136話 精霊薬
2018/7/16 ユイカが使った魔法奥義の名前を変更しています。
術式合成→魔法式合成へと変更。
「──展開。『シャイニング・レイ』『ピュリフィケイション』魔法式合成……」
ユイカが独特な魔法を操っていた。
複数の魔法陣を同時に起動し、その魔法式を重ね合わせて融合、新たな魔法陣へと書き換えていくのがボクには視える。
融合を行った魔法陣は、そこに記載されている魔法式が大きく、かつ複雑に入り乱れている。並大抵の魔力では支えきれないように思えた。
しかしユイカから溢れる膨大な量の魔力が、魔法陣の魔法式をしっかりと保持していた。
その規格外の魔力が魔法陣の構築を支え、魔法式回路へと流れ込んでいくため、その魔法陣のチャージが終了するその速度も異様に早い。
いったいこれだけの力と技能を、こんな短時間でどうやって会得したのだろう?
その四つ尾になった件といい、いつの間に種族進化したのだろうか?
そんな急激にパワーアップしたユイカやマーリンさんの魔法の連打を浴びに浴びて、そして浄化の炎に焼かれ、滅多打ちにされていくカルネージス。
意を決して接近戦を挑もうとするも、今度は二人の神御子の手によって全て防がれ、逆に斬撃をその身に受けて消滅と撤退を余儀なくされる。
「──おのれぇ。あともう少しだったのに……。ここまで来ておいて、何故にこうも盤面をひっくり返される?」
そうした数えきれないほどの消滅と再生を繰り返し、完全に後が無くなってきたカルネージスが呻く。
この広間の邪気だけでなく、樹精樹の外にまで広がっていた邪気もほぼ全てが消滅し、今カルネージスがその身に抱えている邪気が最後となったようだ。
フェーヤが祈る祭壇にある水晶体の中にいる樹木の精霊さんも、まだその身を邪気に侵されてはいるものの、力を取り戻した樹精樹の力によってきちんとした浄化治療を受けているようで、心なしか随分顔色が良くなってきていた。
「こんなこたぁ、あんまり言いたかねぇけどな。てめぇらいつも詰めが甘ぇよ。対処に追われるこっちはな、ほんとめんどくせぇんだよ」
「やれやれ……。我々の立場上、確かに褒められた言葉ではないですね。同感ですが」
「ま、自分さえ良けりゃいいと言い出す馬鹿同郷者を抱え込んで徒党を組むような組織だからな。そりゃ幹部も似たようなもんだろ」
「犯罪者どもの身勝手ここに究めり、か。
さあ、まずはカルネージス、お前からだ。今こそ裁きを受ける時」
「そもそもセイちゃんを狙った時点で、こうなる未来が見えてたわね」
オルタヌスさんとクラティスさんの会話に賛同するように、みんな口々に言い出す。
「貴様ら……。まぁいい。所詮これは分体じゃ。儂の本来の力はこんなもんではないぞ。次あった時は貴様らなんぞ……」
「へいへい。テンプレな捨て台詞乙~」
「先輩……それ、実も蓋もないですよ」
煽るなぁ、メディーナさん。
まあ宝物庫の薬が強奪された時に一番イライラしていたのは彼女だからね。その犯人なコイツに対して、今もまだ根に持ってるみたいだ。
「てかまだ薬持ってるだろ。返せ。ドロップしろ」
「……ふん。そんなものは既に穢してやって廃棄してやったわ」
「なにぃ!?」
「ひ、ひひひっ。そうじゃったな。最後の精霊薬を奪った事で、ドリアドやそこの星の巫女も、すぐに癒す事が出来なくなった筈。これで治療の間、貴様らをこの地に縛り続けられ……」
「──あ、ごめんごめん。渡すの忘れてた。これ頼まれてた精霊薬三等級だよ。取り敢えず十本分持ってきたんだけど、これで足りる?」
「んがっ!?」
