン直後に警告が出たのだ。確か文面が、一時間以内に『セミオート』や『一部制限』以上に戻さないと、二度と戻せなくなります……だったか?


 突然の事にビックリして戸惑い、皆でどうしようかと相談したのを覚えている。


 元々俺はこのゲームで設定されている武具スキル技を使うつもりが無かったからどうでも良かったのだが、〔雷闘気〕の練習時だけは『セミオート』に切り替えていた。


 その際に『セミオート』では使い勝手が悪い事を知っていたから、今後二度と使えなくなってもいいかと思い切って『完全マニュアル』のままにした経緯いきさつがある。


 セイの奴もティリルも妹も戻す気はないと言っていたし、恐らくセイの奴は動かせる設定は全て『リアル』に変更していた筈だ。


 この時は皆自分の意思で変更しているからまだいいが、その後セイの身に起こったアレは全く違う。


 アレとは装備取得イベントで肉体系成人指定コードが壊れていた事。しかも自分の意思とは関係なく、だ。


 あのワールドイベントで成人指定コードの破損が発覚した後、アイツはすぐさま運営に問い合わせたらしいのだが、「コードを自分から外された方は二度と修復出来ません」と、にべもなく断られた。

 しかも年齢の事を持ち出して交渉したが、それを所持すると決めた選択を含めての『仕様』なので無理だと言われたようだ。


 アレが自分で外した扱いになるとかどういう事だ?


 当然それは不具合やバグのたぐいであり、普通ならすぐに運営から通達して来て修復する筈なんだが。

 この観点からしておかしいよな?


 まあ本気で直したいのなら、今の現身アバターを消去して再度作り直す必要があると言われたらしいが、アイツは迷わず現状維持を望んだ。


 アイツは「無理なら仕方ないよね。それにこれはエターニア様からの戴き物だし」の一言であっさりと済ましていたが、人によっては今後のプレイを辞めると言い出してもおかしくない出来事だろう。

 

 変におおらかというか、細かい事を気にしていないというか……。

 それとも精霊みんなと別れたくないのか。


 もちろん後者だろう。

 それにアイツの中で眠っている姉さんも居る事だしな。言い方は悪いが、今セイが作り直しをしてしまったら、俺達としても姉さんの所在が掴めなくなってしまう。


 まずは姉さんを助ける。

 それが俺達の第一目標であり、なんら変わらない。しかしやはりというか、またセイの奴に負担をかけることになりそうだ。



 そこまで考えた時、一つだけ言わなくてはならない事が出来た。


「クラティスさん、これだけは言わせてくれ」


 軽く断りを入れ、彼を見据える。


「ここが地球とは異なる別の世界だというのは、俺も薄々感じていたから、まだ素直に納得出来る。

 そして世界を創造した神がこの二つの世界をゲーム感覚で気負いなく行き来出来るようにと、地球でゲーム装置を開発したと推測出来る、というのもいいだろう」


 自分の事ばかり考えてしまっていたが、ある一点だけは納得出来なかったのだ。

 だから……これだけは言わせてもらう!


「その創造神は親友あいつに何を期待して何をさせようとしている?」


「……」


「運命? 前世からの因縁?

 そんなモノ今を生きる親友アイツにはなんの関係もないだろうが!

 なぜアイツにばかり負担をいる!?」


 あの時の事件。

 それに今回分かった世界の事情。


 確かに整合性はあった。


 だが……!


 この世界エストラルドを滅ぼそうとしているユーネが自分の姉の転生体である理玖りくの魂を手に入れる為に世界間移動し、その場にいた不良どもを操って理玖りくの魂を奪おうとし、精霊王女エレメンティアの魂と同化していた杠葉ゆずりは姉さんを殺そうとした……!?


 そんな訳の解らない、あまりにも滑稽こっけいな話をいきなりされても、俺達の気持ちが追い付いてこない!


 しかも地球にもこの異世界エストラルドと同様に精霊がいるというし、創造神自らが理玖りくを呼び寄せる為にこのVRゲーム『Along with the Spirits Online』を作ったとか訳が分からない。


 この世界の住人であるソルはともかくとして、そんな話を真に受けるなんて馬鹿げていると言いたいが、地球の理玖りくの様子やあの事件をこの世界の住人であるクラティスさんが詳しく知っている時点で、頭ごなしに否定出来なくなってしまった。


 しかもだ。

 それだけでなく、あの時に起こった謎の幾つかが説明されるにつれ、俺の中の反論材料が消えていく。


 冷静な俺の部分は、彼らと協力すれば姉さんとアイツを正常な状態に戻せると判断している。


 が、それと同時に、子供じみた幼稚な反発も生まれてしまって、それが強く俺の感情を揺さぶってしまっていた。


 俺のこの反応も予想をしていたんだろう。

 クラティスさんは終始落ち着いたたたずまいで、目を逸らさず俺の言葉を受け止め続けている。


「……すいません。貴方達に迷惑を掛けてしまっているのは、こちらの不徳の致すところです」


「お兄」


 ユイカの呼び掛けに批難の色が混じる。


「レント君、言葉が酷いわ。少し深呼吸して落ち着きなさい」


「俺は……」


「貴方が怒るのも分かります。巻き込んでしまって申し訳なく思っているのは本当です。

 ただ……正直に言うと、私達にもあまり後が無いんです」


 じっとこちらを見つめ、諭すように。


「エターニア様達の父君で()らせられる創造神様はあの方の身の安全を重視されて、今回の事を運ばれています。恐らくこちらに来ているうちは逆に安全かと思います」


「……その言い方だと、向こうが安全じゃないみたいに聞こえるんだ……聞こえるんですが?」


 幾分冷静さを取り戻した俺は、乱暴になっていた言葉遣いを元に戻す。


「あの女──ユーネはステファニー様の魂の座標を追いかけた副産物で、別次元にある地球の座標を知ってしまいました。あの女を幽閉しているこの惑星が滅びる事にでもなれば、今度は姉の魂を追い求めて何処までも……それこそ地球へも攻め込むかも知れません」


「ちょっと待って下さい。そんな馬鹿な事が……」


「それだけ盲目的に姉を追い求めているのです。今は封印されて制限が掛かっていますが、このまま行けば……」


「封印が解け自由になれば、こちらで暮らすアイツの元へと押し掛けてくるという訳ですか?」


「ええ、そうです。あくまでも可能性の話です。

 加えてそちらの地球では、精霊の加護を持った戦いを生業なりわいとする者が殆どいないのでしょう? 攻め込まれた時点で対応出来る者がいなければ、恐らくあっという間に蹂躙じゅうりんされてしまう……」


「このエストラルドと地球の相対位置、時空の座標をずらす訳には……?」


「創造神様とえども、出来る事と出来ない事がおありです。そもそも魂だけとはいえ、ユーネが時空の狭間や世界の壁を突破し、自力で地球にまで来れるとは考えておられなかったようです。

 ティスカトール様御自身が管理されている別の世界にも飛び火してきた……。

 そういう意味でも、この世界が抱えているこの事態は逼迫ひっぱくしてあるといえます」


「状況次第では地球が危ない……か」


 最悪だろ、それは……。


 思わず額を押さえ、溜め息が漏れた。





2018.9.20 旧名のままになっていた創造神の名前を本来の名前に変更(ティスカトリス→ティスカトール)

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