ボクの横にいたユイカが今思い出したかのようにポンッと手を打ち、虚空の穴からひょこっと精霊薬を一瓶取り出したのを見て、カルネージスの顎がかくんと落ちる。
「もちろん十分だよ。ありがとう」
「──ば、馬鹿な……。何故ある? しかも三等級じゃと!? 精霊薬が二度と作れぬようあちこちで手を尽くしてきた筈なのに、何故このタイミングで貴様らが持っておるのじゃ!?」
「やっぱりてめえらが糸引いてやがったのか! 道理でこの国どこ探してもろくな資料がねぇし、薬学書の巻数が歯抜けになってるし!」
思わず暴露してしまったカルネージスに、メディーナさんが吼えた。
「あ、メディーナさんには後できちっとした製法書も渡すね」
「そっちもあるんかい。今までのあたしらの苦労は一体……」
「精霊の薬だしな。それに俺も持ってるぞ。ま、気軽に精霊に聞きゃ、あんたらならすぐにでも現物が手に入ったのによ」
一転してがっくりしている彼女に、あっけらかんとオルタヌスさんが止めを差す。
その手に懐から取り出した小瓶が握られているのを見て、
「いやいやいやいや! あたしみたいな馬の骨が知り合いでもない精霊様と、気軽に話なんか普通は出来ないって!」
「おめぇも頭かてぇな。その発想、融通の利かねぇ年寄りどもと同じ発想だぞ。もうちっと気軽に話しかけたらどうだ? あいつらも畏まられてばかりじゃ寂しいだろ?」
「そうですね。精霊と我々人族は良き隣人同士なんですから。特にエルフの方々は……その、遠慮し過ぎる傾向がありますし……」
「あー」
コレに関しては、確かにボクのミスでもあるかな。
確かに普通に考えたら分かることではあった。
メディーナさんに依頼した時にはもう既に、エターニア様と気軽にメールのやり取りする仲だったんだし。
けど、もしこのことに気付いていたとしてもだ。こういう事態が発生しなければ、多分頼らなかったな。
一から十まで教えてもらうのもなんか違うしね。まあヒントくらいは聞いたかも知れないけど。
この三等級の薬瓶、ボクが出したお願いメールを受けて、恐らく精霊女王様の指示の元、精霊島から誰かが運んで来たんだろう。
というか、普通当たり前のように、精霊島に常備薬として必ず貯蓄してされている物でしょ、これ。精霊に効果がある唯一の薬なんだから。
よく分かっていなかったボク達はともかくとして、カルネージスの奴がそこまで頭が回らなかったのか……?
いや、違うか。
精霊第一主義であり自尊心の高いエルフが、問題が起こっても自ら精霊に縋って頼ることがないと考えたからなんだろう。
後は精霊からの自発的介入を防ぐだけと考えていたに違いなかった。
で、そんなことは微塵も考えたことがないボク達に、あっさりと介入を許してしまったのがコイツの敗因と。
「……あっちはもう問題なさそうだね」
神御子二人とアーサーさんとマーリンさんが、カルネージスを取り囲んで包囲を固めていくのを見やりながら、そう独り呟いて、隣に立つユイカを見上げる。
ユイカにまだお礼も言ってないし、こっちのことも進めよう。
「──ユイカ。来てくれてありがとうね。それにその姿、最初ビックリしたよ」
「……ねぇ、セイちゃん。この姿どうかな? その……変じゃないかな?」
目の前で朱色の巫女服の裾を摘まんで、可愛くくるんと回るユイカ。
と同時に舞い散る黄金のマナの燐光。
それはひどく幻想的で、そして綺麗だった。
「うん、すごく似合ってるよ。それに……うん、その……き……可愛いよ」
綺麗とは恥ずかしくて言いづらかったから、すぐ可愛いと言い直したんだけど……。
こりゃ多分バレちゃったかな?
「えへ、えへへへ……。
──よーし、あたしもっと強くなるからね。セイちゃんとはどんな時もずっとずーっと一緒にいて、そして隣で戦い続ける為に」
「うん……ありがと。でも絶対無理しないでね」
いや、ボクも人のこと言えないか。
そういう意味じゃ、ボク達似た者同士だなぁ。
「あ、そだ。あの魔法何なの? 一体いつの間にあんな魔法を?」
「今はナイショ。それより持ってきたこの精霊薬どうするの?」
「じゃあ半分ほど預かるよ。残りはティリルと半分ずつ分けて持ってて」
「うん。あ、セイちゃんも邪気にやられて中毒起こしてるんだから、ちゃんと飲んでよ」
「分かってるって」
「あっ! あたしにも! あたしにも一本見せてくれ!」
「あ、はい。一つどうぞ」
「さんきゅ」
目敏く駆け寄ってきたメディーナさんに一本手渡した後、ボクはユイカから渡される精霊薬を順に虚空の穴に仕舞っていく。
普通のポーションとは違い、一本あたりの薬瓶が大きい。ボク達の世界でいう五百のペットボトルと同じくらいの瓶だ。
その最後の一本を仕舞うことなく、精霊眼で詳しく視てみる。
名称:精霊薬(三等級)
状態:高品質
種別:アイテム
効果:HPとMPの回復させ、更にその
自然回復効果をも増大させる秘薬
回復量は最大数値の七十八%
増加期間八日
クールタイム十秒
〔特記事項〕
削られた生命力の回復や欠損した肉体の再生を行い、邪気に穢された器をも浄化、自然回復力を増強する効果もある秘薬。
回復力の増強期間は等級が増える毎に一日ずつ増加していき、等級が高い程その回復量も大きい。
精霊に近い森精種族などには更に効果が増し、高位であればある程、その効果量は高くなる傾向にあるが、たとえ一等級の最高品質であっても限界が存在し、ありとあらゆる傷病を完全回復するという訳ではない。
現時点では、精霊が邪気に侵食された場合の唯一無二の治療薬としても知られており、その等級に応じて、効果を打ち消す事が可能。
しかしながら、どちらかというと予防薬としての性質が強い為か、精霊核が少しでも侵食されてしまうと治療が不可能になってしまう。
邪霊の称号を持つ者は、この薬理効果が反転されて劇薬となる。
また精霊達の間では、秘薬であると同時に命の水とも言われており、大変美味で強大な活力を生み出すが、自身が持つ霊格を越えて過剰に摂取してしまうと、酩酊系統のステータス異常を引き起こしてしまう。
精霊眼の力によって現れた詳細な鑑定結果を見ながら、ふと最後の一文に引っかかりを覚える。
ん? 酩酊って?
もしかしてお酒なの?
もしアルコールが入っているのなら、ボクはまだ未成年だからこれ飲めないんじゃ?
これがお酒だったらさすがに飲むのは拙いだろうと、確認のために魔法で防腐処理が施してあるコルク栓を引っこ抜き、この薬の匂いをおっかなびっくり嗅いでみる。
料理をする関係上、お酒の匂いは何度も嗅いだ経験があるし、舐める程度はしたことがあるから、それかどうかの判別はつくしね。
鼻を近づけてみれば、ほのかに甘い香りが瓶の口から漂う。でもアルコールの独特な匂いは感じられない。
……うん、これなら大丈夫かな。
過剰に摂取したらと書いてあったけど、多分一回分がこの瓶一本だろうし、何本も飲まなきゃ問題ないだろう。
何故か出てくる生唾を意識して飲み込みつつ、まずは試しに一口飲んでみようと、薬瓶に直接口をつけて少しだけ口に含んでみた。
途端に鼻に抜ける芳醇な香りと、蕩けるような舌触りの柔らかな甘み。それでいて、どこか清涼感のある飲み心地。
説明書きにある通りに、とても美味しくて……。
──ふと気付いた時には、薬瓶を傾けて呷り、残り全てを一気飲みしてしまった後だった。
「えっ、セイさん? この大瓶のこの量を……まさか全部飲んじゃったの!?」
「……けぷっ。ふわぁ、なにこれ。めちゃくちゃ美味しい。お代わり欲しくなるね。もうちょっとだけ飲んでもいいかなぁ?」
「おいおい。おチビちゃん、なに言って……?
──あ、こら、ちょい待ち! これは薬だぞ、ク・ス・リ。流石にもう治ってるだろ? 症例がないのに、がぶがぶ飲むもんじゃない」
もう一本取り出したボクの行動に呆れ顔を見せたメディーナさんは、それでも封を切ろうとしたボクの手を押さえてきた。
「えー」
「あのな……。流石にこのレベルのクソ高い薬を毎日カパカパ飲んでると、材料費だけであっさり破産しちまうぞ」
「それってそんなに美味しいのですか? まあ今後薬作りを先輩に頼むとして、先輩が薬を作ると、何故か全部苦くなるんですよねぇ。もしかすると、精霊薬も苦くなったりして」
「そんな……。それじゃ困りますよ。苦いのは嫌です。味は変えないで下さい」
口を尖らせて文句を言いながら、身体の状態を確認する。
視界に映していた侵食率の数値が完全にゼロになり、右足の太股を見ても邪気の侵食痕すら消え失せていた。
うん、さすが秘薬と呼ばれる精霊薬。とんでもない効……。
「──ひっ、く……」
あれ? 今変なしゃっくりが?
身体が妙にポカポカするし、ちょっぴりふわふわするな。なんだろ?
「お前らな……あたしだって、好きで苦いの作ってるんじゃねえ」
「ま、まあまあ……」
ティリルが仲裁に入り場を取りなそうとする中、ボクは改めてこの薬をじっと見つめていた。
うーん。やっぱりこれ結構量があるし、あの幼いドリアドちゃんに一回分全て飲ませて大丈夫なのかなぁ?
……やっぱりボクが実験台になって、しっかりと分量を確かめるべきだな。うん。
「はいはい、セイさん。もう飲んだら駄目ですからね」
「あ、ちょっと……返してよぉ」
薬瓶を開けようとしたら、今度はティリルに横から取り上げられてしまい、思わず取り返そうとして腕を伸ばす。
「もう飲もうとしないから返し……へぶっ」
樹精樹と繋がったままなのに、思いの外動き過ぎたせいか、足を蔓に絡めてしまい、バランスを崩してその場にべしゃりとすっ転んだ。
「痛い……」
あ、あれ? あれれ?
ボクは今なんでこんなことを?
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
「問題ないですよぉ~ひぅっ」
「セイちゃん?」
「……なんかヤバくない? 顔が真っ赤に」
「……んー?」
あー何だか凄く気持ちいいなぁ。それに足元を見れば、床から微妙にふわふわと浮いているし。
何か不思議な感覚だなぁ。
「──あ? な、なんですかこれ!!
セイさんに〔ほろ酔い(マナ)〕のステータス異常出てます! このマナの意味が何か分かりませんけど、これ症状がお酒に酔った時と完全に同じですよ!?」
「ちょ、ちょっとティリルちゃん!? ほろ酔いって何よ!?」
「えっ……精霊薬ってお酒なの? ソルちゃん達そんなこと一言も……」
「そっか、アルコール入りなのね? 今後もう飲ませちゃ駄目か……」
「……いや。今視てみたが、構成成分にアルコールの類はないぞ。しかし興味深いな。滋養強壮の薬効がある素材が殆どなのに、精霊が飲むと酔っ払うとか」
「ええっ!? それじゃ戦闘中に怪我しても、精霊さんやセイさんは飲めないじゃないですか」
「そもそもこの薬瓶、薬師協会正式採用瓶じゃないだろ。しかも内容量が半端なく多いぞ。この大きさだと、一般的なポーションが十本分以上軽く入るんだが……」
床に転がっていた精霊薬の空瓶を拾い上げたメディーナさんは、中身の入った薬瓶と持ち比べて、内容量を確認している。
確かにこの精霊薬が入っていた瓶は、さっきも言った通り、普通のポーションの瓶と違って、大きいだけじゃなく不透明な容器だ。
だって、この世界でよく飲まれているポーションの瓶はと言うと、だいたい栄養ドリンクサイズの小瓶で……。
──あれ? こうして考えてみると、やっぱり飲み過ぎてる?
「やっぱりこの量、嬢ちゃんには明らかに多過ぎだ。精霊の場合、霊格……これはレベルの意味か? それに合わせた分量を調整しないと駄目だったみたいだな。
普通の人族の場合、飲み過ぎても身体に影響はないみたいだが、それを精霊がやらかすと、普段以上にマナを過剰に摂取し過ぎる上に、思うように排出も出来なくなってしまう為、回復増強効果が切れるまでマナ酔いしてしまうみたいだ。
これはあたしのスキル〔薬理効果詳細鑑定〕の結果から推測した事だが、きっと間違いない筈だぞ」
「つまり精霊にとって、これはお酒みたいなモノなんですか?」
「いや、酒より質が悪いぞ。マナ吸収増量作用による回復増強効果は、薬の等級が上がるにつれ効果時間が延びるしな」
「どれくらいです? 数時間くらい?」
「……八日」
「え?」
「はい?」
「だから八日。三等級でこの長さだ」
「「うわぁ……」」
「それデメリット大きすぎない!? 開発者何考えてるのよ!」
「知るか。そもそも鑑定結果に開発者のコメントまでついているんだが……これもヤバい」
「んー? それどんなのぉ?」
心なしか目の前がゆらゆらと揺れてるけど気にしないことにして、難しい顔をしたメディーナさんに訊いてみる。
「あ、うん。ええっとな……。『奇跡的にお酒みたいな薬が出来ちゃったけど、これはこれでオッケーだね。ただダークちゃんは飲ませまくって酔わせられたのに、女王ちゃんは何で大丈夫なのよ。仕方ない。量を勘違いさせる為に、ダークちゃんが酔った十五回分を一瓶にするか。いつか絶対いつか女王ちゃんも酔わせて、みんな仲良く酒盛りを……あわよくば……えへへ。byサキ』……ってあるな。なかなかぶっ飛んだ奴が作ったらしい」
「へー。そうなんにぁ。仲良いのはいいことだにぇ」
女王ちゃんってエターニア様のことかな?
仲良くって言うのはいいよねぇ~。
「──これは酷い。マジ変人」
「この製作者、変態と天才は紙一重って言葉を地で行ったわね」
ジト目になりながら呟くユイカに、頭痛を堪えるように額を押さえるレトさん。
「これは小瓶に移し替えないと駄目ね。なるほど、十五回分か。どうも美味しいみたいだから、つい飲み過ぎちゃうようだし。これが休息時ならまだましだけど、長時間動けなくなっちゃ困るわ」
ボクの方を見ながら、レトさんはため息交じりにボヤく。
でも今そんな詰め替えやってる場合じゃないよね?
うん、そこはボクが何とか上手く調整しないといけない。そうだ、そうに決まってる。
「だいじょうぶですぅ。自分が飲む場合でも、ドリアドさんに飲ませる時にも、何とか調整しまぅ。それよりも~とっととあのジジイ倒しましょぉ」
あはは。なんだかだんだん気持ちよくなってきたな。
うん、まあこんな変な体調でも、あんな奴プチッとひねり潰せるでしょ。攻撃はみんなに任せりゃ問題ないし。
「これってあたしのせいだよね? 今飲んでと言っちゃったから……。ごめんなさい」
「あ、いや、まあ……その、ユイカちゃんが悪いってわけじゃ……」
「むしろちゃんと小分けにしていない制作者が悪い。ろくなことしてねぇな、サキって奴は」
「あ、あの。メディーナさん、ファルマンさん。酔い醒ましの薬ってありませんか?」
「ないぞ。そして無理」
「ええっ!?」
「先輩それだけじゃ説明不足で、身も蓋もなさ過ぎますよ。
ええっと、ですね。実は需要が無さ過ぎて作ってないんです。逆に二日酔い用の薬は需要が多い為、大量に持っているんですが。
でもこれって、そもそもアルコールの効果のせいじゃないので、既存の酔い醒まし薬は多分効かないと思います。解析するのにも時間が掛かりますし、むしろ魔法で直した方が早いかと」
「そうよ。魔法があったわ。ねぇ、ティリルちゃん。早くコレ治してあげて」
「ご、ごめんなさい。わたし〔酩酊〕系統の治療もまだ無理なんです」
「マジか? ここまで来て、御子が酔っぱらって救出失敗しましたじゃ話になんないぞ」
んー?
なんでみんなそんな深刻な顔してるんだろぉ?
「……じょーちちゃのぉ?」
あれ? なんか喋りにくいなぁ……。
「……うわぁ」
「お、おい。悪化してるぞ。大丈夫なのか?」
「め、酩酊に進行してます! ど、どうしたら……」
「──あ、マナの過剰摂取と自然排出不能が原因なら、何でもいいから魔法使わせて、体内のマナを強引に減らすのは?」
「それだ!」
「それよ!」
ユイカの意味の分からない提案に叫ぶ二人と、心配そうにこちらを見るティリル。
「確かにそれしかないですけど、大丈夫なんでしょうか?
今、月の精霊魔法を無意識に継続使用しているこの状態でも、まだ過剰摂取状態なんですよ。これ以上使えと言われても、カグラさんの月モードじゃ限界ありますし、こんな状態でティアさんの雷モードに変化し直させて魔法を使わせるのは……」
「あの……セイさんの魔法って、PVで見たようなアレですよね? 使わせるのはいいんですが、もし制御失敗して暴発してしまったら、ここら一帯拙い事になりません?」
「「「……ああ」」」
ティリルとファルマンさんの指摘を受け、頭を抱え出すみんなを見て、ボクは首をこてんと傾げた。
いったい何のことだろ?
いや、それよりもさっさとこの戦闘終わらせて、ドリアドちゃんを助けに入らなきゃ。
ボクの肩に座っている樹精の子も焦っているのか、ボクの首筋をぺちぺち叩きながら、わたわたアワアワしてるし。
これは早く助けてあげないと、ドリアドちゃんの身が拙いんじゃないだろうか?
『らいりょうぶぅ。今しゅぐ助けるにょ』
『あわわわ……。おとうさ……じゃなくて、ミコ様、ミコ様。しっかりして下さい。今はルアルの事より……ご自愛を』
んー?
ルアル?
『るあるぅ? しょれキミの真名ぁ?』
『あ……。その、はい。私、ルアルです。本当にありがとうございます。
この仮の身体では、マナを満足に補給出来なかったせいで、自我が薄れて消えかけていたんですが、ミコ様にたくさん注いで貰ったのと、少し精霊薬を舐められたおかげで何とか自分を取り戻して、ここまで回復いたしました』
『しょっかぁ。よきゃっちゃぁ。今日きゃら、よりょちくにぇ』
『は、はい。で、でも……これは……。
──あう……。うー、これはヤバイよぉ。ミコ様、ミコ様ぁ。しっかりお気を持って下さい。
これ一体どうしたら……ルアルがマナを吸い取れる量も、この身体じゃ限界が……内のお姉様方に現出して戴くのは、今はまだちょっと危険だし……』
『んー? ボクより、まじゅはドリアドさんをにぇ』
『今は安定してます。ミコ様や樹精樹様、フェーヤのおかげです。だから今はそんな急がなくても……』
『しょっかぁ~。れも、早いにこしちゃことないしょ?』
あー。そうそう早く急がなきゃ。
そだ、号令号令!
「ちゃあ、みんにゃぁ! 応援しちぇるし、早くジジイに止めいったおぅ!」
ボクの掛け声に、一斉にこちらを振り向いた仲間達。なぜか一様にガン見され、そして溜め息をつかれた。
な、なんで?
何が悪いの?